長かったドラコ視点も一旦これで終わりです。
「_____君はこれに操られておったのじゃな?」
ドラコは小刻みに震えながら何度も頷いた。枯れ枝の様な腕輪はもうバラバラになっていて、何も知らなければただのゴミにしか見えない。
ドラコの隣にはポッターたち三人組、反対隣には父がいる。
「なんと恐ろしい……」父は額に手を当て、心から嘆くフリをした。もし皆が“ルシウス・マルフォイ”を知らなければ、心から息子を案じる父親にしか見えなかっただろう。
「この状態なので詳しい事は分かりませんが……確かに、人の心を操る能力があるようですな」フリットウィックがダンブルドアにそう告げた。
「本当です。それをポケットに入れている間、少し嫌な気分になったので」ポッターも付け加えた。
「君たちのおかげで息子は救われた。礼を言わなければならない……ホグワーツは幸いだった。君たちのような勇敢な生徒がいて」
父がそう言っているというのに、ポッターもウィーズリーも返事をしない(グレンジャーだけが小さく頭を下げた)。それどころか、ポッターは生意気にも反論した。
「僕よりもダンブルドア校長にお礼を言うべきでは? 校長のおかげで、僕はバジリスクに勝てたんです」
父はダンブルドアの方に向き直った。「まさか戻ってくるとは」と言っても、ダンブルドアは穏やかな笑みを一切絶やさない。
「理事や保護者のうちの何名かに求められてのう……こんな老いぼれじゃが、まだ少しは信頼されているようじゃ」
「“少しは”と……謙遜が過ぎると嫌味になり兼ねない。悲惨な事件を止められなかったにも関わらず校長に復帰出来るとは、さすがの人望ですな」
二人は目を逸らさない。穏やかな口調と笑みを絶やさないにも関わらず、まるで火花が散っているようだ。
ドラコは気まずくなり、少し上にいる不死鳥を眺めた。
「____それにしても、本当に素晴らしい話ですわ」重い空気を断ち切ったのはヴェネナタ・ザビニだった。
「ハーマイオニーはその知恵で皆をサポートした」
ヴェネナタはグレンジャーに上品に微笑んだが、ドラコはその笑みにどこか薄ら寒いものを感じた。
「ハリーくんとロナルドくんは勇敢に戦った。ドラコくんは恐ろしいものに立ち向かい続けた。秘密の部屋が開かれたというのに、誰も死ななかった。それで充分では?」
ヴェネナタはドラコの肩に手を置き、優しく微笑んだ。ドラコが振り払おうとする前に、父がそっと手を退かせた。
「そうじゃの、ミス・ザビニの言う通りじゃ。コンコーディアももうじき目覚めると……のう、セブルス」
ダンブルドアがそう言うと、スネイプは短く「さよう」と返事をした。ポッターは「本当ですか!」と大声を上げ、グレンジャーは涙ぐんだ。そして、ドラコは膝から崩れ落ちそうになった。
秘密の部屋も、継承者も______事件は全て終わったんだ。
「大丈夫ですか?」マクゴナガルが声をかけてきたので、ドラコは慌てて背筋を伸ばした。
「息子もこの通り、疲れているようだ……ダンブルドア、もう話は済みましたかな?」
「無論じゃ。皆大きな敵に勇敢に立ち向かった。ゆっくり休みなさい」
その後、ダンブルドアはポッターたち三人に特別功労賞を与えると言って話を締めくくった。
少し腹が立ったが、それよりも安心の方が大きかった。
ドラコは父に支えられ、何とか校長室を出た。計画は完了し、ダンブルドアをも騙し通した。コーディだって、もうすぐ目覚める。
____ドラコ、お前は本当によくやった。
バジリスクが倒されてから少し経つ。ドラコは父からの手紙を読んでいた。
ドラコが継承者だったと知り、理事たちの反応は真っ二つに割れた。「ルシウス・マルフォイを解任すべきだ!」「黒幕はルシウス・マルフォイに違いない」と言う者も多くいたらしいが、称える者も多くいた。
「ルシウス・マルフォイは真実を隠蔽しなかった」「彼がいる間は誰も犠牲にならなかった」_____コーディが勝手に倒れたことなんて、理事たちからすれば大した事ではなかった。
そして、この事件を受け、父は自ら闇の道具を魔法省に提出した。
「一族に代々伝わる物を差し出すのは誠に遺憾だ。しかし、私、ルシウス・マルフォイは、人に危害を加える呪いや非合理的な差別を肯定しない」
差し出した道具のほとんどが大した力の無い物だが、それは父しか知らないのだ。もう魔法省が抜き打ち検査にやってくる事は無いだろう。あれだけ大量の道具を差し出したのだ。まさか、屋敷の地下室にその二倍以上の物があるなんて思うまい。
父の代わりに報いを受けたのはボージン・アンド・バークスだった。バークは「子どもに闇の道具なんて売るわけが無い」と必死に否定したが、役人たちはそれを信じなかった。もとより悪質で有名だったからだ。
