マグル学のすゝめ   作:バナナ牛乳

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しばらくドラコかその他キャラの視点が続くと思います。


第二十五話 ドラコ・マルフォイと愉快でサイコーなフレンズ

 

「お前はッ、気づいていて、どうして____! すぐにダンブルドアに相談していれば!」

 

 ドラコはジョージ・ウィーズリーの話を聞いた後、怒って掴みかかった。

 人ならまだしも、猫程度ならアズカバン行きになんてならないはずだ。それに、ダンブルドアならどうにか出来ただろう。腐っても“二十世紀で最も偉大な魔法使い”の一人なのだ。

 

「聖マンゴに行けば、すぐに目覚めるって……」ジョージ・ウィーズリーは力無く呟いた。

 

「その愚かさは父親譲りか?」ドラコは胸ぐらを掴む手に更に力を入れた。

 

「こいつが継承者だったなんて信じたくなかったし……それに、“猫一匹石化させた程度なら仕方ないね”なんて簡単に済むと思うか? ソーフィン・ロウルが何をしたか知ってるだろ」

「だが吸魂鬼のキスは執行されていない。猫に呪いをかけたくらい、タチの悪いイタズラで済む」

「何もしてなくても学校に吠えメールやら呪いの道具が届くのにか? それとも、お前の父親が庇ってくれるってか? ハハ、そりゃ愉快なジョークだな。あの、()()()()()()()()なルシウス・マルフォイが?」

 

 つい先程までの弱々しさが嘘のように、ジョージ・ウィーズリーは鋭くドラコを睨みつけた。口調も荒くなっている。

 

「父上を侮辱するな!」

 

 ドラコは怒鳴ったが、それ以上は何も言えなかった。

 

 確かに、ジョージ・ウィーズリーの意見には一理……どころか何理もある。ウィゼンガモットは中立公正とは言い難い。実際、シリウス・ブラックは裁判もなしにアズカバン行きになった。

 死喰い人の娘がスリザリンの継承者を名乗り、行動を起こすのは由々しき事態だ。犠牲が猫一匹であっても。アズカバン行きにはならずとも、ひどい取り調べを受けたり、誰かに殺される可能性だってある____母親や叔母と同じような目に遭うかもしれない。

 

 父がコーディを庇うとは思えない。

 もちろん、コーディを可愛がっていないわけではない。よくお小遣いをあげているが、一桁多くないか? と思うことがよくある。母だって、コーディにしょっちゅう服を買い与えている。

 だが、自身の立場を危うくしてまで庇うことはないだろう。もしコーディではなくドラコなら別だが____ルシウス・マルフォイは家族を何より大切に思っていて、コーディは家族ではない。

 

「お前のせいだ」ドラコは歯ぎしりしながら言った。八つ当たりに過ぎないと、心の奥底では理解している。でも____お前がもっと早くに止めていれば、手帳が本物の犯人だと気づいていれば。

 

「そうだな、馬鹿だったよ。でも、お前はもっと馬鹿だしクソ野郎さ! 俺の妹にとんでもないモン押し付けようとしやがって」

 

 ジョージ・ウィーズリーが怒鳴った。そこで初めて、ドラコは自分がしようとしていた事のむごさを知った。

 ベッドに横たわるコーディはとてもみじめで痛々しい。ジニー・ウィーズリーはコーディと同じくらい……いや、それより小さい。ドラコは思わず、青白い顔でベッドに横たわるジニー・ウィーズリーを想像してしまった。ウィーズリー家が血を裏切る者だからって、たった十一歳の少女に闇の道具を持たせるのはとても残酷なことなんだ。

 

「運良く誰も死なずに済んだ。ああ、きっとクールが頑張ったからだろうな」

 

 _____本物の継承者や怪物に抵抗するのは、どんなに難しくて辛いことだったろうか。

 

「お前は、人が死ぬって事が分かるか?」

「子供じゃないんだぞ、それくらい……」

「大事な人が、二度と戻ってこないんだ。俺のママは叔父さんたちが死んだとき、しばらく喋らなかったらしい。あの口うるさいママが」

 

 _____ずっと昔のことを思い出した。虚ろな目で、何も喋らない、何も食べないコーディ。

 そして今、コーディは、もう二度と目覚めないかもしれない。もう軽口を叩くこともない。おかしな道具を見せびらかされることもない。一緒に箒に乗ることもない。

 

「____僕は、僕は、なんて……」

 

