第三十四話 親愛なるコーディ
誕生日プレゼントの防水ゴーグル、ありがとう。今年も絶対優勝しないと。来年、“嘆きのオリバー”が競技場に取り憑かないように。
コーディは元気? 僕は君の予想通りだと思う。教科書を取られちゃったから、宿題が大変。
ところで、こっちでは『ジュラシック・パーク』って映画が大ヒットしてるんだ。恐竜の話なんだけど……魔法界の人達って、“恐竜”を知らないんだっけ。大昔の生き物で、とっても怖いんだ。ドラゴンに似てる。
あと、『ボディーガード』って映画も大人気だったみたい。公開は少し前だったんだけど、ヒットしたからまだ上映してるんだ。音楽が最高なんだって。
良ければ、来週の日曜日に一緒に映画を観に行かない? ちょっと試練があるから、それを乗り切れば、一日だけ自由にさせてもらえるんだ。
『ジュラシック・パーク』も『ボディーガード』も観て、地下鉄にも乗ろう。
それと、ウォークマンの新型を買ったんだけど、僕は旧型の方が好みだったからもういらないんだ。勿体ないから貰ってくれないかな? 入ってる曲が好みだといいな。
ドビーによろしく。
追伸
マルフォイ家のフクロウはとてもお利口だね。本当に静かだし、僕の気持ちが分かるみたい。
ハリーより
手紙を読み終わった瞬間、コーディは大声でドビーを呼んだ。_____どこから話そう。初めて聞く“恐竜”という言葉に、新しいウォークマンに、それに、一緒に映画を観に行くなんて!
この前ナルシッサさんがくれたワンピースを着ていこうか、それともやっぱり、マグルの洋服の方がいいだろうか?
「お嬢様!」ドビーが慌てて現れた。この前、ジョージが吠えメール(ドビーの魔法でも処分出来ない、しようとすると余計声が大きくなるもの)を送ってきたので、神経を尖らせているのだ。
「大丈夫だよ。今回はハリーからの手紙だから」
「ハリー・ポッター様から!」途端にドビーの顔がパッと明るくなった。それまでもハリー・ポッターファンだったが、秘密の部屋事件以来ますます崇めている。
だからきっと、今からコーディがする提案も許してくれるに違いない。
「そう。えーっと……プレゼントをくれて、色々教えてくれて、一緒に遊びに行こうって誘われたんだ」
「なんと! 素晴らしい!」
「でしょ? それで、映画を観に行くから、たぶん……朝から晩まで一緒に……マグルのとこに行く事になると思うんだけど」
先程まで嬉しそうにニコニコと頷いていたドビーの顔が曇った。
ドビーの事は大好きだ。優しいし、面白いし、何よりいつもコーディの味方でいてくれる。ただし、コーディのお出かけについては別だった。
「それはいけません! お嬢様があちらにお出かけ出来るのは、きっかり一時間三十分だけでございます!」ドビーが怒鳴った。
それを聞き、コーディは地団駄を踏んだ。もう十三歳___あと少しすれば十四歳だっていうのに、まるで幼い子どもみたいに。
「マーリンの髭! 君って最悪だ! 腐ったハーポ以上の大悪党だよ! ドビー、私は雇い主なんだよ!」
マルフォイ家のしもべだったから、そう言っているのだと思っていた。しかし、“ようふく”にされて“ただのドビー”になってもこの方針だけは全く変わらなかったのだ。
「ドビーは自由な屋敷しもべ妖精です! 雇い主の命令に逆らう権利がございます!」
本当にマーリンの髭だ。この事をハーマイオニーに教えてあげたら、きっと涙を流して感激するに違いない。
「ドビーはコンコーディア・ロウルの友人、そして家族として! お嬢様のそのお出かけを許すわけにはいかないのです!」
ドビーのシャツに付いている、S.P.E.W.のバッジが日差しを受けてキラキラと輝いた。Pの文字は勢い良く反吐を吐き続けている。____ハーマイオニーはこれを見て喜ぶだろうか、怒るだろうか。
元々ドビーは頑固だ。しかも、自由な屋敷しもべ妖精になってからはコーディに対して全く遠慮しない。もちろん、嬉しくはあるが少し面倒でもある。
この前ディーンと電話していた時だって、時間だからといきなり付き添い姿くらましをしたのだ。まだスパイダーマンとグウェンのロマンスについて聞いている途中だったのに!
