篠ノ之束より強い少年   作:球磨川善吉

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第2話 自己紹介

目を開けた瞬間、視界いっぱいに広がったのは無機質な白と、壁一面のマジックミラーだった。

どうやら俺は、国に“保護”されたらしい。

篠ノ之束は――あの騒動のあと、一目散に逃げたと聞く。

結局、俺のささやかな逃亡劇は、こうしてあっけなく幕を下ろした。

 

 

IS学園への入学式――その日を迎えるまでの間、俺は実験室での生活を強いられていた。

逃げ場などあるはずもなく、時間だけが粛々と過ぎていく。

 

せめて無駄にはしたくないと、監視員に頼み込み、IS関連の参考書と、筋トレ用の器具一式を揃えてもらった。

毎日、ページをめくり、鉄を握り、稽古をつけてもらっている監視員にボコされ、ただひたすら備える。

この2ヶ月で分かったことは4つある。

 

1つ目は俺が憑依した砥石光(といしみく)について。

10歳の頃、最高裁判決デモ中の過激派フェミニストが起こしたテロにより家族全員を目の前で失ったらしい。

身寄りのなかった彼は児童養護施設に引き取られ、学校も行かずに日夜喧嘩に明け暮れる不良になってしまった...というのが国の調査で分かったことだった。

予想以上に重い……。まあ、家族がいても、俺が子供さんの肉体を乗っ取ってるわけだから、合わせる顔がない。

 

喧嘩も強くて、ISが間接的に自分の家族の仇になってるから、検査のとき、俺一人に対して筋肉ダルマが4人くらいいたのかも。

思えばあの時、おっさんたちの服が少し汚れてたような気もする。俺が憑依する直前まで暴れてたのかな。

 

2つ目は本当に俺を構成する細胞が0だということ。

血液や○液などありとあらゆる体液と皮膚、皮下組織が採取されたが顕微鏡で見ても、分析しても何もなかったらしい。

そう、性細胞すらなかった。つまり、種無しというわけだ。ガチで笑えない。

1年前の健康診断のデータは至って平凡だったらしい。俺が憑依したことで身体がおかしくなったんかね。

 

俺が憑依して身体別物になるんだったら、普通に一から身体作って転生させてくれたらいいのにね。

神様は何考えてんの??

 

それと、俺は寝なくても食べなくても生きていけるらしい。

というのも、俺自身が眠くならなかったし、お腹も空かなかったからだ。

味覚はちゃんとあるけど、まじで寝れないんだよね。いつかしわ寄せがくるのかね。

 

あと傷の治りも異常に早い。一回、誤って筋トレ道具を足に落としたことがあった。

でも、骨が折れた感触がして数秒激痛が続いたけれど、それっきり。

レントゲンを撮ってみても異常なし。というか骨すらなかったんだけどね。

 

3つ目は俺の能力について。

俺が能力の対象として選んだ戸愚呂弟みたいなおっさんと数回手合わせをしたけど、一回も負けなかった。

ただ、多対一のときのおっさん以外からの攻撃、特に背後からの奇襲なんかはマジで対応できない。

おっさんと一緒に攻撃してくれればいけるんだけどね。こればっかりは素の俺が強くなるしか方法はないっぽい。

 

4つ目は、俺のIS適正についてだ。

俺のIS適正はEX。ISの適正値の中では一番上のランクらしい。

まあ、いざ機体に搭乗したら指一本すら、動かせなかったんだけどね。上層部も、こんなケースは初めて見るらしい。

ちなみにおっさんが目の前にいる時だけは普通に動いた。

一瞬でもおっさんのこと考えないとその場で動きが止まって地面とキスすることになるんだけどね。

ISは人間が操縦することでしか動かないらしいから、機体からは一応人間だと認識されてるのかな?

ただ、ISに乗らないと写真にも写らないし、赤外線にも反応しない。

これもうわかんねえな。

 

ちなみに今は俺の所属する1年1組のメンバーの自己紹介の最中だ,

誰が主要人物か見極めなければならない――はずなのに、想像以上に興味が湧かない。

可愛い子もいるにはいる。でも種無しであることが発覚してからそういうものに対する情熱はほとんど霧散してしまった。

別にE○ってわけじゃないけども。

 

織斑一夏の自己紹介、それに続く彼と織斑千冬とのやり取りも淡々と終了した。

 

「ーーさ、最後に砥石くんっ。お、お願いします!」

 

