『B級最強(ただし縛り中)』 ―防衛任務では本気出す変わり者攻撃手― 作:天使
三門市の空は、春の光が柔らかく街を包んでいた。
だが、防衛都市に住む者にとって、この静けさはいつ崩れてもおかしくない。
氷室京也は、駅前のベンチに腰掛けていた。
右手にはタブレット、画面には新型トリガーの構造図。
ボーダー本部からの正式な開発資料ではない。仲の良いエンジニアから「面白い試作品ができた」と見せられた未承認データだ。
「……うん、この駆動部、絶対すぐ壊れるな」
ぼそりと呟き、京也は図面に赤いラインを引く。
彼はB級アタッカー──ただしチームには属していない。
縛りプレイのような制限を自分に課し、あえて全力を出さない戦い方でランク戦をこなす変わり者だ。
今日もこのあと訓練室に籠もるつもりだった。
その時、街中にけたたましい防衛警報が鳴り響く。
通りを歩いていた人々が一斉に避難誘導の方向へ走り出す。
京也は小さく舌打ちし、タブレットを鞄にしまった。
「……今日は訓練の日じゃないんだけどな」
耳元の通信端末が自動的に接続され、本部からの指令が届く。
《南地区に大型ネイバー出現。周辺B級・C級は速やかに現場へ向かえ》
大型、しかも市街地中心部。
彼が普段守る“縛りルール”を守っていたら、味方が危ない。
京也の口元がわずかに歪む。
「仕方ない、防衛任務だ。今日は……外すか」
南地区の交差点。
すでに小南桐絵が双月を構え、跳躍してネイバーに斬りかかっていた。
横合いから香取葉子が高速で踏み込み、連撃を叩き込む。
そして後方では綾辻遥が通信と援護射撃を担当していた。
だが、相手は全身を甲殻に覆った大型クラウソラス型。
硬い装甲に攻撃が弾かれ、二人の攻め手が鈍る。
「……ちょっと遅いじゃない!」小南が叫ぶ。
「今来たとこだ」京也は肩を竦めながら、スイッチボックスを起動した。
装備スロットに次々と光が走る。
その構成は、普段の彼なら絶対に使わない重量級の近接+中距離射撃トリガーの混合。
防御も機動力も削って火力に全振りした、本気仕様だ。
「綾辻さん、カバーお願い」
「え、あ、はい!」
短く返事を聞き、京也は一気に前へ。
彼の動きは、普段のランク戦での彼を知る者なら誰も想像できない速さだった。
ステップで装甲の死角へ潜り込み、至近距離から旋刃弾を撃ち込む。
甲殻がひび割れた瞬間、小南が斬り込み、香取が突きを決める。
だがネイバーはまだ健在。咆哮を上げ、尾を横薙ぎに振るう。
その軌道を一瞬で見切り、京也は香取を抱きかかえて回避。
次の瞬間、彼はトドメとばかりに双月改を一時的に起動し、装甲を一刀両断した。
甲殻が砕け、ネイバーは粒子となって消滅する。
「……なんなの、あんた。普段の噂と全然違うじゃない」香取が息を整えながら睨む。
「俺は縛ってるだけだよ。防衛の時だけは別」京也は淡々と答える。
小南はニヤリと笑った。
「面白いじゃん、あんた。今度のランク戦、私とやってみなよ」
京也は軽く手を振って、その場を去ろうとする。
「遠慮しとく。今日は訓練室が俺を待ってるんでね」
その背中を、三人の視線が追っていた──。