昨夜、コーディたちの部屋は阿鼻叫喚だった。
ラベンダー・ブラウンは「こんな人と同じ部屋なんて!」と泣き叫んで寮監のマクゴナガルに抗議しに行き(もちろん突っぱねられた)、パーバティ・パチルはマグル生まれのグレンジャーに、コーディから最も離れたベッドで寝るように指示した。コーディのおかげで三人の女子生徒の絆が深まったようだった。
コーディは完全に寝不足だったので、ろくにご飯を食べる気にならなかった。一方、隣に座るハリーはすっきりした顔をして目玉焼きを食べている。
「コーディ、眠れなかったの?」
「うん。ウォークマンが壊れちゃったみたいなんだ、あれが無いと安眠出来ないんだよ」
「そうなんだ、僕は疲れてすぐ寝ちゃった。あ、眠れない時はここを押すといいってテレビで言ってたよ。ツボ押しって言うんだ……えい」
「イタッ! ハリー、私に何の恨みがあるの……ああ、やっぱりハリーも死喰い人の娘と一緒にいたくないんだ……」
「違うよ、本当にテレビで言ってたんだって!」
少しすると、バタバタとうるさい足音を立ててロンがやって来た。ネクタイは結ばれていないし、髪の毛もボサボサだ。
ロンはコーディとハリーが仲良さそうに話しているのが気に入らないらしい。
「うっげー、マジかよ」
「おはよう、ロニー坊や。良い朝だね」
「君がいればいつだって最悪さ」
他の生徒たちはやはり、生き残った男の子の前では何も出来ないようだった。「ハリー、君、服従の呪文をかけられているんじゃないの?」なんてセリフはもう十回以上聞いたけど。
「魔法使いって、みんなこんな所に住んでるの?」
ハリーがゼエゼエ言いながらコーディに問いかけたが、コーディが答えるより先にロンが「こんなに階段がたくさんある家なんて無いよ!」と言った。
「マルフォイ邸はほんの少ーしだけこんな感じかな。部屋が何個あるか、未だに知らないんだよね」
ハリーとロンは多すぎる階段以外にも、丁寧にお願いしないと開かない扉や、くすぐらないと開かない扉なんかにとても驚いていた。コーディがいなければ、二人は間違いなく遅刻していただろう。
地下鉄に比べれば、よっぽど簡単だと思うけどな。地下鉄の正体って他国から来た敵を閉じ込めるためのダンジョンらしいし。
「薬草学って最悪だ」
「スプラウト先生は好きだけど、植物って全然面白くないし」
「あの花は何に使うんだろう。汁が飛んでこないか怖くって、授業どころじゃなかったよ」
ロンがマダム・ポンフリーに薬を塗られるのを見ながら、コーディたちは口々に薬草学の文句を言った。
ハッフルパフの生徒がコーディに向かって“膿み花”の茎の液体を飛ばしてきたので、避けたらロンにかかってしまったのだ。幸いにも、ロンは指先が少し膨らんだだけで済んだし、コーディのせいだとは気づいていない。犯人がコーディの従兄だという事にも。
始業式から一週間近くが経った。コーディは意外にも、割と楽しいスクールライフを送ることが出来ていた。
ロンは相変わらずコーディを睨んではいるが、呪いをかけようとはしてこないし、他の生徒も、ハリーとずっとくっついているコーディに何か攻撃を仕掛けるのは困難だと判断したらしい。
強いて言うなら、枕元に“有毒食虫蔓”の鉢植えが置いてあったり、手に噛み付いてくる軽いいたずらグッズが置いてあったくらいだった。あといくつか呪いの品や、吠えメールが届いたけど、捕まってもせいぜい罰金刑で済みそうなレベルの可愛らしいいたずらだ。
それと_____ドラコが一向に話しかけて来ないが、ドラコは常にスリザリン生に囲まれているし、コーディはハリーとロンと行動を共にしているので仕方がない。
授業の方はそれなりに退屈だった。魔法史と天文学の時間なんて一秒たりとも起きていられなかったし、闇の魔術に対する防衛術の時間はハリーと羊皮紙で“絵しりとり”をして遊んでいた。
妖精の呪文と変身術はそれなりに自信があったが___マグルの道具に魔法をかける事があるからだ____まだ始めなので、ゴチャゴチャとした理論をノートにまとめるだけだった。