どこかの乳デカウサギみたいに胸元をこれでもかと強調している変態――副担任の山田先生の言葉で席を立つ。

織斑までしか自己紹介できてないけど、2人目の男性IS操縦者の俺が自己紹介しない訳にもいかない。

 

辺りを見回すと、織斑千冬、織斑一夏、その他諸々の視線が突き刺さる。

そして、そのほとんどが困惑を浮かべた表情をしている。

 

ーーなぜなら、俺は、

 

「砥石光です。好きな教科は数学と現代文と歴史。苦手な教科は化学です。それと、この服装はただの趣味です。一年間、よろしくおねがいします」

 

ペコリと頭を下げた瞬間、教室の空気が一拍置いて弾けた。

 

「「「きゃあああああああ!!」」」

 

「なにあの子! かわいすぎ!」

「髪の色と瞳の色のコントラスト反則じゃない!? モデル!?」

 

何を隠そう、俺は女装している。別に前世の俺に女装癖があったわけじゃない。色々熟慮したうえでこの結論を出した。

スカートの中にズボン履いてるやつがいるのは絶対に目立つ。だったら、傍から見れば女にしか見えないなら、カモフラージュしたほうがいいに決まってる。

学校にテロリストとか変な奴が入ってきたら、制服の差異が目印になるかもしれない。

ぞれに、もし何かの気の迷いで俺が女子と関わりたくなったとしても――俺は俺自身で欲求を発散する。

言わば、究極のSDGsにして、究極のナルシズム。

他にも自分に対する「自戒」の意味もある。ハニートラップには絶対かからないように。

流石に女装男子にガチ恋する人間はたぶんいないはず。

見る限り、このクラスに俺より可愛い人間は存在しない。ハニトラされても多分大丈夫。

 

入学前、ダメ元で「女性としてこの学園に通えませんか」と担任の織斑先生に頼んでみたけど、返ってきたのはあっさりとした否定だった。

なんでも、篠ノ之束に目をつけられている以上、ただの女子生徒としてこっそり紛れ込むよりも、男子として周囲の生徒から注目されていたほうが安全らしい。……普通に女装はOKだったけど。

 

「さあ、SHR(ショートホームルーム)は終わりだ。諸君らにはISの基礎知識を半月で覚えてもらう。基本動作も半月で体に染みこませろ。いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」

 

今発言した人物こそが織斑千冬だ。織斑一夏の姉でこのクラスの担任。

そして束とのやり合いの最中に横槍を入れてきた人物。

そう、俺の肺を破壊したのはこいつだった。 

今まで生きてきた中であれはぶっちぎりで痛かった。

 

今でもあの時の事を思い返すと胸が苦しくなる。

てか、実験室で最初にこの人と会ったとき、失禁した。

 

そして汚物を取り除いた後、よくわからないけど抱きしめてくれた。

彼女なりの配慮かもしれないが、抱きしめる力が強すぎて怖かった。

また失禁した。

今でも彼女の目を直視できない。恥ずかしさと恐怖で頭がいっぱいいっぱいになる。

 

まあ、平時は排泄もしないから失禁したときの汚物は貴重なサンプルとして採取された。

大腸菌も大腸菌群もいなかったけどね。

 

 

一時間目のIS基礎理論授業が終わった。

授業の内容自体はあの分厚い参考書の内容を8割程度理解できたら問題なくついてこれる内容だった。

勿論俺は監禁されたあの2か月の間に寝る間も惜しんで、というより寝ずにあの参考書の内容をほぼ覚えたしマスターした。

ISの仕組みとかの部分はまあ何とか興味を持てたけど。法律とかの部分はマジでめんどくさかった。

もう二度とやりたくない。

 

 

久しぶりに受ける授業はとても新鮮だった。

50分の授業時間、あり得ないくらい多い女子。

いつかこれが日常になるのかな。

 

まあ、授業時間が10分過ぎたあたりで飽きて数学の内職を始めたんだけどね。

なんか山田先生の瞳がウルウルしてたけど気のせいだろ。多分。

後ろに控えているとある人物からは物凄い殺気を感じたけどね。

少しちびったけど、俺は絶対に屈さない。

つまらない授業をする先生が悪いんだ!!

