ダンガンロンパがクトゥルフ神話に目をつけられたら…   作:キルキルイキル楽しみ

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【このエンディングは検閲されました】

 

「ボクはユウ。…まあ、今となっては君を助けることしかできない幽霊さ」

 

奇妙なゲームの最初の夜、それはあらわれた。幽霊であるからなのかその体は透け、白いスカートや長い髪の毛には点々と赤い血がこびりついている。

 

幽霊…というか普通に考えてオカルトなことはありえない。そんな常識からかプロジェクターを通した運営からの嫌がらせだと最初は思っていた。

自称幽霊の彼女─まあ、ユウと呼ぶことにしよう。氷雨はどのもかしこもおかしかったが、こちらからの反応を待っていたりと人間らしいところがところどころに出ている。

 

「…ずいぶんと優秀なAIなんだな。このコロシアイも解析してくれないか?」

「構わないさ!時間はかかるけれど確実に君の手で情報を集めようじゃないか…そう、君の手でね」

 

運営が用意したにしてはこちらの要求を嫌な顔一つせずに引き受けた。嘘が混ざった情報…いや、100%嘘の可能性も含めて考えないと。

 

「それじゃあまず一つ。ボクの記憶が正しければこの島のマーケットには地下があるんだ。凶器を集めたデッドマーケットがね」

「…へえ」

「それはバックヤード内にあるレジに『14553271(えのしま)』と打てば階段が出る。明日にでも確かめてきたらどうだい?」

「あぁ、そうするよ」

 

別に嘘なら嘘でいい。マーケットの地下にあるデッドマーケットとやらを明日は探しに行けば氷雨の情報の使い方を決めよう…とはいえ、当面は使うとしても翌日の行動指針になりそうだが。

 

「…はぁ、寝る」

「もう寝るとは実に真面目なことだ。おやすみ、きみ」

 

ゆうはふっとぼやけるようにして見えなくなったが、電気はついたままだ。AIなら電気くらいは消してほしかった。全く不便である─とはいえ所詮は運営の用意したものだし期待することは間違いであるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

翌日スーパーの中でバックヤードを探すと思いのほかあっけなく見つかった…というより腐った匂いを辿るだけですぐに着いた。

 

「…で、匂いの発生源はここからか。廃棄物の処理をするためにバックヤードがあるわけじゃないのに…」

 

コロシアイの一環として作られているのにしては品揃えはスーパーそのものより豪華なのだが…いかんせんこの匂いだけは許せない。原因を確かめるためにドアを開けようとすると、つっかえ棒があって動かない。

 

「…にしたって、封鎖させたのに腐らせる必要あるのかよ?」

 

疑問はありつつも、嘘か本当かを確かめられない。島の中の医療品も一手にやっているスーパーの唯一のバックヤードが気にならないわけがない。

 

「…とりあえず、今日のことは報告するか」

 

…真偽を確かめることはできなかったけれど、『なにか』はあるというのはわかった。それだけでもこれを成功と考えていいだろう。

それに他の人達とも足並みを揃えておかないようにすれば真っ先に殺害対象になるだろう。

 

自分の行動があくまでも乱すことにしか過ぎないことに自己嫌悪しつつ、報告をしに外へ出た。

 

 

 

「…で、バックヤードはしまっていたんだが」

「ボクの予想通りで何よりだよ。そもそもあんなあからさまな場所を他の人が探索してないとでも思ったのかい?」

 

その夜、当然のことながら現れたユウはこちらに笑顔でそう言ってきた。性格の悪さが滲み出たその言動に思わず苛立った。

 

「うるさいな…お前の信用をみるために行ったのは無駄骨だったのかよ?」

「勘違いされたら困るけど、ボクの方こそ君が嘘をついていないかくらい確かめさせてくれたっていいじゃないか。このコテージの地縛霊になったからには君もスパイだって考えられる」

 

地縛霊とはまた設定が凝っている。それにスパイがいるだのコロシアイ的に不利になる情報を俺に渡していそうだし…幽霊ってのもあながちありえないことじゃないのか?

