キケロガを撃退した後、ホワイトベースは隣のコロニーに移動することになった。
テキサスコロニー以上に荒れたコロニーだったが、なんとかホワイトベースを隠すことはできた。
敵がのこのことテキサスコロニーにやってきたら、背後から攻撃できる位置取りである。
だが追撃はなかった。シャリア・ブルはホワイトベースのことを報告しなかったのだろう。
それから数日が経過し、ホワイトベースに次の指令が暗号電文で届けられた。
『傘に向かう蝶を追え』
すなわち、ア・バオア・クーへ向かうキシリアを追えということだ。
連邦軍はソロモンではなく、グラナダの制圧に動いたらしい。
「それで大物を取り逃がしてるってんだから、お偉いさんもざまぁないね」
「そうとも言い切れんぞ、カイ」
「へぇ、どんな意味があるってんだい? 大尉殿」
「大将首は、獲って終わりというものではないんだ。それで降伏すればいいが、死兵となって暴れまわる可能性だってある。そんなやつらの相手をしたいか?」
「……そりゃあ勘弁してほしいね」
肩をすくめて、カイは言った。
「それじゃあボクらは、そんな厄介な相手を押し付けられたって言うんですか?」
「もうひとつの可能性もあるぞ、ハヤト。レビル将軍が、ホワイトベースに美味しいところを譲ってくれたって可能性だ」
「ずいぶんと期待されてるのね、私たち」
おどけるようにシイコ少尉は言った。
「まあ、すべてが上手くいけば、俺たちの出番はないけどな」
キシリアの座乗艦、パープル・ウィドウの航路を予測して待ち伏せする。ホワイトベースの主砲が直撃すれば、パープル・ウィドウといえども耐えられない。確実に沈む。
ただ、この世界のブライトは、ジャブローに直行したせいか、どうも自信が持ててないようだ。経験が足りてないからだろう。
『MS隊、発艦準備!』
艦内放送が聞こえてきた。どうやら失敗したらしい。
通信をブリッジにつなぐ。
「セイラさん、状況は?」
『敵はチベ1隻とムサイが1隻。ホワイトベースの主砲でムサイ1隻は仕留めたわ。MSはデータにない機体です。ガンダム部隊は、MSの対応をよろしくお願いします』
「なるほど、了解した」
新型ということは、ゲルググかな? ま、見ればわかるか。
「ウィリー・ケンプ、ガンダム、出るぞ!」
宇宙に飛び出してすぐに、モニターが敵MSを捉えた。数は6機。CG補正され、画像がクリアになる。
「ギャンだと!?」
ギャンが量産されている? いや、原作でもギャンは少数は生産されたのだったか?
いや、それよりも、だ。
「赤いギャンとは……シャアか?」
結局地球では一度も会わなかったからな。オデッサに駆り出されて、その後に宇宙へ上がってきたのだろう。まさかここで出会うとはな。
ホワイトベースはパープル・ウィドウを追うようだ。まあそっちが本命だからな。援護は期待できない。
「赤いのは俺がやる。ほかは任せた」
『了解です』
「あと、盾に機雷が仕込まれているかもしれないから気を付けろ」
『盾に機雷? そんなバカな盾はないでしょう?』
「そうだな。俺の気のせいかもしれん」
まずはけん制のライフルを放つ……あれ?
なんか避け方に余裕がないな。慌てて避けたみたいな……もしかしてシャアじゃない? いやでも赤いし。
シャア以外で赤く塗るやつなんて……稲妻の方か? でもあいつだってシャアに引けを取らないくらい強いだろ、たぶん。
『うわああぁっ!!』
回線から悲鳴が飛び込んできた。この声はジャック少尉?
「
ブロッサムに絡みついているヒートロッドをライフルで撃ち抜く。
まさかギャンがヒートロッドを使うとは。
「おまえもかっ!」
向かってくるヒートロッドを回避しつつ、それを操っている左手を撃ち抜く。操作が難しいヒートロッドをこうも巧みに操るとは、やるな。
だが腕を撃ち抜かれるあたり、エースパイロットではあるがシャアではないような気がする。
かといってジョニーでもない。幻獣のエムブレムもないし……ん?
