オペレーターよ美味いものを食え   作:アマルティア・テーベ

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登場キャラクター
・ドクター
・ラップランド
・テキサス


ラップランドと緑色甘味

 

 シラクーザで起きた騒動、そしてとある『狼主』との邂逅から数週間ほど経ったある日。

 久々にロドスの執務室へ入ったラップランドは、スプーンの上の緑色の物体をじっと見つめるドクターの姿を見て僅かに困惑した。彼女にしては珍しい表情だった。

 

「ドクター…それ何?」

「『ズンダ』というらしい。極東の一部で食べられている甘味だそうだよ」

「へえ。初めて聞いたよ」

「私も実物を見るのは初めてなんだ。ついさっきクロージャに頼んだものが届いたところでね」

 

 ラップランドがデスクの上に視線を向ければ、開けたばかりと思わしき小瓶と包装紙らしきものが見えた。

 

「妙な匂いはしないけれど…大丈夫なの?それ」

「大丈夫、とは?」

「味のこと」

 

 ドクターの悪食は有名だ。もちろん悪い意味で。可食部があるとはいえ平時はまず食事の選択肢に入らないであろう砂虫を好き好んで食べるような変人をラップランドは一人しか知らない。そもそも彼女の記憶が正しければ、砂虫料理のレシピはどれも極限状況下での食事を想定していた筈なのだが。

 

(ズンダ、ねえ)

 

 甘味、とは言うが。この真っ当とは呼び難い味覚を持つ人間の言葉をどこまで信じていいものか。ドクターに限っては甘辛いタレのついた肉を『甘味』と判定しても不思議ではないとラップランドは思う。

 ラテラーノ人ほどではないが、ラップランドは甘味についてはそれなりに舌の肥えている方だと自負している。あまりにも突飛なものを食べさせられたとしたら、少しばかり手が出てしまうかもしれない。

 

「これはちゃんとした甘味だから問題ないよ。ほら、一口どう?」

「まあ…そこまで言うなら」

 

 妙なもの食わされたら一発くらい引っ叩こう、と心に決めてラップランドは差し出されたプラスチックのスプーンを手に取る。色合いは自然。香ってくる匂いにも異常はない。だが最後の判断基準は舌だ。意を決して口元に放り込む。

 

「……おいしいね」

「ね?言っただろう?」

 

 控えめな、それでいてはっきりとした甘さが舌から口の中へ広がる。やたらと刺激的な物ばかり食べている印象があるドクターにしては珍しいチョイスだ。馴染みのない風味だが、この穏やかで棘のない甘さは実に素晴らしい。

 

「これ、材料は?」

「砂糖と豆。緑色の豆を使うからこういう色になるらしい」

「豆……それでこういう味わいになるんだね。ずんだ。……ズンダね。覚えておこう」

「これの開発者はかつての極東の名将の一人だという話だ。優れた指揮官であると同時に、料理人としての功績も多かったようでね」

「……へえ?」

 

 ラップランドは少しだけ返事が遅れた。

 どうやら、思っていたよりもずっと自分の意識はこの緑色の甘味に向けられていたようだ。

 

「面白い逸話が多く残っている人物でね。書物の方も今取り寄せてもらってるが──『私は同盟者に毒を盛るような真似はしない!殺したいならば我が刃で殺せば良いだけのことよ!』と言い放った記録が残されているとか」

「随分愉快な奴がいるんだね、極東って」

「向こうの文化は面白いよ。醜態とも取れるような話を正直に残すことも多いようだし」

 

 極東の甘味。シラクーザからは遠い遠い所にある、未知の味。この甘い緑色は、何故だか妙にラップランドをそわそわさせる。

 

「で、ね。物は相談なんだけど」

「……何?」

「これ。前に作ってもらったミルフィーユと合わせていい感じに出来ないだろうか。絶対すごいことになると思うんだよね」

「そうかなぁ…」

「少し分けてあげるから、ちょっとお願いしてみてもいい?」

「……まあ、うん。チャレンジはしてみるよ。ご馳走してもらったからね……」

 

 分け与えてもらった恩があるので、これ多分極東のものと合わせた方が美味しいよね、とは言わないでおいた。

 物は試しという言葉もある。美味しいものができたら、ドクターに振る舞うのもいいだろう。

 

 

 

 

 三日ほどの試行錯誤を経て、思いの外斜め上の方向でスイーツが完成した。

 

「で、完成したのがこれだよテキサス。どう?」

「美味いな。この緑色は…豆か」

「そう。ドクターから分けてもらったんだよ」

 

 テキサスとラップランドは、食堂の端にあるテーブルで向かい合っていた。皿の上に並ぶのは薄緑色のワッフル。ズンダを混ぜて焼き上げたばかりの生地は表面に塗られたバターによってぴかぴか輝いている。

 

「……あといくつ貰える?」

「もうズンダが切れたから後一個だけ。残りはドクターと、ボクの分」

「そうか」

 

 露骨に悲しそうな雰囲気を漂わせるテキサスに、思わず獰猛な笑みが浮かんでしまう。ああ、本当に人生とは何が起こるか分からない。ワッフルを一つ頬張り、ラップランドはにこやかに言う。

 

「次はエクシアたちの分まで作ってあげるから我慢して」

「…次はいつ頃になる?」

「ドクターに直談判してよ。件のズンダとやら、ドクターが頼み込んで極東から仕入れたらしいよ」

「そうか」

 

 テキサスは凛とした顔で立ち上がり、そのまま二つ目のワッフルをかじる。視線の先の方向はドクターの執務室がある方角だ。

 

「行くぞ」

「はいはい。お気に召したようで何よりだよ、テキサァス」

 

 ロドスでズンダブームが巻き起こる日は近い。

 次はどう作ろうか、とラップランドは未来へと思いを馳せた。

 




大陸版ではついに極東イベントが来たようです。楽しみですね。
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