 愚かだったんだ。

 死んでしまえばいいと思っていた。忌々しいポッター、憎たらしいウィーズリー、穢れた血のグレンジャー。今だって三人とも大嫌いだ。だけど、本当に死んでしまえば良いなんて、そんな事……。

 

「血はどれも一緒だよ」コーディが言った風にはとても思えない。純血のほうが優れていることは疑いようもない事実だ。だけど、優劣はあれど、全部同じ命なんだ。

 

「____申し訳……僕が……その____悪かった」

 

 ドラコは生まれて初めて、目下の人間に謝罪した。それは非常に屈辱的で恥ずべきことだったが、謝らないほうがもっと恥ずかしい気がした。

「上出来だ」ジョージ・ウィーズリーがそう言って肩に手を置いてきたので、ドラコはすかさず払いのけた。

 

「お前ってやっぱり嫌な奴だな。父親のほうが最悪すぎて忘れるところだったぜ」

「僕は一秒たりとも忘れたことがないぞ、お前がぺちゃくちゃウィーズルの一匹だって」

 

 ドラコとジョージ・ウィーズリーは再び睨みあったが、そんなことをしている暇は無い。

 

「コーディの目を覚ます方法、手帳の対処、隠ぺい工作。あまり時間をかけてはいられない」

「でも、手帳には絶対触るなってクールが……」

「おい、元はといえば誰の手帳か忘れたのか。僕がすぐに父上に返せば済む話だろう」

「へーえ、そりゃ信頼できるぜ。お前の父上が間違ってジニーのカバンに滑り込ませたりしないってね」

「____交渉材料はある」

 

 そう言った後、ドラコは本当に自分が父と交渉なんて出来るか不安になったが……やるしかない。

 

「そうか、じゃあ早速」そう言って、ジョージ・ウィーズリーがコーディのローブの中に手を突っ込もうとしたので、ドラコは慌てて腕をひっつかんだ。

 

「お前は何をしているんだ!」

「何って、手帳を探すんだよ!」

「女性のローブに手を突っ込む気か!? 僕がやる、お前はどいてろ」

「いや待て、その理屈でいうとお前もダメだ。それともドラ()・マルフォイだとでもいうつもりか?」

「僕が何年コーディと一緒にいたと思ってるんだ! 妹のようなものだ。お前みたいな下衆と一緒にするんじゃない」

「俺が下衆だと? そりゃマーリンの髭だな。俺だってクールのことは弟くらいにしか思ってないさ」

「お前の弟? あんなのとコーディを同列に扱うな! 僕を騙そうだなんて思うなよ。お前がコーディを……」

 

 二人が不毛な言い争いを繰り広げていると、ベッドのカーテンが開いた。マダム・ポンフリーだと思った二人は「こいつが悪いんです!」と同時に言ったが、入ってきたのはマダム・ポンフリーではなかった。

 

「あなたたち、いったい何をしているの?」

 

 ハーマイオニー・グレンジャーが目を丸くして、つかみ合う二人を見つめている。ドラコはジョージ・ウィーズリーのシャツを掴み、ジョージ・ウィーズリーはドラコの髪の毛を引っ張っている。

 

「____コーディは面会謝絶だが」ドラコはジョージ・ウィーズリーのシャツから手を放し、脛を蹴っ飛ばしながら言った。

 

「ええ。もちろん知っているわ。あなたのお父様以外から許可がもらえないとお思い? ザビニのお母さまから許可をもらったのよ。彼女、とっても良い人よ。誰かさんのお父様と違って」

 

 グレンジャーが偉そうな声で言った。もしこいつが純血だったとしても、絶対に好きになれないだろうとドラコは思った。

 

「あの女が良い人だって? ハッ、お前は本当に愚かだな」

「そんなのはどうだっていいだろ。ハーマイオニー、君って女の子だよな?」

「……あなたが失礼なのは知っていたけど、まさかそこまでだとは思わなかったわ」

「違うんだ、協力して欲しいことがあって……クールのローブに、ボロボロの手帳が無いか調べてほしいんだ」

 

 ジョージ・ウィーズリーがそう言うと、グレンジャーはやはり眉をひそめ、「どうして?」と尋ねた。ドラコとジョージ・ウィーズリーは顔を見合わせ、「あー……」とうまい言い訳を探したが、まったく見つからない。グレンジャーはやれやれと溜め息をついた。そして、さっとコーディのローブに手を突っ込む。

 

「これでしょ?」ドラコは慌ててグレンジャーの手から手帳をひったくった。黒くて古びた、何の変哲もない手帳だ。____こんなのが、コーディをすっかりやつれさせてしまったのか? 

