あけましておめでとうございます。
本当に大した事が何も起きない、普通に学生してる回です。多分今までで一番平和。
ドラコが再び姿を現したのは木曜日の午後、魔法薬学の時間が半分近く過ぎた頃だった。包帯を巻いた右腕を吊り下げ、まるで死地から帰還した英雄のように堂々と地下牢にやってきた____あんなに腹立つ表情が出来るなら、もう充分元気なんだろう。
「マダム・ポンフリーは一晩で骨を生やせるんだぜ? あんなの、絶対必要ない」ロンがきっぱりと言った。
「どうだろう。スニッチも掴めないくらい脆い腕だから手こずったのかも」ハリーが嫌悪感を露わにしながら言った。コーディはハリーの言葉のセンスが好きだけど、ドラコへの悪口となると少し複雑だ。
他のグリフィンドール生たちもコソコソ悪口を言ったり、舌打ちをしたり、睨んだりしていて、スリザリン生たちはドラコの周りを取り囲んで称えている。
「でも、結構な大怪我だったよ。面会に行ったら追い返されちゃったし」
コーディは誰にも聞こえないくらい小さな声でそう呟いた。本当は一刻も早くドラコに会って、元気か確かめたかったのに。
パンジーがドラコの右腕を優しく触り、潤んだ瞳で何か問いかけている。ドラコは真剣な表情で向き合っている_____「あの二人って、恋人繋ぎとかしたのかなあ」
コーディがそう言うと、材料の薬草を取りに歩いていたハリーは顔を顰め、大鍋をかき混ぜていたロンは「うげえ」と吐く真似をした。
「でもさ、友達同士だって指を絡めて手を繋ぐ事はあるよね? 恋人になると感じが違ってくるのかなあ。ねえ、ネビルはどう思う?」
一年生の学年末、それからバックビークに乗った時。ハリーの手に触れたことは何度かあるけど、それはきっとドラコとパンジーの触れ合いとは違う_____コーディが意識しても、ハリーは何とも思ってない。コーディは頬杖をつき、物憂げな表情でため息をついた。
「知らないよ! それどころじゃないよ! 見てよこれ!」
「ネビル、そういうのは良くない。将来恋人が出来たら、絶対喧嘩になるよ」
コーディはそう言いながら、テキトーにカタツムリの殻を刻んだ。手際はとても良いが、大きさも形も全てバラバラだ。
「……コーディ、本当にそれどころじゃないよ! 百味ビーンズの鼻くそ味みたいな色をしてる!」
ネビルが大鍋の中を指さした。本当なら透き通った明るい緑色になるはずだった液体は、何故だかトロールの鼻水くらい濁っている。おまけに、去年ロンが吐き出したナメクジくらい粘ついている。
「さっき、反時計回りにかき混ぜた?」
「そう……だったかな。エッ、もしかして正解は時計回りだった? どうしよう、また間違えちゃった……」
ネビルがガタガタと震え始めた。スネイプは今ハリーたちのテーブルにいて、ロンがドラコのために切ったカタツムリの殻が滅茶苦茶なのを叱っている(スネイプはドラコの怪我を理由に、ハリーたちに魔法薬作りを手伝わせているのだ)。もう少ししたらこちらに来るだろう。
「大丈夫だって、ネビルだけのせいじゃないよ。私もさっきツメトギグサを三掴み入れてみたから、色が変わったのはそのせいだと思う」
「なんで!?」
「アレンジを加えようと思ってね。甘い方がいいでしょ?」
コーディが肩を竦めて言うと、ネビルはまだガタガタ震えたまま、今度は顔が真っ青になった。二人が魔法薬学の時間にやらかすのはいつもの事で、スネイプが叱ったり嫌味を言ったり皆の前で二人を散々こき下ろして減点するのも、何故かついでにハリーを減点するのもいつもの事だが、ネビルはその度こんな風に怯えるのだ。
「だーいじょうぶだって、ネビル。すーっごくマーリン・アンド・髭な良いことを教えてあげようか?」コーディはネビルの肩を引き寄せた。
「まず第一に、みんなの前で叱られるのはいつもの事だから怖くないし恥ずかしくない。第二、減点されてもハーマイオニーが他の授業で、ハリーがクィディッチで取り返すから寮杯は確実。それと、減点点数ナンバーワンは双子だからそもそも問題ない」
ネビルは震えながらコクコクと頷いた。これもいつもの事である。
