マグル学のすゝめ   作:バナナ牛乳

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第六話 お父さん!お父さん!

 

「大丈夫だよ、ハリー。箒って最高なんだ、君もきっと好きになるさ! ……まあ、初めて乗る時はちょっと難しいけどさ。僕がね、チャーリーに教えて貰った時____」

 

 ロンは朝から上機嫌でいつもより饒舌だった。グリフィンドールの談話室に今週の木曜日から飛行訓練が始まるという知らせが貼り出されたからだ。

 みんな飛行訓練に浮かれていたが、コーディはどうもスリザリンと合同という点が引っかかっていた。誰が大怪我してもいいけど、どうか私は巻き込まれませんように。

 

「私はそれよりも飛行機に乗りたいよ」

「僕も飛行機には乗ってみたいな」

 

 ハリーが元気の無い声でそう言った。スリザリンのテーブルでドラコが箒の腕前自慢をしているのが気にかかるらしい。

 ____ヘリコプターにぶつかる寸前で避けただって? とても大きい音がするのにぶつかる寸前まで気づかないはずがないし、何よりしょっちゅう箒遊びに付き合わされてるのにそんな現場を見たことがない。

 

「大丈夫だよ。少なくともドラコの話は嘘だし、他もなんだか嘘くさい」

 

 シェーマス・フィネガンは「野生のヒッポグリフと競争して勝った事がある」、ロンは「ハングライダーにぶつかりそうになったけど素早く交わした」なんて言っているが、どちらも恐らく嘘か、すごく盛っているに違いない。この歳でそんな芸当が出来れば天才クィディッチ選手になれる。

 だが、ラベンダー・ブラウンたちはそんな話をすっかり信じているのか、口々に自慢する男子たちを熱っぽい目で見つめている。ちなみに、ブラウンともパチルともまだ一言も話したことが無い。

 

 一方でグレンジャーは時々コーディに話しかけてくるようになったし、ブラウンとパチルは前ほどグレンジャーを庇わなくなった。恐らく、オブラートに包んで言えば、()()が合わないのだろう。女子って怖い。

 

「ねえ、箒の柄を持つ時って___」

「君も箒の話?」

 

 コーディが図書室でマグルの歴史に関する本を読んでいると、またしてもグレンジャーが話しかけてきた。

 それにしても、ホグワーツにはマグルに関する本が全然無い。やっぱりマグル差別的じゃないか? そうだ、今度クィレル先生に“二十世紀で最も素晴らしいマグルの創作”について聞きに行こう。

 

「あなたには分からないでしょうね! マグル生まれにとっては本当に重要なのよ」

「ロングボトムに聞きなよ。彼は純血だよ」

 

 ロングボトムはグレンジャーの隣で情けない顔をして『賢い箒の選び方』を読んでいる。たぶんそれを読んだって何の意味も無いのに。飛行訓練で使うのはシューティング・スターと決まっている。

 

「ヒ、ヒィッ! じゅ、純血のくせに情けなくてごめんなさい!」

 

 ロングボトムはコーディに話しかけられた瞬間、飛び上がって謝罪した。まったく、コーディの事を何だと思っているんだろう? 

 

「うん、別に君が情けないって事はどうでもいいんだけどさ。ああ、否定はしないけどね。それでさ、グレンジャー、ずっと気になっていたんだけど、マグルの世界だと“お皿に水を入れるだけでラーメンが出来上がる”ってのは本当かい? さすがにガセだよね?」

 

 

 そしてようやく木曜日がやってきた。

 クィレル先生曰く____部屋を訪ねると最初はとても嫌がっていたが、結局入れてくれた_____ホグワーツの箒の中には高いところに行くと震え出したり、どうしても左に進んでいく癖のあるものがあるらしい。珍しく口調が荒れていた。どうやら、クィレル先生は箒に乗るのが好きではないようだった。

 

「あがれ!」そう言うと、箒はコーディの手にすっぽりと収まった。驚いたことに、ハリーのもそうだった。

 勿論ドラコのもそうだったので、コーディは拍手したが、ドラコはこちらを全く見ない。

 ハーマイオニーとネビルの方はてんでダメだった。

 

「イタッ! なんだよこいつ、オンボロだ」

 

 ロンの箒が額にゴツンと一撃を食らわせたので、コーディとハリーは思わず笑ってしまった。

 

「君ん家の箒よりは高いと思うよ」

「君って相変わらず最悪だな。マルフォイと一緒に箒から落っこちちまえばいいのに」

 

 いよいよ箒に乗れるとなると、皆楽しみで仕方がないみたいだった。マダム・フーチが「イチ、ニの……」と言った瞬間にロングボトムが地面を蹴って飛び上がってしまった。

 

「ワーオ、そんなに楽しみだったんだね、彼」

「そんなわけないでしょ! きっと緊張して、早く蹴っちゃったのよ。ああ、『クィディッチ今昔』を読まないから……」

 

 ロングボトムは高く高く飛び上がっていき、そして落ちた。やっぱり箒はダメだ、飛行機ならこんな事は無かっただろうに____コーディはクィレル先生から「飛行機事故は実はとても少ない」と聞いたのを思い出した。

 マダム・フーチは皆に決して箒に乗らないよう忠告し、ロングボトムを医務室へ連れていった。

 

「あいつの顔を見たか? あの大まぬけの」

 

 ドラコが嬉々としてしゃしゃり出てきた。本当、なんで飛行訓練がグリフィンドールとスリザリンの合同なんだろう。

 

「やめてよ、マルフォイ」とパチルが言ったので、コーディも続けて「そうだぞマルフォイ!」と言った。

 

「ちょっと、ロウルは黙ってなさいよ」

「コーディ、君はちょっと引っ込んでろ」

 