「今日は初めての魔法薬学だね」
「スリザリンと合同授業なんて、ウゲー! さ。まあ、君は嬉しいだろうけどね」
「ああ、スネイプが君を減点してくれたらすごく嬉しいし、一生着いていくね 」
「そのままスリザリンに入ってくださって結構さ」
コーディとロンがいつものように朝食を食べながら言い争っていると(ハリーはもう慣れてしまったので、いちいち止めなくなった)、コーディとハリーの元に手紙が落とされた。
「ワオ、アズカバンにいるパパからかい? それともまた吠えメール?」と、ロンが嫌味っぽく言った。
ちなみに、コーディにはあまりにもたくさんの吠えメールや呪いの品が届くので、ホグワーツの生徒たちへの贈り物は事前に確認されるようになってしまった。ただでさえ忙しい先生たちの仕事を増やしてしまって、本当に申し訳ない。
コーディの方はドラコからで、「話したい。金曜二時に魔法史の教室に来い」と書いてあった。果たし状みたいだ。
ハリーの方は森番のハグリッドかららしく、金曜の三時からお茶会をするらしい。
「二人とも一緒に行くよね? ハグリッドって、最高だよ」
ハリーはそう言うとすぐ、コーディの返事も聞かずにさっさと手紙を出してしまった。
先に言ってしまうと、魔法薬学の授業はある意味最悪だった。
コーディの中で
スネイプは出欠確認でハリーに絡み、続けて長々とつまらない演説をした後、ハリーに次々と質問をぶつけ始めた。おまけに、必死に手を挙げているグレンジャーのことは完全に無視だ。
ルシウスさんから「ソーフィンとセブルスは親しかった」と聞いていたからどうせろくな奴ではないに違いないと思っていたが、これは酷い。酷すぎて笑いが込み上げてくる。
「ではロウル、答えなさい」
スネイプがハリーの時より優しい口調でコーディに言った。
___なんで? 私? これはなんの嫌がらせだ?
誓って言うが、コーディは『薬草ときのこ千種』も『魔法薬学調合法』も一ページも読んでいない。
「もちろん、全くわかりません」コーディは胸を張って答えた。
「ミス・グレンジャーの手がつってしまいそうなので、もうそろそろあててさしあげては?」
スネイプは眉間に皺を寄せたが、その後の声音は不思議とあたたかく感じられた。もしハリーに言ったら「勘違いだよ」と笑われてしまうだろう。
「なるほど。頭脳は母親譲り、無礼な態度は父親譲りらしいな、ロウル」
ああ、そういえば父はとても成績優秀だったってルシウスさんが言ってたっけ。スネイプはサービス問題のつもりだったのだろう、なんだか申し訳ない。
その後、スネイプは先程の質問の答えを言った後、ハリーの不勉強とコーディの無礼を理由にグリフィンドールから三点減点した。更に、その時のハリーの目付きが気に食わなかったという理由でもう一点引いてしまった。
あまりに理不尽なので、コーディはスネイプのことが少しだけ好きになった。人間味が溢れていて素敵だ。
“おできを治す薬”を作る最中、ロングボトムが失敗してフィネガンの大鍋を溶かしてしまったのだが、ハリーは完全に無関係なのに減点されていた。
コーディとペアになりたがる生徒はどこにもいなかったので、端っこの方で余っていた子と組むことになった。恐らくマグル生まれであろうスリザリン生は、可哀想なくらいコーディに怯えていた。“おできを治す薬”の出来栄えはとても酷いものだった。
魔法史の教室に行くと、ドラコがムスッとした顔で座っていた。
誰もいない教室は好きだ。授業中は寝ていたから知らなかったけど、ステンドグラスの窓がキラキラしていてとても綺麗だ。
「いやー、久しぶりだね」
「正気か?」
「それはあの帽子のこと?」
「お前と、帽子と、両方だ! 父上に手紙を出したのだが、組み分けは絶対だと____グリフィンドールってだけでも有り得ないのに、なんであいつらなんかとつるむんだ!」
ドラコが顔を真っ赤にして怒鳴った。
