ジョージ視点。暗めです。
____今年のクールは何かおかしかった。いや、元から結構おかしかったけど。
いつも顔色がうっすら悪かった。脈絡なく笑い始めることがたまにあった。ノートを開いて、談話室でそのまま寝ちまってて……勉強なんてするはずないのに。独り言をぶつぶつ言っている時もあった。そしてとうとう医務室行きになった。短期間に二回も。
ただ、少しおかしいだけで何かあるなんて思わなかった。気にしすぎだろうって。
本当におかしいと気付いたのはハロウィーンの夜だった。
ずーっと医務室で眠っていたはずなのに、クールのローブにはペンキと鶏の羽根がついていた。あの“秘密の部屋”の落書きと同じペンキが、べっとり。
いやいや、クールがそんな残酷なことをするはずがない。そもそも、あいつの成績って、ホラ、なんというか、トロールも真っ青ってところがあるし。変身術は得意だけど、ダンブルドアですら解けないほどの魔法を使えるはずがない。
でも、疑われたらアズカバン行きになるかもしれない。だから、ペンキを上塗りして、ずっと一緒にいたと嘘をついた。
「あいつはやってない」と思えなくなったのは、ディーンが襲われた日だった。
ただならぬ様子で走ってきて、俺の名前を言い間違えると来た。どんな鈍いやつ____例えばロニーだって気づくくらい、明らかに様子がおかしかった。ロックハートの部屋に糞爆弾を仕掛けたって、オオイカに餌をやったって、パースのお茶に戯言薬を仕掛けたって、全く笑わなかった。
そしてその夕方、ディーンが襲われたと聞いた。クールはディーンと親しかったはずだ。_____そんなわけがない。そんなわけが……。
誰も襲われていない時だって、クールの様子はおかしかった。クールと話しているはずなのに、まるで別の誰かと話しているみたいな、そんな時があった。
_____やっぱりクールも、
俺は犯罪者を庇ったのか? しかも、叔父さんの仇の娘を。
ママに顔向け出来るのか? ジョージ・ウィーズリー。
でも、俺といる時のクールは____少し変な時もあるし、別人みたいな時もあるけど、継承者なんかには見えなかった。スネイプの薬品庫に一緒に盗みに行って、ついでに強烈な花火を仕込んでやった時なんて、すごくイキイキしてた。____いつもと違って“綺麗なお嬢さん”って雰囲気だったけど、満面の笑みで、「ははっ、こんなに笑ったのは久しぶりだよ。ジョージ・ウィーズリー」って。
それがクールじゃないって事は、だんだん分かってきた。俺が知っているクールは、もっと脳天気な顔で笑う奴だから。でも_____もう一人のクールの方も悪人だとは思えなかった。
それに、継承者だとしても、誰も死んでないじゃないか。もちろん石にするのだってとんでもない悪事だけど、でも、父親と同じなら全員殺すはずだ。ディーンを襲った後、あんなに焦って狼狽えて、辛そうな表情を出来るはずがない。だって、ソーフィン・ロウルは……
きっと何か理由があるんだ。大丈夫、まだ誰も死んでない。いつか話してくれるはずだ。
「ジョージ! 魔法薬学の自習を手伝ってくれないかな?」
あのクールが自習だって? 明らかにおかしい。でも茶化すしか出来なかった。真剣な話をするような関係じゃないし____今の関係が壊れてしまうのが少し怖かった。友達じゃないけど、気楽で愉快でワクワクする、そんな関係が。
出来上がった魔法薬を毎回こっそりあのノート___いや、ちっちゃいし、手帳って感じだな___にかけていて……きっと、あれが何か重要なものに違いない。
「よう、最近お前……何か……やつれてるぞ。俺と見分けがつきやすくなったみたいだ」
「痩せてますますハンサムになっただろ? 嫉妬か? 双子の喧嘩なんてパフスケインも食わないぜ」
それからしばらくして、またあいつは倒れた。ジャスティンが襲われた夜のことだ。
ダンブルドアもハグリッドもいなくなった____本当はハグリッドじゃないって、俺は知っているのに。もうとんでもない事になってしまった。先生にクールのことを話すのは絶対に無理だ。どうして、もっと早く誰かに相談しなかったんだろう。
目覚めてからのクールは、前よりももっとずっとおかしかった。ろくに飯も食わないし、ハリーたちを避けるようになった。
____あいつだ、ルシウス・マルフォイが見ているからだ。そうだ、夏休みにイタズラ花火をたくさん送ったってのに……何の苦情も言われなかった。ハーマイオニーもクールと手紙のやり取りが出来なくなったと言っていた。
ルシウス・マルフォイが何かしているに違いない。
やっぱり、マクゴナガルかフリットウィックにでも相談したほうがいいんじゃないか?
