ダンブルドアがホグワーツの校長を解任された。そして、ハグリッドは冤罪でホグワーツを追放された。
スリザリンの生徒たちですら、これには密かにショックを受けていた。ダンブルドアがいなくなってしまったら次こそ死人が出るかもしれないし、穢れた血でなくても……半純血でも襲われるかもしれない。
しかし、トムだけは大喜びでコーディを誉めそやした。
____君があのハッフルパフの穢れた血を選んだおかげで、ダンブルドアを追放できた!
ジャスティン・フィンチ-フレッチリーはなかなかの名家の出身らしい。父親は爵位を持ち、親戚には元首相、現大物政治家や大企業の幹部がたくさんいて、なんと王室との繋がりもあるという。
それに加え、昨年度の三頭犬に関する告発。
自分の任期中にもめごとや厄介ごとを起こしたくないファッジは迷いに迷った末ダンブルドアの解任とハグリッドの追放で手を打ち_____そして、代わりに数人の魔法使いをホグワーツに派遣した。
一人はホグワーツ理事会のドン、ルシウス・マルフォイ。
もう一人はルシウスさんの腰巾着のような魔法使い。
三人目は何故かするりと入り込んで来たヴェネナタ・ザビニだ。
廊下には、ダンブルドアが如何に無能だったか書かれた『理事会のお知らせ』が貼られている。
コーディはホグワーツ特急の予約の列に並んだ。こんな状態のホグワーツでクリスマスを過ごそうという生徒はほとんどおらず、長蛇の列だ。
____クリスマス休暇中に手帳をどうにかしないと。
驚いたことに、トムは帰省に反対しなかった。トムはすっかりコーディを見くびっていて、「臆病なコーディは何にも出来ない」と思っているのだ。
それは半分正解で、半分不正解だ。コーディは確かに憶病だけど、特に恐れているのは大切な人の死と、吸魂鬼のキスなのだから。人を石にした程度なら酷くてもアズカバンで済むが、これに殺人まで加わったら吸魂鬼のキスを執行される可能性がぐっと高くなる。
「あら、コーディア」後ろから、美しくて不快な声が聞こえた。ヴェネナタ・ザビニだ。コーディは舌打ちを堪え、いつものように能天気な笑顔を貼り付けて振り返った。
「どうして特急の予約なんてするの?」
「そりゃ、家に帰るからですよ」
「あら、どうして? 純血だから狙われる心配もないでしょう?」
「ナルシッサさんとクリスマスパーティーをするので。今年はルシウスさんもドラコもいませんから」
「____あなたをマルフォイ家の方と過ごさせるのは正直心配だわ。こんな時期ですもの……あの方たち、闇の魔術だとか、そういうのに詳しいでしょう?」
「少なくとも、ナルシッサさんはそんな人じゃないと思いますけど」コーディは苛立ちを隠さずそう言い返した。ルシウスさんは確かに怪しいけれど、ナルシッサさんはそうではない____こんな目に遭っているのに、まだ信じたいのだ。
「そう。でも、どのみちあなたは帰れないわ」
「どうしてですか? だって、帰らなきゃいけないはずじゃ……」
「いいえ、今年のカンセリングはホグワーツで行う事にしたの」
コーディは絶句した。クリスマスもホグワーツに縛り付けられたままでは何も出来ない。ルシウスさんの目があるから、誰にも何も言えない。
「ど、どうして……」
「傷ついた子供たちの心を癒すのが私の仕事だもの。可哀想な子供たちを放って、家でクリスマスを過ごす訳には行かないわ」
「素晴らしいお考えですね」と言って、コーディは列を離れた。下を向いてずんずんと歩く_____もう自分がどこに向かっているのかも分からない。
「ロウル。前も見ずに歩くとは、随分不用心だ。グリフィンドールから一点減点。____それから、最近我輩の薬品庫からいくつか物がなくなっているのだが」
スネイプはそう言うと、有無を言わさずコーディを自分の部屋まで連れて行った。いっそ、今すべて自供してしまおうか。この仏頂面が、「減点」という声がこんなに頼もしく感じられたのは初めてだ。
_____それは悪い考えだな。少し静かにしていたからって、僕が君を乗っ取れないとでも思ったのか? ああ、それに……どうせ君は何も言えないよ。君にそんな勇気があるなら、ディーンやジャスティンは石になってなかっただろうから。
_____ほんの冗談だよ。もう、トムをどうにかしようなんて考えてない。どうせ無理だから。
_____へーえ。そうだといいけどね。君のことはどうも信頼できない。僕が気づいてないとでも思ったか? 魔法薬をわざとかけてストレス発散してただろ?
_____あ、バレてた?
_____僕にとっては痛くもかゆくもないから放っておいてやったが……。それに、あのハッフルパフの穢れた血の時も、グリフィンドールの穢れた血の時も、死なないように計算していたな? わざと乗ってやってたんだ。別に、穢れた血を殺すだとかダンブルドア追放が本来の目的ってわけじゃないからね。
_____どういうこと? 本来の目的って……
「お茶だ」
スネイプが仏頂面でカップを差し出した。____スネイプがお茶だって?
