マグル学のすゝめ   作:バナナ牛乳

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第十五話 厄介な一年のはじまり

 

「あの二人、一体どうしてしまったのかしら?」

 

 ハーマイオニーが顎に手を当てて考え込んでいる。コンパートメントにはコーディとハーマイオニー、途中からやって来たネビルしかおらず、本来ならいるはずの二人がいない。

「どっかにいるんじゃないの?」とネビルが呑気に言ったが、恐らく特急内にはいないだろう。

 

 _____マーリンの髭だよ、ドビー。

 

 ドビーがおかしなのはいつもの事だが、夏休みの後半は本当に酷かった。自転車が急に空を飛び、いきなり物凄い速度で急降下を始めた瞬間は三頭犬と出会った時と同じくらい「もうダメだ」と思った。自転車が空を飛んだのは本当に嬉しいけど、こんな形で実現するとは。

 コーディは命の危機を感じ、色々と理由をでっち上げてしばらくマルフォイ邸に泊まらせてもらった。さすがのドビーもルシウスさんの前でなにかする度胸は無かったようで、ドラコに毎日毎日箒遊びに付き合わされる以外はとても平和な日々を過ごせた。寝ている間に荷物を漁られていた事はあったけど。

 しかし、空いた時間をハリーへの妨害工作に使っていたなんて。

 

「ハリーの家にドビーっていう屋敷しもべ妖精がやって来たんですって。なんと、手紙を盗んだ上に勝手に魔法を使ったの! それでハリーの家に魔法省から警告が届いたのよ____ねえ、あなたも“フクロウ難”に遭ってたわよね? お友達を疑うのは嫌でしょうけど、マルフォイのお屋敷にドビーっていう子がいないかしら」

「い、いやー、マルフォイ邸にはたくさん屋敷しもべ妖精がいるからなー……」

 

 コーディは冷や汗をダラダラかきながら誤魔化した。

 ルシウスさんのちょっとした悪巧みなんて、どうせ大した事ないのに。ドビーは少し心配性過ぎると思う。

 

 

 コーディの予想通り、ハリーとロンはド派手な登場をかましてくれた。しかし、コーディは怒っていた。カンカンだった。ハーマイオニーよりも怒っていた。

 

「私、ハリーの事信じてたのに! こんな事するなんて思ってなかった」

「僕だってしたくなかったよ。でも、フクロウでホグワーツに手紙を出すわけにはいかないじゃないか。届かないかもしれないんだから……」

 

 初日からいくつもの校則を破った二人だが、新学期が始まる前かつロンがフクロウ難のことを説明したおかげで、どうにか退学も大量減点も免れたのだ。ただし、罰則は避けられなかったらしい。

 

「危険な真似をしたから、怒るのは当然だと思う。でもね」

「ズルい! 私だって、空飛ぶ車に乗りたかった!」

「……どうせそうだろうって思ってたけど、なんだか複雑だよ」

 

 女子寮に入ると、ラベンダー・ブラウンとパーバティ・パチルが目を輝かせてコーディに問いかけた。「ハリーとロンが空飛ぶ車で登校したって、本当!?」

 この二人はグリフィンドールがスリザリンと同点で寮杯を獲得して以来、コーディに対する評価をすっかり改めてしまったのだ。もちろん、親戚に被害者がいなかったというのも大きい。

 

「本当らしいよ。ズルいよね、私だって乗りたかったよ」

「もう! あなたって本当おかしいわ! ねえ、貴方とハリーが付き合ってるっていう噂だけど、本当なの?」

「マーリンの髭! 有り得ないよ。私、歳上の方が好みだし。そういえば、ブレーズ・ザビニがパーバティとラベンダーの事をすっごく美人だって言ってたみたいだよ」

「ねえウソ! 信じられない! 彼って、スリザリンだけど、とってもハンサム!」

「嬉しいけど、あなたってすぐテキトーなこと言うでしょ?」

「本当だよ、私のカウンセラーが誰か知ってるでしょ? 死喰い人の娘の情報網を舐めない方がいい。そういえば、クィレル先生のターバンの中身が何だったか知ってる? 例のあの人が住み着いてたらしいよ」

「もう、コーディったら不謹慎すぎるわ! クィレルの後頭部に例のあの人なんて____もう、ほんっと最高!」

 

 コーディが二人と楽しく話していると、ハーマイオニーが呆れた顔で「あなたって、本当コミュニケーション能力が高いわよね」と言った。お褒めに預かり光栄だ。

 今年のホグワーツは、去年よりずーっと過ごしやすいだろう。どうせ安全ではないだろうけど。ルシウスさんの企みが失敗することを祈るばかりだ。

 

