今日から私がマスター   作:ねこや しき

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ここに本を置こう

 安室さんの加入により、我が店ポアロの客は順調に増えた。しかし、アルバイト店員の安室氏が辞めれば客も離れるということではないか。そんなことがないようにサービスでなんとか繋ぎとめたい、そんな今日この頃だ。

 

 まあなんだ。差別化、というか。今までのポアロと少し変えてみようと思ったのは、飲食以外の売り物を置くということだ。原価率の高いものがいいのは百も承知である。が、私はやっぱり本を置きたい。どちらかといえば喫茶店よりも、書店の経営の方が気質や好みに合っているのだ。ただまあ、経営初心者の私と母でうまくいくこともないだろうし、そう考えると父の判断も間違いではないのだろう。

 来るべき決算処理に向けて必要な処理を進めているのだが、これが煩雑なのだ。領収書をそろえるのはまあ当然だし、日々の売り上げの記録も当然だ。当然ではあるが、それが経営日すべての分がそろっていて、かつ日付順でないといけないのがつらい。

 原価率とか商品の仕込みの予測のほうが楽しい。なんでなんでしょうね。絶対に必要な作業なのに、終わった後の処理の方が嫌なんですよ。不思議ですね、この調子で心を不思議で惑わせて処理を進めていきたいところです。

 つらつらと考えながらディスプレイを調整すると、後ろから驚きとも感激とも言えない声が聞こえてきた。

 

「『そして誰もいなくなった』、『ABC殺人事件』、『占星術殺人事件』、『ナイル川殺人事件』・・・・・・、ねえマスター! これってマスターの趣味なの!?」

 

「あ、ああ。そういえばコナン君はミステリーがお好きでしたね。趣味というか、先日、映画で見たのが面白かったので、本日から気が向いた本を販売しようかと思いまして」

 

 「お恥ずかしい。有名どころしか読んだことがありませんので」と返せばコナン君は目を輝かせて首を振る。本当に好きなのだろう。

 

「どれもすっごい面白いよね! うわー、これ読んでもいい? 」

 

「どうぞ。でも汚さないようにお願いしますね」

 

 思わず笑い声が漏れてしまったが、コナン君はそれに反応することもない。意識が本に向いてしまっている。これなら、客の好みに合わせて棚を作っても面白いかもしれない。

 母がやっている書店の売り上げになるしかないが、ああ、本当に母がうらやましい。

 

「おはようございます」

 

 店の奥から出勤した安室さんが顔を出した。コナン君が開店からいることは珍しくないが、コナン君の前に並んだ本は珍しかったのだろう。

 

「マスター、こちらの本は? 」

 

「今日からいくつか本を販売しようかと思いまして。こちらは見た映画に影響されたミステリー、の本をいくらか」

 

「そういうことでしたか。ああ、それにしてもいい本ですね。アガサ・クリスティがお好きなんですか? 」

 

「文脈で犯人を予測できないところが彼女の魅力ですね。まあでも、有名どころと思った選定ですから。

 それにしても、おふたりともミステリーがお好きなんですね」

 

「ふふ、そうですね」

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