マグル学のすゝめ   作:バナナ牛乳

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トム・リドルメイン


第十八話 新しい友だち

 

 _____今年の十月はとびきり寒いから風邪が大流行。マダム・ポンフリーは大忙し。あの元気爆発薬ってやつは本当に酷い。トムにも見せてあげたいよ! 君に目がついてないの、本当に残念。嫌味じゃないからね。

 _____目の代わりに素晴らしい頭脳があるから大丈夫だよ、君と違ってね。

 _____マーリンの髭! 

 

「ハーマイオニー、やめてよ! 元気なんだって!」

 

 ハーマイオニーが羽根ペンと手帳を取り上げたのでコーディは抗議した。この頃、顔色が悪くて食べる量も減ったコーディを医務室に連れて行こうと躍起になっているのだ。

 そりゃあ、毎日トムと色々な話をしたり、勉強を教えてもらったりしているから寝不足ではあるけど。

 それに、ハリー・ポッター・ファンクラブの会員たち(たぶん)に呪いをかけられそうになることが多くて、少し疲れているけど。

 でも、耳から煙を出し続けるなんて、クラゲ足以上の屈辱だ。

 

「ハリー。やっちゃって」ハーマイオニーの鶴の一声で、ハリーはコーディの腕を掴んで、医務室に向かい始めた_____去年は小枝みたいだったのに、いつの間にこんなに筋肉がついたんだ? クィディッチってすごい。非常に情けない絵面だけど、ハリーにもたれていると不思議と安心感がある……いや、何を考えてるんだ。やっぱり、疲れてるみたいだ。

 それにしても、ハリーは最近、少し過保護すぎると思う。ハリー・ポッター・ファンクラブ会員たちによるあれこれの責任を感じているのだろうが、ジニーからの視線が怖い。

 

「ようハリー、ペットのお散歩かい? 随分ヘンテコなペットだな……そうだな、種類はマグル・フリークってやつだろ」

「ジョージ、コーディを医務室に連れて行きたいんだけど嫌がるんだ。元気爆発薬が恥ずかしいって」

 

 クィディッチで鍛え上げられたハリーに、ウィーズリー家の中ではガッシリしている方のジョージまで加わったので、コーディはあっという間に医務室まで運ばれてしまった。

 

「ハリー! 恋人を医務室まで連れて行くなんて、本当に素晴らしい方なんですね。写真を撮っても良いですか? “ハリー・ポッター速報”に載せたいんです」

「コリン、ちょっとどいてくれ。マダム・ポンフリーを呼ぶよ」

「それに、この二人は恋人じゃないぜ。クールが愛の妙薬なんてモン調合出来るわけないからな。あ、良かったらカメラを貸してくれないか? 俺はハリーの友達五号のジョージだ、よろしく」

 

 コーディはギリギリまで抵抗したが、結局元気爆発薬を飲まされてしまった。マグルの風邪薬なら、こんな間抜けな事にはならないだろうに。

 そして、元気爆発薬を飲まされたということ以上に最悪なのは、ジョージがコリンから借りたカメラでコーディの写真を撮っている事だ。

 

「こりゃ傑作だ! 現像したら早速写真立てに入れないと」

「ジョージ、僕にも何枚かちょうだい。コーディが悪巧みしたら、それを見せようと思うんだ」

「ハリーだけは絶対ダメ! いや、他の人もダメだけど……。もう! 組み分け帽子は君らをスリザリンに入れるべきだったんじゃないの?」

 

 

 _____ってことがあってさ、やっぱり薬はマグルのものに限るね。といっても、二回しか飲んだことがないんだけど。それも……ごめん、トムはマグルの話されるの、嫌だよね。

 

 書いてしまってから、トムがマグルと不仲だった事に気がついた。コーディが出会ったマグル(ジョニー)はとても優しい人だったけど、全員がそうというわけではない。ハリーの親戚は酷い人たちだし、トムの孤児院の院長さんも冷たい人だったらしい。

 

