ザク2機を撃破して、パイロットふたりを捕虜とした。
落ち着く間もなくコクピットに通信が入った。回線を開く。
『ごくろうだった、ウィリー・ケンプ中尉。ガンダムをホワイトベースに移動させてくれ』
うぉっ! テム・レイ博士じゃねぇか。ん? ケンプ中尉?
『どうしたね、ケンプ中尉。ガンダムに異常でも出たかね?』
気づいてない? そうか、テム博士はホワイトベースに乗ってサイド7に来たから、こっちの軍人を情報でしか知らないのか。技術者って人間より機械の方が好きだから、人の顔をぼんやりとしか覚えてないやつが結構多いからな。ここは利用させてもらおう。
「いえ、ガンダムは正常です。了解しました。ホワイトベースに向かいます。ザクのパイロットを捕虜としましたが、連れて行ってもよろしいでしょうか?」
『捕虜だと? ううむ。わかった、ホワイトベースの独房に入れておくよう手配しておく』
「感謝します」
そんなわけで俺はホワイトベースにやってきたのだ。
港にいた軍人に捕虜ふたりを渡す。その際、交渉に使うので扱いは丁重にするようにと頼んだ。
ガンダムを格納庫に収納すると、少し休むように言われた。
しかし、みんな俺をケンプ中尉だと思い込んでるな。軍服でもないのに、よく勘違いできるな。思い込みってのもあるのか。あと慌ただしいってのもあるんだろう。どうやらドック内の爆発で、多数の軍人がやられたらしい。ホワイトベースの
IDは失くしたことにして再発行してもらうか。写真もホワイトベースで撮って、そのデータを上書きすれば、たぶんごまかせるはずだ。問題はケンプ中尉の顔を知っている人間がいた場合だが、それは祈るしかないな。
さて、落ち着いたところでもう一度考えを整理しよう。
原作だとアムロとシャアは生き残ったが、ララァが死んだ。
あの空間で見た並行世界の映像では、シャアが何度となく殺されていた。
つまり、シャアが死ぬかララァが死ぬか、それが大多数を占めているということか? となると、ふたりを合流させてはいけない。
「ララァを先に回収して、戦後にシャアと引き合わせる、というのが最良か」
となると、インドへ行かなければならない。ララァがルウム難民のルートだった場合のことは考えないようにしよう。
アムロはMSに乗せないようにすれば問題ないだろう。望んで乗っていたわけではないだろうし、テム博士も生きてるから技術者として働くように誘導すればいい。
最後の問題は、俺がシャアを抑えられるかということか。序盤はなんとかなるだろう。MSの性能差が戦力の決定的差ではないとはいえ、ガンダムとザクの性能差は圧倒的だ。シャアの
グフ、ドムもなんとかなる。ゲルググあたりから厳しくなってくるかな。対抗するには、俺も腕を磨くしかない。
そんなことを考えていると、呼び出しがかかったので格納庫へと向かった。
「ケンプ中尉、ガンダムの整備は完了している。説明は必要かね?」
「いえ、問題ありませんテム博士。ガンダムの扱いは慣れています」
テム博士がジッと見つめてきた。俺はそそくさとガンダムのコクピットに滑り込み、シートベルトを締めて射出に備えた。バレてはいない……と思う。
ブリッジから通信が入った。
おっ、ブライトさんだ。
『ケンプ中尉。
「了解した。そう畏まらなくてもいいよ、ブライト中尉。階級は同じだが、指揮官はキミだ」
『う、うむ。わかった、そうしよう』
初々しいね。緊張が伝わってくる。まあ、色々と重いわな。
カタパルトが作動して、軽いGが伝わってきた。
ガンダムが漆黒の宇宙に射出された。正面モニターに、ホワイトベースへと向かう飛翔体が表示されている。
「出待ちのミサイルか。この弾速なら、狙えるか」
ビームライフルを構え、照準を合わせる。2つの光芒が宇宙を貫き、ミサイルは爆散した。
