マグル学のすゝめ   作:バナナ牛乳

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第三十二話 S.P.E.W.

 

 復活祭(イースター)休暇は昨年以上に大忙しで、コーディ、ハリー、ロンは本当に滅亡してしまいそうだった。ここ最近の良い知らせといえば、マンドレイクのほとんどが乱痴気パーティーに入ったくらいだろうか。

 

「ディーンが早く戻ってきてくれないかな。キャプテン・アメリカの話なんだけど、“超人()()”を打たれた後を早く聞きたいよ」

「僕はジャスティンが待ち遠しいよ。あいつ、ハリーがバジリスクを倒したって知ったらどんな顔するかな」

 

 現実逃避するコーディとロンをハーマイオニーがピシャリと叱りつけた。

 

「あなたたち、きちんと考えなくっちゃ。将来に全面的に影響するかもしれないのよ」

 

 ここ最近のハーマイオニーはとても多忙だ。

 まず、昨年と同じく試験勉強。これに関しては言うまでもないだろう。

 次に、選択科目。何の科目を取るか、誰かに手紙を送って相談していた。____ハーマイオニーの両親も親戚も全員マグルだっていうのに。 

 

 ハリーが「僕、魔法薬学をやめたい」と言ったので、コーディも力強く頷いた。

 

「そりゃムリ。あーあ、僕は闇の魔術に対する防衛術を捨てたいよ」

「何言ってるの、ロン。そんな授業ないよ、あれは絵しりとりの時間」

「コーディはすごく成長したよね。君が描くスネイプの絵って本当に気味が悪いもの」

 

 三人が笑うと、ハーマイオニーが衝撃を受けたような声を出した。

 

「なんてこと! とっても重要な科目なのに」

「僕ら、俳優にも画家にもなるつもりないぜ」

 

 ハーマイオニーはまたしてもプリプリと怒った。ここ最近のハーマイオニーったら、まるで産卵期の_____危ない。これでロンは酷く叱られたんだった。

 

「わーん、叔父さんは絶対数占いを取れって言うのに、大叔母さんの方は古代ルーン文字を取れって言うんだ。僕、何にも分からないよ! ハーマイオニー、どれが一番宿題が少ないかなあ」

 

 ネビルが助けを求めたので、ハーマイオニーは更にカンカンになった。

 

 結局、ハリーとロンは一番楽しそうな魔法生物飼育学と、楽そうな占い学を取った。コーディはもちろん、一つはマグル学だ。

 

「君ならそう言うと思ったけど、マグル学って本当に取る必要あるの?」ハリーが心底不思議そうな顔でそう言った。

 

「当ったり前だよ! マグル関係の仕事に就くには絶対必要だもの。たとえば、マグル製品不正使用取締局とかね」

「マーリンの髭! あんな所に入りたがる変人がパパ以外にもいたなんて」

「でもさ、マグルの話なら僕らに聞けばいいじゃないか。ディーンだっているし」

 

 ハリーがそう言うと、ハーマイオニーが信じられないといった顔をした。さっきまで本を読んでいたのに、勉強の話になると素早いのだ。

 

「単に話を聞くのと、学問として学ぶのは全く違います! 私もマグル学をとるのよ、コーディ。魔法使いから見るマグル社会について興味があるの……例えばね」

 

「僕ら休暇中なんだぜ!」とロンは怒鳴ったが、ハーマイオニーは聞く耳を持たない。勉強()熱心なコーディたちを導くのがハーマイオニー先生の役目なのだ。

 

「よう、進路のお悩みか? ここに頼りになる先輩達がいるぜ」

 

 ロンがハーマイオニーに“宿題の少ない科目の素晴らしさ”について説いていると、先輩たち_____と言っても、ハーマイオニーが理想とするようなタイプではない方がやって来た。

 

「確かに、パーシーよりはマシだね」

「まあ、どうせクールはマグル学だろ?」

「そっちの二人は魔法生物飼育学に占い学って所か」

 