 _____そうだね。あまり良い思い出がないから。でも、君と話すのは楽しいよ。五十年もひとりぼっちだったんだから。

 

 トムは何でもないことのように言うけど、五十年も独りだなんて、普通なら耐えられない。

 出来るだけトムに優しくしてあげよう。ずっと独りぼっちだったなんてあまりにも可哀想だし、()()()()()()()なんだから裏切られることもないだろうし。

 

 _____トムが肖像画なら良かったのに。だって、肖像画には目や耳があるでしょ? トムを作った人は、きっとあんまり賢くなかったんだろうな。絵も下手で、

 _____いや、そんな事は有り得ない。寧ろ僕は肖像画なんかよりも余程優れた

 

「何してるんだ?」ロンがトム____じゃない、手帳を取ってジロジロと見たので、コーディはロンの手を叩いて取り返した。

 

「君ら、最近暴力的じゃないか!?」

「うるさいなあ、人のものをジロジロ見ないでよ。ロン、そんなんじゃ恋人出来ないよ」

「君に言われたくないよ! 僕らの中で恋人を作れそうな奴なんて、ハリーしかいないだろ」

「まあ、ハリー・ポッター・ファンクラブの中から選び放題だもんね」

 

 コーディがそう言うと、ロンが気まずそうな顔をした。やはり、妹が大親友のファンだというのは複雑らしい。少し意地悪を言い過ぎたかもしれない____最近、何故か前ほど冷静でいられないことが多い。

 

「ジニーが君に足縛りをかけようとしたのは悪かったよ。叱っとく」

 

「え、そっち?」あまりにも予想外だったので、コーディは思わず目を丸くした。寧ろ、ジニーの行動を誉めそやしてもおかしくないのに。ロンがばつが悪そうな表情をしたので、コーディは慌ててまた口を開いた。

 

「あ、間違えた。今のはマーリンの髭って言うところだったね」

「あんまり言ってると飽きられちゃうよ」

 

「キャラ付けってのも大変だよね」と言い、コーディはロンから目を逸らした。ハリーがウッドに何か言い返していて、上空ではフレッドとジョージがボールを打ち合って遊んでいる。ハーマイオニーの方は、『泣き妖怪バンシーとのナウな休日』を呼んでいる。飽きないのだろうか? 

 ハリーが一気に加速した。コーディは自転車の方が好きだけど、ハリーには箒が似合うと思うし、最近は箒も嫌いじゃない。

 

「君、最近ウッドみたいだぜ」

 

 クィディッチの練習の見学中は、いつもよりロンと話すことが多い。ハリーは練習中だし、ハーマイオニーはクィディッチの勉強をしているか他の勉強をしているかだし、ロンの杖はすっかりダメになってしまったから暇なんだろう。

 

「私、別にクィディッチ狂いじゃないけどなあ」

「知ってるよ。君らの共通点は“最近特に変”って所だ」

 

 ロンがそう言って手帳を見たので、コーディは咄嗟に隠した。

 

「なんでガリ勉になっちゃったんだ? ハーマイオニーに怒られるのが僕一人になっちゃうだろ」

「貴方もガリ勉になればいいんじゃないかしら!」

「ハーマイオニー! そんな顔で睨むなよ! とうとうママが学校に来たかと思ったろ!」

 

 

 _____ロンは私のことが嫌いじゃないのかな? 本当は私と仲良くしたいと思っているのかもしれない。

 _____そうだといいけど……僕は君のことが心配だよ。

 _____どうして? 

 _____君はすぐに人を信じすぎるだろう? 僕のことだって、もっと疑うべきだった。

 

 トムは誠実だ。疑われて独りになることより、コーディの事を心配してくれている。

 

 _____そうだけど、トムのことを信じて良かったよ。

 _____ありがとう。でも、その……ロンって子のことは心配だ。だって…………君のお父さんは、ロンの叔父さんたちを殺したんだろう? 

 

 コーディの心臓がびくんと跳ねた。過去は変えられない。父が殺した人たちはどうしたって帰ってこないし、遺された人達の悲しみだって、完全に消えることはないのだ。

 