コーディはスネイプに「今日はすっごく機嫌がいいんですね。このお茶は真実薬入りですか?」と言いたい気持ちをぐっとこらえ、カップに口を近づけた。真実薬は入っていない。そんな当たり前のことに、とても安心する。
「薬品庫からいくつかの材料が消えていた_____我輩が見たところ、君は心当たりがあるようだが。君のお仲間たちはここ最近、トイレに籠って怪しい行動をしていると聞く」
スネイプの眉間のしわがいっそう深くなった。どうやら、コーディを疑っているわけではなく、ハリーたちを疑っているようだ。安心すると同時に、何故か少し悲しい気持ちになった。
誰もコーディが継承者だと気づいてくれない。誰も止めてくれない。誰も、コーディを見ていない。
「いえ、何も知りません」コーディがそう言うと、スネイプは表情を一切変えず、「では帰りたまえ」と短く言った。これだけしか用事が無いなら、わざわざ部屋に呼ばなくてもよかったのに。
「じゃあ、失礼しました」コーディはそう言って、扉を開けたが、そこで足を止めた。
「先生、私のママと____両親がどんな人間だったか、教えていただけませんか?」
あのスネイプがこれだけのためにコーディを部屋に呼ぶなんて。心配してくれたんじゃないか、なんてのは楽観的過ぎるだろうか。
「学業に無関係な話を」
「学業には関係ないけど、どうしても今聞かなくちゃいけない話なんです」
ママとパパの話を聞けたら、少しだけ勇気が出るかもしれないから。
みんなが言う、気弱な母親と狂った殺人鬼の父親以外の話を聞けたら。
「言葉を遮るな。その無礼な態度にグリフィンドールから一点減点。_____座れ、立って話すのは落ち着かん」
コーディは再び、スネイプの部屋の椅子に腰を下ろした。気持ちの問題だろうか、なんとなく座り心地が悪い。クィレル先生の部屋の椅子はもう少し柔らかかったのに。
「ソーフィン____父親のほうは、少々頭のおかしな男だった」
スネイプはいつものように「とても不快です」とでも言いたげな顔のまま話し始めた。コーディが「でしょうね」と言うと少し眉をひそめた。
「口から出てくる言葉はくだらん冗談ばかりで、常にいけ好かん笑みを浮かべていた。常に自分が正しいと信じて疑わず、傲慢極まりなく、自信過剰で鼻もちならない男だった。非常に冷徹だが、無駄に人に構う。鬱陶しいことこの上ない……」
「先生って、娘への気遣いとか無いんですね」
「_____目的のためなら手段を選ばなかった。最終的にはいつも、すべて自分の思い通りに事を運んだ。話を遮ったな? 一点減点」
「アズカバンに入ったのも思い通りですか?」と聞こうと思ったが、せっかくのスネイプの優しさを無碍にするのは本意ではない。
「マクミラン_____母親のほうはよく覚えておらん。頭が悪く、動きが遅かった。あの女のどこを気に入ったのかは分らんが……」
「先生、人の母親をあの女呼ばわりはどうかと思います」
「話を遮るな。我輩には全く分からなかったが、“目的のためなら何でも出来る恐ろしいところが好きだ”とよく言っていた。我輩には全く分からんが」
「その結果体調を崩した上に復讐で送り付けられた有毒食虫蔓に嚙みつかれて死んじゃいましたけど」とは言わないでおいた。スネイプのなけなしの優しさを無碍にするのは、やっぱり本意ではない。
コーディはお礼を言って立ち上がった。部屋を出る前、「先生はソーフィン・ロウルのことが好きでしたか?」と尋ねたが、「くだらん事を聞くな」とまた一点減点されてしまった。
結局ほぼ全部悪口だったけど、スネイプのことは結構好きだ。それに、両親のこともやっぱり、嫌いにはなれないみたいだ。
_____私も、自分の思い通りに事を運ばないと。最終手段βだ。
「コーディ、クリスマス休暇は帰らないの?」
部屋に戻ると、ラベンダーとパーバティが心配そうに駆け寄ってきた。二人とも、もう既に帰る準備をしているようだ。
「うん。ほら、ヴェネナタさんもこっちに残るみたいだから」
「そう……心配だわ。それに、ハーマイオニーも残るみたいなの。出来れば、あなたから説得してあげて。ほら、彼女、マグル生まれだから……」
パーバティがこっそりそう言うと、二人は談話室のほうに降りて行ってしまった。入れ違いでハーマイオニーがやって来る。
「あなた、また顔色が悪くなったんじゃない? 食事をきちんと摂らないと……」
ハーマイオニーと話すのはずいぶん久しぶりだ。
