後方支援者面で行けない宇宙世紀   作:乾燥海藻類

2 / 17
第02話 「赤い彗星との邂逅」

ザク2機を撃破して、パイロットふたりを捕虜とした。

落ち着く間もなくコクピットに通信が入った。回線を開く。

 

『ごくろうだった、ウィリー・ケンプ中尉。ガンダムをホワイトベースに移動させてくれ』

 

うぉっ! テム・レイ博士じゃねぇか。ん? ケンプ中尉?

 

『どうしたね、ケンプ中尉。ガンダムに異常でも出たかね?』

 

気づいてない? そうか、テム博士はホワイトベースに乗ってサイド7に来たから、こっちの軍人を情報でしか知らないのか。技術者って人間より機械の方が好きだから、人の顔をぼんやりとしか覚えてないやつが結構多いからな。ここは利用させてもらおう。

 

「いえ、ガンダムは正常です。了解しました。ホワイトベースに向かいます。ザクのパイロットを捕虜としましたが、連れて行ってもよろしいでしょうか?」

『捕虜だと? ううむ。わかった、ホワイトベースの独房に入れておくよう手配しておく』

「感謝します」

 

そんなわけで俺はホワイトベースにやってきたのだ。

港にいた軍人に捕虜ふたりを渡す。その際、交渉に使うので扱いは丁重にするようにと頼んだ。

ガンダムを格納庫に収納すると、少し休むように言われた。

 

しかし、みんな俺をケンプ中尉だと思い込んでるな。軍服でもないのに、よく勘違いできるな。思い込みってのもあるのか。あと慌ただしいってのもあるんだろう。どうやらドック内の爆発で、多数の軍人がやられたらしい。ホワイトベースの乗組員(クルー)も、ケンプ中尉の名前しか知らないようで、それが幸いした。

 

IDは失くしたことにして再発行してもらうか。写真もホワイトベースで撮って、そのデータを上書きすれば、たぶんごまかせるはずだ。問題はケンプ中尉の顔を知っている人間がいた場合だが、それは祈るしかないな。

さて、落ち着いたところでもう一度考えを整理しよう。

 

原作だとアムロとシャアは生き残ったが、ララァが死んだ。

あの空間で見た並行世界の映像では、シャアが何度となく殺されていた。

つまり、シャアが死ぬかララァが死ぬか、それが大多数を占めているということか? となると、ふたりを合流させてはいけない。

 

「ララァを先に回収して、戦後にシャアと引き合わせる、というのが最良か」

 

となると、インドへ行かなければならない。ララァがルウム難民のルートだった場合のことは考えないようにしよう。

アムロはMSに乗せないようにすれば問題ないだろう。望んで乗っていたわけではないだろうし、テム博士も生きてるから技術者として働くように誘導すればいい。

 

最後の問題は、俺がシャアを抑えられるかということか。序盤はなんとかなるだろう。MSの性能差が戦力の決定的差ではないとはいえ、ガンダムとザクの性能差は圧倒的だ。シャアの戦い方(データ)もある程度は覚えているし。

グフ、ドムもなんとかなる。ゲルググあたりから厳しくなってくるかな。対抗するには、俺も腕を磨くしかない。

そんなことを考えていると、呼び出しがかかったので格納庫へと向かった。

 

「ケンプ中尉、ガンダムの整備は完了している。説明は必要かね?」

「いえ、問題ありませんテム博士。ガンダムの扱いは慣れています」

 

テム博士がジッと見つめてきた。俺はそそくさとガンダムのコクピットに滑り込み、シートベルトを締めて射出に備えた。バレてはいない……と思う。

ブリッジから通信が入った。

おっ、ブライトさんだ。

 

『ケンプ中尉。(ベイ)を出て30秒後に射出します。10kmの範囲内で本艦の護衛をお願いします』

「了解した。そう畏まらなくてもいいよ、ブライト中尉。階級は同じだが、指揮官はキミだ」

『う、うむ。わかった、そうしよう』

 

初々しいね。緊張が伝わってくる。まあ、色々と重いわな。

カタパルトが作動して、軽いGが伝わってきた。

ガンダムが漆黒の宇宙に射出された。正面モニターに、ホワイトベースへと向かう飛翔体が表示されている。

 

