マグル学のすゝめ   作:バナナ牛乳

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ここからは超平和脳内お花畑日常回が続きます。


第三十一話 バレンタイン・サプライズ

 

「パーシーったら、ペネロピーの虜みたいなの!」

 

 ジニーがそう言ってクスクス笑った。とっても純粋で、見ているこちらまで元気が出てくるような笑顔だ。

 

「これ、絶対に内緒よ」ジニーが念を押したので、コーディとハーマイオニーは頷いた。大きな口を開けて笑ったり、真剣な顔をしたり、ジニーの表情はコロコロ変わる。きっと、両親やたくさんの兄たちから愛情をいっぱい注がれてきたのだろう。

 

「勿論ハグリッドもよ!」

 

 ジニーがそう言うと、ハグリッドは何かの皮を包丁で剥きながら「分かっちょる」と返した。今、三人はハグリッドの小屋で女子会中なのだ。

 

 ジニーの胸には“HP”と書かれたバッジが光っている。相変わらずハリー・ポッター・ファンクラブの会員らしいが、以前みたいにコーディに敵意を剥き出しにすることは無くなった。

 ロンから話を聞いた影響と、もう一つ。コーディがライバルではないと気づいたからだろう。しかし、後者の方はコーディにとってはとても厄介だった。

 

「皆恋人がいるのよ! ビルなんて学生時代はモテモテだったし、チャーリーもそこそこだったでしょう? パーシーにすらペネロピーがいて、双子だって人気があるわ……それに、ジョージはコーディと付き合ってるんだもの。兄妹の中で私だけが一人!」

 

 ジニーはそう言って頬を膨らませた。そう、ジニーはコーディがジョージと付き合っていると勘違いしているのだ。何度か否定したのだが、全く信じてくれない。

 それどころか、ホグワーツの大半が勘違いしているようだ。ラベンダーに「年上の方が好み」と言ったのが良くなかったらしい。あの時はハリーとの噂を消そうとしただけなのに。

 

「それは違うぞ、ジニー」

 

 ハグリッドが口を挟んだ。ちょっと抜けている所はあるけれど、さすがはホグワーツの森番。ジニーの勘違いを正してくれるに違いない。

 

「チャーリーはそこそこなんてモンじゃねえ。どの動物もみーんなあいつが好きだった」_____うーん、やっぱりハグリッドはハグリッドだ。

 

 ジニーが「確かにそうよね」と頷くと、今度はハーマイオニーが口を開いた。真面目で優秀なハーマイオニーのことだ。きっと、ジニーの勘違いを正してくれるに違いない。

 

「ロンが入ってないわ」_____持つべきものは真面目な友人だと思ったが、どうやら間違いだったようだ。ロックハートなんかを信奉している時点で、ハーマイオニーを信頼するべきじゃなかった。

 

 ハーマイオニーの言葉に、ジニーはまるで恐ろしい話でも聞いたかのように青ざめた。

 

「ロンに恋人なんて、有り得ないもの! もしロンの方が先に恋人を作ったら……私、ショックで死んじゃうわ」

 

 ジニーが大袈裟な口調でそう言ったので、コーディたちは顔を見合せて笑った。ペネロピーの話よりも、こっちを内緒にするべきだ。ロンは大激怒するだろうし、フレッドは嬉々として揶揄うだろう。

 ジョージも大笑いするだろうけど_____そもそも、気をつける必要は無い。だって、ジョージと二人で話す事なんて無いだろうから。

 

 フレッドはお見舞いに来てくれたけど、ジョージは一度も来なかった。医務室を出てからも、休暇が終わってからも、一度もコーディに話しかけに来なかった。

 忙しいんだろうと思っていたが、もう退院してから一ヶ月も経つのに、顔すら見ていないのだ。こちらから会いに行こうとしても、まるで煙のように逃げてしまう。

 

「たぶん、君が生ける屍の水薬を飲んじまったから……」

「その直前まで一緒にいたのに、止められなかったから合わせる顔がないんだ。あのヘタレ」

 