 

ばかみたいな情報ばかりで困っているが、ゆうはこちらのことなど無視してしゃべる。

 

「あのね…そもそも君に協力なんてする意味はないんだ。ボクはもう死んでいるのにコロシアイを終わらせるなんてことはバカらしいし」

「はぁ…」

 

愚痴を聞き流しつつ、スパイ、の話を考える。この情報を他に渡すなら必ず誰なのかまで判明しないといけない。下手にバラすとコロシアイの火種になるし、その情報を漏らしたから狙われるなんてことがあれば本末転倒だ。

 

…そう、本末転倒なのだ。

 

「ああ、そうか。これは確かに失言だった。…後悔してはいけないが恥ずかしいことを言ってしまったね」

「黒歴史と感じるならさっさと成仏してほしいものだがな」

「それは困る。君にはもっともっと苦しむ顔を魅せてもらわないとね」

 

さらっとした顔でとんでもないことを言ってきやがった。…本当に大丈夫なのだろうか?

 

「ともかく、明日か明後日には殺人が起こるさ。どうせもうそろそろ動機が追加されている頃合いだろう」

 

 

 

翌日の晩。彼女の読み通り殺人が起きた。

 

「嘘だろ…?」

 

目の前にある事態を呑み込めなかった。正しい判断を下(くだ)せたのかもわからなかった。

 

周囲が死なないように必死になって証拠をかき集めて追い詰めるしかなかった。

 

「これが最後の証拠だ…」

 

裁判で暴いたのは反撃されて殺してしまったこと。必死になって逃げようとしていたこと。

アサシンとしてはあり得ない殺し方なのに、やけに手慣れた後始末であったこと。

 

『俺は、死にたくないんだ…!』

 

誇り高く生きたいと願った男を羅針盤は指し示し、悪趣味なファンファーレが鳴り響いた。

 

『死にたくなかった…殺されかけたんだから出してくれよ!殺さないで!』

 

ワガママに振る舞っていた幼馴染は、派手な方法で爆殺された。

 

 

『しねや、…!』

 

無様な死に方ではあった。

しかし殺されるべき存在ではなかった。

 

 

 

 

 

「…」

「おや、無言で憔悴して夜が更けて帰ってくる。ということは最初の裁判でも乗り越えたのかい?おつかれ」

 

腹の中が気持ち悪いままコテージに戻った俺は、あきらかににやにやした表情でこちらをみやるに苛立った。

 

「やーん、暴力反たーい」

 

が、ホログラムだかなんだかわからないの体をすり抜けて壁に当たってしまう。わかっていたことではあった。

 

「クソ野郎が…」

 

「ほらほら、よくも悪くも死者に対する敬いってものが足りないよ。ボクだって死んでるってことなんだし」

 

冷えていない頭で考えが及ぶものでもなく、自分の中での苛立ちを最大限抑えることを優先した。

 

「…そういえばだけどね」

 

呟いてこちらの注意を向けてくる。

 

「自分が殺した訳でもないのに苦しむなんて馬鹿らしいと思わない?」

 

「…るせぇな。俺だって罪悪感ぐらいはある」

 

どうなったって構わないような生活をしていた。だから狙われるのは自分だと感じてたし、それなら撃退できると信じていた。

それなのにこのザマじゃ…という、ただのエゴだが。

理解しているのに納得できないクズ。

 

「そんな気にするほどのものでも、卑下するようなくらい悲観することでもないさ。ふざけたものに巻き込まれた時点で皆覚悟していたって思えばいい」

 

「少なからず言えることは、君が殺したと感じてる幼馴染については気にしなくていいよ。そいつ、処刑だろう?」

 

図星をついてくるような言い方は、さっき俺があいつにやっていた行動そのものだ。

 

「…ああ」

「ならそれは彼が自分で選んであの道に進んだってことだよ。人を殺した上で逃げようとした殺人鬼を捕まえたのにわざわざ罪悪感に苛まれてるもんだよ?」

 

「だとしても」

「反論しようとなんかしなくていいよ?これは君という裁判を勝ち取った生存者に対する報酬であるし、単なる呆れからくる慈悲みたいなもんさ」

 

…皮肉ではあるけれども。

こいつからの一言はその日の俺には酷く染み込むものだった。

例えば、深い傷口にはアルコールもよく染み入るように。

自分から殺されるように生きるのではなく、死なずに生きるように思わせるものであって。

 

この環境に順応するための第一歩─

 