あの二人なら絶対に信じてくれるはずだし、偏見なしで公正に____公正に裁かれてしまったら? アズカバンから出られなくなったら?
「____吾輩の薬品庫から紛失したものや、この悪趣味極まりない花火に心当たりでも?」
「いや、それは断じて俺じゃないです。そういえば、ハリーたちが何かトイレでガサゴソしてましたね」
スネイプは悪い噂ばかりだった。元死喰い人で、ルシウス・マルフォイと懇意で、闇の魔術に飛びぬけて詳しく……ソーフィン・ロウルと親友だったと。
「あの、グリフィンドールの二年生の……ロウルってやつが少し、様子がおかしいみたいで。もし良かったら、話でも聞いてあげてください」
「____なんとも、ジョージ・ウィーズリー。愚かだとは思っていたが、吾輩がスリザリンの寮監だということまで忘れてしまったのかね?」
自分はなんて無力で臆病なんだろう。クールの危機だっていうのに、スネイプにそれとなく仄めかして祈ることしか出来ないなんて。
スネイプに相談した意味があったのかは分からない。
ただ、クールは少しだけ元気を取り戻したように見えた。また厨房で魔法薬を作っているみたいだ。
____どうして生ける屍の水薬に痩せ薬なんか作るんだ。今のクールに痩せ薬なんて飲ませたら、骨と皮だけになっちまう。それに、生ける屍の水薬を作るのは大変だ。こいつ、自分の成績がわかってないのか?
「“そんなに簡単に嫌いにならない”って、言ったよね」
それは嘘じゃない。
叔父さんの仇の娘なのに、スリザリンの継承者なのに、少しも嫌いになんてなれなかった。
俺って本当に馬鹿で最低だ。可愛い後輩まで石になったってのに、クールが誰からも疑われていない事に安心してしまっている。
“誰も死んでいないから良い”、もうそれすら怪しかった。もし誰かが死んだとしても、クールを先生や闇祓いに突き出すことは出来ないだろう。
こうなる前に止めてやるべきだったのに。
「私に酷いことをして欲しくないよね?」
「ああ……そうだけど……」
クールは何かをぎゅっと握っていた。蛇のブレスレットと……くしゃくしゃの便せん?
「今は大丈夫、大丈夫……。私が眠ったら、痩せ薬を飲ませ続けてほしいんだ。マダム・ポンフリーの栄養剤を打ち消すくらいに」
「そんなことしたら聖マンゴ行きになっちまうぞ? 聖マンゴに彼氏でもいるのか? それに、そもそも……」
「____ジョージには縁のない話だから教えてあげるよ。私のパパは
____やっぱりあの手帳だ。あれのせいで、クールはこんな目に。
「なあ、マクゴナガルの所に行こう。いや、フリットウィックにしよう。百点の減点が五十点くらいで済むかもしれないし、お説教も少しばかりマシに……」
「どうせルシウスさんに見つかるよ。もうそんな簡単な話じゃなくなっちゃったんだ。これしか思いつかないんだよ。ジョージ、もう一つお願いがあるんだ。絶対に手帳を探そうとなんてしないで。きっと、もっと酷いことになる」