マグル学のすゝめ   作:バナナ牛乳

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第三話 サイコパス・ハット

 

 特急がホグズミード駅に到着し、狭い小道を渡り、ボートで黒い湖を渡り____ホグワーツに近づくごとに、コーディの顔面は血の気を失っていった。

 

「おい、今何を飲んだんだ?」

「マグルの胃薬だよ。魔法薬と違って変な味がしないんだ」

 

 ドラコは眉をひそめたが、いつものようにブーブーと文句は言わなかった。ドラコは嫌な奴に見えて意外と優しい所がある。

 いつも素直でいれば、一人くらいは友達が出来るだろうに。

 

 

 大広間に着くと、テーブルから大きな歓声が聞こえた。新入生たちは皆組み分けの儀式の方法を予想している。

 コーディは首から下げているロケットペンダントを開いた。中には動く写真が入っていて、若い男女がこちらに向かって微笑んでいる。女性の方は赤ん坊を抱いている。

 片方はコーディと同じキャラメル色の髪に青い瞳、健康的に日焼けした肌に人懐こい笑顔を浮かべたハンサムな男性で、もう片方は金髪の巻き毛にコーディと同じはちみつ色の瞳を持つ、少しぽっちゃりとした人の良さそうな女性だ。コーディは二人を混ぜたような顔をしている。ソーフィンがいきなりシャーロット___コーディの母の名だ___にキスをして、太陽のような顔で笑った。

 プライドを守るため死喰い人になった愚かな男と、そんな男のために実家から絶縁された愚かな女。両親には恨みが沢山ある。アズカバンに入るくらいなら、子どもなんて作らなければ良かったのにといつも思う。

 だけど、嫌いではない。

 

 組み分けは帽子を被るだけの簡単なもので、ドラコはあからさまに安心しながら「帽子を被るだけだなんて!」と笑い、すぐ後ろにいる二匹のゴリラ(クラッブとゴイル)もゲラゲラと笑っている。

 

「アボット、ハンナ」「ハッフルパフ!」

「ボーンズ、スーザン」「ハッフルパフ!」

「ブート、テリー」「レイブンクロー!」

 

 聞いたことのある名前が手際よく組み分けられていく。

 ハッフルパフには入りたくないな、ボーンズ家の人達はきっとソーフィン・ロウルを憎んでいるはずだ。

 

「まあ、ブルストロードはスリザリンだろうな」

 

 一方、ドラコは余裕で新入生の品定めをしていた。どうやら、今年のスリザリンは豊作らしい。

 もちろんふさわしくない生まれの新入生もいて、そういう子たちはテーブルについた瞬間に隅に押しやられ、透明人間のように扱われている。彼らはスリザリンでは避けられ、他の寮生からもスリザリン生として疎まれる。

 マグルを差別するスリザリン生、スリザリン生というだけで極悪非道な人間に違いないと思い込む生徒たちは一体何が違うと言うのだろう。

 

「マクミラン、アーネスト」

 

 豊かな金髪の恰幅の良い生徒が椅子に向かって歩いていく。

 ドラコがコーディを突っついてニヤニヤとしたので、コーディはため息をついた。母はマクミラン家の出身で、アーネストはコーディの従兄に当たるのだ。コーディは親子共々マクミラン家から絶縁された身なので、話したことなんて一度もない。

 アーネストはハッフルパフに組み分けされ、嬉しそうにテーブルに走っていく。マクミラン家は代々ハッフルパフが多い家系だ。

 

「マルフォイ、ドラコ」

 

 ドラコはあっという間にスリザリンに組み分けされた。「僕なんだから当たり前だろう」といった鼻持ちならない表情でテーブルに歩いていき、あっという間に上級生たちに囲まれている。

 

「ポッター、ハリー」

 

 ハリーはなんと、五分以上も椅子に座っていた。特急で会ったハーマイオニー・グレンジャーよりも長い。

 それから少しして、帽子は熟考の末「グリフィンドール!」と叫び、グリフィンドールのテーブルから大きな歓声が上がった。ウィーズリーの双子が「ポッターをとった!」と騒いでいる。

 

 コーディはどこの寮に入ってもあんなに歓迎してもらえないだろう。いいや、それどころか、すごく嫌がられるに違いない。

 

「ロウル、コンコーディア」

 

