手紙ではなく、札束を!   作:深紫Sιn姉

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7話:二千万ライデンの輝き

 ——四年後、俺は二十歳となっていた。

 

 時計の針は大きく進んだ。

 同時に、世界は加速度的に進歩した。

 

 街も大きく開発され、人口増加により、城壁で囲われた旧市街の外に、新市街が形成された。

 

 ふわりとした風が頬を撫でる。

 

 邸宅の外、ライデン市の中心部を見る。

 そこには、一際大きな塔が立っていた。

 

 ”電波塔”

 

 無線の技術を応用した、いわゆるラジオなど、情報を届ける建造物だ。

 

 完成間近のそれは、まさに存在感を放っている。

 

「エレン。手筈の方は」

 

 俺は彼女にとある指令を出していた。

 ギルベルト・ブーゲンビリア少佐の捜索。

 

「ノア様の予想で間違いありませんでした」

「そうか、それならよかった」

 

 エカルテ島に隠れて余生を送ろうとしている彼。

 ギルベルトを、俺は探していた。

 

 当初は見つからず、各国の修道院を念入りに探したのだが、結局はここで見つかった。

 

 それはひとえに、俺のお金のため。

 

 C.H郵便社に自動手記人形として所属する、ヴァイオレット・エヴァーガーデンの想いの人。

 

 本来であれば、二人はエカルテ島で出会い、そこで余生を送ることになる。

 

 ただ、俺はそれを阻止する。

 

 なぜなら、ヴァイオレットはC.H郵便社にとって、目玉商品ともいえる立派なドールだから。

 

 彼女が今、駆け落ちしてしまえば、俺の資産が目減りすることになりかねない。

 

「では、手筈通りにいこう」

 

 すまんな、まだ見ぬギルベルト少佐殿。

 君たちの未来は、このノア・グラジオラスが握らせてもらおう。

 

 

---

 

 

 C.H郵便社にて。

 

 俺はヴァイオレットと面会していた。

 

 三ヶ月先まで予定の埋まっている彼女だが、社長のホッジンズに頼んで、便宜を図ってもらっていた。

 

「それで、ノアさん。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

 ヴァイオレットは胸元に緑のブローチを光らせて、不思議げな顔でこちらを見ている。

 

「君の右手薬指、その指輪を覚えているかい」

 

 俺の唐突の質問に、彼女は首を傾げる。

 そして、過去を思い巡らせると、ああ、と納得したように答える。

 

「ええ、これは数年前のノアさんから頂いた——」

「君の瞳と同じ色の宝石だ」

 

 言葉に被せるように、俺は話を続ける。

 

「もし、もしもだ。その指輪を、君の想い人……少佐殿に渡せる機会が訪れたとしたら、君はどうする」

 

 俺の問いに、彼女は深く考え込む。

 

「それは……それはきっと、幸せなことなのだと思います。……ですが、少佐は、もう——」

「違う、君の幸せじゃない。C.H郵便社を辞める覚悟が、あるかないかだ」

 

 ヴァイオレットはこちらをじっと見つめる。

 そして暫くが永遠に感じられるような時が経ち。

 

「もし、例え地平線の彼方、再び少佐と出会えたのならば。私は、このC.H郵便社を辞めてでも、彼の方のそばにいたいと思います」

 

 俺はその答えを聞き——ニヤリと笑う。

 

「実に結構。では、もしもだ。それがライデンで叶うとしたら、君は会社に残ってくれるかね?」

 

 この確信めいた問いに、ヴァイオレットはハッとこちらを驚いたように見つめてくる。

 

「少佐が……少佐が見つかったのですか?」

「それは、この後の君の返答による……としか今はまだ言えないな」

 

 彼女はこちらをじっと眺める。

 そして、ようやくその意味に気付いた時。

 

「ノアさんの、お望みは。私にC.H郵便社に残って欲しい、ということでしょうか?」

 

 核心的な問いをしてくる。

 

「その通り。少佐殿が見つかって、君がいなくなってしまえば、会社の損失は計り知れない」

「…………」

 

 ヴァイオレットは押し黙る。

 

「それで、どうなんだヴァイオレット。もし私が少佐殿をあの世からでも連れ出してきたら、君は会社を辞めずに、ここライデンに残ってくれるかね?」

 

