クリスマス休暇があっという間に終わってしまうと、ホグワーツはある噂で持ち切りだった_____次の闇の魔術に対する防衛術の担当教授は、とんでもなくマーリンの髭な先生だと。
「マッド-アイ!?」
談話室でフレッド(たぶん)に話しかけられたロンが叫んだ。
そういえば、ロンはそんなタイトルの漫画にハマっていた。確か、『マッドなマグル、マーチン・ミグズの冒険』だったっけ。それの新シリーズでも出るのだろうか。
「信じられない……
「何それ。そんなにすごい人なの?」
コーディがミカンの皮を剥きながら尋ねた。ハリーとハーマイオニーも、同じくキョトンとしている。
ロンはコーディをしばらくじっと見て、「信じられない!
「あのってどの? その“マッド-アイ”ってのは君ん家の兄弟くらいいるわけ?」
「
ハリーはやれやれと首を振り、ハーマイオニーが勢い良くロンの頭を叩いた。
もちろんアラスター・ムーディの事を知らないわけはないが、そんなあだ名で呼ばれているという事は知らなかった。
____そりゃ無いぜ、ダンブルドア。口からマーリンの髭が飛び出ちゃうよ。
「でも、そのくらいの方でもないと闇の魔術に対する防衛術の担当は務まらないでしょうね」
「エーッ、僕、ホグワーツの先生なんて誰でもなれると思ってた。だって、クィレルなんてあんなだったし、ビンズじいさんを見てみろよ」
「そういう話じゃないのよ」
「噂があるの」とハーマイオニーはヒソヒソ声で言った。
なんと、闇の魔術に対する防衛術のポストには呪いがかけられていて、担当になった教授は次々不幸に見舞われて学期が終わると共に退職してしまうらしい。
『ホグワーツの歴史』にはそんな事まで書いてあるんだろうか。
「クィレルなんてたったの二ヶ月だったもんな」
まあ、そんな噂があるなら納得だ。
ただでさえ中途半端な時期に、住み込みでそんな不吉な仕事をしたい人間なんてそうそう居ないだろう。無職なら大喜びでやって来るだろうが、そんな人間に教師は務まらないし。
「ダンブルドアとは古い友人で、「半年だけ!」って頭下げてなんとか来てもらったって噂だ。あーあ、早くマッド-アイの授業を受けたいな。きっとクレイジーさ! それに、辞めてからは家にこもりっきりで、誰も顔を見てないんだって」
「僕は嫌だな。普通の先生がいいよ」
「ハリー、そりゃ無理な話だよ」
この後しばらく、コーディは
____マッド-アイって最悪だ。いろんな意味で。
マッド-アイの授業を一番初めに受けたのは、グリフィンドールの三年生たちだった。
「ありゃダメだ」
「すっかりただの引きこもりだ」
「牙を抜かれちまった蛇だ」
「もしくは飛べないドラゴン」
「そりゃ良い例えだ」
双子がそう言うのでロンは酷くがっかりしたようだったが、ロン以外の三人はとても安心した。一年生の次の闇の魔術に対する防衛術の授業は二日後だ。
双子たちのマッド-アイ評を聞いていると、談話室にネビルが倒れ込んできた。どうやら足縛りの呪いをかられている上、顔には幾つも傷があるし、右腕も動かなくなっている。
「こんなのって……酷いわ! 医務室に行きましょう!」
コーディたちは急いでネビルを医務室まで連れて行った。ジョージ(たぶん)がおんぶしてやっていたのだが、医務室に着くまでずっと泣きべそをかいている。
マダム・ポンフリーが治療を施して、なんとか話せるようになったので、早速ハリーが「誰にやられたんだい?」と尋ねた。
「い、言わないよ___勝手に転んだんだ」
「あのねえ、ネビル」ハーマイオニーが赤ん坊をあやすような声で言う。「勝手に転んだくらいじゃ、足はくっつかないのよ」
「ドラコだね?」
「ち、違うよ!」
「いいよ、気を遣わなくて。マクゴナガル先生には言った?」
コーディが言うと、ネビルはわんわん泣き始めた。もう答えを言っているようなものだった。ハリーとロンはひどく怒って、「今度こそ決闘して、ボコボコにしてやる!」と言い出し、ハーマイオニーがそれをなだめた。
しかし、いくらドラコの性格に難があるからと言って、ここまではしないだろう。せいぜい足縛りの呪いをかける程度だ。
「____僕が、マルフォイに怒ったんだ」
「君が!?」とロンが驚いた声を出した。コーディも、もちろん言わないが、「マーリンの髭!」と言いたくなるほど驚いた。あの、
「あいつ、マッド-アイの事でいつもコーディを虐めてたから……」ネビルがそう言うと、ロンが気まずそうに頭をかいた。
「コーディがどんな気持ちが分からないの? って。絶対言わないけど、きっと凄く怖いはずだって…………友達なのに、どうして分かってあげないんだって言ったら、すっごく怒って」
「あー、分かった! オーケー、ネビル。ありがとう、嬉しいよ。けどね、ドラコのあれは挨拶みたいなものなんだ。しょっちゅう悪趣味な冗談を言うし、私もそう。それに、本気で言ってたとしても_____私は誰かからちょっと何か言われたくらいで傷つかない。だからもう二度と、私を心配したり、私のために怒ったりしないで」
ネビルはまだ泣きながら、小さい声で「ウン」と頷いた。ハリーたちは非常に気まずそうな顔をしている。
空気を変えるためか、ジョージが口を開いた。
「ネビル、その頬の傷最高にクールだぜ! こりゃ女子からの人気急上昇間違いなしだ」
「コーディ、大丈夫?」