なんでコーディが怒られているんだろう。運悪く嫌な寮に組み分けされてしまった被害者だというのに。
「ハリーと一緒にいないと、いつ呪いをかけられるか分からないんだよ。ハリーは私の命の恩人、ハリー様様さ」
ドラコはそれを聞くと、更にムッとして声を荒らげた。
「だからスリザリンに入るべきだった! そうしたら、僕がそんな事させなかった。マルフォイ家の庇護下にいる人間を辱めるなんて!」
これ以上話しても埒が明かない。きっと堂々巡りだろう。
どれだけ話したって、純血名家出身のスリザリン生と死喰い人の娘のグリフィンドール生という事実は変わらない。
コーディは長机からサッと降りた。
「ちょっと約束があるから行くね。密会はまた今度にしよう」
ドラコに渾身の投げキッスをプレゼントしてやったが、「知らないからな!」とか「きっと僕に泣きつくことになるんだ」と怒鳴っている。相変わらず、小物っぽいセリフがとても似合う。
なんとか誰からも呪いをかけられることなく、コーディは禁じられた森まで辿り着いた。目くらまし呪文というのは本当に偉大な呪文だし、それをかけたマントはとても便利だ。マグルはもちろん素晴らしいけど、魔法使いたちもよく頑張っているみたいだ。
「遅くなっちゃったね」
コーディが小屋に入ると、ロンが「別に来なくたって良かったんだぜ?」と言った。
意外なことに、ハグリッドはコーディに対して優しく接してくれた。スネイプのことも庇っていたし、博愛主義者なのかもしれない。
「お前さんはマグルの道具に興味があるんだってな」
「うん。将来はマグル製品不正取締局に就職したいな、それかマグルの大学に行きたい」
「パパに何をする気だ!」
「言っとくけどね、君のお父様のことは本当に尊敬してるんだ。あんな素晴らしい方から君みたいな子が生まれるなんてマーリンの髭だよ」
「___それでな。クィレル先生はちいっと前までマグル学を教えとったから、色々話を聞いてみるとええ。奴さん、学生の頃はとびきり優秀だったからな」
あのクィレルが? 信じられない。
コーディは聞き返したいのをグッと堪えて「うん。ありがとう」とだけ言った。
ロックケーキをたらふく食べ、グリンゴッツに強盗が入ったとかいうどうでもいい世間話なんかをした後、三人はハグリッドにお礼を言って小屋を出た。ロックケーキは全く美味しくなかったが、愛情と真心が感じられたので、不思議と嫌いではなかった。
コーディが行ってしまう前に、ハグリッドが言った。
「あの子は____ユーフェミアは元気か? もうなげえ事聖マンゴにおるって……動物好きな、優しい子が」
「あー…………少し元気になったよ。時々、鳥に餌をやったりしてるって」
久しぶりにユーフィおばさんの名前を聞いて動揺したのか、その夜コーディは全く寝付けなかった。おまけに、ウォークマンは何度レパロしたって治らない。
____ジョニーとのたった一つの思い出なのに。
「ねえ、グレンジャー。起きてる? ____取って食ったりしないから、頼みを聞いてくれないかな……ウォークマンを直して欲しいんだ」
数分後、グレンジャーがベッドから起き上がった。
「ウォークマン? しかも結構古いわね……どうして貴方がそんなものを持っているの?」
「気に入ってるんだ。ほら、私ってマグルの道具が大好きだから。それに____これはそのきっかけを作ってくれた人との思い出が詰まってるから」
グレンジャーは沈黙した。何かを考えているようだ。
「レパロは試してみた? 普通はそれで直ると思うけど」
「ううん、何回やっても直らないんだ。ホグワーツに来てからずーっとおかしいんだ、どうしよう」
コーディが不安そうにそう言うと、グレンジャーの顔色がサッと変わった。
「ホグワーツに来てから?」
「うん」
「あなた、『ホグワーツの歴史』を読んでないの?」
「あんなの読むわけないよ」
グレンジャーは呆れたようにわざとらしくため息をついてからこう言った。
「ホグワーツではマグルの道具は使えないのよ!」