しっかり先生が大事だって言った部分はメモしたし。文句を言われる筋合いはない。

 

「な、なあ。ちょっといいか!」

「ん。いいけど」

 

話しかけてきたのは織斑一夏。身長は170cm前半。どこか織斑千冬を柔和にしたような顔立ち。

姉に似て容姿端麗。うん。十中八九こいつが主人公だな。

逆にこいつ以外でこの世界の主人公務まるやついたら教えてほしいくらい。

 

「そ、そのー。と、砥石、でいいか?」

(みく)でいいよ」

「サンキュー! 俺は織斑一夏。気軽に一夏って呼んでくれ。同じお、男のIS操縦者同士なかよくしてほしい!」

「ぜひ。こちらからもよろしく」

 

席を立ち、差し出された手を握り、握手を交わす。

どもったのは俺の容姿に緊張しているか、男として扱ってもいいのかという葛藤か、その両方か。

 

悪く言えば年頃の男子高校生。良く言えば平凡なアニメ主人公。

頑張ってこの在学中に俺が能力を使わなくてもいいように守ってくれ。まじで頼む。

能力の効果は3人分しか残ってないからね。

 

「…あの子。さっきからチラチラ見てるけど一夏の知り合い?」

「ど、どれだ・・・? って、あれ(ほうき)か!!?」

 

どれも何も、俺が指さしてる方向にいるのそいつしかいないだろ。大丈夫かな・・・

 

「わ、(わり)ぃ。あいつ俺の幼馴染なんだ。ちょっと行ってくるわ! 昼飯は一緒に食おうぜ!!」

「うん。いってらっしゃい」

 

ホウキと呼ばれている少女は一夏が突然来たことに驚きつつもどこか頬を赤らめている。

 

なんでホウキって呼ばれてるんだろ。あだ名にしては趣味が悪すぎる。

本名にしてはもっと趣味が悪い。

 

「少し、よろしくて?」

「いいですよ」

 

話しかけてきたのは肌の白い女性だった。

日本人離れしたロールを巻いた艶やかな金髪。日本人離れした青い瞳。薄いピンク色の唇。

30人いるこのクラスの内の半数は外国人っぽいが、その中でも群を抜いてルックスがいい。

 

(わたくし)はセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生にして、入試主席。以後お見知りおきを」

「僕は砥石(といし)(みく)。二人目の男性IS搭乗者。これからよろしく」

 

 代表候補生。文字通り、国家代表IS操縦者の候補生のことだ。

 

「たしか、セシリアさんのISはブルー・ティ――」

「そう!! そうですの!!」

 

その瞬間、彼女の瞳が子供のようにキラキラと輝き始めた。

あ、これまず―――――

 

「|わたくしのISはブルーティアーズ。我が国イギリスが開発した第三世代型ISの最新鋭の機械ですわ! 新技術BT兵器、通称ビットを試験的に搭載していますの!! ビットは子機という意味の他に『Bluetears Innovation Trial』の意味もありましてよ!! 他にも他にも~~~~」

 

 

 

 

 

 

 

 

「っていう感じですの!!」

「ほ、ほぇ~。す、すごいなぁ」

 

あまりにも専門用語が多すぎて後半から何を言っているのか分からなかった。

この人友達いなそう。だから日本に来たのか?

 

「あなたにも(わたくし)の愛機、ブルー・ティアーズの洗練された美しさが分かっていただけて光栄でしてよ!」

「まあ、それほどでも・・・」

 

以前に彼女とブルーティアーズのPR動画を見たことがあるが、縦横無尽に空を駆ける姿はかっこよかった。

でも、それって機体が美しいというよりオルコット自身に魅力があると思う。

特に機体はそそられない。

 

「ちなみに、み…砥石さんにも専用機がありまして?」

「光でいいよ。僕の専用機の話は…ちょっと滞ってるぽい。今日中にはどうなるか知らされるらしいけど」

 

「ま、まあそれはなんと…」

「はは・・・」

 

ISが世に出てからおよそ10年。未だにISを操れる男性は俺と一夏以外に見つかっていない。

そのためか、女尊男卑の風潮が急速に進んでしまったらしい。

 

この話をしたのは、そのせいで俺の専用機の話が停滞しているからだ。

一夏に専用機が与えられたときも、政府の声明はかなりバッシングを受けたらしい。

 

あのクソ耳博士が言っていたとおり、ISの絶対数は467機。

コアを作る手段が確立されていない現状、当分はこの状況が続くだろう。

実戦配備されているのは322機。残りの145機は開発企業や国家機関が所有し、研究用や専用機として使われている。

 

今までISに触れたことのない奴が、何の努力もせず専用機を与えられるのが気に入らない気持ちは分かる。

それとは別に、ISの研究が進んで世界が女尊側じゃなくなるのを嫌う人たちもいるらしい。

そんなわけで、政府は俺に専用機を与えることに非常に慎重だ。

初めてのIS起動で何1つ動かせなかったのもだいぶ痛い。

 

俺自身はどう思うかって? 自分専用のロボットが欲しくないやつがいるわけないだろ、馬鹿者!!