 手帳の裏表紙にはデカデカと“ソーフィン・ロウル”と書いてあり、その下に細い字で“T・М・リドル”と書いてある。T・М・リドルのほうは知らないが……ソーフィン・ロウルのほうはコーディが書いたんだろう。闇祓いに押収させるために。彼の所持品だと分かれば、ろくに検査もされず開かずの引き出しに突っ込まれるはずだから。

 

「ちょっと、何するの!」

「これは僕の物だ。コーディの荷物に間違えて紛れ込んでしまったみたいでね」

 

 グレンジャーはしばらく、ドラコと手帳を交互に見つめた。____これはまずい。そう思い、急いで医務室を出ようとしたが、グレンジャーの動きは鮮やかだった。

 

「アクシオ! ロコモーター・モルティス____自慢じゃないけど、私、もう四年生の範囲の予習を終わらせてしまったの」

 

 ドラコは間抜けに転び、手帳はすっぽりとグレンジャーの手に収まった。ジョージ・ウィーズリーはドラコを見て笑いをこらえている。そんな状況ではないというのに。

 

「なんてことするんだ!」

「足縛りのほうは、いつかのネビルの仕返しよ」

「呪いをかけるのは校則違反だぞ。それに、その手帳は僕のだ!」

「この手帳があなたのものだからこそ、絶対に返すわけにはいかないのよ」

 

 グレンジャーは再び偉そうな声で話し始めた。やっぱり、もしグレンジャーがスリザリンの末裔だったとしても絶対に嫌いになっていただろうとドラコは思った。

 

「コーディは二年生になってからずーっとおかしかったけど、そうね、確かにそばにはずっとこの手帳があったわ。勉強熱心になっただけだと思っていたし、継承者騒ぎや、あなたとの()()()()(グレンジャーは特にここを強調した)のせいで詳しく聞けなかったけど」

「お前の話なんかどうだって」

 

 ドラコは一刻も早く手帳を取り返したかったが、足縛りのせいで動けない。

 

「あなたの私物、それで合点がいったわ。きっと恐ろしい闇の道具なんでしょう? コーディの様子がおかしかったのはこれのせいだわ。マクゴナガル先生に渡してこなくちゃ」

 

 ジョージ・ウィーズリーはドラコとグレンジャーの顔を交互に見てしばらく考えた後、ドラコの側につくことに決めたようだった。グレンジャーの手からすっと手帳を抜き去った。____手帳を調べられたらコーディが継承者だと勘付かれると思ったからだろうか。

 ついでに、ドラコの足縛りも解いてくれた。

 

「ちょっと! ジョージ・ウィーズリー!」

「どうだ、シーカー並みの反射神経だろ」

「これはいたずらや冗談の度を超えてるわ!」

「マクゴナガルに預けたって、こいつがすぐ父上に言いつけちまうぞ」

「でも、一旦はマクゴナガル先生か、そうでなきゃ……ロックハート先生に預けるべきよ! フリットウィック先生でも構わないと思うけど」

 

 正義感が強いのか頭が固いのか、グレンジャーは自分の意見を譲る気が無いようだ。どう説得したって、グレンジャーは手帳を渡すべきだと言い続けるだろう。悔しいことに、力づくで止めようとしても負ける未来しか見えない。ドラコは深く息を吸った。

 

「コーディが継承者なんだ」

「お前!」

「嘘よ!」

 

 ドラコがそう言うと、案の定二人とも声を荒げた。ドラコが手帳を渡したくない理由は、コーディが継承者だと勘付かれるのが怖いからだけではない。

 もし渡したのが父だと気づかれてしまえばどうなるのか。警告だけなのか、罰金刑で済むのか、アズカバンなのか、それはドラコには分からない。しかし、もし捕まってしまえば、ドラコもコーディも母も一巻の終わりだ。

 

「残念ながら本当だ。_____僕の父の荷物が運悪く紛れ込んでしまってね」

「信じないわ。コーディは優しい子よ。それに、あんな高度な魔法を扱えるはずがないもの」

「グレンジャー、君は穢(グレンジャーが非常に恐ろしい顔でドラコを睨んだ)……マグル生まれではあるが、そこまで馬鹿だとは思っていなかったよ。何故手帳の話をしているのに“継承者”という言葉が出たと思う? 手帳がコーディを操っていたからだ」

 