 俺は意地悪にも、真剣に、問うてやる。

 この後の返答しだいでは、俺はいかようにでも、未来を変えることが可能だ。

 それこそ……二人がもう二度と再会できないように取り計らうことだってできる。

 

 ヴァイオレットはじっとこちらの瞳を覗くと。

 

「少佐を……連れ戻していただける、というならば、私はノアさんに従い、C.H郵便社に残りましょう」

 

 どこか確信めいたその返答。

 俺は、すっくと席から立ち上がり。

 

「では——”交渉成立”だ」

「……‼︎」

「君と少佐殿を出会わせると、海の女神に誓おう」

 

 

---

 

 

 あの日より、俺はヴァイオレットとホッジンズ、他護衛を複数引き連れて、大陸横断鉄道に乗っていた。

 

「少佐は本当に……彼の地に?」

「僕も信じられないよ、ギルベルトが……その、生きているなんて」

 

 二人の疑問に俺ははっきりと答える。

 

「間違いない。すでに俺の密偵が所在を明らかにしている。彼は確実に”エカルテ島”にいる」

 

 ヴァイオレットが心配げに顔を俯かせる。

 

「……もし帰ることを断られたら、私は……」

「大丈夫だよヴァイオレットちゃん。ギルベルトは、きっと戻ってくる。……そうでしょう? ノアさん」

 

 ホッジンズがこちらを伺ってくる。

 

「まあ……万が一断られても、”無理やり”連れて帰っていただく予定だから……ねえ?」

 

 複数の護衛。

 それは俺の身辺警護の為の盾でもあり、実質的な暴力装置でもある。

 

「それは……! ダメです! 少佐の身に危害を加えることは、私が許しません」

 

 ヴァイオレットが鬼気迫るように言った。

 

「おお怖い。でもいいのか? 少佐殿が帰らないとなれば、君はもう二度と彼に会うことはできない」

「それは……その……」

「ノアさん、あまりヴァイオレットちゃんを追い詰めてやらないでください」

 

 ホッジンズが頭をこちらに下げた。

 

「いやいや、頭を上げてください社長。これはある意味、社運をかけた、一世一代の賭けなのですよ」

「どういうことです?」

「C.H郵便社にはまだヴァイオレット・エヴァーガーデンという代表的な商品が必要というわけです」

 

 商品……と、ホッジンズは苦笑いする。

 だが、彼と俺の仲も長い。

 特に指摘するわけでもなく、彼は頷いた。

 

「ヴァイオレットちゃん、大丈夫だ。あいつは……ギルベルトは、きっと帰ってくる。そうに違いない」

「だと……いいのですが」

 

 弱気なヴァイオレットを励ますホッジンズ。

 

 再会の日は——近い。

 

 

---

 

 

 遡ること、数週間前。

 

「ノア様。それで、例の人物がもし『帰らない』と抵抗した時は、どのように説得・解決するおつもりなのでしょうか?」

 

 メイドのエレンが単刀直入に尋ねてくる。

 

「そりゃあもうね、無理やりよ」

「……暴力ですか?」

 

 おいおい、俺のことを悪の親玉だとか勘違いしてないか? この従者は。

 

「滅相もない! そんなことするくらいなら、そもそもヴァイオレットと少佐殿を引き合わせないよ」

 

 ドライかもしれないが、俺はそうするだろう。

 

「では……どのように説得するおつもりで?」

「LOVE……愛だよ」

「はあ、そう形容的なことを言われましても」

 

 俺の漠然とした答えに困惑した様子のエレン。

 

「愛ってのは力強い」

「いまだお父上にお見合いを勧められても、頑なに断っているノア様が言うことですか、それ」

「ほら、愛ってのは力強い」

「……バカにしてます?」

 

 彼女がキッとこちらを睨みつけてきたので、少しおどけて見せる。

 

「いや何、冗談よ。ただし! 愛の力を使うというのは、あながち間違いではなかろう」

「と、いいますと?」

 

 俺は立ち上がり、エレンの手をそっと握る。

 

「……ッ⁉︎ な、何をするのですかノア様‼︎」

 

 頬を赤くして焦ったようにするエレン。

 俺は、そんな彼女にむけて真剣な瞳でこう、訴えかける。

 

「愛してる——」

 

「……は、はあ⁉︎ 何を一体急に……!」

「もし俺が辺境に行ったとしても、エレン。君は着いてきてくれるか?」

 