 フレッドとリーはそう言ったが、コーディは全く納得出来なかった。確かにジョージはフレッドに比べれば考え込みがちだったり、真面目な所もあるけれど、それにしたってこれは酷い。

 ハリーやドラコ、ハーマイオニーやロンよりも一緒にいた時間は短いし、“友達”と言うには微妙な距離感かもしれないけど、それでもジョージは大切な存在だ。

 

「ねえジニー、ジョージの事で相談があるんだけど」

 

 コーディがそう言うと、ジニーは待ってましたとばかりに目をキラキラ輝かせた。ハグリッドまで作業を中断してこちらにやって来ている。

 

「俺はそういう話が大好きなんだ」______なんだかすっごく悪い予感がする。

 

 

「オー、バジリスクキラー、英雄様ー!」コーディたちが廊下を歩くと、すかさずピーブズが駆け寄ってきた。すっかりウンザリしているハーマイオニーと違い、ロンはいつも少し嬉しそうだった。

「それから、寝たきりのバカ娘ー!」ピーブズがそう歌い出したので、ロンが怒って追いかけた。コーディは全く気にしていないのに。

 

 大広間に入ると___ここが大広間? 

 コーディは目を疑った。壁は悪趣味なピンクの花で覆われていて、天井からはハート型の紙吹雪が舞っている。

 

「うわ、ドビーの飾り付けの方が何倍も上品だよ」

「ミュリエルおばさんのキスくらい酷いや」

 

 コーディとロンは顔を合わせてそう言ったが、ハーマイオニーだけはクスクスと笑っている。闇の魔術に対する防衛術の授業は無いのに、髪の毛がきちんと手入れされている。

 致死量のピンクと甘ったるい香りに吐き気を堪えながら職員席の方を見ると、_____もっと吐きそうになってしまった。なんと、ロックハートがとびきりけばけばしいピンク色の服を着て座っている。

 

「これ、何事?」少し遅れてやって来たハリーが顔をしかめて言った。

 

「バレンタインだよ」コーディがそう言うと、ロンも「ああ! そういう事か」と頷いた。

 

 先生たちは皆とびきり酷い顔をしていて、中でもスネイプは本当に酷かった。コーディとネビルが魔法薬(もちろん失敗作だ)をばらまいてしまった時だって、あんな顔はしていなかった。

 ロックハートがくだらない演説をすると____ロックハートの元気な様子を見るのは久しぶりだったけど、こんな事ならずっと塞ぎ込んでいて欲しかった____不細工な小人たちがゾロゾロと現れた。

 

 なんと、小人たちがバレンタイン・カードを配って回ると言うのだ。コーディは「うげー」と呻き声を上げ、ハーマイオニーは顔を真っ赤にした。

 

「君たち、ロックハートにバレンタインカードを送ったなんて言うなよ」

 

 ロンがそう言ったので、コーディはすかさず否定した。ハーマイオニーは慌てて時間割表を探し始めた。

 

 

 バレンタインデーは最悪だった。まずは勿論、ハリーにとって。

 バジリスクを倒した事で更に名を上げたハリーには大量のカードが届き、先生たちは教室から小人を追い出すのに苦心した。三十五枚目のカードが届き、ようやく終わっただろうと教室を出たが、まだ終わりではなかった。

 

 廊下に出るなり、小人が三十六枚目のカードを運んできた。ハリーは必死に抵抗したが、小人も必死に引っ張ったので、鞄からは教科書が引っ張り出され、インク瓶は落ちて割れてしまった。

 ハリーの惨状より更に酷かったのは、カードの歌の方だった。_____あと一年はこの歌の幻聴に悩まされるだろう、とコーディは思った。

 

「……ジニーったら、どうして一言相談してくれなかったのかしら」

「止めてあげたかったよ、本当に」

 

 ちょうどそこにドラコがやって来て、秘密の部屋事件の事もすっかり忘れてハリーをからかい始めた。「これはこれは、ポッター! ……いや、蛙の新漬くん」

 

 しかし、バレンタインデーはドラコにとっても同じく最悪の一日だった。

 

「麗しい継承者様!」

「月光の貴公子様!」

「星の王子さま!」

 