─このクソッタレなコロシアイに、慣れてしまうようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3回目の学級裁判が終わった。一番簡単であったのと同時に心には一番傷を負った裁判だ。

 

「あいつの狙いは俺だった、か…」

 

信じたくないことではあったが、やはり俺は危険扱いされていた。…正直、最初のクロだったあいつを除けば最も話していた奴に裏切られるなのは少し堪えるものがあった。それも、2人も巻き込んでしまったこと。

 

「キミが狙われるのもしょうがないことさ。散々こっちを追いつめておいて見た目や性格という面も最悪。殺そうとしないほうが僕は不思議だよ」

 

段々と彼女がいることに慣れてしまった。今ではむしろ毎日話さないと気が狂いそうになってしまう…駄目だとはわかっているのだが。

 

「…俺に死んでもらいたいのかよ?」

「まあボクだって仲間が増えるようなものだしね」

 

言い方に悪意がある、というのを含めた視線を送ればちょっとばかり肩をすくめた。

 

「これでも僕はキミのことを気にしているんだよ?まさか嫌いな相手と居たいなんて思わないさ」

「…お前の言うことを聞いてる限り死ぬなんてことはないからな」

 

結局のところ話していないと気が狂うくらいには彼女のことをかなり信用してしまっている。

ユウのことは幽霊だと信じているけれど…いや、運営が用意したAIと考えなきゃいけない。もう既に毒されてきている。

 

「そりゃキミに惚れちゃったからね…ついでに聞き流してもらって構わないけど、普通のダンガンロンパについては?」

 

ダンガンロンパ。今、参加させられているコロシアイの名前。考えてみればそちらを知ろうとはしなかった。

調べていたのはこの島のこと。地理や歴史からどうなっているかを考えていたが、普通なら真っ先に調べるところだった。…本当にこいつには俺の行動を監視してるようなことばかりを教えてくる。

 

「その言葉を聞き流せるわけないだろ。…あくまで基本的な知識だけだ」

 

それはよかった。

 

そう言わんばかりのはちきれそうな満面の笑みに俺は胸がドキドキする。

 

「じゃあちょっと聞いてもらおうか」

 

一言で間を切り、彼女は喋りだす。

 

「ダンガンロンパ、まあこれについてはロールプレイのわかりやすいゲームだね。江ノ島盾子と呼ばれる『超高校級の絶望』の存在を使用して他の『超高校級』を巻き込んだ大規模なデスゲーム」

 

滔々(とうとう)と語りだす彼女はさっきまでの言動とは何か熱に浮かされていた。

 

「じゃあなぜ一息に集めたときに殺さなかったのか、という話なんだけど…それは時代背景が関係しているんだ。おかしいとは思わなかったかい?こんな手のひらで転がせるような奴らがまだ生き残らせていることが」

 

言葉を挟ませるつもりもなく─

 

「その答えは簡単で、元々のモチーフが魔女裁判だからさ。あるいは異端審問─あるいは単に裁判場とも言いかえていいかもしれない。そこで自分たちが殺されることを恐れた村人が考えた嘘から始まった遊びから端を発したから。より強い絶望を相手に与えやすいから」

 

何を言いたいかすら言わず─

 

「巻き込まれた被害者(クロ)は死にたくないから自分以外の誰か(シロ)を殺す。シンプルな弱肉強食であると同時に罪から逃げるための方便だ。人狼(クロ)を駆逐したら終わり、ぐらいにルールも簡略化されてるしね。これくらいシンプルなほうがわかりやすく絶望させられるってわけ」

 

「本来の魔女裁判の意味としては魔女ではないと─シロであることを示すため。だから黒幕を殺して終わりなんて間違い…そう思う誰かさんがいたからこそ君たちはこのゲームで更に疑心暗鬼になったんだろう?」

 

殆ど何を言っているのかを聞き流し。

 

そこに話をする余地をムリヤリに作る。

 

「ゲーム、なのか?」

 

「そう!ゲームさ。金持ち(神々)がワインを飲みながらデスゲームを見る、なんてことがイメージとして浮かぶだろうけど、実際そんなものさ」

 

こちらを真剣に見つめるわけでもなく、さして普段と変わらないようでいて。

 

「話を戻そうか」

 

誰かに怒りを向けているようで、行き場のないやるせないことを抱えた迷子のような。

 