「ドビー、マグルの文化や道具って本当に素晴らしいんだ。コロコロ、大好きでしょ?」
「ドビー、私マグル学を選択する事にしたんだよ。予習って大事だと思わない?」
しかし、ドビーは何を言っても首を縦に降らない。この前は何時間も絨毯をコロコロしていたくせに!
『ジュラシック・パーク』も『ボディーガード』も地下鉄も諦められないコーディは最後の手段に出ることにした。
「ドビー、あのハリー・ポッターだよ。“生き残った男の子”と一緒にいる時に何か起きると思う? ハリーは昨年、私を守ってくれたんだよ。バジリスクも倒した_____それに、“ドビーによろしく”だって」
コーディが何十分もかけてハリーの勇敢さや優しさについて説いたのが効いたのか、ドビーはようやく外出を許可してくれた。空が明るいうちに帰ることという条件付きで。
「騒がしいな」
コーディとドビーが“ダブルダッチ”をして遊んでいると、いつものようにドラコがやって来たので、ドビーは慌てて屋敷中にあるマグルの道具を隠さなければならなかった。
つい先日取り寄せた本によると、ダブルダッチはティーンの間で大流行しているスポーツらしい。縄を踏まないようにジャンプするだけでこんなに楽しいなんて。マグルの脳みそは、魔法使いの二倍以上大きいに違いない。
「_____何をしてるんだ?」ジャンプし続けていたコーディを見て、ドラコが険しい顔をした。
「な、なんでもないよ! ちょっとした運動をね」
「……まさか、マグルの道具なんて使ってないだろうな」
「当たり前だよ! ほら、自転車にだってもう乗ってないでしょう?」
コーディがそう言うと、ドラコは納得したように頷いた。
夏休みになってから、ドラコは暇さえあればコーディの家にやって来る。それ自体はとても嬉しいのだが、マグルの道具に対する姿勢が今までよりも厳しい。はじめのうちは「ザ・スミス、最高!」「また一緒にマグルの歯磨き粉を食べようよ」などとふざけていたコーディだが、事の深刻さを理解してからは、問題を先送りにすることに決めた。
ただ、自転車に関しては、ドラコがいなくても乗る気はしなかった。
何故かは分からないが、自転車を目にするとまるで、オーグリーの鳴き声を聞いた時みたいな寒気がするのだ。何度挑戦しても、ハンドルを持つだけで震えてしまう。
「そういえば、ドラコは恐竜って知ってる?」話題を変えようと、コーディは明るい声で言った。____いや、これもマグルの生き物だからやめた方が良かったかもしれない。
「ああ。詳しくはないが」
ドラコがそう頷いたので、コーディは腰を抜かしそうになった。ドラコはいつから、マグル博士になってしまったんだ?
「えっ、でも、それってマグルの世界の生き物でしょう?」
あまりの驚きに、コーディは考える事も出来ずにそう言ってしまった。案の定、ドラコはとっても嫌そうな顔をし、次に怒った顔になり、最後には呆れた顔になった。
「_____魔法生物はいても、マグルの世界
コーディはやれやれとため息をついた。ドラコはますますルシウスさんにそっくりになっている。顔は学生時代のルシウスさんにほとんど瓜二つだし、間違い探しみたいだ。強いて言うなら、瞳の色の青みがやや強いことくらい。
それから、前髪を下ろしている事だろうけど_____前までも、家にいる時はそうだったが、最近では人前に出る時も下ろしたままだ。思春期ってやつだろうか?
