もしもアロナがエロナだったら   作:ゴールドハーブ

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汝、ゲームを愛せよ

 晴れて正式にミレニアムサイエンススクールの生徒となったアリスの回復は早かった。

 

「よしっ! あとはG.Bibleを見て、ゲームを作るだけだね! ……あれ、このフォルダーなんだろう?」

 

 ゲームガールズアドバンスSPに保存されているデータをモモイが見ると、<G.Bible.exe>というファイルの他に、<Key>というフォルダーも存在していた。

 

「……ケイ?」

「キーでしょ! お姉ちゃんは本当に高校受験合格したの!?」

「も、もちろん! 私のエイゴを見せてあげる!」

「エイゴはいいから、G.Bibleを見せて」

「ぐぬぬ……みんな、準備はいい? G.Bible、起動!」

 

 全員が注目する中、G.Bibleは起動された。

 

 

 

:やあ (´・ω・`)

:ようこそ、G.Bibleへ。

:このテキストはサービスだから、まず読んで落ち着いて欲しい。

 

:最高のゲームを作る秘訣、その秘密の方法。

:結論から言うと、それは「ゲームを愛すること」。

:これこそが唯一の真理。ゲームを愛しなさい。

 

:うん、「これだけ」なんだ。済まない。

:開けて悔しき玉手箱って言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

 

:でも、このファイルを見たとき、君はきっと言葉では言い表せない

:「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。

:殺伐としたキヴォトスで、そういう気持ちを忘れないで欲しい、

:そしてどうか、心を揺さぶられるような良いゲームを作って欲しい。

:そう思ってこのG.Bibleを作ったんだ。

 

:汝、ゲームを愛せよ。

:じゃあ、ゲームを作ろうか。

 

 

 

「終わったんだけど……え……?」

「これが……神ゲーの作り方なの……?」

「……ただの精神論……っていうか釣りじゃ……」

「悪質な釣りにも程があるよ! しかも開き直ってるし! 何が『そういう気持ちを忘れないで欲しい』だよ!!!」

『廃棄データにされるのも納得の内容ですね……ぷっ』

 

 ゲーム開発部が期待するようなテクニックや秘訣などは何もなく、G.Bibleはただ「ゲームを愛しなさい」と言うだけ。それはある意味では合ってはいるが、しかし今の状況において、何の役にも立たないアドバイスであった。

 

「ううっ……こんなんじゃ……こんなんじゃまた、ネットで叩かれて終わりじゃん!」

「……これが結末。結局はこんなエンディングにしかたどり着けないんだね」

「世界の終焉……全ては虚無へと還り……」

『なんだか私も心が痛くなってきました……』

 

 なぜ彼女たちがG.Bibleを求めたのか。それは、元をたどればテイルズ・サガ・クロニクルが原因であった。ユズがプロトタイプを作成、それに同調したモモイとミドリによって完成されたTSCは、あまりに盛大に叩かれすぎてしまったのだ。インターネットの悪意によってユズは引きこもり、ユウカに促されてもなかなか新作を出すことができなくなってしまった。だからG.Bibleに縋ったのだ、みんなが楽しんでくれるゲームが作れると信じて。

 

「あ、あの……」

「ごめんね、アリス。私たちの部活はもう……廃部みたい」

「モモイ! そんなこと言わないでください!」

「私たちだけじゃ、みんなに認めてもらえるようなゲームは作れないの……」

「ミドリ! 諦めちゃダメです!」

「ひぃ……お、お願い、叩かないで……」

「ユズ! ここに叩く人はいません!」

 

 G.Bibleは役に立たない。その事実を知って、ゲーム開発部はひどい無力感に襲われた。重たい空気が辺りに漂っている。しかし希望はまだ失われてはいない、と先生は感じた。

 

「"創作って難しいよね。すごく気合を入れて作ったものが全然受けなかったり、何も考えずに作ったものが妙に受けたり"」

「……」

「"みんな、流行りのものを見て好き勝手言うけど……何が高評価を貰えるのかなんて、本当のところはよく分かってないんだ"」

 

 先生が見たゲーム開発部は、いつだって他人からの評価を気にしていた。テイルズ・サガ・クロニクルは、あんなにも自由だったのに。

 

「"自分のセンスを否定されるのは辛いね。でも……結局は自分自身のセンスを信じるしかない。……信じて、作ろう。きっと楽しんでくれる人はいるはずだよ。ね、アリス"」

「……アリスは、テイルズ・サガ・クロニクルを面白いと思います。アリスにとって初めてプレイしたゲームであり、それはもう、たくさん苦しめられましたが……神ゲーをたくさんプレイした今となっても、面白いと思うのです。仲間たちとともに世界を旅する楽しさ。もっとこの世界にいたいと思いながら、エンディングが近づく寂しさ。テイルズ・サガ・クロニクルはアリスに夢をくれたんです。アリスは……アリスは、テイルズ・サガ・クロニクル2が見たいです」