「このダンガンロンパで違うのは自分たちで役職を選べるところさ。人狼(クロ)になれるのは全員。黒幕のことを史実になぞらえて呼ぶなら─さしずめ、人狼を操る異端者ってところだろうね」

 

どこか破綻した彼女は。

 

「そうなるとやっぱりダンガンロンパと言うにしてはやはり違う気がするね。ウイッチロンパ、とでも呼んでみればいい。名前をつけたほうがわかりやすいだろう?」

 

 

「そう思えよ、しねや」

 

壊れたように、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

その後は、どんなことがあったかまでを詳しく言うつもりはない。

 

「…なるほど、な」

 

ユウの死体を見つけて、誰も知らないからと責任を押し付けられて。

 

動けないように拘束されて殴り飛ばされて死んだ。

 

『…しねや、一緒に行こうか』

 

『悪かったな、最後にあんなことを言って』

 

ユウと幼馴染と一緒に死後の道に向かった。

その程度の、つまらない話だ。

 


 

『シロは捜査をすることを邪魔されません。

クロになるためには村人が誰か一人を殺してください。

殺された死体が見つかれば捜査時間のあとに裁判を行います。

裁判では村人同士でクロだと思う人物を決めてください。

裁判が終わった後の投票で人狼が最多票になればそのクロが、そうでなければ人狼以外が処刑されます。

クロは裁判を乗り越えたのなら、外の世界に行く権利を手にします。』

 

これだけが、守らないといけないルール。

 

かつて『  』と呼ばれた少女は、自分の死すらも利用してそのルールを破ろうとしました。

 

「死体さえ見つからなければクロはクロとわからない…だから、死んだことがわからないように偽装しよう」

 

少女には死んでもデスゲームから抜け出させたい大切な、それはもう溺愛している生き別れの妹がおりました。

 

「ほら、刺して」

 

腹を自らが誘導して刺させました。他のクロが作った死体を壊してそちらに目を向けさせました。

 

(逃げれたかな…?)

 

少女は妹がどんな結末になったのかは知れません。人狼だとバレないで逃げれたのかもしれませんし、その逆で殺されたのかもしれません。生き地獄におちいったかもしれないし、自殺してしまったのかもしれない。

とはいえ、それは関係のないこと。

 

少女が次にユウとして起き上がったのは自分のものだったコテージでした。

 

(変な夢でも見ちゃってるのかな…?)

 

不安になった氷雨はベッドから起き上がろうとしてすり抜けます。聡明だった少女は、すぐさま自分が幽霊であることに気がつきました。

 

(幽霊になったってこと…?)

 

少女は現代ではありえないことだと決めつけていました。死ぬ前にみたのが夢だと信じていました。

 

だってあんなのが結末であっていいはずがない。僕はそんなことのために自分を殺さない。

 

強く信じている彼女は、しかし建物の外にでることはできません。地縛霊になってしまったのです。

 

(誰でもいいから、来ないかな…)

 

いっそ夢ではないと思えるような記憶と状況でも、少女は諦めませんでした。

例えば、地に落ちた鳥が風をまちわびるように。

例えば、やってこない人をまだ待つかのように。

 

ともかく、そんな祈りは神様(自分)の気まぐれで叶えられました。キィ、とたてつけの悪いドアを開ける音に氷雨は浮き上がりました。

 

でも神様の気まぐれは残酷なものでした。彼女が夢だと信じていた現実には出てこない人物。それは紛れもなく虚しくて、どこかほっとしました。

自らのことを夢だと断じられるからです。しかし夢から覚めるのならばどうすればいいのかを知ることはできません。

 

困ったユウは、自分のことを売り込むことにしました。夢か現実か、なんてものを考えるよりはそうしたほうがよほど現実的でした。

だってこれはきっと醒めない悪夢ですから。

 

特に最初は気にすることもなく、単なる普通の人がとして扱っていました。相手もそのことを理解しているかはわかりませんが、少なくとも情報を渡したらやってくれました。

 

そんな極めて普通な、友人同士のありふれた関係が変化したのは初めての処刑が終わった夜です。その日は月のでていない綺麗な夜、アサシンと呼ばれていた彼の幼馴染を追い詰めたのは他ならぬ彼だけなのです。

 

誰も自分以外は責めず、かといって本心から疑えるほどでもない。

そんな地獄のような空間から生き残った彼は、とてつもなく消耗していました。どれだけ張り詰めようとも限界なのです。

 

「少なからず言えることは、君が殺したと感じてる幼馴染については気にしなくていいよ。そいつ、処刑だろう?」

 

そう言い放った後の一瞬の刹那、救われたような彼の表情ときたら!

