アメコミネタは分からなくても問題ありません。
テンションの落差が激しい上(無駄な)情報量が多い回です。
もちろん、抜き打ち調査の日程は変えられなかった。コーディはドラコに散々八つ当たりした後、不貞腐れながらハリーに手紙を書いた。しかし、どうやらハリーの方も『ジュラシック・パーク』には行けそうにないらしい_____なんと、おばさんを膨らませて漏れ鍋に缶詰になっているというのだ。
ついでにこいつらも風船にしてくれないかな……なんて考えるのは不謹慎がすぎるだろうか。
闇祓いたちは忙しなく歩き回っている。引き出しは開けっ放し、カーペットはめくれ、天井からぶらさがった星は切り裂かれている。ドビーに嘘をついて休みをあげて良かった。怒り狂った自由な屋敷しもべ妖精が魔法省のエリート集団に何をするかなんて考えたくない。
「これはなんだ? 武器には見えないが……楽器か?」
大柄な黒人の、スキンヘッドの闇祓いが自転車のベルをリズム良く鳴らした。もしかすると自転車のベルには警告以外にも暇つぶし用の楽器としての役割もあったのかもしれない、とコーディは思った。新学期が始まったらマグル学の先生に聞いてみよう。
離れた場所では電子レンジの扉を開け閉する者、扇風機を分解しようとする者、『ほしのおうじさま』を読んで涙する者もいてもうめちゃくちゃだ。おまけに、見習いらしき派手な格好の女性もウロウロしている。魔法省は人の屋敷を研修の場か何かだと思っているのだろうか? 非常識な奴らだ、マーリンの髭。
「キングスリー、それは自転車。マグルの乗り物だよ」____この見習いの女性以外は、非常識な奴らだ。
「あっちには何も無かった。ルシウス・マルフォイめ、一体どこに隠したんだ? 情報が漏れていたのかもしれない」
「お前まであの方を疑うのか! ルシウス・マルフォイこそ高貴な、真の魔法使いだ!」
ブラックがここにいないのは明白なのに、闇祓いたちは帰ろうとしない。それどころか、“ブラック捜索”というポーズを取るつもりも無いらしい。
コーディが薄々予想していた通り、今回の抜き打ち調査の真の目的はブラック捜索ではない。そもそも、逃げるなら護りが強固な実家が一番なのだ。
ルシウス・マルフォイはどうやって厳しい抜き打ち調査を乗り切ったのか? 簡単だ。所有者の名義をコンコーディア・ロウルに変更した屋敷の地下室に全てを隠した。
いくら死喰い人の娘とはいえ、何の理由もなく屋敷を捜索は出来ない。それに、ルシウスさんはヴェネナタ・ザビニが
ルシウスさんの積極的な行動によってマルフォイ邸を調べる正当な理由を失った役人たちにとって、これがルシウス・マルフォイを失脚させる最後のチャンスなのだ。
残念ながら、ルシウスさんは先日全てのコレクションを持ち帰ってしまったが。
「『オズの魔法使い』? 聞いたことがないな」
薄い茶髪をオールバックにした闇祓いが、『オズの魔法使い』に呪文をかけ始めた。
_____魔法省は闇祓いの試験にマグル学の項目を加えるべきだ。そうでなければ、アーサー・ウィーズリー氏を闇祓い局の局長にするべきだ。コーディは闇祓い局の未来を憂いてため息をついた。
「それ、ただのマグルの本ですよ」
しかし、闇祓いはその言葉を無視し、呪文をかけ続けている。また別の闇祓いが、コーディの部屋の鍵付きの引き出しにあった、両親の写真が入ったロケットとアルバムを机に置いた。
「違法な書物に違いない、押収」
闇祓いはそう言うと、『オズの魔法使い』を袋に入れてしまった。
押収品の顛末をコーディはよく知っている。怪しげな道具はもちろん、代々受け継がれて来た物、夫婦の思い出、安物のおもちゃですら二度と戻って来ない。
「越権行為って奴じゃないですか? 潔白なマルフォイ邸を散々荒らした後は言いがかりをつけて窃盗なんて、闇祓い局じゃなくて盗人局に改名すべきだ」_____マルフォイ邸が潔白かどうかは議論の余地があるが。
闇祓いはそこでようやく振り返り、コーディに素早く杖を向けた。もしかしすると、今の言葉が魔法省への反抗と見なされたのかもしれない。
「少しも理由を与えるなよ。お前は死喰い人の娘で、ブラック協力の疑いをかけられていて……スリザリンの継承者の友人でもある」ドラコは何度も忠告してくれたのに、やってしまった。
「ちょっと、本当にただのおとぎ話です!」
ただならぬ様子に気づいたのか、見習いの女性が袋から『オズの魔法使い』を取り出して言った。コーディはもうこの女性が大好きになった。見習いとはいえ闇祓いというエリートで、マグル文化にも精通している。
コーディが続けて「ほら! 返してください!」と言うと、闇祓いは怒ったのか一歩踏み出した。
