ノルマ:一話辺り一「マーリンの髭」(達成出来ていない回も割とある)
「あーら、ポッターにロウルじゃない! とーってもお似合いよ、二人ともビビりだもの____吸魂鬼が来るわよ! ううううぅ!」
コーディとハリーが朝食を取りに大広間に行くと、パンジー・パーキンソンが甲高い声で呼びかけた。スルースキルが磨かれたハリーは当然のように無視したが、コーディはそうではなかった。
多くの生徒はコンコーディア・ロウルについてヒソヒソ話をするだけなのに(どうやら、コーディを怒らせるとブラックが来ると思っているらしい)、パンジー・パーキンソンは今まで通り面と向かって嫌味を言ってくれるのだ!
「パーキンソン、君って実は良い人だったんだね。ドラコと結婚は無理だと思うけど、出来るだけ応援するし、良縁に恵まれることを願ってる……ねえ、パンジーって呼んでもいいかな?」
「あんた、救いようが無いくらいイカれちゃったのね」
パーキンソン改めパンジーは心底見下した声音で言い返した。やっぱり裏表の無い子なんだ。それに、ソーフィン・ロウルやブラックの事を引き合いに出さない辺り、相当性格が良いに違いない。コーディの中でパンジーは“鬱陶しいパグ犬”から“名犬パンジー”に格上げされた。
「女に庇われるなんて、本っ当に情けないポッター!」
ハリーが無視してグリフィンドールのテーブルに座り、コーディが「パンジーはさあ、ドラコのどこが好きなの?」としつこく尋ねてもパンジーはめげない。
「なんだ、パーキンソンか。とびきりデカいパグ犬に噛み付かれたのを思い出したよ」
「ありゃ怖かったな。イカレ犬病にかかっちゃったんじゃないかって思ったよ」
ハリーの堪忍袋の緒が切れる直前に双子がそう言って笑い、パンジーは顔を真っ赤にして走り去って行った。コーディは自分の事をすっかり棚に上げ、「容姿いじりなんて失礼だよ!」と抗議した。
「忠犬パンジーは飼い主に可愛がってもらって嬉しそうだぜ」
ジョージの言う通り、パンジーはドラコの肩に撓垂れ掛かっていた。しかもなんと、ドラコも満更では無さそうだ_____髪型を変えたのってまさか……ドラコから何も聞いていなかったコーディは大いにショックを受けた。しかし、
「ああ、漏らしの王子様。あいつ、俺たちのコンパートメントにビビって駆け込んできて_____ここだけの話、ズボンにシミが出来てたのを見たんだ」フレッドがスリザリンのテーブルに向かって大声で言った。
「そのシミはきっと、蛇の形だったに違いないや。なんたって、スリザリンの継承者様だもんな!」
ロンがそう返し、二人は椅子から転げ落ちそうな勢いでゲラゲラと笑った。ドラコは楽しそうな表情から一点、顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいる。
「誰だって怯えるさ……あいつら、本当に恐ろしいんだ。親父が仕事でアズカバンに行った時のこと、覚えてるだろ? すっかり弱って震えてた」
しかし、いつもなら嬉々として乗っかりそうなジョージが二人を諌めた。表情が暗くて、心做しか顔色も悪い気がする。もしかすると、吸魂鬼に何か怖いものを見せられたのかもしれない_____でも、ジョージの怖いものって? 罰則や減点だって恐れないジョージが怖がりそうな物なんて中々思い浮かばない。だからこそ、他のみんなより恐ろしい思いをしたのかもしれない。
コーディはジョージの口にトーストを突っ込んだ。
さっきから時間割表を配り続けているから朝食を食べる暇が無さそうだし、辛い時に何も食べないと余計に気が滅入ってしまう。チョコレートには劣っても、何も食べないよりはよっぼどマシだろう。
「昨日はさ、色々……ごめん」
何気ない風を装いながら、コーディは内心ビクビクして謝った。昨年はジョージと一緒にいた時の事をほとんど全部忘れてしまったし、今年は顔を見ただけで悲鳴を上げた。嫌われたって仕方がない。
ジョージはしばらくトーストを咀嚼した後、時間割表の束でコーディの頭を叩いた。
「パーシーの石頭バッジに免じて許してやるよ。女の子の黄色い悲鳴には慣れっこだしな_____それじゃ、俺たちはレイブンクローの皆様にも時間割表をお届けせねばならんのでね」
「なんと、放課後には変身術と呪文学教室の掃除も待ってるんだ。マクゴ
ハーマイオニーは「新学期早々何をやらかしたのよ」と呆れてブツクサ呟いた後、渡された時間割表を見て黄色い悲鳴を上げた。「今日から新しい学科が始まるわ!」
ハーマイオニーの時間割表を覗き込んだコーディは、ロンと一緒に顔を顰めた。二人は自分の目か頭がおかしくなったのかと思った_____一日に十科目だって?