どんな言葉でも言い表せない美食を腹いっぱいになるまで貪ったときの喜びでも伝えられないような。

足りないものを探してやっと見つかったときの安堵にもにたような。

歪んだ愉悦を、彼女は感じました。

 

 

(このまま一緒にいれば、もっとボクをみてくれるのかな…?)

 

生きている─と呼んでいいのかはわかりませんが、恋する乙女には大切なものができました。

 

 

 

3度目の裁判の前、ユウは彼の横にいれるようになりました。そもそも地縛霊として過ごしていれるのは、強い思い入れのある場所だけです。

 

つまりはそれ相応に彼にも思い入れがあるということでしょう。そっと見守るだけでしたが、ユウにとってはそばで見られることが大切なのです。他のことは意識の外でした。死なせたくない、という思いで見ていました。

 

普段自分がいるよりも丁寧な彼の動き。本を読むときに集中すると少しつま先があがること。ユウにとっては他の情報収集は二の次、彼のことを知ることが最重要でした。

 

朝から夜まで取り憑く。夜には調べていたことに補足をして説明をして、日に日に彼から自分への依存を深めさせる。

 

すてきなその日々に、気に食わないものがありました。

 

「よっ、元気か?」

「…それは言わなきゃわからないのか?」

 

彼が図書館での読書を止める唯一の理由。明らかに染めた金色を隠そうともしない彼女の会話にだけは、必ず読書を止めてしまうのです。

 

「わかってるよ。ちゃーんと元気に生きてるんだよね、ヨシ!死んでんのかと思ってたからねー」

「この状況じゃシャレにならないからやめろ」

 

言葉の強さとは裏腹に優しい対応は、ユウにしては意外なことでした。彼はユウに対して異常に強く当たっているように見えてしまうのです。普通に考えれば幽霊よりは同じ境遇の人のほうが優しくするのはわかります。しかしわからなかったのです。

 

「何読んで─」

「お前には関係ない─」

 

彼女にはもう彼らの話は聞こえていません。それよりももっと、ワガママで恐ろしい考えが浮かんでいました。

 

(この人に殺されかけたなら、どんな反応をするんだろう…?)

 

自分にとって考えるとただの好奇心で動いているだけでした。悪霊としての自覚などはなく。

あくまで。そう、あくまで。

もう一度あの顔が見られるんじゃないかと期待して。

コロシアイを止めようとしていた彼の想いを踏みにじって。

思い切った行動をすることを決意しました。

 

 

「やあ、そこの女の子。僕はそうだね…このコロシアイを止めに来たのさ」

 

ユウは決意した夜に彼と話していた少女へと会話をしました。彼の行動を操っていた乙女なら、一人くらい騙すのも当然お茶の子さいさいです。

内通者がいる可能性、それを裏付けるような怪しい行動。

制限された情報を使って騙すのはユウの得意分野でした。超高校級と呼ばれるほどの騙す才能。本来なら使わないで生きていた存在が使うようになったのは、ひとえに大切だったモノ(妹)を守るため。

 

今大切なモノ(彼)を壊すために。

もっともっと素敵な愉悦を味わえるように。

自分好みに染めるために。

様々なことを考えながら、仕込み終わった氷雨は彼がいるコテージまで戻りました。

 

「…クソッタレ。こいよ、あのバカ…」

 

コテージにはすすり泣く声が聞こえてきます。自分がいないとどうしようもなくなるようにした彼。その泣く姿は強く心に響きます。

 

「しょうがないね、キミは…」

 

ユウはそっと彼にキスをします。涙の流れて冷たくなったその素肌にもっと冷たい唇を触れさせます。こちらを見る目に映る空虚が、何も映していないという事実が、自分の死という現象を理解させます。

 

(それでもボクは、キミから見られている…!)