 大広間が静まり返り、少ししてからざわめきが広がり始めた。「あのロウル?」「闇祓いに向かって死の呪文を何十発も乱打したっていう?」「どうしてダンブルドアはあんな奴をホグワーツに入れたんだ?アズカバンに入れろよ」____軽蔑、好奇、嘲笑。様々な視線がコーディを突き刺す。

 例のあの人が部下たちに()()()を推奨してくれれば良かったのに。そうしたら今頃、ホグワーツはアズカバンの囚人の子どもだらけで、コーディはこんなに目立つ事なかった。無罪になった死喰い人の子どもや、遠縁に死喰い人がいる生徒はいるけど、有罪の死喰い人を親に持つのはコーディただ一人だけだ。

 

 帽子が被せられると、それらの目線はすっかり見えなくなり、不思議なことに、声も聞こえなかった。まるでウォークマンで音楽を聴いている時みたいだ。

 

「(ほう、君は随分とマグル文化に詳しいようだね。マグル製品不正使用取締局で働きたいのか)」

 

 帽子は勝手にコーディの心を覗き見して、何やらあれこれ考えているようだった。しかし、コーディの気持ちは既に決まっている。

 

「(私のパパの家系はみんなスリザリンで、ママもスリザリンだった。それに、死喰い人の娘がスリザリン以外に入るなんて有り得ない)」

 

 コーディはスリザリンに入りたいと思っている。

 レイブンクローでもハッフルパフでもグリフィンドールでも、嫌われて虐められるに決まっている。

 

「(いいや。組み分けというのは家系だけで決まるものではない。それに、君のお母さんの家系はハッフルパフが多いだろう? )」

「(まあ、私たちは絶縁されてるけどね)」

 

 帽子はなかなか結論を出さない。もう一分も座っているのに。

 

「(確かに君にはスリザリン向きな所がある。ああ、最も上手くやれるのはスリザリンだろう。

 レイブンクローも良い。君のマグル製品への飽くなき探究心はレイブンクローにふさわしい。

 ハッフルパフも悪くない。君が持つ、友への優しい気持ちはあそこによく馴染む)」

「(どうも。でも生憎、友だちはいないんですよ)」

「(もし昨日までの君なら、迷った末にスリザリンに組み分けしただろう。君は、自分はスリザリンに入るのが最善だと思っているのだから)」

 

 帽子は、完全にコーディの心を見透かしてしまっている。もう、これだから魔法の道具は嫌いだ。帽子すら安心して被れない。

 

「(君が今日、列車で感じた気持ち。“新しい世界”への胸の高鳴り。生き残った男の子と血を裏切る一族の息子に囲まれても、君は逃げなかった____君は変わりたいと願っているね? そして、それだけの勇気を持っている)」

 

 それはどうだろうか。

 結局あのコンパートメントに乗り続けたのは“なんとなく”でしかなかったように思う。____変わりたいとは、確かに……気の迷いくらいの短い時間、そう思ったけど。

 一瞬、チラッと、そんな事を考えたのが良くなかった。

 

「(きっとその道は辛く、険しいだろう。だが君の勇気を信じて……)

 

 グリフィンドール!」

 

 大広間は完全に静まり返っていた。新入生が組み分けされたというのに、拍手の音が全く聞こえないなんて事があるなんて。

 コーディは出来るだけ強く、帽子に「(いつか絶対燃やしてやるからな)」という念を素早く送った。

 

「(いやあ、本当にトーキンとシャーロットの子だなあ……。あれ、トーフィンだったかな。トーフィン? の方は、グリフィンドールと迷った末にスリザリンを選び、シャーロットは「スリザリンに入れなきゃ燃やすぞ!」と脅してきて___愉快な組み分けだったなあ)」

 

 

「コーディ、どうぞ」

 

 ハリーがそう言って自分の横をトントンと叩いたので、コーディは有難くそこに座らせてもらった。グリフィンドール生たちの視線が痛い。勿論、他の寮生のも。

 

「あの帽子、数年に一回ふざけた組み分けをして新入生を地獄に叩き落とすのが趣味なんだと思う。ほんと、信じられない」

 

 どうやら、周りの生徒たちもコーディと同意見のようだった。殺意のこもった目でコーディを見つめている。しかし、隣にハリーがいるので何も言えないらしい。生き残った男の子万々歳! マルフォイ家なんかよりよっぽど役に立つブランドだ。