 三人が「どうして分かったの?」と目を丸くして尋ねると、フレッドとジョージは「そりゃ、不真面目な奴らが選ぶ科目トップスリーだからさ!」と大笑いした。もちろん、ハーマイオニーは不機嫌になった。

 この言葉を聞き、ネビルはすぐに魔法生物飼育学と占い学にチェックマークをつけた。

 

「ねえ、魔法生物飼育学と占い学のどっちが楽だと思う?」

 

 コーディが二人に尋ねたので、ハーマイオニーはもう爆発寸前だった。ハリーとロンは笑いを堪えている。

 

「そりゃ占い学さ。悲しい話をすりゃ満点!」

 

 コーディは占い学にチェックをつけようとしたが、ハーマイオニーが羽根ペンを取り上げた。

 

「コーディ、勉強は“楽か否か”で考えるものじゃないわ!」

「でも、難しい科目を取って留年したら本末転倒だよ!」

 

 これにはハーマイオニーも言い返せなかったので、ロンは手を叩いて笑った。「君、勉強をしない言い訳を考える時はほんっと冴えてるよ!」

 しかし、ジョージの方もハーマイオニーと同意見みたいだった。

 

「“楽”と“楽しい”は全然違う。色んな魔法生物と遊べるのって、結構楽しいんだぜ」

 

 ジョージが珍しく真面目な事を言ったので_____と言っても、フレッドに比べればいつも少しは真面目だったが____コーディたちは驚いてしまった。

 

「おお、我が弟よ。将来の夢は教師かな? きっとロックハート並に素晴らしい教師になれるだろうよ」

「おお、我が兄よ! そりゃ間違いだな、俺はフリットウィックの方だ_____将来は決闘チャンピオンさ!」

 

 双子はコーディたちを残して、追いかけっこをしに消えてしままった。

 コーディは暫く考えた後、魔法生物飼育学を受けることにした。占い学には全く興味が無いし、コーディには占いの才能なんて一ミリも無いだろう。もし占いの才能があれば、ドラコと喧嘩するはずない。

 

「ハーマイオニーは何を取るの?」思い出したようにロンが問いかけた。きっと古代ルーンとか、数占いみたいな難しい科目を取るに違いない。ハーマイオニーは優秀だから、二科目よりもたくさん取るかもしれない_____一緒にいられる時間が減ると思うと、少し寂しかった。

 

「もちろん、全部よ」

 

 ハーマイオニーが胸を張って答えたので、コーディたちは耳を疑った。____全部だって? 

 

「ハーマイオニー、君の時間管理能力を少しでも分けて欲しいよ」

 

 クィディッチの練習と宿題に追われているハリーが弱々しく言った。ここの所ハリーは毎日練習させられている。ウッドはクィディッチのこと以外は忘れてしまったらしい。

 

「どれか一つを選ぶなんて無理よ。全部興味深くて、早く三年生になりたいわ!」

 

 ハーマイオニーがうっとりとそう言ったので、コーディたちはため息をついた。その顔は、ロックハートを見つめている時と同じくらいに乙女の表情だった。

 

 

「申し分ない最っ高のクィディッチ日和だ!」

 

 朝食の席で、チームメイトの皿にスクランブルエッグを山のように盛りながら、ウッドが興奮した声で言った。今日はハッフルパフとの対戦で、ハリーは最近絶好調なのだ。

 ハリー・ポッター・ファンクラブはハリーの応援歌の打ち合わせをしていて、グリフィンドールのテーブルでは皆盛り上がっている____たった一人を除いて。

 

「信じられないわ! あのスクランブル・エッグ全てが奴隷労働の結晶なのよ」ハーマイオニーがロンに話しかけた。

 

 ハーマイオニーが多忙な理由、その三。S.P.E.W.(しもべ妖精福祉振興協会)である。

 ある日突然屋敷しもべ妖精に関心を持ち始め、ホグワーツに彼らが沢山いると知ったハーマイオニーは恐ろしい奴隷労働の実態に衝撃を受けた。それに加え、ハリーからドビー____主に、ドビーが昔マルフォイ家で受けた仕打ちについて聞き、彼らを解き放つ運動を始めようと決意したのだ。

