「コンチクショー! マーリンの髭! なんて奴だ!」
ロンが杖をバンバン叩きつける隣で、ハーマイオニーが手鏡を見ながら髪型を整えている。今日のハーマイオニーはいつものようなボサボサ頭____いや、
「ハーマイオニー、よく似合ってるよ」
「良いヘアスタイルだね」
ハリーはあんな環境で育った割にそういう機微はあるようで、ハーマイオニーのヘアスタイルの変化にすぐに気づいた。というか、これだけ変われば普通は気づくのだ。周りの生徒たちもチラチラとハーマイオニーを見ている。シェーマスなんて「ハーマイオニーが結構可愛いなんて、全然気づかなかった」と言っている。
だというのに、ロンは全く気付かず、杖に向かって「マーリンの髭!」と言い続けている。マーリンの髭はこっちのセリフだよ、まったく。
「ありがとう! コーディ、あなたからのクリスマスプレゼント____『スリーク・イージーの直毛薬』に『自動編み込み櫛』、どちらもとっても便利」
「自転車の補助輪に比べたら大した物じゃないよ」
「午後の授業はなんだったっけ」ハリーがそう言うと、ハーマイオニーがすぐに「闇の魔術に対する防衛術よ!」と答えた。ああ、どうりで____コーディがニマニマしながら見つめると、ハーマイオニーは顔を赤くして目を逸らした。
「あれ、君、ロックハートの授業を全部小さいハートで囲んでるけど、どうして?」杖を机に叩きつけるのをやめたロンが、ハーマイオニーの授業予定表を見てそう言った。ハーマイオニーは顔を更に赤くしてロンの手を叩き、授業予定表をひったくった。
「何すんだ! マーリンの髭!」
____本当にマーリンの髭だよ、ロン。
昼休みになると、ハーマイオニーは「予習しなくちゃ」と言って『トロールとのとろい旅』を夢中になって読み始めた。ハリーは呆れた表情をしている。
「こりゃあたまげたね! 学年一番の才女様が僕らのママと同じ、ロックハートファンだなんて!」
「奴さんのチャーミングなスマイルと来たら、きっとバジリスクだって倒せちまうに違いないさ」
またしても、闇の魔術に対する防衛術を一番始めに受けたのはグリフィンドールの四年生たちだったので、双子は授業の感想を教えにやって来てくれた。
「ファンって……だって、彼ってとびきり立派な魔法使いでしょう?」
「そうだよ。“魔法界と非魔法界のハーモニー”だって! 素敵だよ」
ハーマイオニーとコーディがそう言うと、ロンは顔をしかめて「コウモリの鼻くそくらい素敵だね」と言い、双子は更にゲラゲラと笑い始めた。
「おいおいクール、君、完全にイカれちまったのか?」とジョージがコーディの頭をグシャグシャにした。
「俺たち、すーっかりクィレルに恋しちまったみたいだ」
「もう一回あの吸血鬼談義を聞きたくてたまらないのさ」
「それからあのかぐわしいニンニクの香り」
「そしてあのリズミカルな吃り」
「おーっと、もうこんな時間だ! 俺たちは、
「つまらない自慢話がヌガーみたいに耳にくっついてるから、お説教で洗い流してくるんだ」
「それじゃあロックハート・ファンクラブの皆さん、ごゆっくり」
ハーマイオニーが「初日から呼び出されるなんて!」と言い、コーディはあの双子は何を言いたかったんだろうと首を傾げた。
_____吸血鬼談義か。懐かしいな。
みんな、クィレル先生の事を情けない教師としか思っていないし、もうほとんど忘れてしまっているだろう。コーディだけが、彼がどんなに聡明で優しかったかを知っている。
闇の魔術に対する防衛術の授業が始まって一分も経たないうちに、コーディたちは双子の言っていたことの意味を理解した。ただし、ハーマイオニーだけは三人の冷たい目にも気づかずにロックハートをうっとりと見つめ続けている。
ちなみに、後ろの席のラベンダーも「夢みたいだわ」などと呟いている。
「夢? ああ、そりゃ間違いない。悪夢だね」
「寧ろ夢であって欲しいよね、こんなのマーリンの髭だよ」
小テストの「3 現時点までのギルデロイ・ロックハートの業績の中で、あなたは何が一番偉大だと思うか?」に、「コンコーディア・ロウルとロナルド・ウィーズリーから一生分のマーリンの髭を吐かせた」と書きながら、コーディはため息をついた。こんな授業が一年も続くんじゃ頭がおかしくなりそうだ。