「いいや、ソーフィン・ロウルが置いて行ったものに違いない。_____奴の物は全て没収すべきだった」
闇祓いは机の上に置かれたアルバムを見た。そこには呑気な顔で笑う父が写っている。
闇祓いなら、死喰い人と戦う機会は多かっただろう。家族や友人、同僚を傷つけられた事もあったのかもしれない。喉の奥が一気に狭くなるのを感じた_____あんな写真、取っておかずに全て捨てるべきだった。
「プラウドフット、やめろ。その子はただの子どもだ……ソーフィン・ロウルではない」
先程、自転車のベルを奏でていた闇祓いがコーディの前に立った。しかし、闇祓い_____プラウドフットは杖を下ろさない。
「ただの子どもだと? こいつはマルフォイの息子とも、生き残った男の子とも親しくしているらしい。ブラックのように友を裏切る気か、そうでなければ、生き残った男の子も……」
“ハリー・ポッター闇の大魔法使い説”だ。
最初はただの陰謀論に過ぎなかった。例のあの人の元支持者や、過激な純血主義者による現実逃避。しかし、コーディが信ぴょう性を与えてしまった。
_____ハリー・ポッターはもう既にマルフォイ家に取り込まれたのではないか。
コーディがハリーと友人で居続ける限り、その噂は消えない。
「この屋敷にはブラックどころか悪趣味なおもちゃすら見当たらん……つまらん」
気まずい静寂は断ち切られ、冷たい風が吹いたみたいに空気が張りつめた。不気味な義眼に睨まれたプラウドフットは怯んで杖を下ろし、他の闇祓いたちは慌てて帰る準備を始めた。
「ちょっと、マッド-アイ! いきなり出てこないでよ、子供ウケしない見た目なんだから。大丈夫?」
もしこの世に神がいるなら、きっと、明るいピンク色の髪に破れかぶれのワインレッドのジャケットを着た若い女性に違いない。
「大丈夫です。一年生の時はほぼ毎日見てたし」
「ああ、先生やってたんだもんね! ほんっと、信じらんない!」
神はマッド-アイを見て「マッド-アイ先生だって! “グリフィンドールに十点! ”とかやったの?」と笑った後、「学校頑張ってね」とありがたき言葉を残して帰って行った。
彼女がいるなら闇祓い局の未来は明るいものになるだろう。
「ロウル」続けて、マッド-アイがコーディの肩にぎこちなく手を置いた。
「食え。子どもはこういうのが好きだろう……その辺に落ちていた」
そして、強引に白い箱を押し付けて去った。もう闇祓いは全員行ってしまった_____白い箱にはコーディが唯一読める日本語が書いてある。『鼻からぼた餅』。取り寄せるのが面倒な上、なかなか高価なお菓子だ。
「毒入り……じゃあないよね」
コーディは煙突飛行粉を取り、暖炉に向かった。今日はマルフォイ邸で食事だから、ドラコに食べさせてやろう。報告事項はウィリアムソンの事だけでいいだろうか。
「マルフォイ邸!」と言う前に、呑気な顔で笑顔の父が目に入った。その隣には、プラウドフットが渋々置いて行った『オズの魔法使い』がある。
ロウル家の財産は問答無用で全て没収された。ルシウスさんは確かに、何度もそう言ったはずだ。だから、プラウドフットはきっと覚え間違いをしていたのだ_____エリートの闇祓いが? そんな勘違いを?
コーディは予定を変更した。ルシウスさんと話したくはないし、ドラコと『鼻からぼた餅』を食べる気分でもない。それに、屋敷にだっていたくなかった。
酒の歴史は非常に古い。なんと、起源は文明が____魔法使いが杖を使い始めるよりも、文字が生まれるよりも前にまで遡るという。
酒の神を讃える祭りが開催され、また、古代中国の賢人は“酒は百薬の長”という言葉を残した。
目くらまし呪文、自転車、扇風機、ザ・スミス……人間たちは数え切れない素晴らしいものを生み出したが、その中でも酒は格別だ。ところで、蒸留酒はラテン語で“生命の水”とも呼ばれたらしい。ニコラス・フラメルが作り上げた賢者の石の原料はウイスキーなのではないか、とコンコーディア・ロウルは考察している。
「だからよお! 俺はバジリスクは_____恐ろしいけどよお……すんげえ生き物だと思って……ヒック……目を見たら死ぬ? 愛情込めて育ててやりゃあ……」
「そうだよお、ハグリッド! ホグワーツにはバジリスクキラーズがいるんだから、バジリスクのコロニーを作るべきだ!」
ハグリッドがジョッキをドン! とテーブルに叩きつけた。その中身はコーディのお小遣い半年分を費やす価値があり、最も危険で美しい飲み物_____バジリスク酒である。腐ったハーポが開発し、各国の勇者たちが隠れて飼育し続け、ノクターン横丁の酒屋が苦労して輸入した数々の屍と涙とガリオンの結晶。
