マグル学のすゝめ   作:バナナ牛乳

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第十三話 素晴らしい友情に

 

 あの後、コーディはハリーの言葉の意味をしばらく考えていた。「笑えちゃうくらい英雄癖だ」「ただ運が良かっただけのガキのくせに」、そうバカにしたい気持ちと_____そうじゃない気持ちが少し。

 何となく、ハリーに話しかけるのが気恥ずかしい。

 

 しかし、そんなことで悩んではいられなかった。テスト週間(注:ハーマイオニー基準)が始まったのだ。

 ”学習予定表“を渡されたコーディとロンは今回ばかりは互いへの敵意を忘れ、協力し合うことを誓った。

 

 

「ああ、時間が足りないわ! ねずみの尻尾はすり潰すんだったかしら、刻むんだったかしら……」

 

 ハーマイオニーはブツブツ言いながら『魔法薬調合法』をパラパラとめくっている。

 山のような宿題を眺めながら、コーディはため息をついた。ロンはこっそり羊皮紙に落書きしているし、ハリーだってさっきから教科書の同じ箇所に線を引き続けている。

 ハーマイオニーは『魔法薬調合法』を閉じたかと思うと、今度はドラゴンの血の十二種類の利用法を必死に暗唱し始めた。コーディはそんなの一種類だって分からない。マグルが使う殺虫剤の種類ならいくつか答えられるが。

 

「こんなのってあんまりだ。()()()だってのに、このままじゃ僕たち、()()しちゃう」

「ほんとだよ! それに、ずーっと勉強するより、適度に休憩する方が暗記には効果があるみたいだよ」

「あなたたちはずーっと休憩しているみたいですけどね!」

 

 ハーマイオニーは厳しい。コーディとロンはがっくりと項垂れた。ハリーは相変わらず同じ所に線を引き続けている。

 窓の外には青く澄み切った空が広がっているっていうのに、図書館にカンヅメだなんて! 

 

 コーディが魔法薬学の本を探すふりをしながら、『マグルと芸術』を読んでいると、頭上から声が降ってきた。

 

「よう、クール。試験勉強は____順調じゃなさそうだな。テストにゃレオナルド・ダ・ヴィンチなんて出ないぜ?」

「マーリンの髭だね。君がダ・ヴィンチを知ってるだなんて」

「…………そのくらい常識だろ? イマドキのティーンならみんな知ってるさ。遅れてるな」

「マグルの話に関してはいつだって最先端だよ、訂正して!」

 

 コーディがぷりぷりと言い返し、逃げるジョージを追いかけようとするとハリーがやって来た。どうやら、ハリーの方もハーマイオニーから逃げて来たらしい。

 

「ハリーはもうちょっと真面目だと思ってたけど?」

「今、ロンがハーマイオニーに捕まってて……もうとうぶんホラー映画は見なくて良いかなって気持ちになったよ」

 

 ハリーが真面目な顔でとても失礼な発言をするので、コーディは思わず笑ってしまった。()()()笑うなんていつぶりだろうの事だろうか。

 

「ありがとう。なんかさ、ハリーって……」

 

 ここまで言って、コーディは黙り込んでしまった。いつもの口の上手さはどこに行ったんだろう。まだクィレル先生との出来事の影響で、頭がきちんと働いていないみたいだ。

 まあいいや、時には何も考えずに喋ってやろうじゃないか。

 

「こう言われるのは嫌かもしれないけど、…………ヒーローだよね。例のあの人の件やクィディッチの上手さを抜きにしても」

「そんなの初めて言われた。僕、学芸会だと“市民3”とか“木B”の役しかやったことないし」

「学芸会? 初めて聞いたな、それってマグルの文化なの?」

 

 この後二人は、“学芸会”について真剣に話し込んでいたが、ダース・ベイダーも裸足で逃げ出しそうなくらい恐ろしいハーマイオニー()()にあっという間に連れ戻されてしまった。

 

 

 

 それからの日々は、今までよりずっとずーっと平和だった。

 トロールはいないし、クィディッチ中に呪い殺されそうにもならないし、先生の後頭部にこわーい闇の魔法使いが住んでるなんてこともない。ドラコはしょっちゅうハリーに絡んでいるし、フィネガンは毎日何かを爆発させている____あれ、何かの才能なんじゃないだろうか。

 

 試験が始まる頃にはホグワーツはもうすっかり夏の天気になっていて、筆記試験の大教室はうだるような暑さだった。ただでさえろくに働いていない脳みそがあまりの暑さに完全に思考を停止してしまった。

 

 実技試験の方はとても楽しかった。

 妖精の呪文では、パイナップルを机の端から端までタップダンスさせられたのだが、おまけに後方伸身二回宙返り三回半ひねりをつけると、フリットウィック先生はとても感激したようで、「こんなに素晴らしい後方伸身二回宙返り三回半ひねりを見たのは初めてです!」とキーキー言いながら拍手してくれた。

 ねずみを嗅ぎたばこ入れに変えるという変身術の試験では、たばこ入れの表面に()()()()()()()()()()()()()()絵を入れておいた。

 ______実技試験といっても、魔法薬学は最悪だった。そもそも、忘れ薬なんて作って何になるんだろう。

 

 一番最後の試験は魔法史だ。

 鍋が勝手に中身を掻き混ぜる大鍋を発明したのは“おかしなオーウェン”たち四人の魔法使いですが____そうなんだ。初耳だ____彼らがこの大鍋を発明するに至った経緯を____何を言っているんだろう? ____三百字以内でまとめなさい。また、授業で使ったキーワードを用いること_____そんなの無茶だ! 魔法史の授業中に起きている人間なんて、ハーマイオニーしかいないってのに! 