 小人が次々引っ張るので、ドラコは転んでインクまみれになってしまった上、髪の毛はボサボサだった。ロンが「貴公子様も型なしだ」と言ったので、ドラコは怒って言い返した。

 

「どうせお前は、一枚だってもらっていないんだろう?」

 

 今度はロンが顔を真っ赤にする番だった。その髪の毛くらい真っ赤な顔で、「あの時は大泣きしてたくせに!」と言い返した。

「またナメクジを吐きたいのか?」ドラコがそう言って杖を構えた瞬間、騒ぎを聞きつけてパーシーがやってきた。「僕は監督生だぞ!」

 

 そして、騒ぎが大好きでお馴染みのあの二人も。

 

「なんだ、喧嘩か?」

「モテないからって僻むなよな」

 

 バレンタインデーは本当に最悪だった______コーディにとっても。

 小人は次の標的であるジョージを見つけ、猛突進して行った。

 

「うわっ、やめろよ! もう四枚ももらったんだから充分だ!」

「今年は俺の勝ちだな、もう六枚ももらったんだ」

 

 ジョージは抵抗したが、勿論小人は止まらない。「オー! ジョージ・ウィーズリー!」

 

 どうして会いに来てくれないの? 

 寂しくてたまらない

 でも待ち続けるわ

 あなたの事が好きだもの

 あなたはとっても素敵

 火蟹みたいな雄々しさ

 グラタンみたいなまろやかさ

 毎日食べちゃいたいくらい

 

 小人が酷いキーキー声で歌った後、カードは大爆発し、コンコーディア・ロウルという文字が浮かんだ_____ハリーとロン、ドラコ、それからハーマイオニーも呆気にとられてこちらを見ている。

 周りはヒューヒューと囃し立てるが、コーディは戸惑っていたし、一刻も早くここから逃げ出したかった。ドビーがやってきて、姿くらましさせてくれないだろうか? 

 

 辺りを見回すと、ジニーがウインクしている。_____ちょっとしたイタズラカードを送るだけのつもりだったのに、いつの間にあんな事に! 

 

「ロン……君の妹って本当、マーリンの髭だね」

 

 コーディがそう言うとロンは笑った。「そりゃもう、歌のセンスとかね」

 周りの皆は何か勘違いしたのか、ジョージに「頑張れよ」なんて言って立ち去って行った。パーシーも小人に追い回されて逃げて行く。

 

 ハリーは驚いた顔でコーディを見つめたままだし、ジョージは小人に転がされたままだ。ドラコの方は何故か、ジョージに「聞いてないぞ!」と詰め寄っている。

 

「えっと……生ける屍の水薬の事で……」コーディが取り敢えず、一番近くにいたハリーに言い訳すると、ハーマイオニーが後を引き継いだ。

 

「ジョージが一方的に気にして、コーディを避けたから、ジニーに相談したの。前みたいに友達に戻りたいのにって! ___あなたたち、きちんと話すべきよ」

 

 ハーマイオニーは大声でそう言うや否や、ロンとドラコを睨みつけ、ハリーの背中を叩き、三人を大広間に連れて行った。

 廊下にはコーディとジョージ、それから小人の大暴れによる残骸だけが取り残された。

 

「ええっと……」コーディはなんて言えば良いか分からなくて、俯いたままローブの裾をいじった。

 

 ジョージは誤解なんてしないだろうけど、周りの皆は完全に二人が()()()だと思ってしまっただろう。ハリーだって。それに何より、ジョージと話すのはあまりに久しぶりだった。

 

「元気?」コーディがそう尋ねると、ジョージは顔を手で覆ったまま、「ああ」と答えた。ジョージのこんなおかしな様子を見るのは初めてだ。

 

「ねえ、ジョージ」

 

 コーディはしゃがんで、ジョージの顔から無理やり手をひっぺがした。ジョージの顔を見るのは久しぶりだけど、フレッドの顔をずっと見ていたから、そんなに久しぶりな気がしない。

