マグル学のすゝめ   作:バナナ牛乳

43 / 46

『第二十一話 闇の魔術に対する防衛術』
セリフを一つ付け足しました。クィディッチのシーンです。
全く重要ではないですが、人によっては重要かもしれない。ちなみに、お辞儀関連です。


第三十九話 不吉な予感

 

「ねえロン。このシミ、死神犬に似てない?」

 

 コーディの魔法薬学の教科書についたシミを見て、ロンは顔を真っ青にして悲鳴を上げた。

 

 占い学の授業でハリーがくだらない死の予言を受けて以来、ロンはずっとこの調子だ。“雲の形が死神犬に似ている”と言い出したかと思えば、とうとうパンジー・パーキンソンを見て「マーリンの髭! シリウス・ブラックがやってくる前兆だ……」と真剣に語り出すまでになってしまった。

 

「ロン、落ち着いて。よくあるシミよ。それに、何度も言ったけど_____占い学なんてただの当てずっぽうよ。あんなの、誰だって少し考えれば出来るわ」

「君は何も分かっちゃいない! ネビルの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だって、死神犬を見て死んだんだ!」

「それは寿命よ!」

「ねえロン。今、犬の鳴き声が聞こえなかった?」

 

 ロンは「ほら見ろ!」とハーマイオニーに怒鳴り、スキャバーズはポケットから脱出しようと暴れた。シリウス・ブラックと死神犬の恐ろしさはネズミ界にも広まっているのだろうか? 

 

「ちょっと、コーディは黙ってて!」

「一年生の時みたいで懐かしいね。……ごめんって、冗談だよ」

 

 コーディは肩を竦めて言ったが、ロンはそんなの聞いちゃいない。もう何度目かも分からない、ビリウスおじさんの恐ろしい死に様について語り始めた。もうすっかりブラッシュアップされ、テンポが良くなっている。

 

「どうせただの犬だよ」

 

 といっても、ロンとハーマイオニーは激しい言い争いの最中だし、ハリーは怖がっていない。だから、これは自分に言い聞かせているんだろう。

 

 シリウス・ブラックの脱獄、ハリーが夏休みに見た大きな黒い犬、そして死の予言。ただの偶然と言うには不吉すぎる。

 一年生の時、クィレル先生は_____例のあの人はハリーを殺そうとしていた。二年生の時はバジリスクと戦った。三年生も、何か恐ろしいことが起きる気がする。

 

「君は純血なのに死神犬が怖くないんだね」

「違うよ、占い学を信じてないんだよ。あんなのはただのインチキ」

 

 _____だって、ママの占い学の成績は“優”だった。だからきっと、コーディの不吉な予感も胸騒ぎもただの気のせいだ。

 

 

 

 魔法生物飼育学の授業に向かう途中、ロンとハーマイオニーは一切口をきかなかった。コーディとハリーはその後ろを静かに歩きながら、二人がいつ仲直りするかを賭けていた。

 ちなみに、コーディは“夜に仲直りする”にネビルの蛙チョコのレアカード(なんたって、今日は変身術の宿題がどっさり出たのだから!)を、ハリーは“明日の朝何も無かったように話し出す”にロンが持っているキャノンズの選手のブロマイドのうちの一枚を賭けた。

 

「おお、早く来いや!」

 

 少し歩くと、ハグリッドがワクワクしながら呼びかけてきて、コーディは猛烈に嫌な予感がした。双子曰く、ケトルバーン先生はかなりイカれているらしいから、ハグリッドを助手にしたっておかしくない。

 

「やっぱりケトルバーン先生って、かなりマーリンの髭なのかな?」最早スキップでもし始めそうなハグリッドに着いて行きながら、コーディはハリーにヒソヒソ声で話しかけた。

 

「ケトルバーン先生? ああ、コーディは知らないんだね。魔法生物飼育学の担当は……」

 

 ハリーの声は遮られた。ハグリッドが大声で話し始めたからだ。

 

「イッチ番先にやるこたぁ、教科書を開くこった! 今から授業を始めるんだからな! 俺たちの初授業だ!」

 

 コーディは絶望した。

 もちろん、ハグリッドの事は大好きだ。優しくて良い友達だ。たけど……どう贔屓目に見たって良い先生には見えないし、“安心・安全”という観点においてはあのスネイプにも格段に劣る____そもそも、コーディやネビルがしょっちゅう怪我をしそうになるのはスネイプの責任ではないのだが。

