「"補習授業部?"」
「はい。落第の危機に陥っている生徒たちを救うために、先生にはその顧問をしていただきたいのです」
トリニティ総合学園、その生徒会であるティーパーティーに呼ばれた先生。トリニティには3人の生徒会長がいて、その生徒会長たちが持ち回りでホストを務めている。現在のホストである
「"そういうことなら、喜んで"」
「やった! ね、きっと断らないって言ったでしょ、ナギちゃん」
「はい。ありがとうございます、先生」
◇
『トリニティが、単に補習授業のためだけに先生を呼ぶでしょうか』
何だか見覚えのある補習授業部の部員に会いに行く途中。先生がナギサから受け取った名簿を眺めていると、アロナがそんなことを言い出した。
「"……何かあるの?"」
『あのゲヘナですら、シャーレというものに興味津々だったんです。トリニティは派閥争いなども激しいと聞きます。少し注意しておいたほうがいいと思います』
「"それでも、落第の危機にある生徒を指導してほしいっていうお願いは聞いてあげたいんだ"」
『……そうですよね』
先生ならそう言いますよね、と思うアロナ。アロナは何かあったら対応すればいいか、と楽観的に構えた。
『しかし綺麗な噴水ですね。飲んじゃダメですよ』
「"飲まないよ!"」
◇
補習授業部のメンバーは次の通り。
そして部長の
「私たちの目標は、今度行われる特別学力試験で『全員同時に合格する』ことです。みなさん、頑張りましょう! 特別学力試験は3回あって、1回でも全員同時に合格できれば補習授業は終了とのことです!」
毎日放課後に補習授業を行い、試験に向けて勉強した補習授業部であったが、第1次特別学力試験で合格点を取れたのはヒフミだけ。そして、1次試験で不合格だった場合には合宿をすることに決まっていた。
とまあ、そういうわけで、先生はトリニティに長めの出張をすることになったのだが……。
◇
合宿が決定した日の夜。先生は不思議な夢を見た。夢の中で、特徴的な金色の狐耳を持つ
近々締結される予定のエデン条約について。セイアは、それは正しくトリニティとゲヘナの間の平和条約であると語った。ただし連邦生徒会長の失踪により意味を失ってしまったとも。エデンという名にどんな意味を込めていたのかは分からないと言いつつも、セイアは皮肉を込めて言う。
「まあ、連邦生徒会長のいつもの悪趣味だろうね」
超人と言われながらも、意外と悪口を言われている連邦生徒会長。しかしその時、先生の夢に乱入する者がいた。
「先生! 遊びに来ました……よ?」
「……え?」
「……え?」
それは突然の、夢の中だからこそ許された出会い。
「君は……?」
「……あ、あれ? どうしてここに……!?」
先生が眠っているとき、夢には度々アロナが現れていた。初めはただの夢だと思っていたのだが、それを起きている時に話してみると、実は本人であるらしい。これもアロナの不思議な一面であった。
今日もアロナは先生の夢に遊びに来ただけ。そこにセイアがいるとは夢にも思っていない。一方のセイアは、アロナが先生に会いに来たような様子を見て、アロナも夢を移動することができるのだと思った。
「……私は百合園セイアという」
「せ、セイアさんですね。私はアロナって言います!」
「君も、夢に関する能力を持っているのかい? どこの学園の所属かは分からないが……私は、故有って隠れ潜んでいる身でね。ここで出会ったことを口外しないで頂きたいのだが」
「は、はい! もちろんです! 私は先生の持っている端末のAIですから、先生としか喋りませんよ!」
「AI? どうしてAIに夢に現れる能力があるというのだ。意味の分からない冗談はやめたまえ」
「うぐぅ……」
先生は常々疑問だった。自分はAIであると言い張りながらも、どういう仕組みか現実のいちごミルクを受け取り、そのお返しをくれる。なんか夢にも出てくる。中の人がいても驚かない。サポート自体はとても優秀なので、あまり深くは突っ込んでこなかったのだが……やっぱり気になるのだった。
「"アロナって、本当にAIなの?"」
「先生までー! 『アロナ』はAIですよ!!」
「"……だってさ"」
「……まあ、口外しないでくれるのであれば、それでいいとも」
あまり自身の詳細は語りたくないらしい。今は他に大事な話があるため、セイアは深く追求しなかった。
「しかし、私以外にも夢に関する能力を持つ者がいるとはね。私自身、ふわふわとして掴みどころのないこの不可思議な能力の詳細については、依然として分かってはいないのだが。
……とはいえ。驚きはしたが、この出会いも、これから始まる話には何ら影響を及ぼさないような、些細な出来事の一つなのだろうね。もし何か、それが蝶の羽ばたきのお話のように大きな変化をもたらすというのであれば、きっと私の能力はそれを見せてくるのだから」
「こ、この迂遠な言い回し……先生、トリニティです!」
「……。いかにも、私はトリニティ総合学園の所属だが」
セイアは少しムッとしたような顔をしている。これから真面目な話をしようとしたのに、茶化されて不愉快といった様子だ。先生はこれを見て、ナギサやミカがなかなか本題に入らなかったことを思い返していた。
セイアは気を取り直して言う。
「エデン条約については話したね。今ここで隠す意味もあまりないので言うのだけれども、私は夢を介して未来の光景を垣間見るような……いわゆる『予知夢』を見ることができてね」
「"予知夢!?"」
「これからトリニティで起こることは、先生のような者には似つかわしくない話なのかもしれない。絢爛できらびやかな雰囲気とは裏腹に、他人を疑い、友人すら疑い。疑心暗鬼に陥り、一見信じているようでも信じきれず。後戻りすることもできず、そうして、その結果として、残酷な結末へと向かっていく。そんな悲しいお話だ。……だから、警告をと思ってね」
これからトリニティで起こる動乱。そしてそこにあった先生の姿を、セイアは見た。
「予知夢を見る能力なのか、他人の夢に現れる能力なのか。その辺はっきりしてほしいですよね」
「……。それは……私にもよく分からないとも。そこが誰かの夢の中なのか、未来の光景なのか、それとも現実の光景なのか。それは胡蝶の夢なのだろうか。あまり制御が効かず、ふらふらと彷徨っているようなものだ」
それはあまりにも辛い光景で、だから警告をと思ったのに、その渾身の警告をアロナにスルーされて。セイアはムッとした感情を抑えつつ答えた。
「というかやっぱり何かあるじゃないですか。ああもう、これだからトリニティは。補習授業部の顧問になってほしいなんて言って先生を呼んで、いったい何をさせようとしてるんです?」
「先生がトリニティに来て、補習授業部の顧問に……そうか、今の時間はその辺りなのか」
「"今の時間は、って……"」
「私の体は現在、意識不明だ。戻り方も分からない。私の意識はずっと夢の中だ」
セイアちゃんが連邦生徒会長は悪趣味なんて言うから、こんな小説が……。
・噴水
幸運な出来事を求めてガブ飲みされることもよくある噴水。
何か対策をしておかないと、お腹を空かせたペットが水を飲んで、いつの間にかいなくなっていたりする。