 困惑したような様子でニギニギされた手を震わせる彼女。

 だが、意を決したのか。

 

「……ノア様がおっしゃるなら。どこまででも」

 

 まるで純粋な愛を告げられた乙女のような表情で、そう強く誓うのであった。

 

 俺はそんな彼女にそっと微笑む。

 

「じゃあ、本当に行こうか。辺境まで——」

 

 

---

 

 

 大陸横断鉄道を乗り継ぎ、ギルベルト少佐殿のひっそり隠れ住む、エカルテ島までの連絡船に乗った。

 

 そして数時間が経ち。

 我々三人はその大地に足をつけた。

 

「ここが……少佐のいらっしゃる……」

「ずいぶんと、小さな島のようだね」

 

 二人がそんなことを言っている。

 俺はそれを尻目に、地図を広げ早速歩み進める。

 

「えっと……情報によると、ここから十数分歩いた先にある、小さな町のポツンと一軒家が、少佐殿の現在の家らしいですよ」

 

 二人は俺のあとを着いていき、小島を歩く。

 

 そして、すぐに”その時”は訪れた。

 

「ホッジンズ社長。ここです、”彼”の家は」

「よしわかった。俺がやろう」

 

 ——コンコン。

 

「俺だ。クラウディア・ホッジンズだ。……ギルベルト、いるんだろ? 開けてくれないか?」

 

 扉をノックして声をかけ、しばらく反応を待つ。

 

 すると中から、小さく声が返ってきた。

 

「ギルベルト・ブーゲンビリアはもう死んだ……」

 

 ホッジンズはその言葉を聞いて激昂した。

 

「ッお前! 死んだって、そこにいるじゃないか‼︎」

「…………」

 

 家の中からは沈黙が返答として返ってきた。

 

 続いて、ヴァイオレットが声をかける。

 

「少佐……私です。ヴァイオレットです」

「…………」

 

 だが、貫かれるは静寂のみ。

 

「ふむ、これは中々手強いですな」

「ギルベルト……‼︎」

「……少佐」

 

 二人の少佐殿の知り合いは感情の吐露を隠せないようであった。

 特に、ホッジンズなんか今にも殴り込みにいきそうな勢いだった。

 とはいえ、扉は閉まっているので不可能だが。

 

 俺は、ヴァイオレットに声をかける。

 

「ヴァイオレット、会いたいか?」

「……少佐。……少佐」

 

 だが、ヴァイオレットは同じ言葉を何度も呟き続け、こちらの声など聞こえていないようだった。

 

 まあ、いきなり訪れたらそうなるだろう。

 予想はしていた。

 

 ただ——俺たちがそれだけで引くとは思うなよ。

 数日もかけてここまで来たんだ。

 何の成果も得られずでは帰れまい。

 

 ——コン、コン。

 

「少佐殿、初めまして。ノア・グラジオラスと申します。扉をそちらから開けて頂ければ嬉しいのですが」

 

 もちろん、返答はない。

 ぽっと出の人間に返す言葉なんてない。

 

「開けていただけないというならば、こちらも強行手段を使わざるを得ないのですが、それでもよろしいでしょうか?」

「…………」

 

 沈黙は肯定という。

 俺は、右手を天にさっとあげた。

 

 護衛として引き連れてきた巨漢の男たちが、影から現れ、俺の周りに集まる。

 

「ノアさん⁉︎ 一体何を?」

「いやなに、ここはちょいとばかしパワープレイを」

「ダメです! やめてください‼︎」

 

 ホッジンズが尋ね、ヴァイオレットが扉の前に、守るように立ちふさがる。

 

「なんだ、ヴァイオレット。会いたいんじゃなかったのか?」

「それとこれは別です……! 少佐に危害を加えてはなりません!」

 

 ……まったく、わがままな娘だ。

 

 俺は右手を大人しく下げる。

 護衛たちも、それに従い警戒態勢を解く。

 

「じゃあどうする。もうここで帰るか?」

「……それは、その……ですが」

「あの日、私は女神に誓ってしまったじゃないか。『君と少佐殿を出会わせる』と」

「それでも……!」

「あの日の誓いはただの口約束だったのか? いいや、そうじゃない。私は確かに女神に誓った」

 

 ヴァイオレットは、肩をしゅんとさせる。

 