「話しかけて来ないで欲しいって言ったよね。ルシウスさんがいるから、マグル生まれの子と仲良くしてるのがバレたら……って」
コーディは何度もこう言ったのに、ハーマイオニーは隙あらば話しかけようとしてくる。
「ここはグリフィンドールの女子寮よ」
「それでもやめて欲しいんだ。それとも、私にホームレスになって欲しいってわけ?」
「……私、あなたのことが心配で」
「自分の心配をしたほうがいいんじゃない? 穢れた血なのに、クリスマスもホグワーツに残るなんて。ほんっと、マーリンの髭」
コーディはまだ何か言いたげな表情のハーマイオニーを残して、部屋を出た。_____ハーマイオニーが石になるとか、死ぬなんて、絶対にごめんだ。
あんな話をされたというのに、また薬品庫に盗みに入るのは少し気が引けるが、仕方ない。コーディは透明マントを持って歩き始めた。
「コーディ!」_____今度はハリーだ。
「言っておくけど、ルシウスさんからは何も聞いてないよ。それに、出来るだけ話しかけないでって言ったよね。廊下なんて、誰が見てるか分からないんだから」
ハリーは少し悲しそうな顔をした。
「クリスマス休暇は帰らないの?」
「うん、そのつもりだけど。死喰い人の娘だから、カウンセリングを受けなきゃいけないんだ」
「でも、今のホグワーツはすごく危なくて……」
____この馬鹿は、まだ君を心配しているのか?
「ハーマイオニーに言った方がいいんじゃない? 私は純血だよ」
「純血だからって、狙われないとは限らないよ。それに……君、ドビーのことを知ってるんじゃ」
コーディは「まったく意味が分かりません」という顔をした。嘘をつくのは得意なのだ。
「知らないよ。ハーマイオニーからも聞かれたけど、マルフォイ邸には屋敷しもべ妖精がたくさんいるし」
「そっか。……でも、ホグワーツにいるのは危険だよ。マルフォイの家に帰るのも。ウィーズリー家で過ごすのが良いと思う。ロンも反対してないし、ジョージだっている。だから」
驚いたことに、ハリーはコーディがマルフォイ家から狙われていると思い込んでいるらしい。どうしたらそんなに見当違いな推理をすることになるんだろう。
「申し訳ないけど、本当に全部的外れだよ。ルシウスさんが優れた血筋の私を狙うわけがない。それに、もし狙われてたとして_____ロンの家に泊まるのは無理かな。だって、私のパパがなんで捕まったか知ってる?」
「死喰い人だったのは知ってるよ。でも、お父さんと君は別だ! 僕だって、ダドリーとは似ても似つかないし」
ダドリーは従弟でしょ? ソーフィン・ロウルと私は親子なんだよ、とは言わなかった。そう言ったって、どうせハリーは庇ってくれてしまうから。
「____ソーフィン・ロウルはね、ドロホフと一緒にギデオン・プルウェットとフェビアン・プルウェットを殺したんだ。何度も磔の呪いをかけた末にね」
磔の呪いをかけられるのは、どんなに苦しかっただろうか。きっと、コーディがトムに受けた仕打ちの何倍も苦しかったに違いない。
「それって……」
「モリー・ウィーズリーの兄だよ。これでもまだ、ハリーはウィーズリー家に泊まれって言える? それに、ロンの気持ちも考えてあげてよ。私が離れてほっとしてるだろうね」
ハリーは何て言えばいいか分からないみたいだ。ハリーやハーマイオニーが「コーディはお父さんとは違って悪い人じゃない!」なんて言えるのは所詮、マグル育ちで恐怖を知らないし、ソーフィン・ロウルから直接的な被害を受けていないからに過ぎない。
「でも」それでも尚、ハリーは食い下がった。
_____ハリー・ポッターはどうして
ハリーは芯から優しくて思いやりに溢れた人間だから、コーディをすっかり信じてしまっているんだ。しかし、コーディには分かる。なんて言えばハリーが離れていくか。
「ハリー。ドラコと一緒に育った私が本当に善人だと思う? 君と仲良くしたのは、グリフィンドールでいじめられないため。で、今は学校にルシウスさんがいるから、君らは邪魔なんだよ。お互いのために関わらないようにしよう。ね?」
今度こそハリーは何も言わず、追っても来なかった。
「____ロウル様の好きなグラタンでございます。今日はウィーズリーの坊ちゃんはいらっしゃらないんですね」
薬品庫からいろいろと
「ああ、うん。申し訳ないんだけど……グラタンは食べられないかな。今ちょっと、ダイエット中でさ」
「申し訳ございません! ミニーは余計なことを……」
「いいよ。それはミニーが自分で食べて」
ミニーはグラタンを持ち、とぼとぼと歩いて行ってしまった。