 

教・科・書を開くですって?  教科書なんてあったかな……まさか、これがそうだと言うんじゃありませんよね? ()()! ()()のユーモアのセンスは抜群ですよ! 僕らの腕を噛みちぎろうとするケダモノを“教科書”だなんて!」

 

 案の定、ドラコの嫌味ったらしい声とスリザリン生の嘲笑が響き渡った。ハグリッドは『怪物的な怪物の本』の使い方を控えめに説明した後、巨体に似合わぬ儚げなオーラを漂わせながら禁じられた森に向かった。コーディはまた猛烈に嫌な予感がした。

 

「まったく、あの老いぼれは何を考えているんだ? あんな()()()生き物が僕らに教えるだなんて、父上に申し上げたらたいそう嘆かれるに違いない。ああ、ホグワーツを完璧に浄化出来れば良かったのに」

 

 スリザリン生たちはまたどっと笑ったが、ドラコから少し離れた所に立っているダフネ・グリーングラスの笑みは引き攣っていた。いや、ダフネだけではない。よく見ると、他の多くのスリザリン生も必死に口角を吊り上げているだけだ。みんな、継承者を匂わせる発言に恐怖しているのだ。

 “マルフォイ家の次期当主”で更に“スリザリンの継承者”になってしまったドラコの周りに、心から笑ってくれる人はいるんだろうか。_____ドラコ自身すら、心から笑っていないんじゃないか。

 

 そんな風に考え込んでいたのが良くなかったのかもしれない。

 

「コーディ、どうだ?」

「ウン」

 

 コーディはハグリッドの縋るような声にも目つきにも気付かず生返事をしてしまった。ハリーの「コーディ?」という声で我に返ると、周りにはもうハリー、ロン、ハーマイオニーしかいない。

 おまけに、前を見ると絵本でしか見た事のないような生き物____ギラギラした目に、コーディの手よりも大きそうな鉤爪を持つヒッポグリフ達が立っている。首輪が気に食わないのか、羽をばたつかせている。これ以上近づいたら蹴られてしまいそうだ。

 

 事情を察したのか、ハリーが「僕もやるよ」と名乗り出た。トレローニー信奉者のラベンダーとパーバティは必死に引き止め、ハグリッドは感激している。

 二人はハグリッドの言う通り、目をかっぴらき、ゆっくりとヒッポグリフに近づいた。

 

「二人とも、ええ調子だ……そうだ……次は、

 

____お辞儀だ

 

 その瞬間だった。

 

 コーディは考える間もなく背筋を真っ直ぐに伸ばし、足を揃え、直角にお辞儀をした。

 今まできちんとしたお辞儀をする機会なんて多くはなかったのに、まるで何度もしてきたみたいに体が覚えていたのだ。あまりの美しいお辞儀に、スリザリン生ですら息を飲むほどだった。

 

「やったぞ! ほーうら、撫ぜてやれ! よし_____そんじゃ……素ン晴らしいお辞儀をしたから、こいつは背中に乗せてくれると思うぞ。ご褒美だ」

 

 ハグリッドはそう言うが早いか、こっそりと逃げ出そうとしたコーディを引っ捕まえ、ハリーの後にヒッポグリフの背中に乗せてしまった。コーディはヒッポグリフが暴れ出すんじゃないかと不安だったし、“ご褒美”という言葉の意味もよく分からなくなってしまった。そして最後に、自分のお辞儀の才能を恨んだ。

 

 _____うるさく悲鳴を上げて、ハリーに間抜けだと思われるのは嫌だ。チョウ・チャンみたいに、優雅に空を駆け回れたらいいのに。

 でも、ハリーと空を飛べるのは嬉しいし、でも……。

 

 そんなコーディの葛藤も知らず、ヒッポグリフは飛び上がってしまった。先程までの乙女心は消え去り、コーディは情けない悲鳴をあげながらハリーにしがみついた。

 

「コーディ、目を開けてよ!」

「嫌だよ! 私は飛行狂じゃない!」

 

