『B級最強(ただし縛り中)』 ―防衛任務では本気出す変わり者攻撃手―   作:天使

7 / 9
7話

 防衛戦から数時間後。

 京也は本部の小会議室で報告書を書き終えると、電子端末を送信モードに切り替えた。

 事務的な作業は嫌いではない。むしろ、戦闘の記録を客観的にまとめるこの時間は、彼にとって自分の動きを見直す重要な工程だった。

「氷室さん、上層部から呼び出しだって」

 ドアを開けたのは綾辻だった。

 彼女は報告書を抱えたまま、少しだけ複雑な表情をしている。

 

「……また面倒な話か?」

「面倒かどうかは本人次第じゃない?」

 綾辻は小さく肩をすくめ、先導する。

 

 応接室に入ると、すでに数名の幹部が席に着いていた。

 中央には城戸司令、その左右には鬼怒田開発室長、根付広報部長、そして忍田本部長の姿。

「氷室京也。先日の防衛任務、見事だった」

 城戸司令の声は低く抑えられていたが、その視線は鋭く、探るようだ。

 

「任務を果たしただけです」

 京也は無表情で答える。

 

「そうだな。しかし君の記録を見ると、ランク戦では能力の半分も出していない。意図的だな」

 鬼怒田の言葉に、場が少しだけ緊張する。

 

「俺の戦い方は、俺が決めることです」

 短く返す京也。その声音には拒絶の色が混じっていた。

 

 沈黙を破ったのは忍田だった。

「理由は聞かない。ただ、いざという時に君の力が必要になる。それを忘れるな」

 京也は小さくうなずき、踵を返す。

 

 背後から根付の軽い声が飛んできた。

「君の戦い方は面白い。広報的にも映える。もっと前に出てくれたらいいんだがね」

 京也は答えず、部屋を出た。

 

 廊下に戻ると、綾辻が壁にもたれて待っていた。

「……何を話されたの?」

「別に。いつも通りだ」

「ほんとに?」

「ほんとだ」

 淡々としたやり取り。しかし、綾辻はその横顔から何かを読み取ろうとしていた。

 その夜、訓練室にて。

 京也はレイガストを手に、一人模擬戦シミュレーションを繰り返す。

 モニターに映し出される敵影は過去の記録データ。だが、その中に一つだけ、通常の記録にはない影が混じっていた。

 それは黒い輪郭を持つ大型ネイバー──京也がほんの一瞬だけ目を細める。

「……まだ、終わってねぇ」

 

 過去の映像は、短く途切れた。

 

 翌日。カフェテリアで小南と香取に捕まる。

「アンタ、司令室に呼ばれたって本当?」

「何話されたの?」

 二人同時に問いかけられ、京也は面倒そうに席に着く。

「大したことじゃない」

「嘘ね。あんたの顔、いつもより険しいもん」香取が鋭く言う。

「……じゃあ、そういうことにしておけ」

 話を切り上げるようにコーヒーを飲む京也だが、小南はニヤニヤしていた。

「ま、いいけどさ。あんたが本気出すとこ、また見たいからね」

 

 そんなやり取りの最中、防衛任務のアラートが鳴り響く。

 綾辻の声がスピーカーから響いた。

《市北区でネイバー反応。大型個体含む。B級以上は至急出動》

 京也は椅子を立ち、無言でトリガーケースを背負う。

 その目は、先日の黒い影を思い出していた。

「……来るのか」

 

 仲間たちと共に現場へ向かう京也の背中は、どこか戦場へ引き寄せられるようだった。

 そして、彼の“縛り”の根源に繋がる戦いが、再び近づいていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。