ニガヨモギにアスフォデルの球根、催眠豆、ナマケモノの脳みそに、カノコソウ……よし、全部ある。
_____驚いた! 君ってファザコンだったんだね。この手帳に恐れ多くも父親の名前を書いて、父親の得意だった魔法薬学の勉強をして、魔法薬学教授から父親の話を聞いて……。意外だよ。
_____言っておくけど、私はファザコンじゃないし、パパは魔法薬学以外も得意だったからね。
コーディはそう言って、アスフォデルの球根をすりつぶし始めた。
_________何か馬鹿なことを考えていないだろうね? 生ける屍の水薬をかけたからって、僕には傷一つつかない。僕は僕のままだ。
「知ってるよ。私はそんなにお花畑じゃないからね」
コーディは続けて、カノコソウの根を刻み始めた。ずいぶん手際が良くなったと思う。ネビルより少しマシ程度だけど。____しかし、この二つの薬が完成したとして、誰に頼もうか。ハリー達にはこんなこと頼めないし、ドラコはきっと聞いてくれないだろう。となると、もう一人しかいない。
コーディが何を言っても、理由を尋ねずに頼みを聞いてくれそうな相手なんて。
「おいおい、俺を放ってスネイプの薬品庫に盗みに行くなんてひどいじゃないか」
さっきコーディが断ったグラタンを食べながら、ジョージが隣に座った。
「_____生ける屍の水薬? そりゃあちょっと、クールには早すぎるぜ。おできを治す薬すら、まだちょっと怪しいってのに」
材料を見ただけで何を作ろうとしているかすぐに分かるなんて、やっぱりジョージは優秀だ。
「生ける屍どころかただの屍になりかねないぞ」
「別に大丈夫だよ。こっちは私一人で作るんだけど……ジョージに作ってほしいものがあって。そんなに難しくないよ、“痩せ薬”って、分かる?」
六年生の実習で作る生ける屍の水薬と違い、痩せ薬は四年生で習うはずだ。優秀なジョージなら簡単に作れる。
「____女の子はいろいろあるってのは分かるけど、別に俺は今のままでも……というか、もう少し太ったほうがいいんじゃないか?」
「違うよ! 別にダイエット目的ってわけじゃないからね」
「じゃあなんでそんなモン作るんだよ。しかもこれ______こんなにたくさん、ハグリッドにでも飲ませるつもりか?」
ジョージにそう言われ、コーディは思わずガリガリになったハグリッドを想像した。あの身長のままガリガリになっちゃったら、それはそれですっごく怖そうだ。
こんな時でも、ジョージといると楽しい気持ちになれる。
「違うよ。ジョージ、そういうのじゃないんだ」
コーディは今までにないくらい真剣な顔でジョージを見つめた。ジョージとまじめな話をするのなんて、初めてなんじゃないか?
「“そんなに簡単に嫌いにならない”って、言ったよね」
コーディはようやく気づいたのだ。____誰も気づいてくれないだって? ジョージはずっと、何も聞かずにそばにいてくれたじゃないか。
ハリーもハーマイオニーも、コーディをずっと思いやってくれていた。ディーンだって、石になる寸前まで、あんな事を言ったコーディを心配してくれた。
ロンはコーディが家に来ると言っても反対しなかった。手帳を取ろうとした時も、軽口を叩きつつ気遣ってくれていたのだ。
_____本当に馬鹿だ。気づかないうちにこんなに大切な物を手に入れていたのに、怪しげな闇の道具に手を出すなんて。
だから、きちんと責任を取って終わらせないと。
「……ああ」
「だから、何も聞かずに作ってほしい。それから_____この後いくつかお願いをするけど、何も聞かずに、頼まれてほしい」
ジョージはしばらく、戸惑ったようにコーディの顔を見つめ続けた。しかし、コーディの真剣なまなざしに耐えられなくなったのか、しぶしぶ首を縦に振った。
_____ハリー・ポッターは細すぎる女の子は好みじゃないと思うけどね。
_____うるさいな。ちょっと魔法薬の実験をしたいだけなのに、どうして皆、いちいち首を突っ込んでくるのかな。
良かった。トムは何も気づいていないみたいだ。
○痩せ薬
勝手に作りました。 飲むと栄養が吸収されなくなる体になる、というイメージ。
○ルシウス襲来
フィンチ-フレッチリー家のお怒り、三頭犬のついての匿名の告発(ドラコ)、コーディへの手紙についての匿名の告発(ドラコ)のせいでやってきた。
○ミニー
これだけ厨房に出入りしているのに屋敷しもべ妖精と話さないのは不自然かなと思って生やしたオリキャラ。再登場するかは不明。