 ハリーも最初のうちは不安だったのだが、後ろで自分以上に怯え、大袈裟に悲鳴を上げるコーディがいるおかげで、むしろ楽しくなってしまったのだ。

 しかし、ハリーが何度誘ってもコーディは目をぎゅっと閉じたまま首を横に振った。怖い時は目を閉じて、ただ終わるのを待つのが一番良いから。

 

「大丈夫。僕を信じて」

 

 

 ハリーがコーディの手を掴んでそう言った瞬間、時間が止まったみたいだった。

 

 ヒッポグリフのあまり良くない座り心地も、揺れも、顔を殴る風も気にならない。水面には目を丸くしたコーディと、笑顔を浮かべたハリー、楽しそうな顔をしたヒッポグリフが写っている。

 今まで気にも留めなかったような木々の揺れる音が聞こえ、空はガラスのように透き通っていた。

 

 コーディは生まれて初めて、空を飛ぶことが好きだと、楽しいと感じた。

 

 ドラコと箒に乗るのは嫌いではなかった。ドラコが楽しそうにしているから。でも、箒に乗ることは_____空を飛ぶこと自体はどちらかというと苦手だった。

 飛行機が素敵だと思ったのは空を飛べるからじゃない。マグルの科学力やかっこいい見た目に惹かれたからだ。

 

 ヒッポグリフは放牧場の上空を一周し、地上に降り立った。コーディは振り落とされそうになり、ハリーにしがみついた。

 

「大丈夫?」

 

 ハリーに支えられてヒッポグリフから降りる時、コーディは腰を抜かしそうになった。飛行が怖かったからとか、やっと終わった安堵からではなく_____いや、それも少しはあるかもしれないけど。

 

 乱暴な飛行のせいでとんでもなくグシャグシャになってしまった黒髪が、爛々と輝いているグリーンの瞳が、少し上気した頬が、笑みを浮かべた口元が、コーディに手を差し出すその仕草が、あまりに素敵だったから。

 

 空を飛ぶのが楽しかったのはヒッポグリフのおかげじゃない。

 

 コーディはようやく気づいた。いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ____君がハリー・ポッターに恋するなんて、傑作だ! 

 ____SPEWが出るほどおかしいしグロテスクだ。

 

 頭の中でそんな誰かの声が響く。コーディはまるで厄介な風邪でも引いたみたいに、ぼうっとしてどこかを見つめていた。

 

 他の生徒たちは二人の成功を見て、ヒッポグリフに興味を持ったようだった。ネビルは何度か逃げた後、どうにか撫でることに成功し、ロンとハーマイオニーは一緒に栗色のヒッポグリフにお辞儀していた。賭けはコーディとハリー、どちらの勝ちでもないらしかった。

 

「あんな奴らに出来るんだ、簡単に違いないと思ったよ! _____そうだろう、醜いデカブツの野獣くん? ああ、どうせこの言葉の意味も分かりはしないんだろう、なんたってお前達は……」

 

 ドラコが大声で数頭のヒッポグリフに話しかけた。ヒッポグリフ達は不機嫌な顔をしていて、ようやく我に返ったコーディは「ちょっと!」と注意したが、言い切る前にドラコの絶叫が響き渡った。

 

 ドラコのローブの血はどんどん広がっていく。他の生徒たちも大きな悲鳴を上げながら散り散りに逃げて行く。

 

「死んじゃう!」コーディはドラコの元に駆け寄ろうとしたが、ハリーがそれを止めた。「危ない!」

 

 離れていたヒッポグリフもパニックに陥ってしまったようで、けたたましい鳴き声を上げながら羽をはためかせていた。ハグリッドはなんとか首輪を繋ぎ、ドラコを抱えた。

 

 ハグリットがゲートを開け、ドラコの腕の裂け目から血が点々と飛び散り、たまらずへたりこんだコーディの顔にも掛かった。

 その時、コーディはドラコと目が合った気がした。

 

 悶え苦しんでいるはずのドラコの目は氷のように冷たくて、そこには何の感情もなかった。

 

 

「うわっ、酒く……」

 

 コーディたちが小屋を開けた瞬間、未成年には強烈な酒の臭いが四人を歓迎した。ハグリッドはシャツ姿で、椅子にも座らず、バケツジョッキとファングを抱きしめている。

 いくらハグリッドが並外れた巨体とはいえ、バケツジョッキを何杯も飲んで平気ではいられまい。独りにするのは酷だ。

 