「九時、占い学! 九時、マグル学!」
「そして数占い学、九時!」
「マーリンの髭!」
ハーマイオニーはそんな二人を見もしないで時間割表をさっさとカバンに閉まった。なんと、この時間割表は間違いなんかじゃないらしい。
二人が質問したり何か言う度、「ママレード取ってくれない?」「ソーセージを取ってちょうだい」などと交わしていたハーマイオニーだが、とうとう耐えかねたのか最も効果的な一撃を放った。
「あなたたち、私のことを心配している場合? これからは、宿題がどっさり出されるのよ」
絶望した二人は質問するのをやめ、ハリーは「何しても無駄だ」と言わんばかりに肩を竦めた。
その瞬間、大広間に爆発音が響き渡った。「ホグワーツは世界一安全だ」と教えてくれた人は誰だったっけ。忘れちゃったけど、今度会ったら嘘ですよと教えてあげよう。
「スリザリンの方からじゃないか?」
四人はスリザリンのテーブルに近づいた_____きっとドラコだ。一年生の時のコーディみたいに、変な手紙が届いたのかもしれない。
野次馬をかき分けて様子がよく見える所まで近づくと、そこには肉壁となってドラコを守った二匹のゴリラと、少し髪の乱れたドラコ、それから小柄な少年が立っている。犯人は手紙ではなく、この少年のようだ。
「あれ、誰だっけ?」
ハリーが尋ねてきたが、コーディも首を傾げた。見覚えがあるような気もするが、同級生ではないから名前が分からない。ただ、聖二十八一族の誰かであることは確かだ。
「このクソ野郎! お前なんか純血の恥さらしだ! それどころか、真の純血ですらない! まがい物が!」
スネイプに引っ張られて行きながら、少年は散々ドラコを罵倒したが、ドラコはまるで何も無かったような顔をしている。
周りのスリザリン生は大慌てでドラコのローブについた煤を払ったり、「大丈夫ですか?」などと問いかけ、もう完全に“継承者様”だ。
「あの子、オワイン・バークよ。組み分けの儀式で見たわ」
ああ、とコーディは頷いた。ドラコから名前を聞いた事があったのだ。ボージン・アンド・バークスの店主であるカラクタクス・バークの息子で、今年ホグワーツに入学したのだ。
ドラコが呪われた腕輪をボージン・アンド・バークスで買ったと証言したせいで、バーク家は窮地に追いやられた。逆恨みしても仕方がない。
「僕、あいつなら仲良くしてやってもいいや」
ロンが偉そうに言った。確かに、スリザリン生のカーストトップに位置するドラコを襲った挙句罵倒するなんて、とびきり勇敢でないと出来ない。オワインはグリフィンドール生の半分よりも____少なくとも、コーディよりは余程勇敢に違いない。
今度こそ授業に向かおうとすると、誰かがコーディの脇腹にもたれかかってきた。ドラコがこちらを見たが、どうやらコーディを見ているわけではないようだ。
「大丈夫?」
紙のように真っ白な顔をした華奢な少女は消え入りそうな声で「申し訳ありません……」と返事をした後、ドラコから逃げるようにコーディの背中に隠れた。ドラコは忌々しげに舌打ちをし、パンジーたちと大広間を出ていく。
「先に行ってて。私、この子を医務室に連れて行ってくるよ」
ベッドに寝転がり、マダム・ポンフリーがくれた薬を飲むと、少女____アストリア・グリーングラスは少し元気を取り戻したようだった。体を起こし、コーディに向かって深々と頭を下げた。
とはいえ、相変わらず顔色は悪いので、そんな事をされると寧ろこちらが申し訳ない気持ちになる。
「ああ、別にいいよ。サボれてるし、お礼を言いたいくらい」
「_____マグル学の時間ではありませんでしたか?」
「下級生にまでバレてるんだ、コンコーディア・ロウルのイカレっぷり」
「さあ、どうでしょう。私の場合、お姉さまからよく聞いていますから」
医務室の時計を見ると、もう九時をとっくに過ぎている。ここにいるのが
「どうせ散々な言い草なんでしょう? まあ、仕方ないけどね」
「ええ。それはもう、レディにあるまじき罵詈雑言の数々ですわ」
コーディは思わず吹き出した。アストリアと話すのはまだたったの二回目だが、良い子なのは知っている。マルフォイ邸で間違って会ってしまった時はにこやかに、丁寧に挨拶してくれた。
ちなみに、その話を聞いたドラコは「挨拶しただけで“良い子”だなんて!」と散々バカにしてきたが、コーディの周りにまともに挨拶出来る子どもはほとんど居なかった。ドラコは信じられないくらい偉そうなクソガキだったし、二匹のゴリラはろくに喋らないし、アストリアのお姉様の方はシカトを決め込んでいた。