首元にマークがあるな。どこかで見たような……思い出した! あれはザビ家親衛隊の徽章だ。
となりゃ絶対シャアじゃねぇわ。それによく見れば機体色も赤一色じゃなくて、赤と白のツートンカラーじゃねぇか。
片腕になったギャンがビームサーベルを抜いて突撃してくる。
頭部バルカンで弾幕を張り、かわしたところにライフルを放つ。
ギャンの右肩が吹き飛ばされた。
『くっ、ただではやられん! 親衛隊としての務めは果たす! ジーク・ジオン! キシリア様バンザー』
自爆する気配を感じて、已む無くコクピットを撃ち抜いた。
隊長機がやられても、退く様子はなかった。
仕方なくギャン部隊を全滅させた。
ホワイトベースは、どうやらキシリアを仕留めることはできなかったようだ。
まあチベ自体高速艦だし、キシリアの座乗艦ともなれば、かなり改造されているだろうからな。
仕方ないと言ったが、ブライトは不満気だった。
レビル将軍の期待に応えられなかったと落ち込んでいたな。
任務を果たせなかったホワイトベースは、補給のためにルナツーへと向かうのだった。
◇
ルナツーへ向かう航行中、ララァが俺の部屋を訪ねてきた。
めずらしく、黒のワンピースを着ている。オフの時にどんな服を着ても彼女の自由ではあるが、宇宙でワンピースはあまりに無防備なような気がする。
居住区は重力があるので、俺の心配し過ぎなのかもしれないが。
「似合ってるじゃないか。かわいいよ」
「ふふっ、ありがとうございます」
女の子がオシャレをしてきたのなら、褒めてやるのが男の気遣いというものだ。
お茶でも出してやりたいところだが、士官部屋にそんなものがあるはずもない。
ララァが俺の目を見つめてきた。なんだろう、いつもと違う気配を感じる。
「大尉は、私を通して誰を見ているのですか?」
見透かすようにララァは言った。俺はララァを通して、もうひとりのララァを見ている。俺に、ガンダムに乗れと言ったララァだ。そもそも、彼女は本当に存在しているのだろうか。無意識下のララァの可能性もあるが。
それに、最近になってあれは幻聴ではないかと思い始めてきた。
俺がガンダムに乗りたかったから、そんな幻聴が聞こえたのではないのかと。
ララァの手が俺のほほに触れた。
「私だけを見て」
「……キミの運命の人は、すぐ近くにいる」
シャアはいまどこにいるのだろう? 漠然とだが、宇宙にいることは感じている。ガルマが死んで、多くのジオン兵が宇宙に脱出した。その中に紛れて、宇宙に上がったはずだ。
グラナダにはいなかったらしい。もしかしたらギレンのところにいるのかもしれない。となれば、ア・バオア・クーにいる可能性はある。
「はい。いま目の前にいます」
ララァが微笑を浮かべて、俺の目を見つめている。
なにか、よくない流れを感じる。
「あそこでの生活は地獄でした。先輩たちの世話をしながら、いつか来る"その日"に怯えていました。彼女たちの苦しみや諦観が、私には判ってしまった。そして、自分もいつかそうなるだろうことも。でも大尉が、私を地獄から引き上げてくれたんです」
意識の圧迫を感じる。このプレッシャーはなんだ?
「シャア・アズナブルという男が、キミを幸せにしてくれる」
思わずそう言ったが、本当にあいつ、女を幸せにできるのか? 関わった女は大体不幸になっているような気がする。レコアとかハマーンとか、ナナイはギリ幸せだったか?
マズい、ここにきて急に不安になってきたぞ。本当にあいつにララァを任せていいのか? エンディング条件本当に合ってるのか?
教えてくれよ、少年。ララァは何も答えてくれない。
「最近になって、夢を見るようになりました。赤い軍服を着たジオンの若い士官です。その方が、シャア・アズナブルなのでしょう?」
「ああ、そうだ。それがキミの運命の人だ。俺では――」
スッと、ララァの人差し指が俺の唇を塞いだ。
「夢の中で、もうひとりの私の想いは痛いほど伝わってきました」
もうひとりの私? やはり、無意識下のララァがいるのか? それとも、並行世界のララァが干渉しているのか?
「けれど私は、
「う、うん? だが……」
言い終わる前に、俺は肩を押されてベッドに倒れ込んだ。
「私は私です。この想いは私だけのものです。誰にも邪魔はさせません。たとえ私であっても」
ララァの顔が近づいてきた。
意識が
この感覚は、危険だ!
「むっ!」
「む?」
「娘がいるんだ。双子だ。今は会えないが、戦争が終わったら会いに行こうと思っている」
「なら、私はお母さんになるのですね」
ララァがお母さん? やめろ、その言葉はシャアに利く。
「奥さんがいないのならば、いいです。
くっ、奥さんがいると言えばよかったか。だが嘘を吐くのもな。それにウィリー・ケンプに妻子はいない。両親は、いた。彼はシドニー出身だったのだ。つまり、そういうことだ。
また唇を塞がれた。今度は指ではなく唇で。俺にはもう、なす