闇の魔術に対する防衛術の教室に入る前、ハーマイオニーがコーディに尋ねた。談話室ではハリー、朝ごはんの時はネビル、この調子で行くと次はロンか? いや、それだけは無いな。
「お父様の事もそうだけど、あなた、クィレル先生と仲が良かったでしょう?」
「まあ、“ホグワーツ自転車同好会”の仲間ではあったけどね」
コーディはそう言って誤魔化した。
クィレル先生のことは出来るだけ考えたくない。大好きなマグルの道具を見ていても、いつも少しだけクィレル先生の顔がよぎるのだ。
「____よって、闇の魔術がかけられた道具を撃退するのに効果的な物質は銀であり……」
マッド-アイの授業は、予想を超えるつまらなさだった。初回だからかもしれないが、ただ教科書を読んで解説するだけで、実践なんてただの一つも無かった。
みんな期待が大きかっただけに、すっかり失望しているようだ。
生徒の一人が「今まで捕まえた死喰い人たちの話をしてください!」と言ったが、「お前のように愚かな奴は簡単に捕まえられた」と返したので、教室はすっかり冷えきってしまった。
良かったところと言えば、ヨダレを垂らして寝ているロンにノールックでチョークをぶつけた事くらいだ。「油断大敵!」
ただ一つ、少し驚くことがあった。教室を出る時、マッド-アイはコーディに話しかけようとしてきたのだ。
しかし、マッド-アイが「あの、ロウル」と言った瞬間に、ハリーが「マクゴナガル先生に呼ばれているので!」とコーディの腕を引っ張って連れて行ってしまったので、話すことは無かった。
「いい? ロン、ロコモーター モルティスよ」
「分かったってば。聞きすぎて逆に間違えちゃいそうだ」
翌日、ハーマイオニーがロンにしつこく足縛りの呪いを教えていた。なんと、今日のグリフィンドール対ハッフルパフの審判はスネイプなのだ。
ハーマイオニーたちは未だに「元死喰い人だったスネイプがハリーを憎んでいて、呪いをかけて殺そうとしている」と少し疑っているので、スネイプが不審な動きをした瞬間に呪いをかけてやるつもりなのだ。____スネイプの髪がベタベタで、常に仏頂面で、一人称が“我輩”で、性根が腐っていて、教師失格レベルの倫理観の持ち主だからって、いくらなんでもその決めつけは酷いと思う。
「____なんでわざわざグリフィンドールの観客席においでくださったんだすかね?」
コーディたちが観戦していると、グリフィンドールの観客席にドラコが現れたので、ロンは早速嫌味を言った。ドラコはおそらくコーディに何か言いたいことがあったんだろうが、先にロンに言い返した。クリスマス休暇以降、ドラコはハリーたちに絡むのを再開したのだ。
「ああ、ウィーズリーか。なんだ、やけに大きなゴミが転がってるのかと思ったよ____まあ、君と粗大ゴミじゃどちらも似たような物だけどね」
二人がくだらない言い争いをするのを無視して、コーディとハーマイオニーはクィディッチを真剣に見ていたが、やっぱり何が面白いのか全く分からない。対スリザリン戦の時は派手な反則や呪いがあったぶん、まだ見応えがあったのに。
「セドリック・ディゴリーって、すっごく有能なシーカーみたい。それに、賢くて優しい上にハンサムで、とても模範的な人なんですって。ハリー、大丈夫かしら」
「マーリンの髭! 君、ハンサムだとかそういうのに興味あったんだね」
「私はただ、事実を言っただけよ!」
ハーマイオニーがキーキー怒鳴っているうちに、ハリーはスニッチを見つけてしまったようだ。急降下し、あっという間にスニッチを(今回は手で)獲得してしまった。
ディゴリーとかいうのは確かにすごい選手なのかもしれないが、ハリーの敵じゃなかったらしい。
試合が終わると、スネイプは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。まあ、概ねいつも通りの表情だ。
「ハリー! すごいわ!」
ハリーの胴上げが済んだ後、コーディたちはハリーに駆け寄った。初試合の時に「箒から落っこちるかも」なんて心配してたのが嘘みたいだ。
「スネイプがイチャモンつける間もなくスニッチを見つけちまった! さすがだぜ」
「奴さんの顔見たか? とびきり不細工なマンティコアみたいだったぞ」
双子がそう言って、もう一度ハリーを胴上げした。クィディッチ狂いのオリバー・ウッドは感激の涙を流している。
「箒置き場に行ってくるよ。あのさ、コーディ、手伝って欲しいことがあるから来てくれない?」
そう言われたので、コーディはハリーについて箒置き場に行った。マッド-アイの時といい、ハリーは嘘をつくのがあんまり上手じゃないみたいだ。
今度、上手な誤魔化し方とか言い訳の授業をしてあげた方が良いかもしれない。
「嘘ついてごめん。でも、今なら言える気がして」
「え?」
「僕はコーディを心配するし、コーディのために怒る。君は嫌かもしれないけど、僕がそうしたいんだ」
ハリーはここまで言って箒を置いた後、コーディの目をじっと見て続けた。ハリーの瞳の緑がこんなに澄んでいるなんて、コーディは知らなかった。いや、本当は知っていたけど、知らないふりをしていたのかもしれない。
「君の事が大切なんだ。僕はもう、君を絶対一人にしない」
ムーディが地味な教師に……。
この世界線でのハリーはもうクィレルに呪われたりする危険性はないので、スネイプはハリーを守るためではなくて単に嫌がらせがしたくて審判に立候補しています。