マグル学のすゝめ   作:バナナ牛乳

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第三十六話 皆と買い物

 

「私が付き添っても良いのよ」ティーカップを置き、ナルシッサさんが言った。

 

 長かった夏休みも今日が最終日で、これからロン、ハーマイオニーと新学期の買い物に行く予定だ。ドラコはとっくに買い物を済ませている。

 もう十三歳なんだから一人で買い物に行けるし、その方が便利だろう? ルシウスさんはコーディにそう提案したのだ。ブラックが脱獄した今、“アズカバンの囚人の娘”であるコーディと近しい様子を見られるのは良い事ではないから。

 

「それに、屋敷しもべも新しくしましょう。こんな屋敷にあなたを住ませたくないわ」

 

 確かに、ドビーが自由な屋敷しもべ妖精になって以来、随分明るく____率直に言えば、少しけばけばしい屋敷になってしまったかもしれない。

 でも、コーディはドビーのセンスが嫌いじゃない。そして今、この屋敷の持ち主は、名義上はコンコーディア・ロウルだ。

 

「どちらも大丈夫です。ダイアゴン横丁もどうせ闇祓いだらけだし、呪いをかけてくるような馬鹿なんていませんよ。屋敷しもべ妖精の方も……アズカバンの囚人の娘が良い暮らしをしているなんて知られたら、反感を買っちゃいます」

 

 ナルシッサさんは少し考えた後、まだ不安げな表情で「そうね」と頷いた。ルシウスさんもコーディと同じ意見なのだから、ナルシッサさんは自分の気持ちを押し通そうとはしない。

 

「じゃあ、ラベンダーとパーバティが待ってるだろうから、もうそろそろ行きますね」

 

 いくらナルシッサさんが優しいからといって、血を裏切る者や穢れた血と仲良くしているとは言えない。その点、とびきりの名家ではないものの一応純血ではあり、平凡な____強いダンブルドア支持者でもないブラウン家とパチル家はちょうど良いのだ。

 

 しかし、ナルシッサさんはまだ席を立たなかった。

 

「____子供の頃、シャルはパセリケーキが好きだったの。ホグズミードに行った時、お土産に買って帰るととても喜んでいたわ。それに、マダム・パディフットの店に行きたいってずーっと言っていて」

 

 懐かしそうな目をしている。ママの話をする時は決まっていつもそうだ。ナルシッサさんがその目をした瞬間、どれだけふざけていても、一気にあたたかくて悲しい気持ちになってしまう。

 

「パセリケーキって不味そうですね」少しでもマシな空気にしたくて、コーディはおどけてみせた。

 

「今年からホグズミードでしょう。……もし良ければ、私がサインを」

 

 ホグズミードへは、保護者からのサインが無ければ行けない。ルシウスさんはドラコの許可証にサインしただろう。ドラコの事だ、調子に乗って“叫びの屋敷”にでも行くに違いない。

 

 もちろん、コーディだって皆と一緒にホグズミードに行きたい。ハニーデュークスで沢山お菓子を買いたいし、三本の箒でバタービールを飲みたい。ジョージが言うには、バタービールはすごくドギツいお酒らしい。

 

 ____だけど、ナルシッサさんはコーディの保護者じゃない。

 

 マルフォイ家はコーディに屋敷をくれた。屋敷しもべ妖精もくれた。生活に必要なお金もくれた。時には暖かい食卓も。

 しかし、それはあくまで慈善活動の一環だ。ルシウス・マルフォイ氏は可哀想な孤児(厳密には違うが)を世話しているにすぎない。若しくは、ロウル家のわずかな財産に何か貴重なものがあるから利用しているのか。

 

 ルシウスさんのことは好きだ。だけど、完全に信じて甘えられるほど、コーディは子供ではなくなってしまった。

 生き残った男の子とマルフォイ家、もしどちらか一つしか選べないとしたら、その時は______いや、先延ばしにするくらいの猶予はまだ残っているはずだ。

 

「私、怖がりだから、今年はあんまり出歩きたくないんです。シリウス・ブラックに出くわすなんて絶対ごめんだし」

 

 ナルシッサさんはもう何も言わず、今度こそマルフォイ邸に帰って行った。その後、コーディはシリウス・ブラックがナルシッサさんの従弟だったことを思い出した。

 

 

「フレッドの言う通りだ。ケトルバーンは本当にイカれてるよ……イテッ! 今学期が終わるまでにマッド-アイ・ウィーズリーになっちゃうかも」

 

 スペロテープでぐるぐる巻きにされた『怪物的な怪物の本』をどうにか鞄に押し込みながらロンが言った。元々ノッポだったのに更に身長が伸びて、コーディとの身長差はますます広がった。

 

「きっと中身が素晴らしいのよ。『透明術の透明本』みたいにね」

 