 _____ジョージの方は分からないけど、ロンの方はそう簡単に君を許すとは思えない。わざわざ君を心配するなんて、何かおかしいよ。

 

「お前と仲良くしてるのは、ハリーを悲しませたくないからだ」____そう言った時のロンの表情は、コーディに対する憎しみに満ちていた。

 

 _____好きでもない相手を心配するフリをしたり、親しくするフリをするのなんて簡単だ。利用価値がある相手なら尚更そうだ……君なら分かるだろう? 

 

「自分の身を守らなきゃいけないからね」昨年度の自分の言葉を思い出す。コーディだって、平和な生活を送るためにハリーを利用したのだ。

 

 _____でも、私に利用価値なんて無いよ。

 _____君の幼なじみのドラコの父親は、怪しい道具を沢山隠し持っているんだろう? そして、ロンの父親は魔法省勤務だ。

 

 この夏、マルフォイ邸には何度も魔法省からの抜き打ち調査があった。幸いにも大したものは見つからなかったが、アーサー・ウィーズリーは諦めないだろう。

 

 _____コーディ、友情は素晴らしい。だけど……それが本当に友情なのかはきちんと見極めなければいけないよ。今までだって、君を利用しようとする人はいただろう? 

 _____そうだね。トムの言う通りだ……私ったら、すっかり平和ボケしてたみたい。ありがとう、おやすみ。

 

 コーディはそう言って羽根ペンを置き、手帳を閉じようとした。しかし、その瞬間手帳に文字が浮かび上がってきた。

 

 _____ところで、ハリーとの仲はどうだい? 

 

 コーディはベッドのカーテンが隙間なく閉まっていることを確認した。

 

 _____何を言ってるの? マーリンの髭! 

 _____君との会話でよく出てくる単語ランキング一位が自転車とマーリンの髭。二位が冷蔵庫。三位が電子レンジ。四位がハリーだ。つまり、君は飛び出す絵本や扇風機、コロコロ、ウォークマンやスミスよりもハリーが好きらしい。

 _____スミスじゃないよ。ザ・スミス。ザカリアスを好きだなんて、マーリンの髭を吐いちゃいそう。

 

 ザ・スミスよりもハリーが好き? そんなの有り得ない。

 だってハリーは歳上じゃないし、憂いがあるかはよく分からないし、ザ・スミスのファンでもなさそうだ。

 

 ______ねえ、コーディ。僕は君に「人を信じすぎるのは良くない」と言ったけど、自分の「気持ちを押し殺すべきだ」とは言ってない。父親が悪いことをしたからって、君が幸せを諦める必要は無いんだよ。

 ______トムってすごく良 マーリンの髭 ありがとう。でも、ハリーは トムってもしかして、AI? 

 ______AI? それは何だい? 

 ______自分で考えることの出来る……なんて言えばいいんだろう? とにかく、生き物じゃないのに自分で考える事が出来るモノなんだって! チェスも出来るんだよ! マグルが作ったんだ…………クィレル先生が言ってたことも、

 

 少し手が疲れてきた。なんだか、今日はずーっとトムと話していた気がする。

 

 ______トム、手が疲れちゃった。今日はもう寝るよ。

 ______疲れずに話せる方法があるとしたら? 

 ______それって、

 

 まあいいや。どうせ、自動速記羽ペンか何かだろう。でも、ルシウスさんは「便利だが、品があるとは言えない」なんて言ってたから、コーディが買ったら残念がるだろうな……。

 そんなことを考えていると、コーディはあっという間に眠りについてしまった。

 

「君の頭の中って、変なものばっかりだね。箒とスニッチはまだしも、空飛ぶ自転車に、羽が大きすぎる扇風機。これは何なんだ! ウワッ、やめろ!」

「あっ、それは“ゴキブリホイホイ”って言うんだよ。久しぶり、トム。夢に出てくるのは二回目だね」

 

