ジャブロー攻略部隊の司令官であるガルシア・ロメオという男は、どうやら直情型の人間だったらしい。ジャブローが反攻に出たという報告を受けたガルシアは、自らアッザムに乗り込み出撃した。
そして、真っ先に戦死してしまった。カラカスが降伏したのも、司令官を失ったことが大きな要因だろう。
エースパイロットがいなかったことも理由のひとつだろうな。ジャブロー攻撃部隊とはいっても、定期便を送る程度の攻勢で、今まで大規模な戦闘は起きていない。こんなところで遊ばせておくくらいなら、ほかの戦線に回す。
結局ガルシアという男は、それなりに統率力があり、それなりに指揮能力があり、それなりにやる気があった、ということか。
まあそれなりに能力がなければ、少将にまで出世なんてできんだろう。階級の上ではキシリアと同等だからな。もしかしたら宇宙では優秀だったが、地球に降ろされて腐ってしまったのかもしれない。そういうスペースノイドは結構多い。
それはともかくとして、カラカスを制圧して数日が経った頃、ブライトから集合がかかった。
ホワイトベースの作戦室に集められたクルーの前で、ブライトがしかめっ面で重々しく口を開く。
「オデッサで、水爆が使用された」
重い沈黙が作戦室を支配する。沈黙の帳が下りる中で、俺は手を挙げた。
「一応聞くが、使ったのはどちらだ?」
「ジオンに決まっているだろう!」
吐き捨てるようにブライトが叫んだ。
「あと、エルラン中将がスパイ容疑で逮捕された」
「中将がスパイってどういうことだよ!」
今度はカイが叫んだ。いや、ホントにな。佐官とか尉官じゃなくて、中将だからな。連邦軍はどうなってんだか。それともエルランに目を付けたマ・クベがすごいのか。
「じゃ、じゃあ連邦軍は、負けたんですか?」
おどおどとハヤトが手を挙げて質問する。
「いや、勝つには勝った。被害は甚大だがな」
ブライトが苦虫を噛み潰したように言った。
投入したジムも多数失ったらしい。いや、惜しいのはMSよりもパイロットだろう。MSはいくらでも造ればいいが、熟練のパイロットは一朝一夕にできるものじゃない。
「軍の立て直しには、しばらくかかるだろうな」
「それと、軍規も引き締めなきゃならんな」
俺の言葉に、若い連中はピンときていないようだ。まあ、根が善良なやつらが多いからな。
「捕虜の虐待だ。ジオン憎しで軍人になったやつらも多い。今回の水爆で、タガが外れるやつらが出てきてもおかしくない」
「そんな……捕虜の扱いは南極条約で決められてるじゃないですか」
と、ハヤトが震える声で言った。
まあそうなんだが、バスクの件もあるからな。バスクはジオンの捕虜となり、視力障碍を負うほどの拷問を受けた。その憎悪が後々マズい事件を引き起こしている。
「人間の感情ってやつは複雑だからな」
俺はそう言うしかなかった。
◇
ある日、虫の知らせのようなものを感じて、俺は捕虜収容所に向かっていた。なにかに導かれるように進んでいくと、ある区画で歩哨の兵士に止められた。
仕事熱心、というわけでもなさそうだ。どこか怯えているように、俺の顔と施設の奥に視線を漂わせている。
その時、一瞬だがくぐもったような悲鳴が聞こえた。
反射的に俺は走り出していた。
ある独房の中に無言のまま押し入り、中腰になっていた男の顔にトゥーキックを叩き込む。向かって来た取り巻きのパンチを捌き、胸倉を掴む。
「ホワイトベース隊、ガンダムパイロットのウィリー・ケンプ大尉だ。一方的に殴られる痛さと怖さを教えてやろうか!」
そう告げると、男たちは這う這うの体で独房を出て行った。俺にビビったというよりは、階級にビビったのだろう。軍は階級が絶対だからな。相手が佐官でなくてよかった。
「大丈夫……か?」
ところどころ肌があらわになっている少女を見て、俺は驚愕した。
「まさかな……よもやキミに出会えようとは」
その少女は、アルマ・シュティルナーだった。
◇
アルマはホワイトベースの独房に移すことにした。
「ブライト艦長、また眉間のしわが増えるのではなくって?」
苦笑するように、ララァは言った。彼女にはアルマの世話を頼んだのだ。あんなことがあっては、男の俺が彼女と関わっても恐怖を与えるだけだろう。ララァに任せたのは、ニュータイプ同士だから何らかの反応があるかもしれないと思ったからだ。
しかしこのララァ、俺にガンダムに乗れと言った覚えはなく、並行世界の夢も見ていない。つまりただのララァだ。
いやもう、何が何だかわからない。
わからないが、たぶんララァはふたりいる。
ひとりは俺にガンダムに乗れと言ったララァ。おそらくあの少年と同じ上位存在のララァだ。んで、目の前のララァはこの世界に生きるただのララァなのだろう。
なんか頭痛くなってきた。もしかしたら、俺が今やっていることはただの空回りなのかもしれない。だが止まるわけにはいかない。こういうのもコンコルド効果というのだろうか。
「彼女、北米から来たらしいですよ」
「ふむ」
どうやら、北米から大西洋を迂回する形で増援が出され、連邦軍に横撃を加えるという作戦だったらしい。しかし増援は間に合わず、潜水艦も沈められ、已む無く投降したようだ。
だがアルマの部隊……なんつったっけ、ノイジーフェアリーだっけか。それってキシリアの麾下だったような気がするんだが、ガルマにも命令権はあったのだろうか。
まあガルマって兄姉からは可愛がられてたし、いざという時は使っていいと言われていたのかもしれない。
「あんな子がパイロットだなんて、ジオンに兵なしというのは本当なのね」
「MSに乗るのに、性別も年齢も関係ないからな」
コクピット周りを考えれば、あまり子ども過ぎるのは無理だが、ある程度体が成長していればMSは動かせる。悲しいが、少年兵の有用さは旧世紀に証明されてしまったのだ。まあ年齢一桁の子に銃を持たせていた旧世紀よりはマシかもしれないが。
「まあ、未遂でよかったですよ。女にとって、あれほど辛いことはそうありませんから」
捕虜のことはブライトから上層部に進言してもらい、女性の捕虜は
「ところで、キミはどうだ? そろそろ慣れたか?」
「ええ、包帯の巻き方も、注射の打ち方も覚えました。フラウさんにもよくしてもらっています」
フラウもララァと同じ医療ボランティアとしてホワイトベースに乗艦している。年齢も近いし、同期のようなものなのだろう。
あとなんか、フラウとアムロが良い感じっぽい。原作ではパイロットとして人間離れしていくアムロに、少し距離を取っているようなところがあったが、技術士官としてのアムロは、機械いじりの好きな少年そのままの姿に映るのだろう。
ちなみにテム博士はジャブローに残り、MS開発に従事している。
それからしばらくして、水爆の件がかすむようなニュースが飛び込んできた。
ガルマ・ザビが、市民の手によって殺されたらしい。