『B級最強(ただし縛り中)』 ―防衛任務では本気出す変わり者攻撃手― 作:天使
翌日。
三門市ボーダー本部の朝は、今日も忙しい。
出撃後の報告や訓練申請で隊員たちが行き交うロビーを、京也は人混みを避けるように横切り、資料室へと足を運んだ。
資料室の奥、陽の届かない静かな一角。
京也は椅子に深く腰掛け、データパッドを操作していた。
画面には昨日の戦闘映像──大型クラウソラス型との交戦記録が映し出されている。
敵の動き、味方の配置、自分の動作。
フレーム単位で停止と再生を繰り返し、彼は細かくメモを打ち込む。
「……旋刃弾の初速、あと3%落とせば収束精度が上がるな」
独り言が小さく響く。
彼はこうやって毎回、防衛任務の映像を自分で解析していた。
表向きの理由は“戦術研究”だが、実際は自分の戦い方をもっと制御するためだ。
その背後から軽い足音が近づいてくる。
「やっぱりここにいた」
振り返ると、綾辻遥がファイルを抱えて立っていた。
制服ではなく事務服姿で、昨日とは雰囲気が違う。
「昨日は、本当にありがとう。正直、あんな動きできるなんて知らなかった」
「防衛任務だったからな」京也は視線をパッドに戻す。
「普段はなんで手を抜くの?」
一瞬、指が止まる。
だが彼は答えを濁すように、パッドを閉じた。
「縛ってるだけだ。俺のやり方ってだけ」
「理由は?」
「話すと、面倒になる」
綾辻は少し眉を寄せ、けれどそれ以上は踏み込まなかった。
代わりにファイルを差し出す。
「昨日の共闘記録。それと、本部から伝言──『君をスカウトしたい隊長がいる』って」
京也は苦笑しながら受け取る。
「悪いが、チームは組まない」
「……本当に変わってるね」
資料室を出ると、廊下の先で腕を組んだ香取葉子が待ち構えていた。
「アンタ、昨日のあれ……本気だったら、うちのチームに来なさいよ」
「断る」即答。
「なんでよ。勝率上がるに決まってるじゃない」
「勝率より、自分のやりたい戦い方を優先する」
「意味わかんない」
「わからなくていい」
むっとした香取が詰め寄る。
そこへ横から軽やかな声が割って入った。
「まあまあ葉子ちゃん、昨日見たでしょ? こいつはそういうやつなんだよ」
小南桐絵が笑みを浮かべて二人の間に割って入る。
「変人だってのはわかったけど……」香取はまだ納得いかない表情。
「でもさ、昨日の戦い、面白かったよ。また見せてよ」
「防衛任務の時だけ、な」京也は肩を竦めた。
「じゃあまた市街地にネイバーが出たら呼ぶね」
「物騒な約束だな」
夕方。
第七訓練室で京也は一人、模擬戦プログラムを相手にしていた。
普段のランク戦で使う縛り構成──軽量の近接武器と小出力の射撃のみ。
「やっぱり、こっちのほうが楽しいな」
そう呟いた瞬間、耳元の通信端末が鳴る。
《市外西端にて不審反応。C級部隊が接触、応援要請中》
京也はトリガーケースを手に取り、短く息を吐く。
「……また、外す日か」
彼がなぜ“縛り”をするのか、その理由はまだ誰も知らない。
だが、それが近いうちに少しずつ明らかになることを、本人もまだ予想していなかった──。