 この前ディーンから“ゴキブリホイホイ”というマグルの道具を教えてもらったのだが、どんな物なのか聞くのを忘れていたのだ。多分、ゴキブリをすっごく惹きつけるボールみたいなものだと思うけど……。トムは今、ゴキブリがまとわりついたブラッジャーのようなものに追いかけ回されている。きっと、これがゴキブリホイホイなんだ。

 

「頼む、考えるのをやめてくれ!」

「そう言われると、余計想像が膨らむんだよ」

 

 しかし、トムが杖を振ると、ゴキブリホイホイがコーディに向かって突進してきた。「マーリンの髭!」と叫びながら、コーディは必死に逃げる。夢の中だっていうのに、ゴキブリが妙にリアルで気持ち悪い。

 

「ごめんごめん、消してあげるよ。ちょっと待て、どうして僕が謝ってるんだ? 元は君のせいだろう」

 

 トムは不服なようだったが、コーディがゴキブリにあたふたしているのを見て満足したのか、少しするとゴキブリホイホイを消してくれた。

 

「それにしても、随分リアルな夢だね。しばらくはチョコレートすら見たくないよ。それに、なんだか暑いし」

 

「夢じゃないんだ」トムがニヤリと笑いながら言った。すごく整った顔立ちで、完璧な笑顔なのに、何故か少しだけ不気味だ。

 

「疲れずに話せる方法があるって言っただろう? 僕は君の()に入ることが出来るんだ_____君が僕を信じてくれたおかげでね」

 

 それって、開心術みたいなものなんだろうか? でも、開心術なんて大人の魔法使いでも使いこなすのは難しいのに、たかが手帳なんかが、どうして? 

 _____肖像画の下位互換かもしれないって思ってたけど、これってもしかして、とんでもない闇の道具なんじゃ……。

 

「作った人がすごく優秀でね。僕が寂しくならないように、この能力をつけてくれたみたいだ……でも、みんな僕を不気味がるだろうね。昔みたいに」

 

 コーディの気持ちが伝わったのか、トムはしょんぼりと肩を落とした。その様子があまりにも寂しげだったので、コーディは慌てて訂正した。

 

「そんな事ないよ! ただ…………少し……」コーディが何を言おうか考えていると、誰かが突進してきてトムにタックルをかました。コーディは今、格闘技の事なんて考えていないのに。

「出てけ!」赤毛の少年がトムに怒鳴った。ジョージによく似ているが違う、ジョニーだ。

 

「ジョニー! ジョニー……ええと……」

「これが君の友達? 随分攻撃的なんだな」

「なんでだろう、どうしてこんな……ジョニー!」

 

 ジョニーは二人の言葉を無視し、もう一度トムにタックルをかました。「こいつは危険! 危険!」と、まるでそれしか言えなくなってしまったように怒鳴り続けている。明らかにおかしい。

 

「ああ、そういう事か」トムが恐ろしい程冷たい声でそう言った。ジョニーを無言呪文で制圧すると、「少し二人で話してくるよ」と言ってどこかに行ってしまった。

 

「最近はジョニーの夢なんて全く見てなかったのに」

 

 コーディが考え込んでいると、トムが一人で戻ってきた。連れて行ったはずのジョニーはいない。

 

「ジョニーは?」

「うーん……話して、出て行ってもらったよ」

「どうして!? 私の、唯一の、大切な______」

 

「僕は大切じゃない?」コーディが狼狽えていると、トムが悲しげな目でそう言った。そうだ、トムだって大切な友達だ。

 

「もちろん、僕だって仲良くしたかったさ。だけど、彼は僕を嫌っていたし、何よりただの記憶でしかない。だろう?」

「うん…………まあ、確かに」

 

 そうだ。本物のジョニーがコーディの心の中にやってくるなんて、ありえないのだ。

 

「彼との間には辛い思い出があるんだろう? 彼が大事なのは分かるよ。だけど、君は今を生きなきゃ_____辛いことは忘れてしまった方がいい。これからは、僕が君の友達だ」

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