「もちろん知ってたよ。ビンズ先生が何度も話してたもの」コーディは自信満々に胸を張って言った。もちろん嘘である。
するとドラコは満足気に、とびきり意地悪な笑顔を見せた。
「ふん、バカめ! 魔法史の授業はそんなに進んでないぞ!」
ドラコはまるでミニチュア・ルシウス・マルフォイだ。コーディは少し前のルシウスさんとの会話を思い出した。
「ところで、期末試験の成績はどうだったかな?」
「……ええっと、一年生の時よりはだいぶマシでした」
「なんと。早急に訂正の手紙を送らねばなるまい。セブルスからは君の下にはビンセント、グレゴリー……それにロングボトムしかいなかったと聞いていたが」
ナルシッサさんは「本当にシャルにそっくりだわ」と微笑んだが、全く褒められた気がしなかった。
両親の話をしてくれる人は多くない。
ルシウスさんはホグワーツに入る前、「ソーフィンはとても優秀だった」と教えてくれた。スネイプはコーディに「頭脳は母親譲り、無礼な態度は父親譲り」と言い、マクゴナガル先生はコーディが皆に呪いをかけた時に「父親譲り」だと微笑んだ。
両親は本当に、ろくな人間ではなかったみたいだ。
____だから、「もし同級生だったら、仲良くなれただろうな」なんて考えるべきじゃない。
なのに、皆どうして、少しだけ愛おしそうに二人の話をするんだろう。
両親の事をもっと知りたいなんて思ってしまったら、「ソーフィン・ロウルとコーディは違う」と認めてくれたロンを裏切ることになってしまう。
「悪い子は、こうでございます!」突然、廊下からドビーの声と物凄い破裂音が響いた。またジョージから吠えメールが届いたのだろうか?
「何があったんだ?」ドラコが尋ねた。
「____ちょっとしたイタズラで……」ドビーが答え終わる前に、何かが不気味な声で叫んだ。「お前が逃がしたに違いない!」
「ちょっとしたイタズラだと? これが?」
ドラコはドビーの足元にある灰を忌々しげに眺めた。コーディの屋敷の周りには護りの魔法がかかっていて、知らない人からのおかしな手紙は届かないようになっているのだ。
もしその魔法が無ければ、コーディはもう五十回くらいは死んでいたに違いない。
「手が込んでるね」コーディは本当に感心して言った。この屋敷におかしな物が届いたことなんて数える程しかない。送り主は優秀な魔法使いなのだろう。
「言ってる場合か! ____クソッ、あいつが脱獄したせいで」
_____脱獄? 「お前が逃がしたに違いない!」って……つまり、それって。
コーディは恐る恐るドラコに尋ねた。もしそうなら、今年は絶対にホグワーツになんて行きたくない。
「パパが?」
「そんなわけあるか!」
ドラコは「新聞くらい読め」とブツクサ文句を言った後、シリウス・ブラックが脱獄したのだと教えてくれた。
時事ネタや真面目なニュースに詳しくないコーディだって、当然シリウス・ブラックくらいは知っている。
何せ、たった一人の魔法使いを殺すついでにマグルを十人以上もも吹っ飛ばし、例のあの人の腹心だったと言われている超有名な死喰い人だ。死喰い人気狂いランキングがあるなら間違いなく一位だろう。
返り血に塗れながら高笑いしたという逸話はあまりに恐ろしく、誰も彼の話をしようとはしない。
子どもがなかなか寝ない時、「早く寝ないとロウルとレストレンジが来るよ」と言う親はいても、「ブラックが来るよ」と言う親はいない。
「アズカバンから脱獄なんて、やっぱりブラックは狂ってるよ」
「ああ、実力があるだけでは無理だろう。とびきりの執念がなければ」