「出待ちのミサイルか。この弾速なら、狙えるか」

 

ビームライフルを構え、照準を合わせる。2つの光芒が宇宙を貫き、ミサイルは爆散した。

続けて接近するMSが2機、コンピューターが画像を補正する。

先頭は赤いザク。

 

「シャアか」

 

ビームライフルの引き金を引く。そして同時に、赤いザクが回避行動を取った。やはり、感じ取っているな。こちらからは、当たるはずのものが当たらないと感じる。ネタを知らなければ脅威だろう。

 

「しかし、ガンダムとザクでは性能が全く違う!」

 

マシンガンを盾で逸らしながら、すれ違いざまにビームサーベルを抜く。だがシャアはのけ反るようにしてそれをかわした。そのまま突き進み、後方のザクに向かう。

その勢いのままザクの頭部を突き刺す。後背から脚部を斬り落とし、バズーカを持つ右腕を捻り上げる。そのままザクを盾にしてシャアに向かう。

 

『シャ、シャア少佐! シャア少佐! なにも見えません! た、助けてください!』

 

接触回線でパイロットの悲鳴が聞こえてきた。

うーん、やっぱりこれは、俺の性に合わんな。もし相手が構わず撃ってきたら後味が悪いし。

だがシャアには効果的のようだ。意外と部下思いだからな、あいつ。

さて、この距離なら無線も繋がるだろう。

 

「聞こえるか、赤い彗星。このパイロットの命が惜しければ退け。脚は失ったが、スラスターは生きている。キミが帰還すれば、解放する」

『……その保証は?』

「俺を信じてもらうしかないな。それとも、見捨てるかね」

 

ビームサーベルをチラつかせながら告げる。

 

『連邦のパイロット、貴様の名は?』

「ウィリー・ケンプ中尉だ」

『いいだろう。ウィリー・ケンプ中尉。この場は、貴様を信じてやる』

 

そう言って、シャアは母艦に引き上げていった。

……よし、この距離なら大丈夫か。

 

「ザクのパイロット。今からキミを解放する。妙なマネをすれば撃つ。真っ直ぐ母艦へ向かえ」

『わ、わかった』

「よし、では解放する」

 

バズーカを取り上げ、拘束を解いて背中を押す。

計器は生きてるだろうし、コクピットハッチを開ければ視界は確保できる。帰還くらいはできるだろう。

解放されたザクは慌ててスラスターを噴かし、真っ直ぐ進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホワイトベースに帰還してすぐに、俺はブリッジに呼び出された。

そこにはストレッチャーに寝かされたパオロ艦長がいた。

敬礼をする。

 

「ああ、ごくろうだった。ケンプ中尉。よく艦を守ってくれた。戦術については、今は言うまい」

 

ゆっくりとした動作で答礼し、パオロ艦長は労いの言葉を口にした。

 

「捕虜の件は聞いている。彼らを、キミはどう使うつもりかね?」

「はい。それにお答えするには、まずホワイトベースはどこに向かうのか、ということをお聞きせねばなりません」

「ルナツー基地だ。そこで補給を行い、避難民を下ろす」

 

あー、確か下りないんだっけか。みんな地球に行きたいとか言い出したような気がする。

 

「その後は、地球に降下してジャブローに向かう、ということでよろしいでしょうか」

「そうなる」

「ならば、最大で2度交渉します。ルナツーに向かうまでに仕掛けてくるようならば、ひとりの返還と引き換えに撤退させます。その後、降下前にもうひとりを引き渡し、降下中への攻撃を控えさせます」

「あのシャアが、そう簡単に退いてくれるかしら?」

 

そう呟いたのは、舵輪を握るミライさんだ。みんなの視線が集まったのに気づいたのか、ハッとなって唇を押さえた。

 

「シャアには、赤い彗星という異名があります。それに見合った行動をしなければならないという制限を、彼は抱えているのですよ。卑怯卑劣な行動は、英雄の名を貶めます。だからこそ彼は契約を遵守するはずです」

「……やってみる価値はあるか。任せる、ケンプ中尉」

「ハッ、了解しました」

 

俺は敬礼したまま、ストレッチャーで運ばれていくパオロ艦長を見送った。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。