「ハグリッド、私も付き合うよ」

 

 コーディがハグリッドの肩を叩き、テーブルの上にあった(ハグリッドが持っているのに比べれば)とても小さな錫生のジョッキを手に取った瞬間、ハリーが素早くそれを取り上げた。

 

「絶対、ダメ」

「あなた、十三歳でしょ!? それに、ここは学校よ!」

「君、お酒飲んでるの? いいなあ、僕、滅多に飲めないんだよ。ママがダメって……あー……いや、何でもない」

 

 _____心の傷は二日酔いで上塗りするのが一番なのに、という言葉をぐっと押し込み、コーディはもう一つのバケツに水を汲んでハグリッドに渡した。

 

「マルフォイはまだ傷が疼くと言っとる……俺はもうダメだ……すぐに理事たちにクビにされる……」

 

 コーディは再び、「だろうね」という言葉をぐっと押し込んだ。何せ理事会のボスはルシウスさんだし、ルシウスさんに積極的に逆らおうとする理事は多くない。それに、理事のほとんどは、明らかに巨人の血が入っているハグリッドが教師をすることを良く思っていないだろう。

 

「いいえ、ハグリッドに責任は無いわ! ヒッポグリフに関する説明もあったし、他の生徒はみんな無傷だもの」

「そうだよ、僕たちが証人だ」

「僕、全部正直に話すよ。“マルフォイの自業自得だ”ってね」

 

 三人の頼もしい言葉にも関わらず、ハグリッドはまだがっくりと項垂れたままだ。それどころか、さっきからこちらを見ようともしない。コーディはしばらく考え、その原因が自分にあることに気づいた。初授業で生徒を怪我させてしまった事、クビになるかもしれない事、ダンブルドアの顔に泥を塗るかもしれない事______それから、友達(コーディ)友達(ドラコ)に大怪我を負わせた事も気がかりなんだろう。

 

「ハグリッド、大丈夫。みんなの言う通り、あれはドラコが悪いんだから。幼稚なんだよね、いっつも。それに、ハグリットは良い先生だよ。だって私、すごく楽しかった……」

 

 ハグリッドはそこでようやく顔を上げ、四人をギュウギュウ抱き締めた。

 

「みーんな、本当に優しい子だ。コーディ、マルフォイは大事な友達だろう? あいつはまだ痛がっとって……」

 

「どうせ演技だ」ハリーがピシャリと言った。

 

「それでもだ、ハリー。誰だって、友達のことは心配だ。辛かったろう。前みたいにちょいと呑もうや。バジリスク酒じゃねえが、まだこーんなに……」

 

 ハグリッドがバケツジョッキを見せようとした瞬間、ハーマイオニーが大きく咳払いをした。

 

「ハグリッド、もう十分飲んだわよね? ……それと、コーディ、後でいろいろと()()しましょうね」

 

 コーディは声にならない悲鳴を上げ、ハグリッドはバケツを持ち、ハーマイオニーと共に出て行った。ロンが「ドンマイ」とコーディの肩を叩いた。

 

「でも、ハーマイオニーが正しいよ」ハリーがそう言った直後、水の撥ねる大きな音と、雷鳴のような怒鳴り声が響いた。

 

「お前たち、なんでここにおる! ハリー、暗くなってから外に出るな! 絶対に、ハリーを出しちゃいかん!」

 

 ハグリッドはそれからほとんど一言も喋らず、四人を城まで送り届けた。

 コーディが三人に続いて、「飲み過ぎないようにね」と言って寮に入ろうとすると、ハグリッドが呼び止めた。

 

「コーディ、お前さんも……」

 

 _____ああ、そうだ。ハグリッドは全部知っているんだ。

 いいや、ハグリッドだけじゃない。少し詳しい人間なら、誰だって知っている事だ。ハリーにバレるのも時間の問題だろう。

 

「そうだね、ソーフィン・ロウルはブラックの()()()友達だもんね」




〇ストレスフルドラコ、一頭どころか数頭のヒッポグリフを煽る。原作よりややウザめ。

〇ソーフィンは「シリウス・ブラックは死喰い人ではなかった」と正直に証言したためシリウスと親しかったと勘違いされています(第三十四話)。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。