「ならば、君が己の手で道を切り開くか?」

「私は……少佐は……」

「なら決めてくれ。今ここで帰るか、帰らないか」

 

 彼女はじっと下を向いたまま、大人しくする。

 そしてようやく、言葉を苦しく絞り出した。

 

「少佐が……私たちと会いたくないと言うならば、私は……もう、帰ります」

「とのことだ! 少佐殿、聞こえているんだろう? 何か返事をよこしてくれたらどうかね!」

 

 だが再び答えは沈黙。

 ホッジンズが我慢できずに扉を強く叩いた。

 

「ギルベルト! ヴァイオレットちゃんを悲しませたままなんて、お前らしくないじゃないか‼︎」

「……ホッジンズ社長」

「ヴァイオレットちゃんはなあ! お前のことを生きてるって、ずっと願って、帰ってくるって信じてたんだぞ‼︎」

「……社長。もう、いいです。もういいんです」

 

 ヴァイオレットが後ろからホッジンズの服をちょんと摘み、そんなことを口走る。

 

「だけど、ヴァイオレットちゃんは……」

「帰りましょう。少佐は、もう死んだのです」

「ギルベルトォォオオオ‼︎」

 

 ホッジンズの激昂、ヴァイオレットの悲しみ。

 俺は一人呟く。

 

「ふむ、仕方がない。少佐殿の心には鍵がかかっていらっしゃるようだ」

「ノアさん……約束の件、申し訳ありません」

 

 ヴァイオレットが目尻に涙を浮かべて、こちらに謝罪の言葉を送ってくる。

 

「いや、いい。想定内だ」

 

 俺は右手を再びあげる。

 

 それに気付いたヴァイオレットが再び戦闘態勢を取ろうとし……。

 

 俺は、護衛から一つの”鍵”を受け取った。

 

「それは……一体?」

 

 ヴァイオレットが尋ねてくる。

 俺はにこり微笑むと。

 

「何も心の鍵から開ける必要はない」

「……何をおっしゃって——」

「つまりだ、”物理的”に開けてしまえばいい」

 

 俺はヴァイオレットを押しのけ、扉の前に立った。

 

「失礼する……と、先に言っておこう」

 

 ——カチャリ。

 

「ギルベルト……」

「少佐……‼︎」

 

 家の扉は開き、屋内の人物の姿が露わになった。

 

 

---

 

 

「どうやって……扉を開けた」

 

 中からギルベルトが警戒するように言葉を放った。

 それに対し、俺は当たり前のように答える。

 

「失礼する……と、言ったはずだが?」

「違う! どうしてうちの鍵を持っている‼︎」

「なんだ、黙ったばかりじゃなく、しっかりと会話はできるじゃないか」

「だから、どうしてうちの鍵を……!」

 

 さて、説明するのも面倒なので、軽く語ろう。

 

 これはエカルテ島に入った直後に、村長の家に護衛たちを複数向かわせて、札束を目の前にどんと置いて、合鍵をとても友好的に、善意で渡してもらったものである。

 

「まあ方法はどうだっていいじゃないか。死人に口なし。これを聞いたって仕方あるまい」

「…………」

 

 少佐殿は、こちらを睨んだまま再び沈黙を保ってしまった。

 

 ヴァイオレットが少佐に声をかける。

 

「少佐……その、私は」

「……帰ってくれ」

「ッ‼︎ ……わかりました」

 

 彼女が踵を返そうとし……。

 

 ——ホッジンズが、ギルベルトを殴った。

 

 鈍い音が鳴り、突き飛ばされて地面に叩きつけられる音が響く。

 

「少佐⁉︎ ギルベルト少佐‼︎」

 

 ヴァイオレットが焦ったように、庇うように彼の身のもとに近づく。

 

 だが、ホッジンズは冷静じゃない。

 そのまま少佐殿の身体を引っ張り上げようとしたところを——ヴァイオレットに止められる。

 

「社長! ホッジンズ社長‼︎  お願いします! やめてください!」

「ヴァイオレットちゃん……。でもこいつは……‼︎」

「ですから、もういいのです! 少佐の顔を見られただけで私はもう満足なのです。これ以上はもう、何も望みません!」

 

 俺は二人のやりとりを見守ったのち、地面に横たわる少佐殿に声をかける。

 

「とのことだが、少佐殿はこの感動的な再会に何も反応はなしですか」

 

