『B級最強(ただし縛り中)』 ―防衛任務では本気出す変わり者攻撃手― 作:天使
市北区。冬の夕暮れ。
空は群青色に染まり、低い雲が西の空を覆っていた。
その下で、警報を受けた市民たちが避難誘導ラインに沿って移動している。
京也たちB級部隊は、防衛ラインの前衛に配置されていた。
隣には香取と小南、後方支援に綾辻が待機。
市街地の奥からは、不気味な低音と共に地面を揺らす足音が近づいてくる。
「……大型だな」
京也は腰のトリガーケースからレイガストを展開する。
刃は最小サイズ、軽量化モード。いつも通りの“縛り”仕様だ。
「来るわよ!」
小南が指差した先、ビルの影から大型ネイバーが姿を現す。
灰色の装甲に覆われ、四足の胴体から長く伸びた前腕が地面を抉る。
その後方には、複数の小型個体がぞろぞろと続いていた。
初撃は香取の旋空弧月が決めた。
だが大型は後脚のバネを使い、一瞬で距離を詰める。
香取が回避する間に、小型が散開し民間人避難ルートへ向かう。
「小南は右を頼む」
「了解!」
小南は双月を振り抜き、右側の小型群をなぎ払う。
京也は左へ回り込み、小型三体を牽制射撃で分断。
しかし、その動きはまだ全力ではない。弾数も威力も、わざと抑えている。
その時だった。
大型の動きが急に変わる。
装甲の間から淡い黒光が漏れ、機動が一段跳ね上がった。
「……黒印(ブラックマーク)持ちか」
京也の声が低くなる。
彼の脳裏に、あの訓練室で見た黒い輪郭の映像がよぎる。
香取が再び斬りかかるが、大型は両前脚を地面に叩きつけ衝撃波を発生させ、彼女を吹き飛ばす。
小南も間合いを取らざるを得ない。
「氷室さん!!」
綾辻の声が緊迫する。
避難ルートが大型の進行方向と重なり、あと数秒で市民が巻き込まれる。
京也は一瞬だけ視線を伏せ、それからレイガストをモードチェンジした。
刃が一気に延伸し、装甲モードと推進装置が同時に起動する。
普段は絶対に使わない“フルアーム仕様”だ。
「……一分だけ、外す」
小さく呟くと、地面を蹴って大型の懐に飛び込む。
黒印の装甲が前脚を振り下ろすが、京也は推進を利用して斜め上へ跳躍。
旋刃弾と斬撃を同時に叩き込み、左肩装甲を粉砕する。
大型は苦悶の咆哮を上げ、バランスを崩す。
その隙を逃さず、京也は腹部の接合部に二撃目を入れた。
衝撃で小型群が一瞬怯み、小南と香取が残りを一掃する。
数十秒後、大型は青い光粒となって崩れ落ちた。
京也はレイガストを通常モードに戻し、無言で深呼吸する。
「……あれ、今のって……」香取が言葉を詰まらせる。
小南は目を細め、何かを察したように笑う。
「ふーん、やっぱ隠してる力あるじゃん」
京也は二人の視線を避け、避難ルートを確認する。
全員無事。それだけを確かめて、背を向けた。
任務後、本部に戻ると綾辻が待っていた。
「今の戦い……あれが“縛り”を外した状態?」
「……違う」
「じゃあ、なんで外したの?」
京也はしばらく黙り、低く答える。
「……黒印は、放っておくと街を食う」
それ以上は何も言わず、訓練室へと歩き去る。
廊下に残された綾辻は、彼の背中を見送りながら小さく呟いた。
「……やっぱり、あの時のことと関係してる」
その夜、京也は一人でデータ映像を再生していた。
画面に映るのは数年前の防衛任務。
黒印の大型が街を蹂躙し、その中心で、仲間の姿が光に消えていく──。
「……まだ、間に合う」
京也の握る拳は、白くなるほど強く力が込められていた。