うちの子 小話集   作:白オオカミ

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ある1日

湊が獣人の姿になってから数日が経った。

木菟鳥 木葉(つくとり このは)と名乗った少女がかけた魔法は、町に出るときは湊の姿を人間に見せる幻術で、普段の生活や学業にも支障がない。

だが図書館の中では、木葉はあえてその術を解き、湊は獣人の姿で過ごしていた。

_________

 

森の小道を歩いて図書館に着くと、木葉がすでに暖炉に火を入れている。

「おはよう、湊。今日は目の色がいつもより澄んでるわ」

「……寝起きだからかもな。鏡はまだ見てない」

湊は雑に返事をしながら肩を竦め、受付の机に鞄を置く。

木葉は柔らかな羽をひらりと動かし、湊の耳をそっと撫でた。

「この耳、寒そうに見えるけど……ふわふわで温かいのよね」

「……やめろって」湊は赤面しながら尻尾を小さく揺らす。

 

 

利用者がいない時間(そんなものほとんどいないのだが)、二人は奥の大机で本を広げる。

湊は魔法や呪具に関する書物を読み、木葉は古文書の修復作業をしている。

 

木葉は静かにページをめくり、その横顔は陽光を浴びて輝いていた。

湊はふと、耳の奥が熱くなるのを感じる──けれど、何も言わず作業を続けた。

 

 

閉館後、二人は暖炉のそばで温かい紅茶を飲む。

木葉は羽を半分広げ、湊の背に掛けてやる。

「こうしてると、あなたがずっとここにいるのが当たり前みたい」

湊は湯気越しに木葉を見る。

「……それ、悪くないな」

外は真冬の夜。

しかし図書館の中は、二人の穏やかな時間と本の香りで満たされていた。

 

 

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その日は朝から湊の体が妙に熱っぽかった。

木葉は紅茶を入れながら声をかける。

「魔力が揺らいでるわね……今日はあまり人の多い場所には行かない方が」

「大丈夫だって。買い出しくらいすぐだよ」

湊は軽く笑い、幻術がちゃんと効いているのを確かめて森を出た。

 

 

商店街

 

昼下がり、商店街は買い物客で賑わっていた。

湊は封筒を抱え、人混みを抜けて取引先の事務所へ向かう。

──しかし、途中で耳の奥がズキリと痛んだ。

(……まずい)

瞬間、幻術がわずかに揺らぎ、頭の上からふわりと猫耳が現れた。

尻尾もコートの裾から覗きかける。

 

湊は慌てて帽子を深くかぶり、狭い路地に逃げ込んだ。

そこに、羽音と共に木葉が降り立つ。

「……やっぱりね」

「なんで分かった」

「保護者としてのカンよ」

木葉は小さく笑い、羽を広げて湊の背を覆う。

「動かないで。今、術を直すから」

 

木葉の指先が湊の額に触れると、温かな光が広がった。

幻術は安定し、耳と尻尾は再び人の目には映らなくなる。

「ほら、もう大丈夫」

「……助かった」

湊は安堵の息をつきながらも、少し照れくさそうに視線を逸らす。

木葉はふわりと笑い、湊の頭を軽く撫でた。

「無理しないで。あなたが元の姿に戻る日までは、私が面倒を見てあげるから」

 

帰り道

 

夕暮れの商店街を並んで歩く二人。

人々はただの友人同士にしか見えない──けれど、その陰には秘密と魔法があった。

湊は心の中で呟く。

(……この日常、案外悪くないかもな)

 

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