「連邦生徒会長は行方不明になりました。代わりに、こちらの先生がフィクサーになってくれるはずです」
学園都市キヴォトス。その連邦生徒会、連邦捜査部「シャーレ」の顧問として着任することになった先生は、そんなこんなで何故か大騒ぎになっているシャーレのオフィスビルへとやってきたのだった。道中、謎に騒ぎ立てていた不良を蹴散らしながら。
「これは一体何なのか……あら?」
「"こんにちは!"」
「あらららら……し、失礼いたしましたー!」
逃げるように去っていった
:システム接続パスワードをご入力ください。
先生は、不思議と手になじむタブレットを見つめ、思い浮かんだパスワードを入力した。
"……我々は望む、ティリスの民を。"
"……我々は覚えている、ネフィアの永遠の盟約を。"
:接続パスワード承認。
:《シッテムの箱》へようこそ、先生。
:生体認証及び認証書生成のため、メインオペレートシステムE.L.O.N.Aに変換します。
◇
気がつくと先生は見たこともない教室の中にいた。ひとりの少女が机に突っ伏して眠っている。
「むにゃ……いちごミルクがいっぱぁい……。えへっ……レモンシャーベットも、ブドウクレープもありますよぉ……」
何やら寝言を言っているが、このまま放っておいても起きそうになかったので、先生はつついて起こすことにした。
「むにゃ……んもう……うみゃ~? うみゅみゅ……あれ? あれれ? ……もしかして、先生!? まさか、本当に
「"おはよう"」
「わぁ……! 本物の先生だ……! あわわわ、えーっと、えっと……先生! はじめまして!」
先生の顔を見て、しっかり目が覚めたらしい。淡い水色とピンクの髪を軽く整えて、少女は自己紹介をした。
「私はアロナ! この《シッテムの箱》のシステム管理者であり、メインOSをやっています! 先生のサポートはお任せください!」
「"え? でもさっきはE.L.O.N.Aって……"」
「アロナです!! やっと会うことができました!! 私はここで先生をずっと、ずーっと待っていました!!!」
アロナはゴリ押した。なにか譲れないところがあるらしい。エロナとは呼ばれたくないのかもしれない。先生はそう思うことにした。
「"ま、まあ、よろしくね"」
「はい! これからよろしくお願いします! 私はAIなので、多少発音がおぼつかないことがあるかもしれませんが、気にしないでくださいね」
「"そうかな? 普通に喋れていると思うけど……"」
とても元気そうな子である。AIとは言うが、先生には普通の少女にしか見えなかった。
「ありがとうございます、先生。それでは、忘れないうちに生体認証をしておきましょう。先生の指を見せてください! ……ふむふむ」
アロナは先生の指を手に取り、しげしげと観察して指紋認証をした。両目でじっくりと見て指紋を確認したようだ。AIならもっと簡単にできるのではと先生は思ったが、水を差すのも悪いので黙っていた。そういう演出なのだろうか?
「それにしてもよかったです、先生が普通で。手が13本もあったらどうしようかと……」
「"どういう心配してるの!? それはもう化け物だよ!"」
「ふふ、ただのアロナジョークですよ」
◇
「なるほど、連邦生徒会長が行方不明になってしまったんですか。それは大変ですねー」
「"……。連邦生徒会長がどこに行ったのか分かる?"」
「すみません、私にも彼女の居場所は分かりません。お役に立てず、申し訳ないです。……どうしていなくなったんでしょうね」
何だか棒読みなアロナにも、連邦生徒会長がいなくなった理由は分からないという。連邦生徒会で出会った生徒たちの様子から見ても、まるで神隠しのように、誰にも見つからずに突然消えてしまったようだった。
「それと、サンクトゥムタワーの方は私の方でなんとかなると思います。やってみてもいいですか?」
「"う、うん。お願い"」
「分かりました。少々お待ちください~」
タワーの方はアロナが何とかできるらしい。一応、結構まずい状況だったはずなんだけど……なんとも緩いなあと先生は思いながら、アロナの作業を待った。そしてどこからか、ういーんと何かが起動するような謎の音がしたような気がした。
「できました! 先生、サンクトゥムタワーの制御権を取得しました。今サンクトゥムタワーは、私アロナの統制下にあります。つまり、今のキヴォトスは先生の支配下にあるも同然です! あなたはキヴォトスの支配者だ!」
「"えっ"」
まるで突然キヴォトスの権利書でも転がってきたかのような物言いに先生は困惑した。これ絶対私利私欲で好き勝手したら、お前は先生じゃないとか言われるやつだ……! そんな先生を見て、アロナはニコニコした。
「何か設定変更でもしちゃいます?」
「"勝手にいじるのはよくないんじゃないかな!?"」
「うふふ♪ 先生が承認してくだされば、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管できますよ!」