 でも、フレッドなら、おかしなカードを貰ったって顔を覆ったりしなかったろう。それどころか笑い転げていたに違いない。

 

「あの歌の事は置いておいてさ____というか、一刻も早く忘れて欲しいけど」

 

 コーディはどうやってジニーを懲らしめてやろうか考えながらそう言った。

 

「それでも、少しは本当だよ。すごく寂しかった」

 

 コーディはジョージの顔をじっと見つめた。ジョージがいないと、周りは少し静かで、少しつまらなかった。

 そこでようやく、ジョージはコーディの目を見つめ返した。

 

「クール、俺の顔を見ても何も思い出さないのか?」

 

 ジョージの言葉に、コーディは迷いながらも頷いた。眠ってしまう前、たくさんジョージと遊んだのだろう。でも、もうほとんど覚えてはいなかった。

 もしハリーたちがコーディとの思い出を忘れてしまったら、きっとすごく悲しい。「ごめん」と謝ろうとしたが、先に言葉を発したのはジョージだった。

 

「そりゃ良かった」

 

 ジョージは微笑んだ。悲しんだり、呆れたりするかと思っていたのに、少し寂しげに笑っていた。

 

「_____それじゃ、俺がやったイタズラも全部忘れちまったってわけだ」

 

 ジョージは立ち上がり、ローブの汚れを払い、髪の毛を整えた。もうすっかりいつものジョージだ。笑顔は明るくて、寂しげな様子なんてない。

 

「ちょっと待て、ジョージ・ウィーズリー!」

 

 ジョージが走り出したので、コーディは急いで追いかけた。廊下にはジョージの笑い声とコーディの怒鳴り声が響く。話し合いなんて少しも必要なかったみたいだ。

 

 一つだけ訂正がある。

 バレンタインデーは最悪の一日というわけではなかった。少なくとも、コーディにとっては。

 

 大広間に帰ったらシェーマス、フレッド、リー、それからラベンダーにパーバティ……とにかくたくさんの人にからかわれた。

 その日の晩は質問責めにされて、ほとんど眠れなかった。それでも、最悪の一日なんかじゃなかった。

 

 

「そういえば、ハーマイオニー。あのカード、誰からだったの?」

 

 実は、ハーマイオニーにもカードが届いていたのだ。とても上等で品の良いカードにはなんと、花まで添えられていた。メッセージは「とても賢く、勇敢な女性へ_____貴方を慕う者より」とシンプルな物だった。

 

「まさか、ハーマイオニーにそんな相手がいたなんて! どうして教えてくれなかったの」ラベンダーがニヤニヤして小突いた。

 

「違うわよ。私の周りにあんな紳士的な人がいない事くらい、分かるでしょう?」ハーマイオニーが小さくため息をついた。

 

 ロンはハーマイオニーのカードを見て「どうせロックハートからの自動返信だろう?」と言ってしまったのだ。ロンは勿論良い子だけど、ジニーからあんな風に評されるのも納得である。

 

「ハーマイオニーだって特別功労賞を貰ったんだから、隠れファンがいても不思議じゃないわよ」男子に人気があるパーバティが、なんでもない事のように言ったので、ラベンダーも納得した。

 

 でも、あのカードはハリーが貰ったたくさんのものとは全く違う。事件でハーマイオニーを認識したようなミーハーなら、もっとポップで、安っぽいメッセージが書かれたカードを送るはずだ。

 

 ハーマイオニーの杖の芯と同じ、葡萄の色のカード。魔法でキラキラ輝くシオンの花。きっと、ハーマイオニーの事が本当に好きなんだ。

 とてもロマンチックでときめく話なのに______どうして少し、胸がザワザワするんだろう。




〇コーディのバレンタイン・カード
作詞 : ジニー&ルビウス
作曲 : ジニー&リー
編曲 : フレッド

爆発する仕掛けだけはコーディが自作したものの、文章は得意ではないのでジニーに任せたらこんな事に。
その爆発する仕掛けもフレッドとシェーマスが手を加えたので小爆発→大爆発にグレードアップ。
シェーマスの爆発キャラは映画オリジナルですが、結構好きなんですよね。
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