 

「彼って、とっても最高だと思うわ。コーディは?」ハーマイオニーが『バンパイアとバッチリ船旅』を読みながらコーディに問いかけた。確かにロックハート先生は軽薄なナルシストって所を除けば最高だと思う。文字を読むのが嫌いなコーディでも読めるくらいに面白い著書、そして何よりマグル文化に理解がある所。

 

「うん、私も好きだよ。早く彼の授業を受けたい」

 

 コーディがそう言うと、ハリーが「コーディって、あんなのがタイプなの?」と呆れたように言った。心外だ、顔が良いからじゃなくて思想が素晴らしいから尊敬しているだけなのに。それに、コーディのタイプはもっと憂いのある人だ。それかザ・スミスのファン。

 コーディがハリーに必死に言い訳していると、ハーマイオニーのそばの水差しに年寄りのフクロウが落ちてきた。

 

「エロール!」ロンが足を引っ張って、その年寄りフクロウを引っ張り出した。エロールは気絶していて、嘴には濡れた赤い封筒をくわえている。

 

「マーリンの髭!」

「ああ、どうしよう、大変だ……」

 

 ハーマイオニーが「まだ生きてるじゃない、大丈夫よ」と言ったが、封筒を見た瞬間絶句した。去年のはじめ、コーディに死ぬほど届いた()()だ。

 ネビルは怯えた顔で「早く開けた方がいいよ」とアドバイスした。コーディのおかげで、みんな吠えメール対策はバッチリだ。ディーンが素早く耳栓を取り出したので、コーディは「それってマグル製?」と尋ね_____「ロナルド・ウィーズリー!」

 

「車を盗み出すなんて、退学になってもあたりまえです。首を洗って待ってらっしゃい。事情があったとはいえ、私とお父さまに一言相談するべきでした!」

 

 モリー・ウィーズリーの怒鳴り声が、けたたましく大広間に響き渡った。そんなことを言ったって、手紙が届くかどうか分からなかったんだからどうしようもないのに……とコーディは思ったけれど、モリーは本当にカンカンのようだった。

 まあ、アーサー・ウィーズリーはマグル製品不正使用取締局の局長だし、減給される可能性もあるから仕方が無いのかもしれない。

 

「次また考えなしな行動をしたら、すぐに家に引っ張って帰りますからね!」封筒は炎となって燃え上がり、チリチリと灰になった。ロンは顔を真っ赤にしていて、何人かが笑い声を上げた。

 

「ええ、お母様の言う通りだわ! あなたたちったら、あまりにも考えなしだったわ」

「当然の報いを受けたって言いたいんだろ?」

 

 ハーマイオニーとロンは楽しそうに言い争っているが、ハリーは元気なくオートミールを端においやった。

 

「たぶん大丈夫だよ」

「本当? きっとおじさんは尋問を受けたと思う。僕のせいで」

「いや、フクロウ難が起きたという事情があるから、そんなに酷いことにはならなかったと思うよ。せいぜい数十ガリオンの罰金か、悪くても数ヶ月の減給で済むはず……それに、“生き残った男の子”が絡んでるせいで魔法省は厳しく出れないだろうね」

 

 ハリーは複雑な顔をした。“生き残った男の子”'と言われたのが嫌だったらしい。

 イカれた死喰い人の娘よりはマシにしても、「素晴らしい人物に違いない!」と思われるのもまたプレッシャーだろう。まあ、それでもやっぱり、イカれた死喰い人の娘よりはよっぽどマシに違いないけど。

 

「それよりさ、ハリー。キャプテン・アメリカって人のサインが欲しいんだけど、“生き残った男の子”のコネでどうにかならない?」

「いろいろと間違ってるよ」

 

 ハリーは呆れた声でそう言ったが、その口元には確かに笑みが浮かんでいた。

 

 

 朝食を食べ終えて薬草学の授業を受けに温室へ向かうと、なんとロックハート先生が来ていた。トルコ石色のローブをなびかせ、輝くブロンドにお洒落な帽子をかぶっているのを見て、ハーマイオニーはたまらず「ああ、なんて素敵なの……」とうっとりしている。近くにいたハンナ・アボットは髪を整え始め、ラベンダーは急いでスカートを折って短くした。

 