狂った死喰い人の目的なんて一つしかない。どうやら、コーディの願いはまたしても早々に打ち砕かれたようだ。
シリウス・ブラックは確実にホグワーツにやって来てハリーを狙うだろうし、アズカバンの囚人の娘であるコーディはまた色々と噂されるに違いない。
「それから、父上が魔法省で小耳に挟んだ話がある」
また恐ろしい魔法生物が学校を彷徨くのだろうか? 一年生は三頭犬、二年生はバジリスク。でも、バジリスクより危険で恐ろしい動物なんてなかなか思いつかない。どうかドラゴンではありませんように。
「日曜日、闇祓いたちがこの屋敷に抜き打ちで調査に来るらしい。マッド-アイも連れて」
コーディは「マーリンの髭!」と叫んだ。
たった十三歳の小娘と屋敷しもべ妖精しかいない家に、マッド-アイと闇祓いが調査にやって来るなんて。コーディは確かに死喰い人の娘だが、ブラックの事なんてほとんど知らないのに。
「お前の父親とブラックは同級生なんだ。しかも、“ブラックは死喰い人ではない”と嘘の証言をするほど親しかったらしい。だから、奴がお前を頼ろうとしてもおかしくない……と、闇祓いたちは考えている」
父とブラックが同級生だなんて初耳だった。ソーフィン・ロウルとシリウス・ブラック、セブルス・スネイプ、勇敢なポッター夫妻。それから、ブラックに殺害された高潔なピーター・ペティグリュー。
「……ワオ。個性豊かなメンツだね」
コーディがそう言うと、ドラコはもう一度「新聞くらい読め」と眉間に皺を寄せた。
「ちょっと待って、ドラコ」____抜き打ち調査はいつだって? 「日曜日って言った?」
「ああ。何か問題が?」
「大アリだよ! 日曜日だけは無理。ねえ、ルシウスさんに言って日程を変えてもらって」
「そんな事出来るわけないだろう! 調査について聞き出すだけでも大変だったんだぞ!」
「一生のお願いだよ、ドラコ」
「今は何度目の人生だ?」
コーディたちがいつものようにくだらない言い争いをしていると____ちなみに、一昨日は魔法史のレポートを写させてくれと言ったのが発端だ_____ドビーがパチンと手を叩いた。「お二人がお好きなグラタンをお持ちいたしました!」
二人は言い争いを中断して座った。
「……お前のグラタンは美味いからな」
「……ありがとうございます。ドラコ・マルフォイ様」
ドラコとドビーは目を合わせないままそう言った。ドラコにとって屋敷しもべ妖精と普通に会話するのは有り得ない事だし、ドビーはマルフォイ家で受けた仕打ちを忘れる事なんて無理だろう。これでもだいぶ、互いに歩み寄っている。
ちなみに、ドビーが作るグラタンはマグルの店で買った冷凍食品(ただし、温め方はマグルとは違うが)なのだが、ドラコは知る由もない。
○手紙について
原作だとヘドウィグの使用が禁じられていたため、ハリーからロンたちに手紙を出す描写は無かった。
マルフォイ家のフクロウは超絶お利口なので、手紙とプレゼントを届けた後ハリーが返事を書き終わるまで待ってくれた。
〇マージおばさん襲来
原作だとホグズミード許可証のサインを頼むだけだったが、どうにか一日だけ自由に外に出る約束も取り付けた。頑張った。
○恐竜に関するアレコレ
妄想。
○余談
ちなみに最初は時期的にも興行収入的にも『めぐり逢えたら』にするつもりでしたが、色々考えて『ボディーガード』に変えました。4億ドルだし、超ロングラン上映してる映画館もどこかにはあるでしょう。
この時代の冷凍食品がそんなに美味しいわけないというツッコミは心に留めておいてください。ドビーが「おいしくなーれ、萌え萌えキュン♡」してくれてるに違いない。