 

 

神妙な空気が漂う中、二時間目の授業の予鈴が鳴った。

 

「もし今は無理でも、IS学園での努力次第で状況は変わりますわ。わたくし、砥石さんならやってのけると信じて差し上げますわ!」

 

そう言って、彼女はふわりとスカートを揺らしながら自分の席に戻っていった。

 

女尊男卑が当然になったこの世界。

入学前は、過激派フェミニストしかいないと思っていたけれど……まだ世の中、捨てたものじゃないのかもしれない。

彼女なりのフォローは少し上から目線だったけど。

 

――よし。俺も早く、まともに動かせるように頑張らないと。

 

 

二時間目の授業も特に何か起きるわけでもなく、三時間目の授業が始まった。

さっきの休み時間に一夏がオルコットと握手しているところを見るに、うまい具合に親しくなったんじゃないかと思う。

 

俺のところには誰も来なかったけどな。なんでよまじで。あんだけ自己紹介のとき騒いでたくせに。

話しかけにくいオーラでも出てるのかな。自分から行くのはコミュ障すぎてとてもじゃないけどできないです。

 

「最初に、再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める」

 

教壇に立った千冬先生がそう言った瞬間、皆の背筋がピンと伸びる。

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦、生徒会の開く会議、委員会への出席…普通の学校でいう学級長のようなものだ。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測る。一度決まると一年間変更はないからそのつもりで」

 

ほえー。結構めんどくさそう。対抗戦はやりたいけど今のままの実力じゃ到底無理だな。

負けたらみんなに迷惑かかるしパスパス。

 

「はいっ。織斑くんを推薦します!」

「お、俺!?」

 

流石主人公。対抗戦で経験値積んでみんなを守るんやで。頑張れ。

 

「じゃ、じゃあ私は砥石君!!」

 

は!? じゃあってなんだよ! なんでそこで張り合うんだよ。

 

「わ、私は両方!!」

 

教室がざわざわと騒ぎ始める。 聞いた感じ、俺と一夏を推薦する声は半々くらいだ。若干一夏の方が多いかも。

 

もうこれただの人気投票じゃん。てか、クラス代表って一人しかなれないだろ。両方って何?

 

俺は絶対無理だよ。マジで。まずスタートラインにすら立ってないし。

 

「では候補者は織斑一夏、砥石光の二名か。他にいないか? 自薦でも他薦でも構わん」

「ちょ、ちょっと待った! 俺はそんなのやらないぞ!」

「ぼ、ぼくm・・・」

 

「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」

「そ、そんな…」

 

無茶苦茶すぎるわ! 何とかして言い返したいけど怒鳴られたらまた出そうだ。

今ちょっと膀胱やばい。

 

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 

突然、甲高い声が教室を貫いた。

 

流石オルコット!!

やっぱり英国の淑女は日本のケツの青いガキとは格が違う! 推薦するのもありだな…

 

「そのような選出は認められません! 大体男がクラス代表だなんて末代までの恥さらしですわ! このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

うんうん。…ん?

 

「実力で決めるなら、わたくし以外ありえませんわ! ただの人気投票じゃありませんでしてよ!?」

 

これに関してはまじでその通りだと思う。

代表候補生を差し置いて代表になったのにボロ負けしたら、代表候補生のメンツが立たない。

 

「それを、もの珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、見世物小屋をする気は毛頭ございませんわ!」

 

これ、前の世界だったらギリギリアニメで放送できない発言なんじゃないか?

さっきの休み時間に一瞬でも上がった好感度返せよ、マジで。

やっぱりイギリスは三枚も舌があるから口が回るのかな、なんて心では思ってももちろん口では言わない。

油に火を注ぐのはよくないよね。目には目を、だと世界が盲目になっちゃうもんね。

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で――――」 

「じゃあ、帰ればいいだろ。先進的な"IS"文化を持つイギリスに」

 

ナイスだ、一夏! やっぱりここで言い返さないとつけ上がる。

オルコットとのいざこざも、クラス代表も、この調子で引き受けてくれ!!

