『B級最強(ただし縛り中)』 ―防衛任務では本気出す変わり者攻撃手― 作:天使
数日後。京也はいつものようにランク戦にも出ず、訓練室の片隅でひとり黙々と射撃・移動・回避のループを繰り返していた。
その動きは機械的で、淡々としているが、目だけは獲物を狙う猛禽のように鋭い。
ふと、通信端末がけたたましく鳴った。防衛任務の緊急招集だ。
京也は無言で端末を握りしめ、わずかに口角を上げた。
「……やっと、か」
街の南区に大型ネイバー反応。B級以上の全員に出動命令が下っていた。
現場に急行すると、既に複数の隊員が布陣している。香取隊、小南、そして綾辻の姿もある。
「アンタ、またランク戦サボってたくせに、防衛の時は来るのね」
香取が眉をひそめながら声をかける。
「仕事だからな」
京也は短く返すと、手にしていたカスタムされたレイガストを構えた。刀身部分は極端に短く、代わりに銃口が埋め込まれている異様な形状。
「その変な武器……本気モードってやつ?」
小南が興味津々で覗き込む。
「そう思いたきゃ思え。……始めるぞ」
次の瞬間、路地裏から巨大な甲殻型ネイバーが姿を現した。
全長五メートルはあろうかという巨体に、複数の刃状の脚。装甲は厚く、正面からの攻撃は弾かれる。
「前衛は私と香取! 京也、回り込んで!」
小南の指示に合わせ、京也は地面を蹴る。
だがその動きは直線的ではない。わざと瓦礫を踏み、壁を蹴り、視線の死角を縫うように跳ねる。
ネイバーの刃脚が振り下ろされる寸前、京也は懐に潜り込み、レイガストの銃口を装甲の継ぎ目へ押し当てた。
「……散れ」
低く呟き、圧縮弾を至近距離から撃ち込む。
轟音とともに甲殻が砕け、ネイバーの動きが一瞬止まった。
そこを小南と香取が同時に斬り込み、装甲を剥ぎ取る。
「ナイス!」
香取が珍しく笑みを見せるが、京也は無言で次の動きに移っていた。
背後からもう一体、犬型ネイバーが飛びかかってくる。
京也はわずかに首を傾けただけでその牙を避け、逆手に持ったレイガストで喉を貫く。
その動きに一切の無駄がなく、まるで長年の狩人のようだった。
戦闘はわずか五分で終わった。
ネイバーの残骸が煙を上げる中、綾辻が京也に近づく。
「……やっぱり、本気のあなたはすごいわね」
「別に。これが普通だ」
そう言いながらも、京也の視線は遠く、何かを思い出しているようだった。
ふと香取が口を開く。
「ねえ、なんで普段はあんな縛りプレイしてんの? 本気出せばA級でもやっていけるでしょ」
京也は少しの沈黙のあと、短く答えた。
「……前に、一度だけ本気で戦って、大事なものを失った」
それ以上は語らず、彼は踵を返して歩き出す。
小南も香取も、それ以上追及はしなかったが、三人の間に妙な空気が残った。
その背中を見送る綾辻の瞳は、いつもより長く京也を追っていた。
――京也の過去と「縛り」の理由。
それはまだ誰にも明かされてはいなかった。