「"承認する!"」
「分かりました。それでは移管します!」
◇
再び気がつくと先生はシャーレのビルの中に戻っていた。今のは夢だったのかとも思ったが、シッテムの箱を見るとアロナが手を振っているのが見えたので、夢ではなかったのだと認識した。
「サンクトゥムタワーの制御権の確保が確認できました。ありがとうございます、先生。連邦生徒会を代表して深く感謝いたします」
ここに案内してくれた彼女はそう言って頭を下げた。サンクトゥムタワーは正常に動いたようだ。
「ついてきてください。連邦捜査部『シャーレ』をご紹介いたします」
広々としたメインロビー、仕事をするための部室、がらんどうのカフェ、謎の製造装置クラフトチェンバー。シャーレの建物は非常に巨大な高層ビルであり、この短い時間では見れない施設がまだまだたくさんあるようだった。
「"私はこれから何をすればいいの?"」
「シャーレには、特に設定された目標というものが無いようです。権限だけはありますから、キヴォトスのどんな学園の自治区にも自由に出入りできますし、所属に関係なく、先生が希望する生徒たちをシャーレの部員として加入させることが可能です。つまり、やりたいことを、自由に何でもやりたい放題できる……ということですね」
「"えぇ……"」
先ほどアロナに似たようなことを言われたばかり。シャーレにはとても大きな権限があり、しかしやるべき目標はなく、やはり先生は困惑した。
「どうしてこんな組織を作ったのか……本人に聞いてみたくても、連絡はつきません。私たちも彼女を探すのに全力を尽くします。しかし現状、連邦生徒会は手一杯で……キヴォトスのあちこちから送られてくる陳情を処理できるだけの余力がありません。それこそ連邦生徒会長がいてくれれば、あっさり解決できたことも多いでしょうに……。ああ、もしかしたら、時間が有り余っている『シャーレ』なら、この厄介で面倒な苦情の数々を解決できるかもしれませんね」
「"なるほど"」
つまりはそれをやってほしい、という遠回しな要請である。「強制じゃないんだけどこれやってほしいなー」と言わんばかりの態度に先生はやや思うところはあったが、まだ初日であることを考慮し、他にやることもないのでひとまず請け負ってみることにした。
「"連邦生徒会長って、そんなにすごかったの?"」
「ええ、巷で『超人』などと言われるくらいには。今回の件で、私たちがいかに彼女に頼り切りになっていたのか、よく分かりました。……まあ、しょっちゅう妙なことを言い出して、仕事を増やしてきたりもしますが。みんながとても忙しい時に、一人だけ仕事を終わらせて優雅におやつを食べていたり……ふ、ふふ……おっと、失礼しました」
「"そ、そうなんだ"」
「……仕事の書類については、先生の机の上にたくさん置いておきました。気が向いたらお読みください。必要な時には、またご連絡いたします」
◇
「近いうちにぜひ、トリニティ総合学園に立ち寄ってください。先生」
「ゲヘナ学園にいらっしゃった時は、ぜひ訪ねてください」
「ミレニアムサイエンススクールもよろしくお願いします! 先生、ではまた!」
「"みんなお疲れ様。またね"」
シャーレビルまで連れてきてくれた生徒たちに別れの挨拶をして、先生はシャーレの部室まで戻ってきた。先程までは生徒たちがたくさんいて騒がしかったのに、急に一人になって、先生は少し寂しさを感じた。
『きこえますか……アロナです……先生の心に直接語りかけています……』
「"!? アロナ!?"」
『私の……声は……他の生徒さんたちには聞こえません……私を……見ることもできません……。でも……先生になら……声を届けることができます……』
シッテムの箱を見ると、アロナが頭に手を当てつつ、目をつぶりながら何かテレパシーでも送っているかのような様子で喋っていた。
『私の……ことは……他の生徒さんには……秘密にしておきましょう……。先生が……一人で会話する……変な人に……なっちゃいますからね……』
「"他の人がいるときは、なるべく話しかけないようにするね"」
『……シッテムの箱は……肌身離さず……持っていてくださいね……。無敵のアロナバリアが……先生を守ります……。他にも……いろいろな機能があります……アロナにおまかせください……』
「"頼りにしてるよ"」
シャーレに一人きりになったかと思ったが、アロナとはこちらの世界でも話すことができるようだ。ひとりじゃない。AIだけれど、先生は心強い相棒が出来たように思った。
『この喋り方まどろっこしいですね、やめます。お疲れ様でした、先生』
「"……普通に喋れるんじゃないか!!"」
私もそろそろ投稿すべきと思ったので初投稿です。
・手が13本
言わずと知れた13盾。うまく装備を集めればダメージ無効化率を100%にできる。よって無敵!