ルナツー基地に到着した俺は、自室での待機を命じられた。
ウィリー・ケンプ中尉じゃないことがバレたのかと思ったが、どうも大半のクルーはホワイトベースでの待機を命じられたらしい。
せっかくなのでベッドで休んでいると、艦が大きく揺れて目を覚ました。
なにか起こっているようだが、こういう時は慌てない方が良い。慌てて走り出すとロクなことにならない。通信は繋がっているようだし、落ち着いたら連絡が来るだろう。
しばらくして、腕の通信機が鳴った。
『ケンプ中尉、今どこにいる?』
「ブライト中尉か。待機命令が出てるんでね。自室にいるよ」
『なんとのんきな』
と、呆れたようにブライトは言った。いや、基地が攻撃を受けてるだろうことには気づいてたよ。でも勝手に出るわけにはいかないだろ? 戦力が欲しければ普通に出撃命令出すだろうし。
『まあいい。すぐに格納庫へ行ってくれ。仕事だ』
「了解」
格納庫へ行くと、ガンダムはいつでも発進できる状態だった。こちらに気づいたテム博士が声をかけてくる。
「ケンプ中尉。今キャノンとタンクが、メインゲートで座礁したマゼランを押し出している。中尉もガンダムで手伝ってくれ」
「了解。で、なぜそんなことになったんです?」
「ジオンの特殊部隊が潜入してやったようだ。キミが捕えた捕虜も奪還されてしまったよ」
ルナツーの警備はどうなってんだよ。ぬるま湯につかりすぎたんじゃねぇのか?
と言っても仕方ないので、俺は指示に従いガンダムに乗り込んだ。
マゼランを押し出した後は、治療の甲斐もなく逝ってしまったパオロ艦長の葬式が行われた。
「ブライト。避難民のことだけど、
「無理もない。さっきの戦闘を見たら、ここが安全とも思えないし……な」
ブライトとミライさんが小声で話し合っている。
棺に納められたパオロ艦長が、宇宙へと射出された。
◇
パオロ艦長の死を悼む暇もなく、ホワイトベースはルナツーを出港した。
護衛艦はサラミス1隻。それがルナツーの限界らしい。寒い時代だな。
大気圏突入時の襲撃に備えてガンダムの機内で待機していると、ブリッジのセイラさんから通信が入った。
『ケンプ中尉。左前方からザク3機が接近中です。迎撃をお願いします』
「了解」
『発進後4分で帰艦してください。いくらガンダムでも大気圏では燃え尽きてしまいます』
「いや、設計上では、単機での大気圏突入も可能だよ。ガンダムは」
俺がそう言うと、モニターに映るセイラさんは目を見開いたように見えた。
「とはいえ、実践したくはないかな。了解だ。4分で帰艦する」
『……ええ。無理はなさらないで』
「ありがとう、セイラさん。ガンダム、発進する!」
カタパルトに押し出されて、ガンダムが宇宙に飛び出す。
ホワイトベースを狙って撃ち出された4発のバズーカをビームライフルで撃ち落とす。いちいち撃ち落としていては、エネルギーが持たんな。大本を叩かないと。
左右のザクに向けてビームライフルの引き金を引く。
2本の光芒はザクのコクピットを貫いた。悪いが、この状況では手心は加えてやれん。
正面からシャアが近づいてくる。僚機がやられても退かんか。
ライフルを撃つが、バレルロールで回避され、距離が詰まる。
「マシンガンではなぁ! ガンダムだぞ!」
『チィ、なんという装甲だ』
マシンガンを投げ捨て、シャアはヒートホークを抜いた。こちらもビームサーベルを抜く。
鍔迫り合いは一瞬だった。ヒートホークとビームサーベルでは温度が違う。ヒートホークが融解を始めた。
シャアは瞬時の判断でヒートホークを手放し、コックピットに向けて蹴りを放った。
「その動きは読んでいた!」
こちらも蹴りで応戦する。互いの脚がぶつかり、シャアザクの膝から下が吹き飛んだ。装甲素材の強度が違うんだ。こうもなろう。
『なんという機体性能だ』
そんな捨てゼリフを残して、シャアは撤退した。
『ケンプ中尉、限界です。後部デッキから着艦してください』
「了解。ガンダム、帰艦する」
ガンダムが後部デッキに収容されると、すぐにハッチが閉じられた。
機体が固定される。緩い振動が続いている。大気圏に突入したのだろう。
ホワイトベースに被弾はなかった。サラミスのカプセルも守り切った。予定の航路を外れることはないはずだ。
◇
