マグル学のすゝめ   作:バナナ牛乳

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あまりに平和、短いです。
第二章最終話。


第三十三話 犠牲と実り

 

 素晴らしいパーティーはそう長くは続かなかった。あっという間に期末試験の日がやってきて、コーディは昨年と同じくらい苦しめられる羽目になった。ハーマイオニーがS.P.E.W.の事を少しだけ忘れたのは幸いだったが。

 

「魔法薬学はどうだった?」試験を終えると、ディーンがニヤニヤしながら尋ねてきた。

 

 コーディが作った縮み薬()()()()()()は何故かピョンピョン飛び跳ね、ネビルの大鍋に入り盛大に散った。あの時のスネイプの顔といったら、ロンが「僕の家にも屋敷しもべ妖精がいればいいのにな」とぼやいた時のハーマイオニーより酷かった。

 

「マーリンの髭って感じだよ。もちろん、悪い意味でね」コーディは百味ビーンズのせっけん味を食べながら、顔を顰めて答えた。

 

「僕、何故かすっごく上手く出来たんだ。何度も作ったみたいに勝手に手が動いて……僕って、魔法薬学の才能があるのかも!」マシュマロ味を引き当てたロンが胸を張って言った。

 

「特別功労賞よりも、試験免除を頼むべきだったよ」

 

 草味のビーンズを持ち、ハリーが大きなため息をついた。ディーンたちは授業をほとんど受けられなかったので、学年末試験を免除されたのだ。

 

「でも、大量の補習課題付きだぜ? スネイプとマクゴナガルが羊皮紙何巻分のレポートを出したと思う? ____クソ、黒コショウ味だ!」

 

 ちなみに、コーディもマクゴナガル先生に「私もしばらく寝たきりでした!」と抗議したのだが、「あなたはクリスマス休暇の間だけだったでしょう! いい加減になさい!」と一蹴されてしまった。

 それを知ったハーマイオニーはもちろんものすごく怒った。ついでに、S.P.E.W.バッジを“反吐を吐き出すバッジ”に改造してしまったフレッドもコーディの隣に正座させられた。

 今ボガートに遭遇したら、激怒したハーマイオニーの姿になるに違いない。

 

 

「申し訳ありませんでした!!!!」

 

 学年末パーティーの日、ジャスティンがグリフィンドールのテーブルにやって来て謝罪した。「もう大丈夫だよ」と言っても何度も謝るので、ハリーは最早迷惑していた。

 

「アーニーにも来るよう言ったんですが……彼、ちょっと拗ねてるんだ。気にしないでください」

 

 ハッフルパフのテーブルを見ると、アーニーはコーディから目を逸らした。コーディを真犯人だと疑っているのか、単に嫌いなだけなのか____疑ってもいるし嫌いでもあるんだろう。

 

「ナメクジの呪いをかけてやろうか? 僕、きっと杖なし呪文の才能があると思う。あの杖で試験を全部やり遂げたんだから」

「君のナメクジを片付けるのはごめんだよ」

「同じく。気持ちだけ受け取っておくよ」

「それに、変身術の時に大惨事を起こしたでしょう」

「それから、マルフォイの杖を借りた時も」

「もう分かったよ!」

 

 大広間は今のロンの顔くらい真っ赤っかに飾り付けられている。

 ハリーたちにそれぞれ二百点ずつ_____グリフィンドールには計六百点も加点され、クィディッチの優勝杯もあったので、グリフィンドールはぶっちぎりの優勝だった。

 

「あーあ、来年からは英雄のハリー・ポッター、才女のハーマイオニー・グレンジャー、特別功労賞をもらったロナルド・ウィーズリー、“父親が大犯罪者で、生ける屍の水薬をイッキ飲みした大馬鹿者の”コンコーディア・ロウルになっちゃうよ」

 

 だが、来年は呪いを掛けられる頻度が少し下がるかもしれない。ハリー・ポッター・ファンクラブを仕切るジニーは、他の会員たちに「コーディは悪い子じゃない!」と言ってくれている。

 

 ダンブルドアは更に嬉しいお知らせをしてくれた。なんと、ロックハートは“新しい冒険”のためホグワーツを去ると言うのだ。多くの生徒(とりわけレイブンクロー生)は大喜びしたが、一部の生徒____例えば、ハーマイオニーやラベンダーなんかはがっくりと肩を落とした。

 

「残念だわ。S.P.E.W.の終身名誉顧問になってもらいたかったのに」

「そりゃいいや。あいつも反吐みたいなもんだしね」

「ロナルド・ウィーズリー!」

 

 命の危機に巻き込まれたり、大事なことを何も覚えていなかったり、何だかよく分からない一年だったけれど……。

 

「試練に満ちた一年じゃった。大きな犠牲を払った者、また、深く傷ついた者もおるじゃろう_____しかし、皆にとって実り多き一年だったと信じておる」

 

 ____犠牲はもちろん、実りだって無くてもいいから、来年こそはとにかく平和に過ごしたいな。

 

 

「ミス・ロウル」城を出る前、スネイプがコーディに声をかけた。ハリーたちはスネイプを睨みつけ、ハーマイオニーはコーディをギロリと見た。

 

 コーディはスネイプに連れられ、モゾモゾしながら椅子に座った。目の前にはスネイプが淹れてくれたお茶があるが_____スネイプがお茶だって? そもそも、罰則以外の用で生徒を部屋に呼ぶなんて。自分は今日死ぬのかもしれない。

 

「スネイプ先生も、お茶とか淹れるんですね」コーディがそう言うと、スネイプは片眉を吊り上げた。

 

「____ところで、期末試験の成績についてだが。励んでいるという話は、どうやら我輩の聞き間違いだったようだ」

「いや、皆が言うには、本当に勉強してたみたいなんですけど……ただ、何故か全く覚えてなくて」

 