 そんなことを言うと、とうとう声を発した。

 

「ヴァイオレットは……私がいると幸せになることができない」

 

 それは、独りよがりな言葉だった。

 

 ホッジンズが声を発する。

 

「ヴァイオレットちゃんは……お前の生存を心から望んでいた。毎日、毎日、願っていた。それなのに、そんな言い方はないじゃないか!」

 

 それに対して、少佐殿はゆっくりと、後悔するように語った。

 

「私が……彼女を武器として扱ったばかりに、ヴァイオレットを不幸にしてしまったんだ!」

 

 ヴァイオレットはその言葉を聞いて、大きく返す。

 

「そんなことは! 少佐の元にいて不幸だったなんて、そんなことはありません!」

「だが……私は」

「少佐! どうか、そんなに自分を追い詰めないでください!」

「ヴァイオレット……」

 

 ホッジンズがそんな様子の二人に声をかける。

 

「ギルベルト、ライデンに帰ってこい。ヴァイオレットちゃんも、それを望んでいる」

「でも俺はもう……ここで生を過ごすと決めた」

 

 なるほど、とてもじれったい。

 ここは最終兵器を出すしかないな。

 

 俺は、懐からあらかじめ準備していた”手紙”を取り出して、そっと少佐殿の前に渡す。

 

「……これは?」

「ブーゲンビリア辺境伯。つまり、ご実家からだ」

 

 そう、俺はライデンシャフトリヒの辺境にある、ブーゲンビリア家へと従者と共に赴き、手紙を書いてもらっていたのであった。

 

 そこには、少佐殿の安否を心配する。

 無事に生きて帰ってきてほしいとの想いがつらつらと文字に刻まれている。

 

「……そんな、私は」

「ギルベルト、帰るぞ。俺たちの故郷に」

「少佐……」

 

 ギルベルトは震える指で便箋を広げ、最初の一行で呼吸を止める。

 

『元気でいると信じています——』

 

 彼はゆっくり目を閉じ、拳を緩めた。

 

「……ヴァイオレット」

「はい……少佐」

「こんな私を、許してくれるか……?」

「私は、少佐を『愛しています』から」

 

 ヴァイオレットの告白。

 それを受け取った彼は……。

 

「私も、君を『愛している』ヴァイオレット」

 

 

---

 

 

 戦後から四年——。

 ついに電波塔が完成した。

 

 そして今日は、初の点灯式。

 

「一件落着、ってやつだ」

 

 俺は見晴らしのいい、邸宅から電波塔の点灯式が始まるのを待ち、眺めていた。

 

 あの事件のその後を語ろう。

 

 ”愛してる”を伝えた二人は、互いの愛を誓い、エカルテ島に残ることなく、ライデンシャフトリヒに戻ることとなった。

 

 俺はそんな二人に、C.H郵便社の近くにある家を札束で買いたたき、プレゼントした。

 

 ……幸せな空間は必要だからね、多少はね。

 

 ”原作”と異なり、ヴァイオレットは会社を辞めることなく仕事を続けている。

 

 少佐殿も、ホッジンズから頼まれ、事務作業をC.H郵便社で手伝う仕事をしているようだ。

 

「おっ、そろそろ始まるな?」

 

 高く聳え立つ電波塔が、足元から順々にライトアップされていき、ついには頂上まで光る。

 

 それと同時に、周囲から大量の花火が上がった。

 

「さて、千発分の札束の輝き、見せてくれよ」

 

 ——心地の良い轟音と、火花が夜を彩る。

 

 人々が街の道に出て、それを見守る。

 

 今日は記念すべき日だ。

 

 なんたって、新たな形で。

 物語はハッピーエンドを迎えたのだから。

 

「なるほど、これは綺麗だなあ」

「ノア様、こちらを」

 

 エレンから光の色をした透明な白ブドウ酒を、グラスに注がれる。

 そして互いにグラスを合わせ、雰囲気に浸る。

 

「「乾杯!」」

 

 グラスの縁が小さく鳴り、遠くの轟音と重なる。

 二十歳の杯は、ようやく胸を張れる音がした。

 

 札束は火薬に、火薬は光に、光は道になる。

 そしてその道は、手紙の温度へと続いていく。

 

 二千万ライデンの輝きが、夜空に溶けていった。




ライデンの夜に灯った光が、あなたの明日も照らしますように。
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