 

 

「なっ……!? じゃ、じゃあ、そこのさっきから黙りこくってる貴方はどうなんですの!? あなたたちよりも、わたくしの方が代表にふさわしいと思いませんの!?」

 

オルコットは指を俺に向け、顔を紅潮させた。

 

ここで俺に飛び火するの?

極東の猿に意見求めてくんなよ。めんどくせえ。

まあ、少なくともこいつは代表の器じゃないんじゃないか?

性格が小物すぎる。それに原作の方も一夏がやったんだろうし、バタフライエフェクト的なものを考えると尚更こいつはダメだ。

勿論俺よりは適任だけど。

 

なんて言い返そっかな。

ウキーとか言って猿真似してもいいけどそれじゃちょっと芸がないしな。

文化的に遅れてると言われたらぐうの音も出ないし。

 

うーん……

 

 

 

 

 

 

これでいくか。

 

「高き鼻 青き瞳よ 極東の 猿も笑いて 猿山大将」

 

 よし! 決まったな!! これで少しは頭冷やすだろ。 

 

「な、なっ……!? 極東の猿ごときが、わたくしを……わたくしを侮辱するなんて……許せませんわぁぁぁっ!!」

 

拳を握りしめ声を震わせるオルコット。隣の席の人が耳を塞ぐくらいには声量がでかい。 

生徒たちみんな怖がってるって… あの織斑先生もちょっと引いてますやん。

煽りすぎたか。てかオルコットには理解できないと思ったんだけどなぁ。

いっぱい日本語勉強してるんだなぁ。

 

「決闘ですわ!!」

「おう。いいぜ! 四の五の言うよりわかりやすい」

 

元気よく応じる一夏とバンっと机が壊れる勢いで叩くオルコット。一瞬、机から鳴ってはいけない音がしたような…

代表候補生って学校の備品壊したら自腹なのかな。それとも国が払うのかな。

もしそうなら学校の備品全部こいつが壊したように見せかけてイギリスの財政、破綻させられないかな。

…無理か。

 

「言っておきますけど、わざと負けたりしたら、わたくしの下僕――いえ、奴隷にしますわよ!!」

「…イギリスってまだ奴隷制残ってるのか!?」

「な、なんですってぇ!!」

 

い、一夏君!? わざとやってるのか? 

あり得ないくらい煽りスキル高くね?

重要なときに敵煽りまくって負けるとかないよな? ちょっと心配なんだけど。

 

「よし。話はまとまったな」

 

織斑先生…これはまとまったんですかね?

 

「ちょっと待った!! 織斑先生、私を忘れてんじゃない!? この中国代表候補生の凰鈴音(ふぁんりんいん)を!!」

「…そうだった。その手があったか!!」

「その手ってなによ!! なに私を隠れ蓑にして切り抜けようとしてんのよ!! あんたもやるのよ!! 決闘!」

 

え、噓でしょ。まだ代表候補生いたの!?

一つのクラスにまとめていいんだ…

よくよく見ればYo○tubeのISの試合動画まとめでみたことあるような、ないような。

凰鈴音。あとでチェックしとこ。

 

「では織斑一夏、セシリア・オルコット、砥石光、凰鈴音の4名で一週間後の月曜の放課後、第三アリーナでトーナメント戦を行う。優勝した者がクラス代表になる。それでいいか?」

 

 いいわけないだろ!! ふざけんな!! なんで俺が入ってるんだよ!!

 

「ちょ、ちょっと待ってください!!」

「どうした、砥石? 怖気づいたか?」

「あれだけ啖呵を切ったんでしてよ!? 今更逃げる理由がどこにおありでして!?」

 

お。今の中々うまいな。短歌だけに…って突っ込んでる場合じゃないな。

 

「だ、だって僕IS起動したとき何一つ動かせなかったんですよ!?」

「それが?」

 

やめてください睨まないでくださいおねがいしますまじででちゃう。

でもここは絶対に譲れない!!

 

「一週間後に試合してもただ恥さらすだけですよ!」

「大丈夫だ。オルコットも現在進行形で恥を晒しているだろう?」

「・・・」

 

お盛んな彼女もようやく頭を冷やしてくれたらしい。まあ、俺も煽り返したから良くないんだけど。

…なんかしょんぼりしててかわいそうになってきた。

 

「お前は勝てない勝負はしないとでもいうのか? そのようだといつまで経っても上達しないぞ? 最初から常勝というやつなど一人もおらん」

「そうよそうよ。私だって最初の頃は中国の先輩に逆立ちしても勝てなかったし。やるだけやって損はないんじゃない?」

「ま、まあそうだけど」

 

凰の言葉に反論したいけどぐうの音も出ない。でも99%笑いものにされるんだよ?

