マグル学のすゝめ   作:バナナ牛乳

8 / 46
第七話 イカれた夜

 

「コーディ! 聞いてよ!」

「ハリー! 聞いてよ!」

 

 大広間に着いてすぐ、コーディとハリーは互いの吉報を報告しあった。しかし、ハリーのはあまりにも大ニュースだったので、コーディの罰則の話はすっかり霞んでしまった。

 なんと、ハリーはクィディッチ・チームの最年少の寮代表選手になったのだ。それも百年ぶりの。

 コーディはクィディッチになんて全く興味は無かったが、驚きすぎて「マーリンの髭!」が止まらなくなってしまった。

 

「あ、ロン。庇ってくれてありがとう」

「君を庇おうとしたんじゃないよ、パーキンソンが気に食わなかったからだ。それに、僕はまだお前のことが大嫌いだ」

 

 大嫌いとは言われたものの、最初に比べるとロンとの心の距離が少しだけ縮まった気がした。

 大広間の天井には雲ひとつなく、まんまるな満月が浮かんでいる。

 

「コーディ!」

「ドラコ、庇ってくれてありがとう」

「フン、君がやらかすと、君を援助してやっている父上が恥をかくんだ。僕がわざわざ君を庇うわけないだろ」

「まあ、それでも助かったよ」

 

 ロンが「うげー! イチャつくのは他でやってくれないかな、鼻からマーリンの髭が飛び出ちゃいそうだ」と言ったので、ドラコはロンとハリーの方を向いて嫌味を言い始めた。

 

「最後の夕食かい? まだマグルのところに帰る汽車に乗ってないとはね」

「地上ではやけに元気だね。小さなお友達もいるしね」

「私?」

「コーディは黙ってて!」

「コーディは黙ってろ!」

 

 やれやれ、なんて扱いだ。

 

「僕一人でいつだって相手になろうじゃないか。ご所望なら今夜だっていい……決闘をしよう。ああ、君たちは魔法使いの決闘なんて聞いたこともないか。せいぜいトロールのように殴り合うのが関の山だろうから」

 

 三人とも煽りスキルは高いくせに耐性は低いので、話がどんどん大きくなっていく。

 ____ドラコは絶対、ハリーを嵌める気だ。

 

「トロールみたいなのはお前のお友達の方じゃないか? 僕が介添人をする。そっちは?」

「もちろん私。強いよ」

「マルフォイ! 君、女の子を巻き込むのかい?」

「そんなわけないだろ。クラッブだ!」

 

 ドラコはロンとゴチャゴチャと言い争いをした末、小物感満載の捨て台詞を吐いてスリザリンのテーブルに帰って行った。

 ドラコが去った瞬間、ハリーが不安そうな顔をして二人に尋ねた。決闘の話になってからは、ハリーは張本人だっていうのに可哀想なくらい置いてきぼりだった。

 

「魔法使いの決闘ってなんだい? それに、介添人って何?」

「介添人っていうのは代理だよ。ドラコが死んだらクラッブが戦うってこと」

「つまり、君が死んだら僕が戦うんだ____あっ、子供の決闘で死ぬことなんて有り得ないよ」

「もし杖を振っても何も起こらなかったら?」

「マグル式で行こう。鳩尾に一発かますんだ。頑張れ」

 

 ハリーは本当に心配で心配でたまらないようだった。闇の帝王を倒して魔法界を救った英雄が、ドラコ如きに怯えているのはとってもおかしい。しかも、どうせドラコは来ないのに。

 三人が決闘について口々に意見を交わしていると、今度はグレンジャーが現れた。

 

「ちょっと、失礼」

「あ、グレンジャー。庇ってくれてありがとう」

「当然の事をしたまでだわ、先に校則違反をしたのはあの人たちですもの」

「まったく、ここじゃ落ち着いて食べることも出来ないのかい?」

 

 ロンがポークチョップを手に掴んだまま話しかけたが、グレンジャーはそれを無視した。

 

「聞くつもりはなかったんだけど、マルフォイの話が聞こえちゃったの」

「聞くつもりがあったんじゃないの」

「ロン、それ以上はやめた方がいい。惨めだよ」

「……夜に校内をウロウロするのは絶対ダメ。もし捕まったらグリフィンドールが何点減点されるか……それに捕まるに決まってるわ。あなたたち、他の人のことも考えるべきよ」

 

 ネビルと一緒に箒の本を読み、コーディを庇い、今度はハリーたちに忠告しにやってきた。グレンジャーはどうやら、とびきりお節介な女の子らしい。彼女が女子たちから避けられる理由がよく分かる。