ハリーが羊皮紙に絵を描いて渡してきた。絵しりとりの誘いだ。
「ハーマイオニー、あの調子じゃ今年は一位は無理だろうな。夏休みの間にキャトられ*1ちまったのかい? グレイ*2って、残酷なことするよな」
ハリーの絵が何なのか考えていると、前の席のディーンが話しかけてきた。コーディがダンブルドアに加点されてからよく話してくれるようになったのだ。マグル生まれの友達が何人か出来るなんて、ホグワーツに入る前は予想出来なかった。
ちなみに、ロックハートは相変わらず鼻持ちならない自慢話をし続けている。授業だけでなく、ジョークのセンスも最悪みたいだ。
「ちょっと待って、“キャトられる”って? マグルってそんな言葉使うの? それに“グレイ”って?」
「ああ、“キャトられる”ってのは____」
二人が雑談しているのを見て、ロックハートが「おやおや、ミス・ロウル! 私の気を引きたいからって、授業中に無駄話するのは感心しませんね!」と言ったので、ハーマイオニーがコーディを叱った。
ドビーは正しかった。今年のホグワーツは最悪だ。
それに、ルシウスさんも正しい。理事会がホグワーツを支配するべきだ。あと、ハーマイオニーの将来が心配だ。
だが、くだらない小テストも、つまらない自慢話も、センスの無いジョークだって、この後の
ネビルなんて、コーディがいなければまた大怪我をして医務室に運ばれる羽目になっていただろう。どうにかシャンデリアから救出すると「ばあちゃんが“あいつの事は信頼出来ない”って言ってたんだ」と涙ながらに呟いた。
「ああ本当、クィレルって素晴らしい教師だったよな」
「ホグワーツ自転車オタクサークルの会長だったしね」
「ロックハートも充分素晴らしいよ。ジョージたちの言う通り、クィレル先生の素晴らしさがよく分かったから」
「ロックハート先生は私たちに体験学習をさせてくださったのよ!」
ハーマイオニーが三人にロックハートの素晴らしさを教えていると、薄茶色の髪をした、カメラを持った小さな少年がおずおずと近づいてきた。グリフィンドールの新入生だ。
「ハリー、元気? ぼ、僕、コリン・クリービーと言います。僕も、グリフィンドールで____良かったら、写真を撮ってもいいですか?」
どうやらこの少年はハリーファンらしい。ハリーに向かって、興奮気味にハリー・ポッターの素晴らしさをまくし立てている。コーディたちの事は全く見えていないみたいだ。
「おったまげー、僕たち、いつの間に目くらまし術を習得しちまったんだろうな」
「あ! あの、
コリンが懇願するような顔で見つめるが、ハリーは完全に戸惑ってしまっている。
こんな場面をドラコが見逃すわけがない。来るぞ。____ああ、やっぱり。タイミングが良いのは父親譲りなんだろうか?
「サイン入り写真? ポッター、君はサイン入り写真を配ってるのかい? みんな、並べよ! ハリー・ポッターのサイン入り写真だぞ!」
「僕はそんなことしてないぞ。黙れよマルフォイ!」
コーディもなにか一発かましてやろうと思ったが、その前にコリンがハリーの前に立ち、小さな拳を握って言い返した。「あなた、ヤキモチ妬いてるんだ。ハリーの人気に」
____あーあ。これはまずい。コーディだってそんな事を言わないのに。もし言ったら、ドラコは一週間くらい口をきいてくれないだろう。
「ヤキモチ? はっ、面白いね。僕はありがたいことに、額の真ん中に醜い傷なんかなくたって、特別で高貴な人間なのさ」
「ナメクジでも食らえ、マルフォイ。君が高貴なら、この世の人間はみんな神様さ」
「言葉に気をつけろ、ウィーズリー。“首を洗って待ってらっしゃい! ”怖ーいママが君を迎えに来るぞ」
コーディとハーマイオニーは空を眺めた。ハリーたちの言い争う声、生い茂る木々。可愛らしい鳥たちが空を飛んでいる。夕焼けが美しい。
「今日も平和だね、ハーマイオニー」
「そうね。良い一日だったわ」
しかし、次の瞬間、三頭犬よりもトロールよりも厄介な存在がやって来た。____大災害、ロックハートだ。
「一体何事かな? 誰がサイン入りの写真を配っているのかな? ____ああ、ハリー! また逢ったね」