なんでそんな公開処刑みたいなことしなくちゃいけないんだよ…

俺の能力のストックを削らずに勝てそうな方法もあるにはあるけど…

余程の事が起こらないとそれは無理そう。

 

「ち、ちなみに僕の専用機の話はどうなってますか?」

 

「あ、ああそれだが――――」

「ッ――――!」

 

この気配は間違いない!! 奴が来る!!

 

ガシャァン――!

 

窓ガラスが砕け散った瞬間、俺の体が先に動いていた。

椅子を弾き飛ばすように立ち上がった感触が一拍遅れて脳に届く。視界がぐにゃりと歪み、周囲の時間がスローに落ちた。

 

机の天板に足が触れた。

硬質な木が軋みを上げるよりも早く、俺は次の机へと跳ぶ。

重力が俺を引き戻す前に、筋肉を爆ぜさせてもう一度踏み切る。 ――駆ける、いや、飛ぶ。

風圧が頬を削り、耳元で空気が悲鳴を上げる。

背後で誰かの驚きの声が、溶けた飴みたいに引き伸ばされて聞こえた。

 

最後の机を蹴った瞬間、体は矢になった。

教壇までの距離が、一歩で消えた気がする。

 

「ちーちゃ~~~~~ん!!」

空気を切り裂く甲高い声。

その声と同時に、風圧をまとって舞い降りた影――篠ノ之束。

窓枠に残る破片がまだ宙に浮いている間に、彼女はそこにいた。

 

やられる前にやる。

 

学校に侵入してきた不審者から生徒を守るために手をかけた。

 

ただの正当防衛。

 

理由はそれだけでいい。

 

「待て!」

「ッ……!!」

 

織斑千冬の制止で、何とか体を捻らせた。

止めきれなかった勢いで、肩が空を切り、視界がぐらりと揺れた。

そのまま黒板に叩きつけられる――寸前で、足で黒板を蹴り込み、進行方向を窓側に変えて束と距離をとる。

 

 

「な、なんで侵入者なんかかばうんですか! 俺、実際前に殺されかけてるんですよ!?」

「そ、そうですよ織斑先生!! 学校の警備システムも反応しなかったし…いくらIS開発者の篠ノ之博士だからと言って不審者は不審者ですよ?」

「まあまあ、愛しの束ちゃんが来たからって、そんなに照れなくてもいいんじゃない?」

「照れてない!!」

 

今の発言だけを見るとちょっとダークなラブコメみたいに思えるかもしれないけど、彼女の身体からはほんの少しだけ殺気が滲み出てる。 あの時よりはましだけど、まだまだ気は抜けない。

織斑先生は黙ったままだし…

 

「あ、あれがISの発明者で天才科学者の束博士…」

「なんで……うさ耳つけてるの…?」

 

「あれが束博士なんですの…?」

「な、なんでいきなり…」

 

周りの生徒たちがざわざわと小声でささやき始める。

こいつらマジで邪魔くさい。

侵入者いるのになんで律儀に椅子に座ったままなんだよ。

おかしいだろ。さっさと避難しろよ。

 

「おいバカ二人。不細工な殺気を出すのはやめろ。私に前科をつけるつもりか?」

「ひどーい、ちーちゃん! せっかく私がサプライズプレゼントを持ってきてあげたのにー。でもその前に!!」

 

 束が勢いよくホウキに接近し、勢いそのままに頬ずりをした。

 

「久しぶりだね! 箒ちゃん。見ない間にこんなに大きくなっちゃって…特におっぱいが!」

「…死んでください。姉さん」

 

ホウキの拳骨が炸裂し、束は思わず後ろにのけぞった。

 

マジか… 一夏の幼馴染が束の姉だったのか。

そういえば束は一夏の事いっくんって呼んでたから旧知の仲だったのは頑張れば気づけたか。

 

あっぶな。本人の前で家族殺るところだった。

 

「…ご、ご無沙汰してます。束さん」

「いっくん! だいぶお久だね。はろはろー」

「今日はどんな用事で来たんですか?」

 

「お。そうだね。そろそろ本題に入ろうか」

 

サプライズプレゼントと何か関係があるのか?

もしかして・・・

 

「今日はねー。砥石に専用機を届けに来たんだよ!」

 

 

 

  

 は!!? まじで!!!?

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