 グレンジャーは未だ信じられないといった顔でドラコをにらみ続けている。ジョージ・ウィーズリーは下を向いたまま何も言わない。

 

「君はコーディと友人で同室だろう? だというのに、あの猫の時も、ディーン・トーマスの時も、屋敷しもべ妖精の時も、ハッフルパフ生の時も、一緒にいなかったんじゃないのか」

「でも、ジョージが……」

 

 ドラコはジョージ・ウィーズリーを顎で指し示し、せせら笑った。

 

「こいつが一緒にいただって? 嘘だよ、証拠隠滅までしたんだ。それにグレンジャー、コーディが決闘クラブでスネイプに叱られたのを見なかったのか? あんなに攻撃的なこと、出来るはずがない。きっと、あの時だって」

 

 グレンジャーは苦しそうな表情で「そんなのただの状況証拠に過ぎないわ!」と呻いた。マグル生まれであるグレンジャーにとって、友人が穢……マグル生まれキラーだという事実は信じがたいものだろう。

 

「もう一度言うが、コーディの意思じゃない。こいつが全て操ってるんだ。洗脳能力のある闇の道具は多いから」

 

 グレンジャーはしばらく黙って考え込んだ。

 

「___へえ、そんな恐ろしいものが()()コーディの荷物に紛れ込むなんてね。あなたのお家って、そこら中に闇の道具が転がっているのね。ウィーズリーのおじさまが何度も調査に行くわけだわ」

「うるさいぞ」

「こんなものが偶然紛れ込むなんて、私が信じると思った?」

 

 グレンジャーがまたしても非常に恐ろしい表情で睨みつけてきたので、ドラコは思わず後ずさった。_____父がボージン・アンド・バークスにドラコを連れて行ったと知った時の母より恐ろしい顔があるとは。

 

「偶然ではないが、事故ではある。別にお前が信じなくてもいいが、その手帳を調べられて捕まるのはコーディだぞ」

 

 最後の切り札だ。しかし、グレンジャーはそれでひるむような人間ではない。

 

「マルフォイ、“心身喪失”って言葉をご存じ? その手帳に取りつかれたならきちんと説明すればいいじゃない。魔法省の方々が調べれば、恐ろしい闇の道具だってすぐに分かるわ」

「へーえ。君はウィゼンガモットの法廷で泣き落としが通じるとでも思っているのかい? この“ソーフィン・ロウル”とでかでかと書かれた手帳を掲げて、「私は何も知りません」って?」

「あら、あなたのお父様は昔そうしたと聞いているけれど」

 

 よく口が回るグレンジャーがそう言ってきたので、ドラコは咳払いをした。父への侮辱は許しがたいが、今はウィゼンガモット法廷について話し合うような時間ではない。

 

「僕の父が汚い手を使ったなどと言うつもりは断じてないが、コーディはただの死喰い人の娘に過ぎない。財産はないし、どこぞの施設に寄付をしているなんてことは勿論ない。親戚はいないようなもので、後ろ盾だって無いんだ」

「でも、あなたのお父様が……」

「ハーマイオニー、こいつの父上がそんなにごりっぱな人間だと思うか?」

 

 ____ドラコはもう反論するのを諦めた。こいつらが父を侮辱するたびにいちいち怒っていたら時間が足りない。

 

「じゃあいったい、どうすればいいって言うのよ……」

 

 グレンジャーが泣きそうな声でつぶやいた。グレンジャーのことは大嫌いだ。でも、こいつはコーディのことを本当に心配している。

 

「なあ、俺たち、しばらくの間愉快でサイコーなフレンズにならないか?」

 

 ジョージ・ウィーズリーが二人の頭の上に手を置いた。

 

「クールを救うにはマルフォイ、まずお前がいなきゃ始まらない。お前の父上の力も存分に使わせてもらおうじゃないか」

 

 ここで初めて、ドラコはジョージ・ウィーズリーが上級生だと思い出した。腹が立つことに、なんとなく頼もしく見える。

 

「それにハーマイオニー。学年一の才女様! 知恵とコネがそろえば最強だ」

 

 グレンジャーは涙をぬぐって微笑んだ。

 

「じゃあお前はいらないんじゃないか?」

「何言ってんだ、潤滑油ってやつさ」




ここからはだいぶ明るくなります。
ここすきとか感想のおかげでどうにか苦手なシリアスを駆け抜けられました。

※ホグワーツ生はマクゴナガル先生とフリットウィック先生を非常に信頼しています。
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