 

 特に、家に屋敷しもべ妖精がいるコーディは良い標的だった。なんとか交わし続けているものの、もうそろそろ限界だ。

 誰にでも屋敷しもべ妖精解放についての論争を吹っかけるハーマイオニーに、皆少しだけウンザリしている。

 

「あー……ハーマイオニー、これ……どうにかならないかな」シェーマスが恐る恐るハーマイオニーに話しかけた。

 

 隣にいるコリンが持っている横断幕には「ポッターを世界省大臣に」と書かれているが、その下の方に「英雄ハリー・ポッターはこの活動を支持しています。S.P.E.W」とある。

 

「ハリーは反吐フェチなのか?」とコーマック・マクラーゲンが言ったので、ハーマイオニーは今月何度目になるか分からない言葉を口にした。「反吐(spew)じゃないわ! エス・ピー・イー・ダブリューよ!」

 

 

 観客席は物凄い熱狂だ。グリフィンドールとハッフルパフの観客席はもちろん、グリフィンドールに優勝して欲しくないスリザリン生も大声を上げている。ちなみに、レイブンクローはハリーのファンとセドリック・ディゴリーのファンが言い争っている。

 

「フレッド、行け! ディゴリーなんてさっさとやっちまえ! ちょっとハンサムなだけのトロールだ!」

 

 ロンがグリフィンドールの旗を振り回しながら言ったので、ハーマイオニーが注意した。

 

「ちょっと、それは失礼だわ! ミスター・ディゴリーは公平で、とっても優秀な生徒だって……」

「行け! フレッド! 叩き潰せ!」

「ロン!」

 

 ハリーは皆より一際高いところにいる。きっと、スニッチを探しているに違いない。

 ハリーはあんまり目が良い方ではないのに、どうやってスニッチを見つけているんだろう。ハリーの練習を何度も見たけど、コーディは不思議でたまらなかった。もしかしたら、見なくても分かるのかもしれない。そういうのを“超能力”と言うのだと、ディーンが教えてくれた。

 

「あっ、ハリーがスニッチを見つけたみたい!」ネビルが言った。ハリーは瞬く間に急降下する。まるで、流れ星みたいだ。

 

 箒に乗るのはあんまり得意じゃないし、好きでもない。でも、ハリーが乗っている姿を見ると、箒はこの世界で一番素敵な乗り物に思える。

 

「ねえ」応援歌を歌うのをやめ、ジニーがコーディのローブの裾を引っ張った。

 

「コーディってもしかして……ハリーが好きなの?」

 

 まるで時が止まったみたいだった。

 

 もちろん、ハリーの事は好きだ。ドラコもハーマイオニーの事も好きだし、ロンの事も好きだ。

 だけど_____ハリーへの“好き”がドラコたちと同じ好きかと言われれば、少し違う気がした。

 

 クィレル先生の事件の後に抱きしめてくれた時、コーディは初めて人の温かさを知ったような気がした。「一人にしない」と言ってくれた時初めて、本当に一人じゃないと思えた。

 

 ハリーがバレンタイン・カードを貰う度、ほんの少しだけ嫌な気持ちになった。チョウ・チャンの事だって嫌いだ。ハリーはどうして、あんな子に顔を赤くするんだろう_____ああいう綺麗な子が好きなのかな。

 

「まだ分からないかな」

 

 箒に乗り、風に吹かれるハリーを見て微笑みながら、コーディは言った。ハリーは英雄で、良い子で、優しくて、カッコよくて____女の子は皆素敵だと思うに違いない。でも、それが全部恋ってわけじゃない。

 それに、死喰い人の娘が英雄に恋だって? そんなの、S.P.E.W.が出るほどおかしいしグロテスクだ。

 

「まあ、もし貴方がハリーのことを好きでも、正々堂々勝負するだけよ。私、結構粘り強いの」

 

 ジニーはいつもの勝気な笑みでそう言った。

 ハリーはディゴリーを追い抜いてスニッチを獲得した。グリフィンドールとレイブンクローの半分から、物凄く大きな歓声が上がる。

 