 ____二人揃って酷いじゃないか。コーディはしゅんとしてグレンジャーの隣に戻った。「やっぱり、箒よりも飛行機に乗る勉強をしたいよ」と言うと、グレンジャーはすっかり呆れた顔をした。

 一方、ドラコ劇場はどんどんヒートアップし、いつの間にかハリーとドラコが対決することになっていた。

 

「ダメ! フーチ先生がおっしゃったでしょう、動いちゃいけないって。私たちみんなが迷惑するのよ」

「止めないでよグレンジャー、どっちが勝っても面白いことになるのは間違いなしだよ!」

「面白がらないの!」

 

 コーディは二人の対決をじっくり見ていたかったが、そういうわけには行かなかった。

 なんと、パンジー・パーキンソンが「あんた、ドラコに媚びを売るのをやめなさいよ!」と言って足縛りの呪いをかけようとしてきたのだ。

 

「ドラコに媚びを売る? うわ、考えただけで気持ち悪くてマーリンの髭を吐き出しそうだよ」

 

 そして、その混乱に乗じて今度はフィネガンがくらげ足の呪いを、誰だか知らない生徒がかぼちゃ頭の呪いをかけようとしてきたので、コーディは周りに歌うたいの呪いを乱射する羽目になった。

 フィネガンにかの有名な『魔王』を歌わせていると、ハリーが降りてきてグリフィンドール生にもみくちゃにされていた。どうやら勝者はハリーらしい。

「おーとーうさん! お父さん!」しか言えなくなったフィネガンも駆け寄っているが、ハリーはフィネガンの完璧なバリトンボイスに困惑している。

 

「___なんてこと。私、先生を呼んでくるわ!」ハーマイオニーがそう言ったが、その必要は無かった。

 すぐにマクゴナガル先生がやって来たのだ。

 

「……よくもまあ」マクゴナガル先生はそう言って、まず歌うたいの呪いを解いた。『魔王』から解き放たれたフィネガンが睨んできたので、コーディは舌を出してやった。

 

「先生、ハリーが悪いんじゃないんです……」

「そうです! ロウルが全部悪いんです」

「あとマルフォイもです!」

「お黙りなさい。ミス・パチル、ミスター・フィネガン、ミスター・ウィーズリー。ポッター、さあ、一緒にいらっしゃい。……ロウル、あなたもですよ」

 

 二人はとぼとぼとマクゴナガルの後ろを着いて行った。

 ____やってしまった、きっと学校から()()()が行くだろう。でも、かぼちゃ頭にくらげ足なんて、公衆の面前でそんな醜態を晒すのはごめんだった。

 

「ねえ、コーディ。僕たち、退学になったら一緒にどこか田舎で暮らそうよ」

「そうだね。電子レンジと冷蔵庫のある家がいいな……それから、毎日自転車を漕ぎたい」

「電子レンジと冷蔵庫がない家なんてなかなか無いよ」

 

 二人がそんな話をしていると、マクゴナガルは自分の部屋の前で立ち止まった。

 

「ロウル、私が戻ってくるまでここに座っていなさい。大人しくですよ。ポッター、あなたはまだです。行きますよ」

 

 ハリーは絶望した顔でマクゴナガルに着いて行った。コーディはヒラヒラと手を振った。ハリーは退学にはならないだろう。

 しばらくすると、マクゴナガルが教室に戻ってきた。

 

「先生。確かに私が悪いんですが____」

「落ち着きなさい、ロウル。ええ、何があったのかは知っていますよ。先程ミス・グレンジャーがやってきて必死に話してくれましたし、ミスター・ウィーズリーも言っていました。それから、ミスター・マルフォイも……まったく、彼は飛んでいたから何も見ていないでしょうに」

 

 コーディは少し安心した。最悪の事態は免れたらしい。別にホグワーツを退学になるのはいいが____マグルの道具を使えない城なんてマーリンの髭だし____皆が悪いのに自分だけ処罰を受けるのは嫌だった。

 それにしてもロンがコーディを庇うだって? どういう風の吹き回しだ? 

 

「多勢に無勢とは、勇猛果敢なグリフィンドールが聞いて呆れます! 勿論、あなたに非が無い訳ではありませんよ。ですが、あの状況で歌うたいの呪いを選んだのは賢明でした____相手を傷つけることなく、確実に攻撃を封じる。本当に、()()()()の機転だこと……」

 

 マクゴナガルは、褒めたいのか叱りたいのかよく分からなかった。ただ、父親譲りと言われたのは嬉しいような、悲しいような___とにかく何だか複雑な気分だった。

 

「この事は()()しないでおきます。あなたの行動は正当防衛と言えなくもありませんからね。それから……ロウル、いつでも相談に来ていいんですよ。勿論、私でなくても」

 

 マクゴナガル先生がとびきり優しい声で言ったので、コーディはほんの少し目頭が熱くなった。感動的だ、まるで“カイロ”くらいあたたかい。あれはマグルの発明の中でもかなり素晴らしいと思う。

 

「とはいえ、罰則はきちんとこなしてもらいますよ」

「えーっ!」

 

 さっきまで熱く潤んでいた目頭があっという間に冷めて乾いた。パサパサだ。そんなのあんまりじゃないか、正当防衛だって言ったのに! 

 

「マグル学教室が随分と散らかっていると小耳に挟みましてね。マグル学教室の掃除をしてもらいます。勿論罰則なので全て手作業で、()()()()()()()()()()やるんですよ。____文句は無いでしょうね?」

 

 コーディはマクゴナガル先生のことが大好きになった。

 もしかしたらあれがあるかもしれない____飛び出す絵本! 

 

 

「ロウル、廊下をスキップするな。グリフィンドールから一点減点」




クィレル先生に続き、マクゴナガルも先生付きに。
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