 

「全く大きなお世話だよ」

「バイバイ」

 

 グレンジャーが去ったので、今度こそ三人は落ち着いて夕食を食べ始めた。色んなことがあったせいで、三人ともお腹がペコペコだった。

 

「ねえ、コーディは着いてきてくれるよね?」

「えっ、なんで? 嫌だよ、今日はゆっくり寝たいからね」

「元はと言えば君のせいでマルフォイがここにやって来たんだろう? 責任を取るべきなんじゃないですか?」

 

 コーディはハリーの不安そうな目と、ロンの非難の目に挟まれてしまったので、渋々「分かったよ」と返した。勿論すっぽかすつもりだ。優しいハリーは明日謝れば許してくれるだろう。

 

 その夜、コーディはさっさとベッドに入った。ハリーたちとの約束は十一時半なので、「眠ってしまった」という言い訳も通じるだろう。

 コーディが今にも夢の世界に入りそうになっていると、誰かにしきりに肩を叩かれた。ああ、ハリーが起こしに来たのか。男子は女子寮に入れないはずだけどなあ……。

 

「ロウル、起きて!」

「あっ、グレンジャー。どうしたの、もしかして飛び出す絵本を見せてくれるの?」

「えっ……ええ、まあ、そんな所よ」

「マーリンの髭! 本当、君って最高だよ!」

 

 コーディたちは談話室に降りたが、ハーマイオニーはいつまで経っても飛び出す絵本を見せてくれなかった。

 

「……もしかして、騙した?」

 

 ハーマイオニーはコーディの質問には答えず、代わりに、「ハリー、まさかあなたがこんなことするとは思わなかったわ」と言った。ハリーたちがコソコソと階段を下りてきていた。ロンが非難の目を向けてきているのは見なくても分かる。

 

「コーディ!」

「ロウル!」

「言っておくけど、違うからね。寝てたらいきなり起こされて……」

「寝てたの?」

「最低だな。はじめっから約束を破る気満々だったんだ!」

 

 四人はすぐに言い争いを始めたが、ハリーの意思は変わらなかった。「ドラコは絶対に来ないよ」と言っても、ハリーはコーディの手を引いて太った婦人の肖像画を押し開けた。

 

「私とロウルが変身術でとった点数を、あなたたちは無駄にするのね! ____いいわ、せいぜい罰則を受けながら私の忠告を思い出すと……」

 

 そこでグレンジャーは後ろを振り向き、すっかり言葉を失ってしまった。太った婦人が夜のお出かけに行ってしまったので、グレンジャーまでグリフィンドール塔から締め出されてしまったのだ。

 

「行くぞ。もし何かあったら、ロウル、お前が責任をとって戦うんだ。すっぽかそうとした罰だ、死喰い人のパパ仕込みの決闘術を見せてくれよ」

 

 コーディは二人に半ば無理やり引っ張られた。グレンジャーもキーキーと何か言いながら着いてくるので、コーディはグレンジャーに未だに一人も友達がいない理由が本当によく分かった。

 四人は抜き足差し足でトロフィー室まで向かった。高窓から射し込む光の中を出来るだけ素早く走り、腰をかがめる。

 

「フン、遅かったじゃないか」

 

 驚いたことに、トロフィー室にはドラコが立っていた。プラチナブロンドが、月の光を受けてキラキラと輝いている。しかし、ドラコ一人だ。クラッブはいない。

 ドラコはハリーの隣にコーディを見つけた瞬間、眉をひそめてこう言った。

 

「予想はしていたけど____君たち、女性を夜中に連れ出すなんて正気か?」

「うるさい、君こそクラッブはどうしたんだよ!」

「あいつは一度寝たらなかなか起きないんだ! いいさ、どうせ僕が勝つんだから介添人なんて必要ない」

「えっ、じゃあ私が介添人をするよ!」

「待って、コーディは僕の味方だよね?」

 

 四人が言い争っていると、今度はグレンジャーが耐えかねて叫んだ。

 

「言っておきますけどね、これは立派な校則違反なのよ! 早く寮に帰らなくっちゃ。決闘なんて、バカバカしい」

 

 五人とも興奮してしまって、ヒソヒソ声をすっかり忘れていたのが良くなかったのだろう。

 隣の部屋から、聞き覚えのある不快な声が聞こえてきて、それはどんどん近づいてくる。フィルチだ。

 

「こーんな時間に、悪い生徒がいるみたいだ……どの寮の生徒だ……」

 