「ウッドのやつ、喜びすぎて気絶しちまうんじゃないかな」

 

 

 クィディッチ優勝杯に続き、さらに嬉しい知らせがやって来た。

 マンドレイクが完全に成熟し、バジリスクに襲われた者たちの石化が解けたのだ。

 天井を流れ星が飛び交い、大広間はバレンタインの時よりよっぽど華やかに美しく飾り付けられ、盛大にパーティーが開かれた。

 

 コーディも一刻も早くディーンに会いたかったけど、それよりも先に会わなければいけない相手がいた。たった一人の時からずっと味方でいてくれた友。

 

「ドビー!」

 

 猛ダッシュで医務室に入り、ベッドにいるドビーに抱きついた(マダム・ポンフリーが「ここは医務室ですよ!」と叫んだ)。ぎゅっと抱きしめると、細くて小さいけど石みたいに固くはなくて、ほんのり暖かくて、もうすっかり元通りだ。

 _____のはずなのに、なんだかいつもと違う。ほんの数秒見つめた後、コーディは違和感の正体に気づいた。

 

「“ようふく”になっちゃったの?」

 

 ドビーが身につけているのはいつもの汚れた枕カバーではない。ピカピカではないけれど、前よりはずっと綺麗で上等な白いシャツを身にまとっている。

 

「はい! ドラコお坊ちゃまが、ご主人様____元ご主人様の代理でドビーめを“ようふく”になさったのです!」

 

 ドビーは大きな目をキラキラと輝かせ、心底嬉しそうに言った。今までマルフォイ家で受けてきた仕打ちを考えれば無理もない。きっと、喜んであげるべきなんだろう。

 

「おめでとう、ドビー」

 

 いつも通りの笑顔で言ったつもりだった。笑顔を作るのは得意だし、明るい声も得意だ。

 しかし、ずーっとコーディを見てきたドビーは異変に気づいたようだった。

 

「お嬢様、何か辛いことがあったのでございますか?」ドビーが不思議そうに首を傾げた。

 

 コーディは少し迷った後、正直に答えることにした。

 

「もうドビーと一緒にいられないんだと思うと、すっごく寂しいんだ」

 

 ドビーは元々、コーディの屋敷しもべ妖精ではない。ルシウスさんがコーディに貸し出してくれていたのだ。

 だからドビーは屋敷を出ていき、別の屋敷しもべ妖精がやって来るのだろう。新しい子もきっと優しいだろうけど、ドビーほどおかしくて面白い子なんていない。

 

 それを聞いたドビーは慌ててキーキー声で言った。

 

「ドビーはこれからもお嬢様と一緒です! ドビーは、マルフォイ家ではなく、コンコーディア・ロウル様に仕えたいのでございます!」

 

 コーディはドビーくらい目を大きく見開いた。

 屋敷しもべ妖精に布をあげたことは無いから、何をあげれば良いのか分からない。やっぱり枕カバーが王道なのかな? ____コーディは白いシャツを着たドビーをまじまじと見つめた。

 薄汚れた枕カバーなんかより、白いシャツを着ているドビーの方がよっぽどイケてる。

 

 それに、“屋敷しもべ妖精の解放”に関しては、もうウンザリするくらい聞かされたのだ。

 

「ドビーに枕カバーやカーテンは似合わないよ。オシャレさんだもん」

「はい! ドビーは枕カバーやカーテンよりも、シャツの方が好きでございます」

 

 ドビーがとびきりの笑顔でそう答えた。

 

「だから、もし良ければ……屋敷しもべ妖精としてではなく、“ドビー”として私と契約してくれないかな?」




○S.P.E.W.
記憶は消されたものの、屋敷しもべ妖精に対する強い情熱だけは残っていたハーマイオニー。

勢いだけで書き始めたので、最初の方をこっそり修正してます(後の展開との辻褄合わせ的な意味で)。というか毎回きちんと見直さずに載せちゃうので後から修正する羽目になってます。
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