 ネビルやハンナ・アボットはコーディとジョージを何度も厨房で見かけたと言っていたし、ジョージ自身が「一緒に魔法薬学の勉強をした」と言っていた。

  ()()()()()()()()()()()()()()()記憶を失ったのに、ジョージといた時のことも全然覚えていない。 

 

 スネイプが黙り込んだので、気まずさに耐えられなくなったコーディは付け加えた。

 

「あっ、でも薬草学は前より良かったんです。クリスマス休暇前にネビルが教えてくれた所が出て」 

 

「……ふん、頭脳の方は本当にあの女譲りらしい」スネイプがとびきり意地悪な声色で言った。

 

「あの女って、マ……母の事ですか?」

「さよう。それ以外に誰がいる?」

「だってまさか、人の母親を“あの女”呼ばわりするなんて思わないじゃないですか」

 

 スネイプは再び黙り込んだ。そして、コーディがお茶を飲んでいる様子を凝視した後____飲み過ぎていただろうか? ____特急が来るので早く出て行くように言った。

 

 

 ドラコは信奉者たちに囲まれていたので、コーディは昨年と同じようにハリーたちと同じコンパートメントに乗った。

 

「ジニー、さっさとS.P.E.W.しちまえよ」

 

 フレッドとジョージがジニーを挟んで座っている。ジニーは唇を真一文字に結び、首を横に振った。ハーマイオニーが「ちょっと、反吐じゃないわ!」とすっかりお決まりになったセリフを言った。

 パーシーがバレンタインにカードを貰ったのを見て以来、双子は送り主を突き止めようと躍起になっているのだ。

 

「絶対からかうもの」

「俺たち、生まれてから一度だって、人をからかった事なんて無いぜ?」

「俺たちがふざけてるのを誰か見た事があるか? なあ、蛙の新漬けくん」

 

 ジョージがそう言ったので、ジニーとハリーは同時に顔を真っ赤にした。

 ちなみに、ハリーはあのカードの送り主がジニーだという事は知らないふりをしている。

 

「____もう! そんな風にふざけるなら、絶対教えてあげないわ」

 

 特急がキングス・クロス駅に停車するまで、コーディたちはコンパートメントで思う存分大騒ぎした(途中、パーシーが叱りに来た)。

 

 コンパートメントを出る時、ハリーが電話番号を教えてくれたが、生憎コーディの家には電話が無い。それに、公衆電話の使い方は知っているけど、使ったことは一度もない。

 

「あと二ヶ月もダドリーしか話す相手がいないなんて、僕、耐えられないよ」

「おじさんもおばさんも、あなたを誇りに思うはずよ。あなたがした事を知ったらね」

「正気で言ってる? きっと、死ねば良かったって言うに違いないよ」

 

 心底ウンザリした表情のハリーを見たら、マルフォイ夫妻の事が思い浮かんだ。

 ____ルシウスさんやナルシッサさんも、私があのまま目覚めない方が嬉しかったのかもしれない。だって、ルシウスさんが……。

 

 そこまで考えて、コーディはかぶりを振った。ルシウスさんがなんだって言うんだ? 確かに家族では無いけれど、とても良くしてくれているんだから、それで充分だ。

 

 ハリーたちを見送った後、ディーンが駆け寄ってきた。

 

「もう大丈夫なのか?」気遣わしげな表情でコーディを見つめている。ディーンの方がよっぽど大変だったろうに。

 

「ただ寝てただけだからね」コーディは笑って答えたが、ディーンはまだ心配そうにしている。

 

「そうじゃなくて……その、前さ」

「ああ! 私、風邪ばっかり引いてたんだっけ。今はピンピンしてるよ。そうだ、ディーンの家にも電話ってある?」

 

 ディーンはやっと笑顔になって、電話番号を書いたメモを渡して走って行った。ディーンによく似た顔の女性が笑顔で手を広げている。

 

 コーディも今度こそ、家に帰るために歩き始めた。もう、ほとんど誰も九と四分の三番線にはいない。もちろんドラコだって。

 キングス・クロス駅から家までの道のりはいつも一人だ。帰る前にフローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーにでも寄ろうか。マグルのお店にも行きたいけれど、あっという間に一時間半が過ぎてしまうだろう。

 

「お嬢様!」

 

 甲高いキーキー声がした方を向くと、缶バッジが沢山ついたシャツを着て(今度S.P.E.W.のもあげよう、とコーディは思った)、ギラギラした左右違う色の靴下を履いた屋敷しもべ妖精_____とびきりイカしたドビーが立っている。

 

「ドビーはしもべではなく、“ただのドビー”として! コンコーディア・ロウルを迎えにやって参りました!」

 

 すれ違った人がギョッとした顔でドビーを見た。屋敷しもべ妖精はふつう、こんなに人がたくさんいる駅の真ん中に堂々と立ったりしない。それが“まともな屋敷しもべ妖精”だから。

 だけど、そんな事はどうだっていい。コーディはずっと、誰かと一緒に家に帰ってみたかった。それがドビーなんて最高だ。

 

「ドビー……そのファッション、本っ当にマーリンの髭だよ。もちろん、超クールって意味」

 

 ドビーは微笑んで指を鳴らした。




○試験について
事件解決が早い&ロックハートが一応健在で授業のキャンセルも無い&被害者が原作と比べて少ない ため、期末試験は行われました。ロンが縮み薬を完璧に作れた理由は「第二十七話 ハーマイオニー・グレンジャーの推理」の通りです。


第三章はかなり平和に進む予定です。コーディが脳内お花畑すぎてイラつくレベルになるかもしれませんが、ずっとでは無いのでご容赦ください。
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