 

「思ってたよりずーっとやさしかったわ。一六三七年の狼人間の行動綱領とか、熱血漢エルフリックの反乱なんて、勉強しなくて良かったのよ!」

「そうだね。もっと難しいのが出るんだと思ってた」

 

「本当に難しかったね!」と言うつもりだったコーディとロンは顔を見合せ、二人でハハハと笑った。

 そうだ、もう復習漬けの日々は終わったんだ! あと一週間は好き放題遊べるぞ! 

 ハーマイオニーは呆れた目で二人を見ていたが、ため息をついた後ふっと微笑んだ。「そうね、思いっきり遊びましょう」

 

 

「今年こそは寮杯を取れると思ったのに!」

 

 ようやく学年末パーティーの日を迎え、パーシー・ウィーズリーはとても悔しがっていた。ハーマイオニーが授業でたくさんの点数を稼いだし、ハリーもクィディッチで貢献したが、やはりスリザリンには敵わないようだった。もちろん、コーディとロンはほとんど貢献していない。

 ハロウィーンの日にコーディに呪いをかけたのがグリフィンドール生たちだとバレてしまったり、ジョージがナントカラーゲンとかいう生徒に悪質な呪いをかけたりという出来事のせいで、グリフィンドールは大量失点してしまったのだ。それから、コーディに有毒食虫蔓を送ってきた生徒がマクゴナガル先生から五十点も減点された上、一週間もの罰則を言い渡されてしまっていた。

 大広間はグリーンとシルバーで飾り付けられている。

 どうしてみんなそんなに寮杯にこだわるのか、コーディは全く分からなかった。

 

「見たかい!?」間もなくパーティーが始まるという時になって、ロンが焦ってやってきた。

 

「何、チャドリー・キャノンズがとうとう一勝でもした?」

 

 チャドリー・キャノンズはロンの好きなクィディッチ・チームだ。ダンブルドアが生まれたくらいの時に優勝して以来、一勝もしていない。

 

「うるさいよ。さっき、グリフィンドールの砂時計を見たら、スリザリンと並んでたんだ!」

「試験の結果が不安すぎて気でも狂っちゃったの?」

「ロン、休んだ方が良い。今からでも医務室に行こう」

「大丈夫よ。いくらあなただって、留年することは無いわ。私が教えたことをしっかり____」

 

 ハーマイオニーがロンを慰めていると、ダンブルドアが立ち上がって話し始めた。

 

「また一年が過ぎた! 一同、ごちそうの前に老いぼれの戯言を聞いてくれるかな? 実り多き一年だったことじゃろう」

 

 ここでダンブルドアが点数を発表した。一位はやはりスリザリン、二位がレイブンクローで、グリフィンドールは三位だ。今まではしょっちゅうビリだったらしいから、三位でも大喜びすればいいのに。

 

「だがしかし、廊下の砂時計を見たものもおるじゃろう____わしの()()()()()()で、勘定に入れるのを忘れていた出来事がいくつかある」

 

 ロンが得意げな表情で「ほら!」とコーディたちに言った。

 

「まずは、ネビル・ロングボトム君」

 

 みんながハッとネビルを見たので、不安そうな表情をしている。

 

「グリフィンドールを体現した勇敢さに敬意を払い、十点を与えよう」ネビルはシェーマスとディーンに熱烈にハグされ、固まってしまっている。

 

「次に、ロナルド・ウィーズリー君」さっきまでネビルの顔の赤さを揶揄っていたロンが、「僕ぅ?」と間抜けな声を出した。

 

「素晴らしい観察眼で、友の窮状を見抜いた事を讃え、二十点を与えよう」その瞬間、パーシーが「あれは僕の弟だよ!」と自慢したので、ロンは顔を真っ赤にした。

 

「三番目に、ハーマイオニー・グレンジャー嬢。その知識と行動力で、友の危機を救ったことを讃え、二十点を与えよう」ハーマイオニーは嬉し涙を流していて、ラベンダーとパーバティと手を取り合って喜んでいる。

 

「四番目に、ハリー・ポッター君。友を思いやった素早い判断を讃え、同じく二十点を与えよう」グリフィンドールのテーブルから大きな歓声が上がる。「英雄だ!」

 

「五番目は、コンコーディア・ロウル嬢」

 

 さっきまでは歓声に包まれていた大広間に、嫌なザワザワが広がっていく。みんな、「どうしてあいつが?」「なにかの間違いじゃないか?」「減点だろ」なんて言っている。別に気にならない、今に始まったことじゃないから。

