『B級最強(ただし縛り中)』 ―防衛任務では本気出す変わり者攻撃手― 作:天使
防衛戦から数時間後。
京也は本部の小会議室で報告書を書き終えると、電子端末を送信モードに切り替えた。
事務的な作業は嫌いではない。むしろ、戦闘の記録を客観的にまとめるこの時間は、彼にとって自分の動きを見直す重要な工程だった。
「氷室さん、上層部から呼び出しだって」
ドアを開けたのは綾辻だった。
彼女は報告書を抱えたまま、少しだけ複雑な表情をしている。
「……また面倒な話か?」
「面倒かどうかは本人次第じゃない?」
綾辻は小さく肩をすくめ、先導する。
応接室に入ると、すでに数名の幹部が席に着いていた。
中央には城戸司令、その左右には鬼怒田開発室長、根付広報部長、そして忍田本部長の姿。
「氷室京也。先日の防衛任務、見事だった」
城戸司令の声は低く抑えられていたが、その視線は鋭く、探るようだ。
「任務を果たしただけです」
京也は無表情で答える。
「そうだな。しかし君の記録を見ると、ランク戦では能力の半分も出していない。意図的だな」
鬼怒田の言葉に、場が少しだけ緊張する。
「俺の戦い方は、俺が決めることです」
短く返す京也。その声音には拒絶の色が混じっていた。
沈黙を破ったのは忍田だった。
「理由は聞かない。ただ、いざという時に君の力が必要になる。それを忘れるな」
京也は小さくうなずき、踵を返す。
背後から根付の軽い声が飛んできた。
「君の戦い方は面白い。広報的にも映える。もっと前に出てくれたらいいんだがね」
京也は答えず、部屋を出た。
廊下に戻ると、綾辻が壁にもたれて待っていた。
「……何を話されたの?」
「別に。いつも通りだ」
「ほんとに?」
「ほんとだ」
淡々としたやり取り。しかし、綾辻はその横顔から何かを読み取ろうとしていた。
その夜、訓練室にて。
京也はレイガストを手に、一人模擬戦シミュレーションを繰り返す。
モニターに映し出される敵影は過去の記録データ。だが、その中に一つだけ、通常の記録にはない影が混じっていた。
それは黒い輪郭を持つ大型ネイバー──京也がほんの一瞬だけ目を細める。
「……まだ、終わってねぇ」
過去の映像は、短く途切れた。
翌日。カフェテリアで小南と香取に捕まる。
「アンタ、司令室に呼ばれたって本当?」
「何話されたの?」
二人同時に問いかけられ、京也は面倒そうに席に着く。
「大したことじゃない」
「嘘ね。あんたの顔、いつもより険しいもん」香取が鋭く言う。
「……じゃあ、そういうことにしておけ」
話を切り上げるようにコーヒーを飲む京也だが、小南はニヤニヤしていた。
「ま、いいけどさ。あんたが本気出すとこ、また見たいからね」
そんなやり取りの最中、防衛任務のアラートが鳴り響く。
綾辻の声がスピーカーから響いた。
《市北区でネイバー反応。大型個体含む。B級以上は至急出動》
京也は椅子を立ち、無言でトリガーケースを背負う。
その目は、先日の黒い影を思い出していた。
「……来るのか」
仲間たちと共に現場へ向かう京也の背中は、どこか戦場へ引き寄せられるようだった。
そして、彼の“縛り”の根源に繋がる戦いが、再び近づいていた。