 

彼女にとってはそれすらもどうでもいいことだと─彼の隣にいられるならばどうでもいいことだと断じました。それほどまでに狂った彼女でも、おかしいとは気づいているのです。

 

彼を殺させる計画を立て、もう一方で彼を依存させ。

泣き叫ぶ姿を見て愉悦を感じ、他の人と話すことすらも許せないほどの黒く濁った独占欲。

 

それすらも彼と愛し合うなら構わない。そうユウは想います。

 

 

しかし、どこから彼(・)の(・)こ(・)と(・)を(・)知(・)っ(・)た(・)の(・)か(・)を飲み込んだままなら。契約の代償を忘れてしまったのなら─

 

 

 

─邪なる神へと奪われるのでしょう。

 

 


 

ITEM GET!

【落ちていた日記】

ところどころ抜け落ちている日記。なぜか日付の書き方が回目から始まっている。

なお、これを読む際にSAN値チェック1d20/1d100。

 

 

 

一回目

暇を潰すために世界を観察していたら、どうやら面白いことをやっている人がいた。手を貸してやると世界へと広がって地獄絵図の出来上がりだったが、結局はそこまで面白いくらい盛り上がることはなかった。

しかし今回は他の世界ではみることのできない特殊な事例だ。楽しめるかどうかとはまた別の話だとして、もう一度程度なら飽きずに読めそうだ。

以降はこの回記には正しくこの世界の惨状について見たことを書いていくものとしよう。つまらなければ書き足しはしないけど。

 

二回目

書き足しをつまらなければしないと言った手前、すぐに書くのは恥ずかしいけどしょうがない。他の世界のように変わらない結末ではなく、全てが変わっていた。これはとても珍しいことであり、観察していた世界の中では珍しいことだ。

特に彼の動きは目をみはるものがあった。どんな状況においても人を信じる為に疑い、自分のことを棚に上げる。メサイアコンプレックスとでも言うべきその自己犠牲の精神は見ていて飽きない。

こちらから干渉しなくても面白いものを見せてくれる、エンターテインメントとして完成されたものだ。

 

三十回目

今も他も全て変わっている─そうわかっていたけれど要因が多すぎて固定化されたパターンを見つけるのは不可能だ。特に関係のない要因で死ぬこともあったり、はたまた冤罪で殺されるタイミングだったりとギミックが多すぎた。死亡回数は主人公であろう彼を除けば優に十を越えている。なぜ主人公であろう彼は未だに一度も死んでいない、そんな理由で主人公であろうと呼んでいる。百を数えるまで死ななければ主人公として決定されて然るべきだろう。

なお、もしこの世界の今見ている地点に来れるのなら、初めての殺害は自分の手で行いたいと思う。

もちろんこの手で殺すのは非常に難しいけど、神である以上問題はない。

ご都合主義は神のためにある言葉なのだから。

 

 

五十三回目

初めて黒幕が勝ったのを見た。本来なら主人公の彼も死んているのだろうけど、実はそうではなかった。要するに彼が黒幕だったのだ。

それを含めてもう一度この回を見直して見ると、一人だけやけに挙動不審な人間がいた。やけに殺されることを嫌がっているような気もするし、前回と不審な行動の仕方が違った。しかもいち早く自分から人を殺そうとした、その点においてもやはり違和感がある。

もしかしたら新しい要因ができたのかもしれない。しっかりと観察をして見極めないと。

 

六十八回目

気づいたのはこの前の回だが、念の為の確認としてもう一度みた。どうやらループしていることを認識している人がちらほらと出てきているみたいだ。特に名前が特徴的過ぎる…おおまえとやらがとてつもなくその頻度が高かった。幼馴染との共通性もあり、何度も生き残ることが多くなっていた。主人公の彼は生き残っていたけれど、段々と男女の比率がおかしくなっている。

性転換なんかも起きる可能性がある。しっかりと観測していないといけないようだ。

 

 

八十八回目

存外ここまででは気づかなかったけれど、途中途中で黒幕の予想を全て裏切った行動をして生き残っている…いわゆるズルで成り立っているものもあった。それでも主人公である彼は生き残っているから問題はないんだけれど…やっぱり個人的にはGMの予想の範疇で遊んでほしいと思ってしまう。

決して、これは私の嫉妬からではない。

(以降も主人公の彼に対しての執着する発言が多く、これ以上は時間の無駄だとわかる)

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