俺の予想通り、ホワイトベースは航路を外れることなくジャブローに辿り着いた。
カイやハヤトの成長の機会を奪ってしまったような気もするが、それは考えないことにしよう。
ジャブローに入港したホワイトベースは改修を受け、補給艦から宇宙戦艦へと姿を変える。
その改修期間を利用して、俺は休暇を申請した。
俺の功績が認められたのか、それともケンプ中尉が休暇をため込んでいたのか、ともかく休暇は認められた。
しかし、ジャブローを離れる際には、護衛を同行させると言われたのだ。
「それがキミか、リュウ曹長」
「中尉はガンダムのパイロットですからね。万が一のことがあってはなりません」
階級差があるせいか、いつもの朗らかな雰囲気はない。アムロやカイのような民間人と違って、リュウは軍人だからな。そこらはしっかりとしているのだろう。
「インドへ行くと聞いていますが」
「ああ、遠縁の子がいてね。迎えに行くんだ」
それから俺たちは飛行機を乗り継いでインドに入った。
戦時条約により、民間人及び民間機への攻撃は禁止されているので、軍用機で行くよりも安全なのだ。
ホテルにチェックインして、カジノへ向かう。
「いきなり博打ですか?」
怪訝そうにリュウが睨みつけてきた。意外と堅物なのかもしれない。
「息抜きは必要さ。キミも楽しめよ」
「はぁ……」
と、リュウからは生返事が返ってきた。
気にせずルーレット台へと向かう。リュウも仕方なく俺の隣の席に座った。
「赤の7」
ハズレ。
「黒の33」
ハズレ。
「赤の27」
ハズレ。
「黒の10」
ハズレ。
「そんな賭け方じゃダメだと思いますよ。チップ1枚じゃあ、当たっても大した額にはなりませんし」
いいんだよ。これはディーラーの腕を見るためのもので、前準備みたいなものだ。
自分でもなんで判るのか不思議だ。もしかしたらニュータイプに目覚めたのかもしれない。
なんだかんだといいながら、リュウも賭けを楽しんでいるようだ。黒か赤か、堅実に賭けてチップを増やしている。
それからも同じ賭け方で3回外した。ディーラーの腕は確かなようだ。7回すべて、狙ったところに落としている。
よし、そろそろ狩るか。
「黒の29にオールイン」
「ちょっ!?」
リュウが目を見開く。場も騒然となった。ルーレットの玉は、黒の29に落ちた。
ここまでは予定通りだが、問題は換金できるかどうかだ。事務所に連れて行かれて、ケツ持ちのマフィアなんかが出てきて踏み倒されるというのが定番だが、全然そんなことはなく、普通に換金できた。
まあ大手のカジノだからな。さすがにそんなことはなかったか。
カジノを後にして、タクシーに乗り込む。
「運転手さん、この辺りで一番大きい娼館はどこかな?」
「カジノに娼館、健全とは言えんですなぁ。あっ、遠縁の子って……」
なにかを察したように、リュウは押し黙った。
「娼館ですか? ここらで人気なのは『黄昏のビッグボイン』ですかね」
いや、そんなあからさまな名前ではなかった気がする。こんなことになるならしっかりと覚えておくんだった。
「いや、確かザバスの館……ザマスの館……ガバスの館……」
うーん、どうもピンとこないな。
「もしかして、カバスの館ですか?」
「そう! それだそれ、そこに向かってください」
「わかりました」
タクシーが走り出す。
窓の外には、ジオン兵の姿が見えた。ここらはジオンの勢力圏なのだ。
だが平服を着て民間人を装っている俺たちには関係ない。モメ事を起こさなければ、突っつかれることもないだろう。
そんなわけで俺たちはカバスの館にやってきたのだ。
「いらっしゃいませ」
ジオン兵御用達の店と聞いていたが、別に専用というわけではなさそうだ。
渡されたタブレットを操作して"恋人"を選ぶ。
が、ララァがいない。もしかして店を間違えたか? いや、まだ店に出されていないだけかもしれない。見習いとかそういうシステムがあってもおかしくはない。
店員を呼ぶ。
「お決まりになりましたか?」
「ララァ・スンを身請けしたい」
店員の眉がピクリと動いた。
「彼女とは、どういうご関係で?」
「親戚だ。金ならある」
アタッシュケースをポンと叩く。
「……少々お待ちください」
店員が奥に消えて行く。
しばらくして、ひとりの少女を連れて戻ってきた。
「ララァ・スン。キミを迎えに来た」