「第三、スネイプは別に怖くない。私は寧ろスプラウト先生の方が怖い。ああいう人格者が怒った時どうなるか____スネイプなんて、ガキに八つ当たりしてるだけの小物、可愛いコウモリちゃんだよ」
コーディは少し気が大きくなってきて、更に続けた。
「まだあるよ。第四、留年は絶対しない。だって、
うん、今までの励まし文句の中でもかなり良い。
コーディは胸を張り、ロックハートばりの完璧なスマイルとウインクも加えたが、ネビルの顔色は良くなるどころか紙のように真っ白で、震えはますます激しくなっている。
「ネビル、まーだ怖いの? ツメトギグサをもう一摘みっと……スネイプなんて怖くなー……い……ことは無いです」
息も絶え絶えになったネビルの視線の先には、信じられないくらい意地悪な顔をしたヒトガタオオコウモリ_____じゃない、スネイプが立っていた。不揃いな黄色い歯を剥き出しにして笑っている。
「緻密で繊細な工程を有する魔法薬を“アレンジ”とは____ロウルは我輩の指導に不満をお持ちらしい」
「そんな、ただのおふざけですよ」
「この程度の魔法薬ならおふざけをしながらでも作れると? ようやく
スネイプが「父親」と言った瞬間、地下牢は静まり返った。まったく、どこまでも意地の悪い奴だ。
「いえいえ、スネイプ教授もご存知の通り、わたくしめの成績は底辺も底辺でございまして……」
しかし、スネイプはコーディの言葉をまるまる無視して続けた。
「ロウルには、完成した『髪を逆立てる薬』を飲んでもらうことにしよう。父親と同じく優秀なロウルなら、皆の手本になってくれることだろう」
「スネイプ先生、私が悪かったです」
「もし作り方を間違えていれば、髪が抜けたまま一生生えなくなったり、油まみれになる事があるが……非常に優秀な父親を持つロウルには関係の無いことだろう」
スネイプはもう、コーディが何を言ったって反応する気は無いようだった。立つのさえやっとな程のネビルが勇敢にも、「先生、無茶です!」と抗議したが、スネイプはマントをばさりと翻し、反対方向に去って行く。
「スネイプの髪型の謎がやっと解けたね。きっとこの薬の失敗作を飲んじゃったんだ。てっきり、トリートメントのつけすぎだとばっかり」
コーディは今にも倒れそうなネビルを元気づけようとしたが、具合は全く良くなりそうにない。おまけに、スネイプから五点も減点されてしまった。
「ハーマイオニー、助けてよ!」
「今回はダメ。真剣にやらないからいけないのよ。スネイプ先生もきっとそう仰りたくて……」
「頼むよハーマイオニー。それに、パーバティにラベンダー。君達、友だちがクィレル先生かスネイプとお揃いのヘアースタイルになってもいいの?」
コーディと仲良くするとブラックに目をつけられると思い込んでいるラベンダーだけはサッと目を逸らしたが、ハーマイオニーとパーバティはしばらく見つめあった後、溜め息をついた。どうやらまた
ハーマイオニーがスネイプに見つからないよう手順を指示し、パーバティはこっそり材料を均等に切り、ディーンも火加減を見守っている。
美しい友情に感謝しながら作業を進めていると、少し離れたところからドラコの声が聞こえた。「____ポッター。臆病な君は何もしないだろうな。僕だったら絶対復讐してやるのに……シリウス・ブラックが何をしたか……」
「ドラコ!」コーディがそう言うのとほぼ同時に、スネイプが叫んだ。
「ロウル! 時間だ。諸君、ここに集まりたまえ_____よく見るのだ」
生徒たちがコーディを取り囲んだ。グリフィンドール生の半分くらいは心配していて、スリザリン生____特にパンジーとセオドール・ノット____は嬉々として見物している。
「グッバイ、マイヘア」コーディはそう言って、ハーマイオニーたちのおかげで何とか緑色になった薬を一気に飲んだ。頭が軽くなった気も重くなった気もしないが、なんだか変な感じがする。
「グリフィンドール、五点減点。次の授業は『出しゃばりが治る薬』にするべきか? グレンジャー」
スネイプの機嫌の悪さから察するに、成功だったらしい。コーディはホッと胸を撫で下ろし、愛しのマイヘアを触った。髪の毛が____無い? いや、違う。全部上に行ってしまったんだ!