続けて接近するMSが2機、コンピューターが画像を補正する。
先頭は赤いザク。
「シャアか」
ビームライフルの引き金を引く。そして同時に、赤いザクが回避行動を取った。やはり、感じ取っているな。こちらからは、当たるはずのものが当たらないと感じる。ネタを知らなければ脅威だろう。
「しかし、ガンダムとザクでは性能が全く違う!」
マシンガンを盾で逸らしながら、すれ違いざまにビームサーベルを抜く。だがシャアはのけ反るようにしてそれをかわした。そのまま突き進み、後方のザクに向かう。
その勢いのままザクの頭部を突き刺す。後背から脚部を斬り落とし、バズーカを持つ右腕を捻り上げる。そのままザクを盾にしてシャアに向かう。
『シャ、シャア少佐! シャア少佐! なにも見えません! た、助けてください!』
接触回線でパイロットの悲鳴が聞こえてきた。
うーん、やっぱりこれは、俺の性に合わんな。もし相手が構わず撃ってきたら後味が悪いし。
だがシャアには効果的のようだ。意外と部下思いだからな、あいつ。
さて、この距離なら無線も繋がるだろう。
「聞こえるか、赤い彗星。このパイロットの命が惜しければ退け。脚は失ったが、スラスターは生きている。キミが帰還すれば、解放する」
『……その保証は?』
「俺を信じてもらうしかないな。それとも、見捨てるかね」
ビームサーベルをチラつかせながら告げる。
『連邦のパイロット、貴様の名は?』
「ウィリー・ケンプ中尉だ」
『いいだろう。ウィリー・ケンプ中尉。この場は、貴様を信じてやる』
そう言って、シャアは母艦に引き上げていった。
……よし、この距離なら大丈夫か。
「ザクのパイロット。今からキミを解放する。妙なマネをすれば撃つ。真っ直ぐ母艦へ向かえ」
『わ、わかった』
「よし、では解放する」
バズーカを取り上げ、拘束を解いて背中を押す。
計器は生きてるだろうし、コクピットハッチを開ければ視界は確保できる。帰還くらいはできるだろう。
解放されたザクは慌ててスラスターを噴かし、真っ直ぐ進んでいった。
◇
ホワイトベースに帰還してすぐに、俺はブリッジに呼び出された。
そこにはストレッチャーに寝かされたパオロ艦長がいた。
敬礼をする。
「ああ、ごくろうだった。ケンプ中尉。よく艦を守ってくれた。戦術については、今は言うまい」
ゆっくりとした動作で答礼し、パオロ艦長は労いの言葉を口にした。
「捕虜の件は聞いている。彼らを、キミはどう使うつもりかね?」
「はい。それにお答えするには、まずホワイトベースはどこに向かうのか、ということをお聞きせねばなりません」
「ルナツー基地だ。そこで補給を行い、避難民を下ろす」
あー、確か下りないんだっけか。みんな地球に行きたいとか言い出したような気がする。
「その後は、地球に降下してジャブローに向かう、ということでよろしいでしょうか」
「そうなる」
「ならば、最大で2度交渉します。ルナツーに向かうまでに仕掛けてくるようならば、ひとりの返還と引き換えに撤退させます。その後、降下前にもうひとりを引き渡し、降下中への攻撃を控えさせます」
「あのシャアが、そう簡単に退いてくれるかしら?」
そう呟いたのは、舵輪を握るミライさんだ。みんなの視線が集まったのに気づいたのか、ハッとなって唇を押さえた。
「シャアには、赤い彗星という異名があります。それに見合った行動をしなければならないという制限を、彼は抱えているのですよ。卑怯卑劣な行動は、英雄の名を貶めます。だからこそ彼は契約を遵守するはずです」
「……やってみる価値はあるか。任せる、ケンプ中尉」
「ハッ、了解しました」
俺は敬礼したまま、ストレッチャーで運ばれていくパオロ艦長を見送った。