 たくさんの本を抱えたハーマイオニーがそう言ったが、教科書の内容なんてどうでも良い(もちろん、『この一冊でマルっと! マグル学』を除く)。コーディが教科書に求めるのは軽さと寝心地だけだ。

 

 三人はそれから、フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーに向かった。途中、高級クィディッチ用具店のショーウィンドウに張り付いてファイアボルトを見つめるロンを引き離すのに、コーディとハーマイオニーは抜群のチームワークを発揮しなければならなかった。

 そういえば、ドラコが「ニンバス2001はもう時代遅れだ!」と言っていたけど、新型が出たからだったのか。

 

 コーディがチョコミントのアイスクリームを注文した途端、ロンが「ハリー!」と叫んだ。振り返ると、ハリーも注文の列に並んでいる。前は酔っていたから気づかなかったけど、背が伸びて、顔つきもなんだか大人っぽくなったみたいだ。

 

「おい、ハリー! 早く話を聞かせろよ」ロンがニヤニヤして言ったので、ハリーはすぐにコーディを見た。きっと、コーディがおばさんの話をしてしまったと思っているんだ。

 

「僕のパパ、一応魔法省の役人なんだぜ……それでさ、おばさんはどれくらい高く飛んだんだい?」

「ちょっと、ロン! ねえ、何かの間違いよね? おばさんを膨らませるなんて____」

 

 ハーマイオニーが大真面目な顔で尋ねたので、コーディも「本当におばさんを風船にしちゃったの?」と続けた。

 ハリーはコーディを見てニヤリと笑った。

 

「そんなつもりはなかったんだよ。ただ、僕、ちょっと____キレちゃって」

 

 コーディとロンは耐えられなくなって大爆笑したが、ハーマイオニーは「なんてこと!」と叫んだ。予想通りだ。

 

「逮捕されるかと思ったよ。去年警告されたから」

「うちのドビーがごめんね」

「ドビーはあなた達を守ろうとしたのよ!」

 

 ロンはもう息が出来ないくらい大笑いしている。コーディが送った、フレッド特製のS.P.E.W.バッジをつけたドビーの写真を思い出したのかもしれない。アイスクリームが届くと、ロンはようやく呼吸を取り戻した。

 

「でも、さすがハリー・ポッターだ。おばさんを膨らませたのが僕だったら、魔法省は僕に何をすると思う? まあまず、ママに埋められた僕を土の下から掘り起こさなくちゃいけないけど」

「そうだよ。私だったらきっと、知られた瞬間吸魂鬼のキスが執行されてたよ」

 

 自分で言っておきながら、コーディは「冗談にならないかもしれない」と思った。

 少し不適切な発言をしただけで杖を向けられたのだ。もしやらかしでもしたら、闇祓いやウィゼンガモットの評議員たちは嬉々としてコーディを廃人にしようとするだろう。

 

「ちょっと、そんな物騒な話はやめましょう。もちろんハリー、あなたはしっかりと反省するべきよ____ねえ、私ふくろうを飼おうと思うの。ハリーにはヘドウィグ、ロンにはエロールがいるでしょう?」

「コーディには屋敷しもべ妖精がね」

「ハ・ウ・ス・エ・ル・フはペットじゃないわ! それに、屋敷()()()妖精という呼称はとても差別的よ」

 

 ……何はともあれ四人は『魔法動物ペットショップ』に入った。

 コーディはペットショップがあまり好きじゃない。色々な動物がガーガー、キャッキャッ、シューシュー騒いでやかましいし、狭くて薄暗い店内に押し込められた、自由のない動物たちは少し可哀想に思えた。

 

 ロンがしょぼくれたスキャバーズを店員に見せている間、ハーマイオニーは店内を見回していた。一番賢そうなフクロウを探していたのかと思ったけど______よりによって、一番最悪なのを選んでしてしまった。

 腕に凶暴な、真っ赤な猫を抱いている。ついさっき、スキャバーズに襲いかかろうとした戦士だ。

 

「そいつ、きっといつかスキャバーズを殺すぞ! 可哀想に、安静にしてなくちゃいけないのに……」

 

 ロンはすぐにハーマイオニーに突っかかった。いつもの事だ。二人のやり取りって、まるでハン・ソロとレイア姫みたいに面白い。そういえばルークたちはあの後、無事に銀河を救えたのかな? 