 

「コーディはきっとグリフィンドールだろうって思ってたよ」

「マーリンの髭。君、人を見る目がないね」

 

 このコーディの言葉にも、周りは同意見らしい。皆が「お前正気か?」と言った目でハリーを見つめている。

 

 ああ、ここで七年間過ごすなんて最悪だ、アズカバンより悪い。いっそ今ハリーを殺してアズカバンに行った方がマシだ。____そうしたらマグルの世界と永遠におさらばじゃないか! 困ったなあ……。

 

「ねえハリー、他の席に行った方がいいんじゃない?」

 

 勇敢な上級生がハリーにそう言い、周りも「そうだそうだ」と頷いている。

 しかしハリーは「僕はここがいいんだ」と言って譲ろうとしなかった。なんと涙ぐましい、コーディの今までの人生でこれほど優しい魔法使いを見るのは初めてだ。

 ハリーの様子が頑なだったので、生徒たちはハリーを退かせるのを諦めたようだった。もちろん、コーディもハリーの隣から去る気は無い。ハリーの隣にいる間は身の危険を感じないで済むからだ。

 ____グリフィンドールに入ってしまったからには、とことん利用させてもらおうじゃないか。

 

「まーたウィーズリー家の子だな! グリフィンドール!」

 

 ロンがグリフィンドールのテーブルにやってきた。双子たちの熱烈な歓迎に顔を赤くした後、ハリーの隣に座っているコーディを見て嫌そうな顔をした。

 

「どっか行けよ!」

「列車の中では優しかったのに。悲しいよ、ロニー坊や」

「うるさい! あの時は名前を知らなかったから……お前が隠したせいで」

「だってロニー坊やに冷たくされるのが悲しくて」

「お前____」

 

 ロンが怒り、それに対してコーディが軽口を叩いていると、ハリーが「僕がコーディをここに呼んだんだよ」と言ったので、ロンはむっつりと黙り込んだ。

 

 それからすぐに最後の生徒の組み分けが終わり、ダンブルドアが意味の分からないことを言ったあと(コーディは「とうとうボケてしまったんだ。もう百歳くらいだろうし」と思った)、ようやく食事が始まった。

 

「お菓子は変わってるけど、ご飯はこっちと同じなんだね。もっと____カエルの卵とかが出ると思ってた」

「全然違うよ! だってマグルはいつも冷凍食品を食べてるじゃんか。あと、箱に入った中華料理」

「君、どこから知識を得てるんだい……」

 

 ロンや他の生徒たちから睨まれながらも、二人が和やかに話していると、これまた勇敢な上級生が口を開いた。

 

「____へーえ。あの噂は本当だったんだ、ハリー・ポッター」

 

 ハリーがコーディの方を見てきたが、「さあ」と肩を竦めた。そういえば、ルシウスさんが一時期よく話していたな。

 

「例のあの人以上に強大な闇の魔法使いだったから、例のあの人を倒せたんだ……組み分け帽子も、本当は君をスリザリンに入れようとしたんじゃないか?」

 

 上級生がそう言うと、特急で会った双子のどちらか____どちらかというとジョニーに似ていない気がする方____が「おい、マクラーゲン。つまらないこと言うのはよせよな」と言った。軽い言い方だったが、怒りを隠せてはいなかった。

 他の生徒たちも口々にマクラーゲンを罵倒したので、マクラーゲンは不服そうだった。

 ハリーは何も言い返さず、俯いていた。

 

 デザートを食べ終わり、ダンブルドアの話を聞いて(コーディは全く聞いていなかった。興味が無いからだ)、校歌を歌ったりした後、監督生たちに引率されて寮まで向かった。

 階段をいくつもいくつも上がった所で、ロンが「ハリーは君のせいで酷いことを言われたんだぞ!」と話しかけてきた。

 

「あれ、本当に酷かった。信じられない。いやー、まあでも、いるよね」

「君のせいなんだから、ハリーから離れろよ」

「嫌だよ」

 

 コーディは、ハリーが動く階段に手こずって、少し離れたところにいるのを確認してから言った。

 

「自分の身を守らなきゃいけないからね」

 

 ____なんで、帽子は私をグリフィンドールに入れたんだろう。

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