 コーディの左手をハリーが握った。同時に、ハーマイオニーが右手を握る。

「これで加点だったら、「ハリーの隣にふさわしくない」って言ってた奴は、酷い間抜けだったってことだ」とロンが大きな声で言ったので、ジョージ(たぶん)が「おいおいロニー、お前がそれを言うのか?」と笑った。

 

「大切な人を救った思いやりと勇気に、三十点を与えよう」

 

 大広間が歓声に包まれた。「現金なヤツら」とロンが言い、ハーマイオニーが笑った。 「ちょっと待って」とハリー。「スリザリンより十点多いぞ!」

 

「最後に、ドラコ・マルフォイくんの()()()()()()()に、十点を与えよう」

 

 ____みんな、どう反応して良いか分からないみたいだ。

 それに、ドラコの素晴らしい友情って? まさか、散々マッド-アイネタでからかった事じゃないよな? 

 

「あいつに“素晴らしい友情”だって? ダンブルドアのことをすごい魔法使いだと思ってたけど、間違いだったみたい」

「きっと何か理由があるのよ。あのダンブルドアだもの」

 

 スリザリンのテーブルに目をやると、当のドラコも戸惑った表情をしている。みんなの前で加点され、グリフィンドールの単独優勝を防いだと言うのに、あまり嬉しそうではない。

 

「飾り付けを変えねばならんのう」とダンブルドアが言い、手を叩くと、スリザリン一色だった大広間が、ライオンの体に蛇が巻きついた、赤と緑の飾り付けに変わった。

 

「____ダンブルドアって、デザインセンスはイマイチみたいだね」とハリーが言った。完全に同感だ。

 最高に豪華な食事にがっついていると、パーバティが話しかけてきた。「ロウルは黙ってなさい!」以外で会話するのは初めてだ。

 

「ごめんなさい。私、あなたの事を誤解していたみたい」

「別にいいよ。君が悪いんじゃない、仕方ないんだ。ウン、うちのパパ、マーリンの髭どころじゃないレベル……クソってやつだからさ」

 

 それにしても、ダンブルドアはどうしてネビルとドラコの喧嘩や、ハリーが試合中呪われていた時にハーマイオニーが助けたことまで知っているんだろう。それに、ネビルの件以外はクリスマス休暇前のことなのに、どうしてわざわざこのタイミングで、しかもみんなの前で加点したんだろう____コーディにとっては得しかない出来事なのに、なぜか少しだけ寒気がした。

 

 

 試験結果が壁に貼り出されている。

「ほんと、最高の気分だってのに水を差してくれるよな」とロンがぶつくさ文句を言ったが、意外にもそうではなかった。

 

 ハーマイオニーの学年トップは勿論だったが、ハリーも中々に善戦していた。ロンもコーディも案外良い成績だった____コーディの場合、どん底の魔法薬学と魔法史を、大健闘の変身術とピカイチの妖精の呪文が補っている。

 

「あなたの妖精の呪文の点数は何!? あんなの、有り得ないわ!」

「聞いてよハーマイオニー。私、パイナップルに後方伸身二回宙返り三回半ひねりをさせちゃった!」

「嘘でしょう!? 信じられないわ! 私は前方伸身宙返り三回ひねりをさせたんだけど、上手く出来なかったの……」

「君たち、一体何の話をしてるんだい?」

 

 

 荷物を整理していると、ダンブルドアから呼び出された。

「渡すべきか迷ったんじゃがのう____」ダンブルドアは、二冊の本を取り出した。

 

「部屋を整理していたらこれが出てきたのじゃ。クリスマスに渡すつもりだったんじゃろう」

 

 エメラルド色の表紙には、『オズの魔法使い』とあり、カードには「飛び出す絵本でなくてすまないね。良き学びを得られますように」と書いてあった。_____なんで忘れさせてくれないんだろう。

 

「こちらはマクゴナガル先生からじゃ」

 

 今度は花柄の可愛らしい本だった。開いてみると____ママがいる。友達といて、パパの方を見つめている。その後ろにいるのはルシウスさんとナルシッサさんだ。

 

「迷った末、君にはまだ渡すべきではないと考えたようでな、わしが泥棒してきてしもうた。相当努力してかき集めてきたようじゃ…………もちろん、見たくなければそれでも良い。ただ、見たい時があれば……」

「____ありがとうございます」

 

 コーディが持っている両親の写真は、たったの一枚だけだった。

 父は死喰い人で、多くの人を殺した。許されないことだ。最低だ。____パパのせいで辛いことだらけだった。

 

 だけど何故だろう。見覚えのある、眉間に皺を寄せた気難しそうな少年の肩に腕を置き、ヘラヘラと笑うハンサムな少年の写真を見ていると、少しだけ幸せだった。




クィレル先生がハグリッドにドラゴンの卵をプレゼントしないからハリーたちの大量減点も無し。
代わりに様々なグリフィンドール生がやらかして減点を食らい、三位になりました。


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