「あら? ・・・今日って安室さんの勤務日じゃありませんでしたか? 」
「そうなんですよ! 安室さん、また急な用事が入ったらしくって」
端末を確認してみると、たしかに欠勤するといった内容が送られてきていた。時間は昨日の遅い時間。別のアルバイトでなにかあったのだろうか。なにかあるのは世の常だが、回数が多いように思われる。
「うーん、急な欠勤が多いですね。梓さんにも負担になると思うのですが・・・、注意しましょうか? 」
「どうしよう・・・、でも安室さんも忙しい人ですし」
悩み始めた榎本さんを眺めていたが、眺めている間にも時間が進むので開店の準備をすすめることにした。
手を動かしながら思うのは、経営学的に良い職場という結論はもうあって、今のポアロの状況は榎本さんにとってはあまりよくないということだ。彼女にしわ寄せがいってしまっている。ポアロのことをよくわかっている榎本さんに抜けられるのは経営者側としては困る。
「榎本さん、よろしければですが、お給料、上げましょうか」
「ええ!? 」
「人手が足りなくてアルバイトを増やしたのに、榎本さんは突然のシフト交代が増えていますよね。それはちょっと大変なんじゃないかと思いまして。安室さんのおかげでお客さんが増えてはいますが、それを口実にすべて許すというのおかしな話しです」
「え、ええ」
「榎本さんは大学生ですし、時間が必要なときもあるでしょう? 時間を労働にあててもらっていますし、長く勤めてもらってこちらも助かっていますし・・・、そうしましょう! でも、計算が大変なので来月いっぴからでお願いします」
「は、はい」
榎本さんに言い返す隙を与えずに言いきった。内容を理解しきれていない顔だったが、言質は得たわけだ。お賃金が増えて嫌な人はいないはず、だ。ポアロの人間関係も悪い訳じゃない。多少の問題がある分はそれぞれがフォローできる範囲だし、悪くない、はず。ああ、榎本さん、辞めないでくれ・・・。
「じゃあ、今日もがんばっていきましょう」
「はい! がんばりましょう! 」
榎本さんのこういうところが本当にかわいくて、いつも心の支えになっています。ありがとう、榎本さん。本当にありがとう。安室さんはいいかげんにして。
ところで。後日、こっそりと安室さんに苦言を呈した。安室さんにも自覚はあるものの、やっぱりどうしても難しいらしい。それは確かにはじめの面接でも言っていたことだからね、仕方ないのかもね。人生って大変ですよね。