その二人も私服、お忍びというのは間違いでないようだ。
いや待て、なんで二人がこの場にいるのだ。なんで? ロールケーキでもぶち込もうか?
それより恋人ごっこを幼馴染に見られたのが恥ずかしい。本当にロールケーキぶち込みたい。
「あ、私も何か頼もーっと。ナギちゃん何頼んだの?」
「サンドイッチと紅茶のセットですが……なんで勝手に入ってきてるんですか!?」
「それは私から説明しよう。単純明快で簡潔にシンプルに述べると、この情景が昨日の『夢』に出てきたからだ」
「そう、ナギちゃんとヒフミちゃんがイチャイチャしてるのが見れるって言うから意気投合しちゃった☆」
セイアさん……!! 澄ました顔で人のデートに割り込むなんて……! 嵌められた……! 後でマカロンを口が裂けるまで捩じ込んでおこう。
「あはは……その……やっぱり私がナギサさんと恋人ごっこをやっていいのでしょうか……?」
「大丈夫大丈夫! むしろナギちゃんヒフミちゃんはお似合いだよ! なんか姉妹っぽいし!」
「「姉妹!?」」
被ってしまった。私とヒフミちゃんが姉妹……? いやアリなのか……? 少し想像してみる。
『ナギサお姉ちゃん!』
一瞬で脳が覚醒してしまった。待って、可愛すぎる。これを想像してしまった時の感情など顔に現れないで欲しい。
「あれ〜? ナギちゃん顔赤いよ〜? やっぱりお姉ちゃんって呼ばれたいのかな〜?」
「いやっ、違っ! そのよく喋る口を──」
「お待たせしました、サンドイッチと紅茶のセットお二つです」
「あっはい、ありがとうございます」
先に頼んでおいた品物が届いた。それによって現実へ引き戻される。よく考えてみると、私は何を用いてミカさんの喋る口を封じようとしたのだろう? まあいい。いい加減目の前の品物を味わいたい。
まずは紅茶を一口。やはり紅茶を飲むと気持ちが安らぐ、波一つない海のように。
次にサンドイッチも頂く。新鮮なレタスとトマトにハム、鮮やかで爽やかな味。少し塩味も効いていて紅茶と相性が良い。
「ヒフミちゃ〜ん、それ美味しい?」
「はい! 美味しいです! 一緒に食べるっていいですね!」
ミカさんがヒフミさんの食事をじっと覗き込んでいる。食事が来るのを待てなくなっているのだろう。暇そうにも見える。
「あっ、そうだ! そのサンドイッチを『あーん』ってやってみたらいいんじゃない?」
「ミカさん!? いくらなんでも公共の場では……!」
「あはは……まあでも『あーん」って恋人ごっこの定番ですよね」
真っ先に私が反応するが、ヒフミちゃんがまさかの乗り気? 確かに『あーん』は恋人ごっこにおける通過儀礼なのかもしれない、しかし周りに見られたらと思うと気が気ではない。
「まあ、所詮ごっこ遊びの範疇なのだし悪くないと思うぞ? 君は恋人の思いを無に帰すのかい?」
「……分かりました。どうぞ、ヒフミちゃん」
セイアさんもあちら側だったのでやむを得ず。抵抗しても仕方ないので大人しく従うことになる。なんとでもなれ。
「本当にいいんですね? それじゃあ行きますよ……」
ヒフミちゃんは照れながらサンドイッチ一口を差し出す。その手は微かに震えている。彼女が恥ずかしそうにしているのは明らかなことだ。
「はい、あーん」
サンドイッチを口に入れる。周囲の空気が一瞬止まったような感覚。ヒフミちゃんの隣からは「キャーッ!」とミカさんの叫びが聞こえて、私の隣からはすまし顔で紅茶を飲むセイアさんの姿が見える。
「……美味しいです」
「よ、良かったです……!」
ヒフミちゃんの頬は赤く染まる。彼女の指先までも震えているようだ。
今、この瞬間────まさにこの瞬間だけは、ごっこ遊びなどではなく──本当に、恋人同士のように思えた。
この後、ミカさんセイアさんの二人が頼んだ料理も届き、全員が食べ終わって例の乱入幼馴染たちと別れることになった。先ほどの「あーん」は見事に撮られていたようだ。ミカさん、セイアさん、決してSNSに拡散しないでくださいね? いいですね?
まあ、これで再びヒフミちゃんと二人きりになったのだ。ここからが本当の始まりである。互いの手と手が触れそうになりながら、胸の鼓動が早まるのを必死に隠しながら、私はヒフミちゃんと次の目的地へ一歩を踏み出すのだった。