ボージン・アンド・バークスは多額の罰金と一年間の営業停止、又は永久営業停止、若しくはそれなりの罰金と数年間の営業停止の三択を迫られた。罰金はバークには払えないほどの額で、そこで手を差し伸べたのが父だった。
父は罰金を払った上で魔法省に働きかけ、ボージン・アンド・バークスは今まで通り営業出来るようになった。バークはもう父には逆らえないだろう。
____全てお前のおかげだ。何か欲しいものはあるか、何でも構わない。夏休みに“栄光の手”を欲しがっていただろう。
ドラコはボージン・アンド・バークスで見た嗄れた手を思い出したが、もう欲しいとは思わなかった。もうしばらく、闇の道具の事は考えたくなかった。見せかけの腕輪ですら、付けている間はとても気分が悪かったのだ。
____ありがとうございます、父上。ですが、物の代わりに、一つ提案があります。あの屋敷しもべを“ようふく”にしてはいかがでしょう。
ドビーは勿論、まだ目覚めていない。
雇い主を裏切り、コーディやポッターを妨害し、ホグワーツにまでやってきた。
“ようふく”になるのは当然の罰だ。マルフォイ家の重大な秘密をどこかに漏らす可能性があるような屋敷しもべ妖精なんて。
それに、ドビーはとびきりおかしな屋敷しもべ妖精だ。“ようふく”にされたからといって、コーディのそばを去るとは思えない。ドビーにとっても、ドラコにとっても、コーディにとっても、“ようふく”が一番良い選択肢なのだ。
この話を聞いたら、グレンジャーは怒るだろうか、それとも褒めるだろうか。
そんな考えが一瞬でも過ぎった自分に鳥肌が立った。ドラコは純血主義者で、グレンジャーは卑しいマグル生まれだ。「どの血も全部同じ」だって? そんなの有り得ない。有り得てはいけない。
ほとんど全て父の思い通りになった事に不満は無い。寧ろ、やはり父は賢く抜け目無いと尊敬すらする。
一つ気になる事があるとすれば、手帳の行方だった。父が処分したはずが無い。
手帳がもし、またコーディの目の前に現れたら? その時、コーディがマグルの道具に熱を上げているのを知ったら?
父はもう二度と、手帳がコーディの手に渡ることは無いと約束してくれた。だが、コーディのマグル好きはいつかまた、とんでもない命取りになるのではないだろうか。
「ドラコ」廊下に出ると、スネイプが声をかけてきた。“ミスター・マルフォイ”でもなく、“マルフォイ”でもなく、“ドラコ”だ。
「スネイプ先生、何か?」
労いだとか心配の言葉でもかけるつもりかと思ったが、顔を見た瞬間そうでは無いのが分かった。スネイプはこれ以上無いくらい眉間に深く皺を寄せている。
「____ロウルは、我輩の解毒薬を飲んでも弱り続ける一方だった。マダム・ポンフリーの栄養剤も効果が無いほど不自然に痩せこけていた。まるで、何者かが痩せ薬でも飲ませているかのように」
ダンブルドアを騙し通したところで終わりだと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。ドラコは小さく拳を握った。
「____目覚めたくないと強固に願っていたはずにも関わらず、バジリスクが倒された瞬間見る見る回復し始めた。なんという偶然か」
スネイプがそう言ってせせら笑った。ドラコは今にも立ち去りたいのをこらえ「偶然ではないと思います」と答えた。
ドラコは脳天気ではない。どんな質問をされるか、ジョージ・ウィーズリーと二人で考えたのだ。
「あの腕輪をしている時、僕はミス・ロウルに呪いをかけました……もうあまり覚えてはいませんが。だから、ミス・ロウルは目覚めなかったんでしょう」
スネイプの眉間の皺は深いままだ。もしかしたら、刻まれたままもう戻らないのかもしれない。
「しかし、ポッターがグリフィンドールの剣であの腕輪を破壊した。術者が死ねば、呪文は解けます_____何も不思議なことはありませんよね?」
ドラコはすっかり演技が上手くなったと心の中で自画自賛した。だが、スネイプは納得していないようだった。
「ふん、理屈は通っているな」
その言い方があまりにも感じが悪かったので、ドラコは初めて、他の寮生がスネイプを嫌う気持ちがよく分かった。
「____我輩に何か言うことは無いかね?」
スネイプの眉間の皺が少し浅くなった気がした。“もしかしたら”という気持ちが大きくなる前に、ドラコは首を横に振った。
「いいえ。何もありません」
・コーディ視点ではない
・大した事が起きない または回想多め
・文字数が4000字未満
この三つが揃うと1話ではなく0.5話扱いにしてます。