 二人はずーっと言い争い、コーディとハリーは度々宥めながら、四人は漏れ鍋に向かって歩いた。

 

 

 ウィーズリー夫妻がバーで何やら話していた。机には新聞が置いてあり、シリウス・ブラックが一面で喚いている。

 

「ブラックはまたマグルを襲うかもしれない。私、フルウィアのことが心配だわ……それにヨハネスも……」

 

 特にウィーズリー夫人の方に気づかれないよう、コーディはこっそり通り過ぎようとしたが、そうは行かなかった。

 

「ハリー! ……と、君は……去年も会ったね」

 

 ウィーズリー氏がニコニコしながら近づいてきたのだ。コーディは思わず後ずさった。あまりにも畏れ多いからというだけではない。「コンコーディア・()()()です」なんて自己紹介をする羽目になるのはゴメンだ。

 

「友達のコーディだよ」ロンが笑顔で言った。コーディは「もう帰るんです」とすぐに立ち去ろうとしたが、その前にウィーズリー氏が目を輝かせて話し始めた。

 

「君の話はたくさん聞いたよ。自転車が非常に面白い乗り物だというのは私も同意だ。アレは本当に難しい! 実は昔、一度だけ仕事で乗る機会があってね……なんと、君はアレを乗りこなせるそうじゃないか! 免許は持っているのかい?」

「パパ、自転車に乗るには免許なんて必要ないんだ」

 

 どこからか現れたジョージが笑いながら言った。ロンとは違って、もうあんまり背は伸びていない。代わりに髪の毛が伸びていた。

 

「よせよ、マグル・フリークは一家に一人で充分だ」後ろからフレッドがにょっきり現れた。

 

 ウィーズリー夫人が「失礼な言葉を使わない!」と叱りつけた。そして、コーディたちの方を向いてにっこりと微笑む。

 

「ハリー、元気だったかしら? それにコーディ、あなたも。昨年のホグワーツは大変だったでしょう……」

 

 コーディは昨年と同じく、またしても固まってしまった。続いてジニーとパーシーがやってきて、ジニーが「久しぶり!」と手を振った。垢抜けて、ますます可愛らしくなっている。

 

「ハリーにミス・()()()、お目にかかれてまことに嬉しいよ。お二人とも、お変わりなかったかね?」

 

 パーシーが仰々しくそう挨拶したので、場は静まり返った。大きな心臓の音が周りに聞こえていないか不安になるほどに。

 

 ウィーズリー夫人は驚きのあまり倒れてしまうかもしれない。いや、ネビルの祖母のように「どの面下げて!」と罵倒するかもしれない。それとも、呪いをかけられるだろうか。でも、寧ろそうしてくれた方が気が楽になるかもしれない……。

 

 ハリーが慌てて「や、やあ、首席のパーシー」と言い、パーシーは待ってましたとばかりに眼鏡をくいっと押し上げた。その瞬間、ジョージが大袈裟な身振りでハリーの手を取った。

 

「ハリー! お目もじ叶い、恭悦至極に存じてたてまつるが……少しクールを借りてくぜ。俺たちゃ用事があるからな」

 

 そう言うが早いか、ジョージは今度はコーディの手を引いてバーの階段を駆け上がり、部屋に入った。ウィーズリー一家とハーマイオニーは今晩、漏れ鍋に泊まるのだ。

 ドアを閉めるのと同時に、ウィーズリー夫人の「ジョージ、走るんじゃありません!」という叫び声が響いた。

 

「ありがとう」コーディはジョージにお礼を言った。あのまま居たら、ウィーズリー夫人が何もしなくても、コーディは気絶していただろう。気まずい空気と罪悪感に耐えられなくて。

 

「ああ。パーシーと来たら、まるで“名前を言いたくもない例のナルシスト(ギルデロイ・ロックハート)”くらい厄介だからな」ジョージがジャンプしてベッドに飛び込んだ。

 

 この夏、パーシーは首席になる事の困難さについて説くか、首席バッジをピカピカに磨くか、ペネロピー・クリアウォーターに手紙を送るかで忙しかったらしい。それから、もちろん勉強も。

 

「それに、ママからまた、パーシーの爪の垢を煎じて飲むように言われるのもごめんだね。クラッブの足の爪の方がまだマシだ」

 

 コーディも笑いながら、傍にあった椅子に座った。しかし、その机に置いてあった写真を見て、怒った時のハーマイオニーにも劣らぬレッドキャップの形相になった。

 

「ウッソ……マーリンの髭! コレ、まだ持ってたの!?」

 

 その写真にはコーディが写っている。それも、ただのコーディではない。顔を真っ赤にし、耳から煙を出しているコーディだ。元気爆発薬を飲まされた時に撮った写真を、まだ持っていたなんて。

 

「当たり前だろ? こんな面白いの、手放すわけが無い。別アングルもあるぞ」

「……ちょっとパーシーの爪を剥がしに行ってくるよ」

 

 ジョージが写真をハリーに渡すと言って脅すので、コーディはパーシーの首席バッジの文字を“石頭”にするイタズラを手伝わされる羽目になった。

 その後、コーディは誰にも鉢合わせないよう、ひっそりと漏れ鍋を後にした。




ハン・ソロとレイア姫とは言っても、コーディはスターウォーズは一作目しか見ていないので、二人がくっつくとは知りません。
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