「ケッ、女の子って見る目が無いよな」

「彼の本って、本当に面白いよ。それになんてったって、“魔法界と非魔法界のハーモニー”_____美しい響きだ」

「ああ、君も女の子だったのをすっかり忘れてたよ」

 

 ロックハート先生はスプラウト先生に許可を取り、温室の前でハリーと何やら話をしている。

 

「あの事を叱ってらっしゃるのかしら。ロックハート先生って本当、ご立派だわ」

「ハーマイオニー、君っていっつも冴えてるけど、最近は本当に素ン晴らしいね。クラッブやゴイルくらい」

 

 少しするとハリーが帰ってきて、ようやく授業が始まった。今日の授業はマンドレイクについてだ。ハーマイオニーがマンドレイクの特徴を答えたので、スプラウト先生がグリフィンドールに加点した。ハーマイオニーって、そんなに勉強して何になるつもりなんだろう? 魔法省大臣とかだろうか。まさかね。

 

 マンドレイクの植え替えをするため、四人一組になるように先生が言った。コーディたちの隣のテーブルを使っているのは従兄(アーネスト・マクミラン)たちのグループだ。その中の一人が、コーディたちに話しかけてきた。

 

「ジャスティン・フィンチ-フレッチリーです! 生き残った男の子のハリー・ポッターに、何でも一番のハーマイオニー・グレンジャー。それから、空飛ぶ車を持ってるロン・ウィーズリー_____それに、コンコーディア・ロウル。父親が大犯罪者の」

「僕らっていっつもこうじゃないか?」

「まあ、妥当だよね」

 

 ロンがあからさまにブスっとした表情をしたが、ジャスティンは気にせず続けた。ハリーとハーマイオニーも気まずそうな顔をしている。

 

「でも、あなたは立派だと思います。親が犯罪者だと、子どもも大抵そうでしょう? なのに、あなたは正反対だ」

「そりゃどうも」

「立派といえば____ロックハートって、本当に大した方ですよね。狼男に追い詰められて電話ボックスに逃げ込んだ時の……」

 

 ジャスティンがロックハートについて熱っぽく語っていると、アーネストが「早く始めよう」と怒鳴ったので、ジャスティンは「またお話しましょう!」と言ってテーブルに戻った。

 悪い子では無いと思う。ちょっと鬱陶しいけど。

 

「コーディ、あんなの気にしないでね」

「もう皆、君が“良い人”だって知ってるよ」

 

 ハーマイオニーとハリーに続き、ロンが「君たち、僕には何も無いの? マーリンの髭!」と言ったが、マンドレイクの叫び声にかき消されてしまった。

 

 

 ____それから、変身術の時間に、ロンがマクゴナガル先生にこっぴどく叱られていた。あんなに酷い杖は初めて見た。マーリンの髭だった。

 それにしても、ハリーはロックハート先生と何の話をしていたのだろう? 嫌がりそうだから訊かなかったけど。空飛ぶ車の話かな? それともやっぱり、例のあの人を倒した話かな。

 まあ、たった一歳の赤ん坊がイギリスの魔法界で一番恐ろしい闇の魔法使いを倒しちゃうなんて、何度聞いても信じられないよな。だって、あのグリンデルバルドを倒したダンブルドアだって手を焼いてたんだから。

 それから、今日はディーンからサッカーの話を聞いた。バスケットボールのことはジョニーから聞いていたけど、そんなのよりもっと面白いスポーツがあるなんて! ボールを蹴るだなんて! しかも、ゴールが一つってのが最高にマーリンの髭だ! 

 もしかして、マグルの世界にはこの他にもスポーツがあるのかな? 今度ディーンに

 

 ____すみません、あなたはホグワーツ魔法魔術学校の生徒ですか? 

 

 いつの間にかカバンに紛れ込んでいたボロボロのノートに日記を書いていると、突然ページから文字が浮き上がってきた。

 ____「ねえ、どこに脳みそがあるか分からないものは信じちゃダメなのよ」……そう、ママが言っていた。

 コーディはすぐにノートを閉じ、スペロテープでぐるぐる巻きにして鍵付きの引き出しに閉まった。

 

 コレ、どうしよう。

 先生に渡したら間違いなくルシウスさんが疑われる。例え心当たりがなくても、怪しい道具を持ってるなんて知られたらせっかく上がっている株がダダ下がりだ。

 

 まあ、何にせよ、今年も厄介な一年になりそうだ。




フクロウ難って言葉は勝手に作りました。
手紙が届かないとか、別のところに届くといった郵便トラブルの意味のつもりです。
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