途端にハーマイオニーは目をキラキラさせた。今日はハリーにとって最悪の一日に違いない。談話室に帰ったら、日本魔法界製の新商品のお菓子・『鼻からぼた餅』をプレゼントしてあげよう。
しかし、最悪な一日なのはハリーにとってだけではなかった。
ハリーがロックハートとコリンから解放された後。コーディは酷い腹痛に襲われたので、一人で女子トイレにいた。長く居座っても問題ない、三階の女子トイレだ。
ようやく長い闘いを終えてトイレを出ると、嘆きのマートルに水をぶっかけられてしまった。ピーブズといい、ゴーストなんてどいつもこいつもマーリンの髭どころじゃなく最悪だ。ディーンが教えてくれた、“ゴーストバスターズ”がホグワーツにもいればいいのに。
「おい! うわっ、なんだ、汚!」
コーディがトイレから出るなり、
「ああ、どうも」
「僕は君の正体を知ってるんだぞ」
「そりゃ、ホグワーツ中が知ってるものね。イカれた死喰い人の娘だって」
「ああ。それだけじゃない____君もイカれてる。本当は心からマグルを憎んでるのに、皆を騙してる。僕は騙されないぞ……」
なんだか意味の分からない事を言った後、コーディの返事も聞かず、アーネストはスタスタと歩いて行ってしまった。
これだけでも充分最悪だと言うのに、災難はこれだけでは済まなかった。そういえば、夏休みに小さな黒い犬を見たけど、あれは死神犬の赤ちゃんだったのかもしれない。
「僕、お前に言っておきたいことがあるんだ」
談話室で、ロンがコーディを呼び止めた。いつになく真剣な顔をしている。
「愛の告白とかなら、勿論お断りだよ」
「____僕、お前のことは許してないし、全く好きじゃない。友達だなんて、一秒たりとも思ったことが無い」
ロンはコーディの軽口を無視してそう告げた。分かってはいても、面と向かって言われたら、少しだけ心が痛む。
____そう、分かっていたのに。何を期待していたんだろう。
「お前のパパとドロホフが叔父さん達を殺した。ママは時々うなされてるんだ、「ギデオン! フェビアン!」って。僕がお前と仲良くしてるのは、ハリーを悲しませたくないからだ」
「そんなの、いちいち言わなくたって分かってたよ」
「それに、お前が去年の事で何か隠してるのも知ってる。ハーマイオニーも知ってるぞ。お前と会った後、クィレルはいきなり聖マンゴに運ばれたんだ」
ロンが何か気づいているのは分かっていたが、まさかハーマイオニーもだとは思わなかった。学年一の才女をあまりにも甘く見すぎていたらしい。
「ハーマイオニーが何も言わないのは、お前を信じてるからだけど、僕は違う。_____ハリーやハーマイオニーを傷つけるような事があったら、僕は絶対お前を許さない。それにジョージも。あいつがどんなつもりでお前と仲良くしてるのか知らないけど、僕の大事な家族なんだ」
人から信頼されない。
人から憎まれる。
そんなのもう慣れっこのつもりだった。一年間もあたたかい環境に居たから、少し心が脆くなっていたのかもしれない。自分が一人だということをすっかり忘れていた。
コーディは鍵つきの引き出しを開け、ぐるぐる巻きのスペロテープを解いた。あの手帳なら分かってくれるなんて、どうしてそう思ってしまったんだろう?
____薄々察してたんだからいちいち言わないで欲しい。ロンから好かれるなんて自惚れるほど、私は馬鹿じゃない。アーネストだって、わざわざあんな事のために話しかけて来るなんて。マクミラン家ってママ以外みんなクソだ。
ああ、早く帰って自転車に乗りたい。もっと上手く乗れるようにならなくちゃ。それから、“コロコロ”で一日中家の掃除をしたい。ホグワーツなんて最悪。マグルの世界で暮らしたい。
____こんばんは。僕をスペロテープでぐるぐる巻きにした、ちっちゃなマグル博士。
ところで、僕は幼い頃、孤児院で一番自転車に乗るのが得意で、「自転車のトム」「自転車に乗るのが上手い例のあの子」「自転車乗りの帝王」なんて呼ばれていたこともあります。
良ければ、自転車に乗るコツを教えましょうか?
原作の時系列ではサイン入り写真騒ぎ→闇の魔術に対する防衛術授業だったのですが反対になってます。
この作品の“キャラ崩壊”要素の8割はトム・リドル(今のところ)……もしかしたらトムが少しおかしなことを言い始めるかもしれません。