 

 クソゲーと言えど、本当にクソなだけではランキング1位など取れない。悪い点ばかりで隠れてしまってはいたが、ちゃんと良い点もあったのだ。

 

「……作ろう」

「ユズちゃん……?」

「ネットの反応は、こわいけど……でも、初心を思い出したの。わたしがゲームを作ったのは、みんなに面白いって言ってもらいたかったから。完成させよう。作りかけの、テイルズ・サガ・クロニクル2を……!」

「そう……だね。せっかく途中まで作ったんだもん。エターナルの海になんて、沈めてやるもんか!」

 

 ミレニアムプライスまで、あと1週間。ゲーム開発部はテイルズ・サガ・クロニクル2の制作を再開した。

 

『私からも、シッテムの箱バフをあげましょう!』

 

 アロナは知者の加護を詠唱した。ゲーム開発部の思考は冴え渡った。

 

「なんかみなぎってきたああああ!!!」

「スチルが頭の中に浮かんで……見えるっ……!」

「頭が冴える……すごい、これなら十分間に合う」

「アリスの思考も加速しています。これは……?」

「"シッテムの箱バフだって"」

「これがバフ……! 先生は魔法使いだったのですね!」

「"いや、私じゃないんだけどね……"」

 

 そう言いつつ、もしかしてバフ要員として必要なのかと思う先生。テイルズ・サガ・クロニクル2が完成するまで、先生はシャーレに帰れない予感がした。

 

 

「完成ですか?」

「テストプレイはもっとやりたいけど……見つけたバグは全部直したし、残り時間的にもこれで完成かな」

「あとはアップロードしてミレニアムプライスに参加するだけだね、お姉ちゃん!」

「任せて!」

 

:ミレニアムプライスへの参加受付が完了しました。

 

「終わったぁ~~」

「"お疲れさま"」

 

 ゲーム開発部は、ついにテイルズ・サガ・クロニクル2を完成させた。ミレニアムプライスの参加と同時に押し寄せる疲労感。達成感よりも、間に合ったという安堵感の方が大きかった。

 

「あとは3日後の発表を待つだけ、だね。いい結果が出ますように」

「徹夜続きだったし、しっかり休んだほうがいいかも。まだ目は冴えてるけど……」

「ユズ、寝る前にネットにもアップしようよ。ミレニアムプライスだけじゃもったいないって!」

「…………うん。そう、だね。ちょっと……いや、結構こわいけど。遊んでくれる人がいてこそ、だもんね」

 

 ゲーム開発部はテイルズ・サガ・クロニクル2をネット上に公開。有名なポータルサイトも反応し、程なくして掲示板にスレが立った。

 

 

 

テイルズ・サガ・クロニクル2が出たってよ

 

:まさかの続編

:何故作った

:ちょうど切らしてた

:【急募】人柱

:ゴミ箱を用意しないと

:TSCは慣れてくると案外面白いんだよな

:プレイしてる人の阿鼻叫喚が?

:本編も面白いぞ

:そうかな……そうかも……

:頭ゲーム開発部かな

:わしらには救えぬものじゃ

 

 

 

「好き勝手言っちゃって……!」

「まだプレイしてない人のコメントしかないから、しょうがないよ」

「……緊張する……けど、プレイには結構時間かかるし、休んで待とう」

「アリスは見ています」

 

 

:意外とちゃんと遊べるな

:相変わらずブッ飛んだシナリオ

:まだ途中だけど続きが気になる

:ほんとう?

:もしかして:面白い

:騙されんぞ

:今日は眠れないな

 

 

 そして訪れたミレニアムプライス当日――

 

「私たちが、特別賞!?」

「うそ……夢じゃない、よね?」

「……本当……? 本当に、特別賞をもらえたの……?」

「アリスも確認しました。間違いありません」

「"おめでとう!"」

『おめでとうございます!』

 

 テイルズ・サガ・クロニクル2は特別賞を受賞。ミレニアムプライスに出品された作品の中ではかなり異色の作品であり、昔を思い起こさせるその作風がとても審査員に刺さったらしい。

 インターネット上でも反応は上々。拒否反応を示す者もいるものの、全体的な評判は悪くなく、楽しんでプレイできたという声も多かった。

 

「おめでとう! あなたたち、やったわね!」

「ユウカ! 冷酷な算術使い! 私たちやったよ!」

「ちょっと、どさくさに紛れて何言ってるのよ!」

 

 受賞に沸き立つゲーム開発部。部としての成果は十分すぎるほど。

 かくして、ゲーム開発部の廃部は回避された。

 

 クエストを達成した!

 ……その一方で、モモイのゲームガールズアドバンスSPに保存されている<Key>については忘れ去られ、そのまま放置されたのであった。

 




作ったものをボロクソに言われたら、次を出すのが怖くなるよね。
なんだかそんな話になりました。
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