アルコール度数が高いだけあって一口目は刺激が強いが、飲み始めると止まらない。熟成されたバジリスク毒を包み込むハーブの香りが鼻腔をくすぐる。
「アラゴグー!」
「ドビー!」
漏れ鍋の店主・トムはため息をついた。ブラックが脱獄してからというものの、魔法使いはすっかり不要不急の外出を控えてしまった。そんな中現れた二人の大酒飲みは非常にありがたい____よりも「帰ってくれ」が勝つ。何せ、一人は飲み方が汚すぎるし、もう一人は十三歳にして既に世間からの好感度が致命的だ。
「トム……水……を頼む……」
「ハグリッド……君のことは強く勇敢な漢だと思ってたのに、飲みの途中で水だなんてマーリンの髭だよ。そんなんじゃ、バジリスクのコロニーなんて一生無理だね」
「……ギグル・ウォーターのボトルをくれ」
ハグリッドは倒れた。コーディは「マーリンの髭! マーリン!」と笑いながら叫び続けている。
「____トム、明日の掃除は僕も手伝うよ」
「ハリー! なんで?」
ハリーがコーディの隣に腰を下ろした。トムが「ハリー・ポッター様!」と小さく注意したが、ハリーは無視した。魔法省大臣から散々“ミス・ロウルとの交流について”注意されたけど、そんなの聞く気はさらさら無い。
「漏れ鍋に泊まってるって言ったじゃないか」
「そうだっけ? ああ、そうだ。だから、ハリーに会いたくて来たんだっけ」
コーディは無い頭を必死に使って考えたが、何故ここに来たのかあまり思い出せなかった。バジリスクの毒が脳まで回ってしまったのかもしれない。
「そうだ、ハリー。スパイダーマンとグウェンの話、知ってる?」
ハリーの記憶では、コーディはキャプテン・アメリカに夢中だったはずだが、どうやら夏休みの間にスパイダーマン派に鞍替えしてしまったらしい。もしかしたらディーンとマグルの街で、コミックを買ったのかもしれない。
「グウェン……? スパイダーマンの恋人って、確かMJじゃなかったっけ」
コミックにはあまり詳しくない。バーノンおじさんはコミックを読むとバカになると信じ込んでいたし____ダドリーはそんなの関係なしにトロール並みの知性しか持ち合わせていないが____ハリー自身もあまり興味がなかったから、ピアーズが忘れて行ったのを何度か読んだくらいだ。
しかし、グウェンなんて子が出てきた覚えは無い。スパイダーマンは少し前、MJという赤毛の女の子と結婚したはずだ。
「グウェンのパパがスパイダーマンと戦ったりしたせいで、二人は別れちゃうのかな」
コーディが少し悲しそうな声で言った。スパイダーマンと戦ったということは、グウェンのお父さんはヴィランだったんだろうか。でも、父親が悪人や犯罪者でも、子どもは関係無いのに____ハリーは咄嗟に「違う」と言った。
「……一度は別れるんだけど……また出会って……結婚するんだよ」
コーディは目尻を限界まで下げ、「良かったあ」と笑った。心の中では、ハリーは相変わらず嘘をつくのが下手だと思いながら。
スパイダーマンはグウェンと別れて、MJという子と結ばれるんだろう。だけど、今だけはその嘘を信じるのも悪くない気がした。ハリーがコーディのために付いてくれた嘘なんだから。
窓の外にはドビーが焼いたクッキーみたいに真ん丸な月が浮かんでいて、星も輝いている。隣でハグリッドが地響きのようないびきをかいているけど、何にも気にならない。
バジリスクの毒が完全に回っちゃったみたいだ。考えなければいけない事はたくさんあるけど、もう全部後回しにしよう。ツケは来るべき時に清算すれば良い。
「そういえばさ、ハリーはどうやってウォークマンを手に入れたの?」
「難しいし、すごく長い話になるんだけど____僕の近所にフィッグさんっていうパンク? ……メタル? ……ロックファンのおばあさんがいて……」
○ニコラス・フラメルが作り上げた賢者の石の~
酔っ払いの戯言です。
○ギグル・ウォーター
ファンタビに登場した、飲むと大笑いする魔法がかかっている酒。ハグリッドは笑うより先に飲みすぎの代償が来た。
○未成年飲酒
軽く調べた所、イギリスでは5歳以上なら親の同意があれば家庭でなら飲酒はOKらしいです。また、大人同伴かつ食事の際であれば16歳以上はパブでの飲酒(ビールなど)ならOK。ただし、18歳未満は酒の購入は違法。らしいです。
魔法界も似たような感じっぽいけどややユルそう。
○バジリスク酒
飼育は違法だけど酒にするのは違法と明記されてないのでギリギリOK理論。度数は高い。ハグリッドは巨人なのでジョッキで行く。
抜き打ち調査の場面でスクリムジョールさんも出したかったんですが断念。
第三章こそはお気楽に行きたい vs シリアス展開は避けられないで葛藤しています。情緒不安定な回が続きそう。