「最近、『恋人ごっこ』が流行っているらしいんです!」
「恋人ごっこ、ですか?」
事の始まりは、お茶会での一言。
この一言が、私たち二人の関係性を変えてしまった。
「はい、例えば……手を繋いで歩いたり、二人で一緒にショッピングモールとかに行ったり、軽くハグしたり、などと恋人っぽいことをしてるようですね」
「そうなんですね……ヒフミさん的には、恋人ごっこをしている方々はどのように見えましたか?」
「みんなニコニコしてて心の底から楽しんでるように見えました! 正直私は羨ましいです!」
「前に私に相談してくれた子もそうなんです。以前のその子は余り笑わない人でしたが……彼女が恋人ごっこを始めてから微笑むことが増えたんです!」
「それは良かったですね」
そう言って元気よく話しているヒフミさん、素敵。
ごっこ遊びとはいえ、お互いが心のうちから楽しめるなんて、『ティーパーティー』の一員として何よりだ。
隣人を愛し、お互いが手を取り合う、そんな学園にしたいと考えていたのを思い出す。
待て、あることを思いついた。
恋人ごっこを目の前にいるヒフミさんやミカさん、セイアさんと実践すれば更に仲良くなれるのでは?
これはいい機会だ。お互いをより理解できるチャンスでもある。これを逃すわけにはいかない。
しかし、問題が一つある。それは……
「少し質問なんですが……恋人ごっこは1対1でやるものですか?」
「はい、そうですね! 3人以上の恋人ごっこは聞いたことがないです」
いくらごっこ遊びであってもハーレムは作れないこと。
ヒフミさんと恋人になり、ミカさんともなり、セイアさんとも……何でことはできない。
つまり、3人の中から恋人になる人を決めなければならないのだ。
誰にするべきか……
「えっと……どうかしましたか……?」
時間がない、為政者たるもの決断は素早くやるものだ。もうやるしかない。
「ヒフミさん、単刀直入に言います」
「私と恋人ごっこをやりませんか!」
「え……へぇっ!??? え? えええ? え??」
ヒフミさんが黄色い声を上げる。やはり、この反応が来るとは思っていた。
「あう……こんな私じゃナギサ様の恋人なんて務まりませんよ……」
彼女から見た『桐藤ナギサ』はまさしく憧れの人なのだろう。そんな人から『恋人ごっこをやりたい』など言われたら、彼女の中でのイメージが崩壊するに違いない。
それでも、私には譲れないものがあるのだ。私は単にヒフミさんと仲良くなりたい、ただそれだけ。
ならば、こちらから仕掛けてみよう。
「私じゃダメですか……? ヒフミさん……いえ、
あ、ヒフミさんが吹っ切れた。何かに目覚めたように大きく開いた目。両手で覆われても分かる真っ赤な頬。彼女の情緒が破壊されたのは明らかだ。
ヒフミさんが恥ずかしさの余り勢いよく席を立ち上がり、こちらへ駆け寄る。可愛い、抱きしめたい。もういい、抱きしめちゃおう。
「うぅ……ナギサさまぁ……ズルいですぅ……」
「ふふ、ヒフミちゃんは可愛いですね。よしよし」
私が抱きしめたら返してくれた。これがハグ……! 確かに幸せで安心な感覚がする。これからも抱きしめていこう。
そして今、ヒフミさんは私の身体に顔をうずめている。早くその顔を拝みたい。
「さて、お返事をお聞きしたいのですが」
「ヒフミちゃ〜ん? 安心してくださいね〜よしよし」
「あうう……分かりました……いいですよ……ナギサ様との恋人ごっこ」
「本当ですか! ありがとうございます」
「でも、私の情緒をこんなことにした責任……取ってくださいね?
そのとき、私の中の大切な何かが爆発した気がした。
こうして、私とヒフミさんの恋人ごっこがスタートしたのだ。