「そのヘアスタイル、最高だぜ!」ディーンが親指を立てて言った。コーディの事をブラックの仲間だと疑っているシェーマスですら笑いを堪えていて、ロンは笑っていて、ハリーも……。
「なんと! 素敵なヘアスタイル!」
授業が終わってすぐ、コーディは厨房に向かった。大広間でこの斬新なヘアスタイルを見せびらかす気分にはなれなかったからだ。
屋敷しもべ妖精たちは皆この髪型を直す方法は知らなかったようで、ミニーという屋敷しもべ妖精からもらったグラタンを食べていると、馴染みのあるキーキー声が聞こえた。
「ドビー!? なんで?」
「屋敷しもべ妖精転勤室と話し合ったのでございます!」ドビーは胸を張って答えた。細い胸にはフレッド特製の
厨房がザワつき、他の屋敷しもべ妖精たちが信じられないといった目でドビーを見た。ひとつの家に長く仕え続ける事を誇りとする屋敷しもべ妖精達にとって、『屋敷しもべ妖精転勤室』を頼るなんて大恥もいい所だ。ミニーなんて、ザカリアス・スミスがコーディを見る時と同じような目でドビーを見ている。
______友達はいないっぽいけど、まあ楽しそうだしいいか。
「お嬢様がいない間、お屋敷の管理だけをするのは退屈にございます! なので、お嬢様の近くで、もっと楽しそうな場所……ホグワーツなら、きっと素晴らしいと思ったのでございます!」
「それで、ホグワーツは素晴らしい?」
「はい! それはもう! 広いお城はワクワクします! それに何より、ダンブルドア校長先生はドビーにお給料とお休みをくださいます」
ドビーがそう言った途端、厨房の端の方で何かが落ちる音と悲鳴が聞こえた。
「もちろんドビーは値切りました……ダンブルドア校長先生は週十ガリオンと仰ったのですが、月十シックルで充分にございます。お嬢様からもお給料を頂いていますから」
「そっか。まあ、ホワイトな職場で何よりだよ。私もドビーと傍にいれて嬉しいしね。でも、なんでもっと早く教えてくれなかったの?」
別に、「ご主人様にダブルワークの許可を求めろ」なんて言うつもりは無いけれど、家族としては少し寂しい。
「サプライズにございます!」ドビーは大きな目を更に大きく見開き、胸の前で両手を合わせて言った。「サプライズ?」
「ええ! お友だちに勧められたのです!」コーディはまたオウム返しした。「お友だち?」
「はい、あちらに!」ちょうど厨房の扉が開き、燃えるような赤毛の背の高い少年が入ってきた。ジョージだ。
「クールはいるか? ネビルからここにいるって聞いたんだ……ミニー、ブルーベリー・ジャムを……嘘だろ、マーリンの髭!」
ジョージがコーディの髪の毛を見てゲラゲラ笑った。コーディは急いで髪の毛を隠そうとしたが、手では隠し切れなかったので諦めた。それに、ジョージには見られたって気にならない。
「ハロウィーンにはまだ早いぜ」
「知ってるよ、放っといて」
ジョージはミニーから受け取ったブルーベリー・ジャムを、持っていた瓶に入れて振り始めた。どうやら相当入り浸っているみたいだ____まあコーディも、ハーマイオニーに隠れてよく来ているのだけど。そういえば、初めて来たのはいつだっけ? そもそも、入り方はどうやって知ったんだっけ。
「髪型、どうしたんだ? イメチェン? ドビーのアドバイスか?」
「いいえ! ドビーは全く、思いつきもしませんでした……ああ、ドビーにも髪の毛があれば……」
コーディは盛り上がる二人を無視して小さなソファに寝転がった。髪を直すために厨房に来たって言うのに、何の進展もない。ドビーは直してくれないだろうし、ドビーがいる限り他の屋敷しもべ妖精たちは近寄ってこないだろう。
「まさか____自分でやったんじゃないのか?」
「マーリンの髭。ジョージって、私の事を何だと思ってるの?」
「とびきりクレイジーでクールな奴」
「そりゃどうも。女の子に対する褒め言葉とは思えないけどね」