それに、今だって内心はどうだか知らないがにこやかに話してくれている。
「それで、私に何の話?」
アストリアは良い子で、更にとても賢い。グリーングラス家のお嬢様が敢えて取り巻きから離れ、よりによってグリフィンドール生に倒れかかってきたのは偶然ではないだろう。
実際、コーディはグリーングラス姉妹___主に姉の方から罵詈雑言を吐かれるに値することをしてしまったのだ。
「……ドラコ様はなにか仰っていましたか?」
ドラコはこの夏、ノットやダフネとの約束をキャンセルしてコーディに会っていた。名家のご子息やご息女同士の約束は、コーディとハリーが交わすようなお気楽なものでは無い。
しかもダフネはドラコの婚約者だ。グリーングラス夫妻はさぞ焦っただろう。
「申し訳ないけど、君のお姉様の事は何も。でも心配しないで、ドラコと私はそんなんじゃないし……もしそうだとしても、ルシウスさんは絶対に許さないから」
アストリアは少しの間も開けずに「でしょうね」と頷いた。理解が早くて有難いが、もう少し色々疑ってくれても良かったんじゃないか、とコーディは複雑に思った。
「そういう類のものではなく……今、ドラコ様が誰とどのような関係でも問題はありません____恋愛感情如き、何も覆せないのですから」
確かに、ドラコやダフネ、アストリアたち上流階級の子供にとっては恋愛感情なんて
幼い頃のドラコは信じられないくらい大人びた、口の立つクソガキだったし、ろくに話したこともない相手と結婚するのを当然のように受け入れていた。マルフォイ家の支援を受けるまで底辺生活を謳歌していたコーディとドラコ達とでは住む世界が全く違うのだ。
そう理解していても、ジニーと同い年の可愛らしい女の子が「恋愛感情如き」と言う様は明らかに異様だった。
「私が気になるのは
___“血の呪い”。
グリーングラス家は歴史と富を兼ね備えた真の純血名家だ。しかし、女性達には代々恐ろしい血の呪いが受け継がれている。
コーディは難しい話には詳しくないし、詳しくなろうとも思わない。だが、グリーングラス家には異常に病弱だったり短命だったりする女性がいるとか、そのせいで見下されたり色々と噂される事があるとかは何となく知っていた。
「でも……ダフネは健康だし、グリーングラス家よりもマルフォイ家に相応しい家系なんてもう無いよ」
パーキンソン家やカロー家はマルフォイ家と並ぶには家の格か財力が足りない。ブラック家は滅び、ノット家には男児しかいない。釣り合いそうな女性はドラコとは歳が離れすぎているか、既婚者かだ。ただでさえ、魔法界は少子化に苦しんでいる。その中で「歳の近い女性、純血、裕福」なんて条件もあるのだから誰も見つからない。
血の呪いがどうであろうと、ドラコにはダフネ・グリーングラスしか選択肢が無いのだ。
「それはもちろん、理解しています。しかし_____スリザリンの継承者は、呪いを受けた……穢らわしい血を軽蔑するはずです。姉は昨年、いつ粛清されるかと怯えていました」
「あれはドラコの意思じゃないよ」コーディは諭すように言った。
他のスリザリン生が勘違いしてドラコを敬ったり恐れたりするのはどうでも良いが、アストリアまでそうだとさすがにドラコが可哀想だ。
ダフネとドラコは仲が悪くはなかったはずだし、幼いアストリアとも遊んでやってたり、威張ってホグワーツがいかにスリル満点か教えてやっていただろう。
そんなドラコがグリーングラス姉妹を粛清しようとするはずがない。
「本当にそう思っているんですか? 何故かコンコーディア様だけが奇妙な襲われ方をし、他の被害者と違って記憶を失ってしまったのがただの偶然だと? そこにマルフォイ家の思惑は一切絡んでいないと?」
アストリアはコーディから目を逸らさず、真っ直ぐに見つめ続ける。
やっぱり住む世界が違う人間だ。もし自分の姉の婚約者が____残念ながら、姉も姉の婚約者もいないけど____自分を軽蔑したり粛清しようとしていたら……コーディは思考を放棄するだろう。どうせマルフォイ家には敵わない、考えるだけ無駄だから。
コーディは自然にアストリアから目を逸らし、立ち上がった。
「____こんなにおしゃべり出来るならもう大丈夫だね。私はマグル学教室に行かないと。じゃあ、お大事に」
医務室を出ていくのと同時にチャイムが鳴る。残念ながら、初めてのマグル学は不参加に終わってしまった。
なんと、初回マグル学不参加。
バーク少年は二つ下の設定です。
第三章、この先も含めていちばん恋愛要素が多い章になるかもしれない。