 五人はすぐにトロフィー室を飛び出して、鎧がたくさん飾ってある長い回廊を這い進んだ。フィルチの気配を感じる____じっとりとした、嫌な感じだ。耐えられなくなったドラコが悲鳴をあげて抱きついてきたので、コーディは鎧にぶつかってしまった。

 

「逃げるぞ!」ハリーの声で五人は疾走した。なんとか呪文学教室に辿り着いたが、息を整えたグレンジャーが文句を言う暇もなく、今度はピーブズが飛び出してきた。

「何とかしろよ。スリザリンだろ?」ロンがドラコを突っついた。

 

「ピーブズ、血みどろ男爵に言いつけてやる」

「こっちこそ、先生に言いつけてやる! そしたらお前たちぜーんいん退学さ!」

「ちょっと待て、話をしよう! ほら、僕の父上は……」

「父上? ちーっちゃなパパが何だって?」

「父上を侮辱するな!」

 

 ドラコが怒鳴ったのが間違いだった。ピーブズは「生徒がベッドから抜け出した! 呪文学教室の廊下にいるぞ!」と大声で叫んだので、五人はまた必死に走る羽目になった。

 

「何もかもお前のせいだ!」

「決闘を受けるって決めたのは君たちだろう? 責任転嫁しないでくれるかい」

 

 廊下の突き当たりにあるドアにぶち当たったが、鍵がかかっていてどうにもならなかった。

「ロウル、開けてくれよ! そういうの得意だろう?」ロンが懇願したが、コーディは杖を持ってきていなかったので「無理だよ!」と返した。もう一巻の終わりだ。

 

 するとグレンジャーが小声で「アロホモラ!」と唱え、直ぐに鍵が開いた。グレンジャーは間違いなく、一年生の中で最も優秀な生徒に違いなかった。

 五人は息を押し殺した。フィルチはすぐに去って行ったようだった。

 

「____ちょっとドラコ、トイレに行きたいの? 引っ張るのはやめてくれるかな」

 

 ドラコが何度も何度もガウンの袖を引っ張るので、コーディは後ろを振り向いた。釣られてハリーたちも後ろを振り向き…………全員がそれを見て、悲鳴を上げた。コーディもロンも「マーリンの髭!」のマの字すら言えなかった。

 五人は命と退学や罰則とを天秤にかけ、後者を選んだ。一心不乱に走り、ようやく落ち着ける場所まで辿り着いた。

 

「禁じられた廊下だったなんて! 全く気が付かなかった____それにしても、あのイカレ爺は何を考えているんだ!」

 

 ドラコが怒鳴った。コーディも全く同感だった。

 犬は好きだが頭が三つあるのは話が別だ。誰だよ、ホグワーツが世界一安全だなんて言ったのは。マグル生まれの生徒の保護者が授業参観にやって来たら卒倒するぞ。

 

「禁じられた廊下? なにそれ」

「あなた、始業式の話を聞いていなかったの? あそこは立ち入り禁止なの。それより、さっさと帰りましょう。このままだとフィルチに見つかってしまうわ」

 

 グレンジャーの意見は間違いなく正しかったので、五人は寮に戻って行った。ロンが「()()に言って学校に抗議してもらえよ!」と言ったが、ドラコのほうは言い返す気力は無いようだった。

 

「世の中に運動不足の犬がいるとしたら、まさにあの犬だね」

「マルフォイ邸の庭だって、あいつが遊べるほどの広さはないよ」

 

 コーディとロンは軽口を叩きあった。なんとか冗談を言えるくらいには落ち着いていた。

 

「あなたたち、どこに目をつけてるの? あの犬が()()()()立ってたか、見なかったの?」

「床の上じゃない?」

「あれを見て、真っ先に足に目が行くなんて珍しいね」

 

 グレンジャーは呆れたようにため息をついた。死にかけてたって言うのに、随分と冷静だ。こういうのを真のグリフィンドール生って言うんだろう。

 

「仕掛け扉の上よ。何かを守ってるのよ……ああ、一歩間違えたらみんな殺されてたかもしれなかったのよ! ()()()()()()()退学ね。じゃあ、休ませていただいてもよろしいかしら」

 

 グレンジャーはそう言って、コーディの方を見向きもせずにさっさと部屋に上がっていってしまった。グレンジャーはここにいる誰よりも勇敢に違いない。

 

「死ぬより退学が悪いだって!?」

 

 三人は顔を見合せてそう言った。




「あの犬がどこに立ってたか見なかったの?」に対する「床の上じゃない?」という返しとか、 「地上ではやけに元気だね。小さなお友達もいるしね」 とか、ハリーの煽りスキル高めな所すごく好きです。

ネビルのポジションがドラコに変更になりました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。