コーディは完全に不貞腐れた。別にジョージに“女の子”と思われたい訳じゃない_____ただ、ジョージがそうって事は、ハリーも
「で、誰にやられたんだ」ジョージの声はもう全くふざけていなかったが、コーディは全く気が付かなかった。
「スネイプ。授業で」
「相当怒らせたんだろ? でもいいじゃないか、ますますクールになった。大広間に行こう、見せびらかそうぜ」
「絶対イヤ。闇の魔術に対する防衛術、サボろうかな」
「いいや、魔法史ならいいが、闇の魔術に対する防衛術なら絶対に行くべきだな。俺はまだだが、あのくたびれた先生、随分面白い授業をするらしいぜ」
「ふーん」コーディは気のない返事をした。随分面白い授業と言ったって、闇の魔術に対する防衛術の教師へのハードルはもう下がる所まで下がっている。ちょっと呪文を唱えさせてくれるだけでも、皆「素晴らしく実践的な授業だ」と絶賛するだろう。
「どうしたんだよ、そんなにこの髪型が嫌か?」
「そりゃあね。だって、ハリー……笑ってた」
正確には“笑いを堪えていた”かもしれない。いや、本当は見ていない。見るのが怖かったし、見られるのが怖かった。
チョウ・チャンの綺麗な黒髪を思い出す。それに、パーバティのはっきりとした整った目鼻立ちや、ラベンダーの女の子らしくて可愛い仕草。
あんな風だったら、ハリーはコーディを“女の子”として見てくれただろうか。
「____おお、これはこれは、なんと!」ジョージは少し考えた後、すぐにニヤニヤしてコーディの顔を覗き込んだ。
「カボチャ頭になって喜んでいたミス・ロウルはどこに行ってしまわれたのか!」
「カボチャ頭? ……ああ、一年生の時か。そんな事もあったね」
一年生のハロウィーンパーティー。コーマック・マクラーゲン達に呪いをかけられてカボチャ頭になってしまったのが、もう随分昔の事のように感じる。あの時から何もかも変わってしまった。大半が良い事なはずなのに、どうしてほんのり怖いんだろうか。
「直してやろうか?」ジョージの、コーディの髪の“ツンツン”を触る手つきがほんの少し優しくなった。
「いや、断る。そう言ってイタズラするつもりでしょ」
「心外だな。恋する乙女の邪魔をするほど野暮じゃないぜ。マセガキのジニーがヘアセットで失敗した時、よく直してやってたんだ」
「べ、別に、恋する乙女なんかじゃないよ!」コーディは慌てて否定した。
「ふーん、それならいいけど。でも整髪剤は貸してやるよ。闇の魔術に対する防衛術の初めての授業で、その髪型は恥ずかしいだろ?」
ジョージはそう言ってカバンから丸い入れ物を取り出し、コーディの髪の毛に塗り始めた。不思議なことに、男の子に髪の毛を触られているって言うのに、コーディは全く気にならなかった。
もし兄がいたら、こんな感じだったんだろうか。そういえば、いつかジョニーにもこうされた事があったっけ。確か編み込みをしてもらったんだ。お砂糖がキラキラしていて、ジョニーはやけに饒舌で上機嫌だった。きっとお母さんのお酒をこっそり飲んでいたんだろう。
「ジョージはさ、どうして私に話しかけようって思ったの?」
「なんだよ、今更」
「だって、ロンもパーシーもフレッドも、最初は私の事を嫌ってたじゃない」
何故かジョージだけが、コーディの正体を知っても笑顔で話しかけてくれた。コーディの記憶が無くなっても、ジョージは怒ったりしなかった。入学した時から唯一変わらないものがあるとすれば、それはジョージとの関係かもしれない。
「大した理由なんかない、ただの気まぐれさ____ほら、髪は直ったぜ。早く行かないと遅刻するぞ」
コーディの髪型はスーパーサイヤ人、もしくは『今日から俺は!!』の伊藤イメージ。
それと、ドビーがホグワーツに来るのが一年早まりました。
コーディからも給料を貰っているので、ダンブルドアから貰う給料が月一ガリオンから月十シックルに減ってます。
平和な日常回をどうしても入れたかったんですが、平和すぎるあまり書いていて退屈で手こずっていました。