もしもアロナがエロナだったら   作:ゴールドハーブ

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アリウスの教え

 合宿2日目、事実上の初日。昨日は合宿所の大掃除や水遊びやらでリフレッシュした補習授業部は、いよいよ勉強を始めることになった。

 ヒフミは部長としてみんなのやる気を出すため、模擬試験で良い成績が出せたらモモフレンズのグッズをプレゼントすることを発表。半分は布教なのではないかと先生は思った。

 

『シッテムの箱バフは……まだ早いでしょうか?』

「"かけてあげて"」

『先生が言うなら……かけますね』

 

 アロナは知者の加護を詠唱した。補習授業部の頭は冴え渡った。

 退学がかかっている状況である。それくらいの手助けはあってもいいだろうと、先生はアロナにお願いした。

 

「あの……先生? なんだか妙に頭が冴えるのですが……」

「"シッテムの箱による支援だよ。私もかけてもらうんだけど、これすごいよね"」

「頭が冴える支援……?」

『かたつむりでもやればできる!』

 

 ハナコは訝しんだ。

 

 

 訪問者、聖園ミカ。トリニティの生徒会長の一人である彼女は、補習授業部の様子を見にやってきた。水の入ったプールを眺めながら、先生と二人きりで内緒話をするつもりなのだが、そこで聞き耳を立てているアロナには気づくはずもなかった。

 ミカは語った。ナギサが探している裏切り者はアズサであり、アズサはアリウス分校の出身であり、自分ははるか昔にトリニティから追放されたアリウスと和解したかったのだと。そのための和解の象徴がアズサであり、ミカ自身が転校の手続きをしたのだと。

 

「セイアちゃんはね、ヘイローを壊されたの」

「"……"」

 

 ミカは言わなかったが、セイアの話によればそのアリウス分校が真の犯人。アズサが裏切り者という見解は同じなのに、そしてアリウス分校を知っていることは同じなのに、ミカの話からはその情報だけがぽっかりと抜けていた。

 

 

 そして夜、先生の部屋にはヒフミとハナコが訪れていた。

 ヒフミもナギサから「裏切り者を探せ」と言われていて、その相談に来たのだが。結局、退学の件も含め、ハナコにも共有されることとなった。

 

「ごめんなさい。退学になるなんて知らなかった……なんて言っても、許されるものではありませんね。せめて、これからはちゃんと試験を受けることにします」

「"ありがとう、ハナコ"」

 

 ハナコは個人的な理由により、わざと赤点を取っていたことを打ち明けた。そして、自分たちの置かれた状況からナギサが補習授業部を企んだことに気がつくなど、実際は本当に優秀な生徒のようであった。

 

「うふふ♡ 先生のアレは、とーってもすごくて……それも、みんな一緒になんて。私、初めての経験でした♡」

「"シッテムの箱の支援のことだよね!?"」

「あはは……」

「さすがは連邦生徒会長が呼んだ大人ですねぇ。聞いたことがあります。連邦生徒会長に指揮された者は、まるで魔法のように強くなるのだとか。今回のこれも、魔法と言っても過言ではないような支援です。みんなで頑張ったら、きっとすぐに試験なんて突破できちゃいますよ」

「"うん。本当に、魔法みたいだよね"」

『し、シッテムの箱の支援ですよー』

 

 

「Vanitas vanitatum, et omnia vanitas. 全ては虚しい。アリウス分校の教えだそうだ」

「学校の標語としてどうなんですかね。あまり適切ではないように思いますが」

「"……。アズサがよく言っているけど……"」

「不思議ではないかい? 私のヘイローを狙ったアリウスの者が、何故かトリニティに所属しているというのは」

「すみませんトリニティの闇に私たちを巻き込むのをやめてもらってもいいでしょうか」

「今更何を言っているのだね。君たちももう気づいているんじゃないかい。こんなことができるのは、かなりの権力を持つものだけ。そう……ミカだよ」

「"それは……"」

 

 なんとなく察してはいた先生。アズサを転校させたのがミカとなれば、当然アリウスとの繋がりもあると考えるのが自然だった。

 

「……確かに、ミカさんは自分が転校させたと言っていました。和解したいとかどうとかで」

「そうか……。以前にも、ミカはアリウスと和解したいと言い出したことがある。私はその意図が分からず突っぱねてしまったのだが……」

「他人の言葉を軽視して失敗してしまう……よくあることですよね。誰しも、自分の常識の中に生きているのですから」

「……君も、経験があるのかい」

「うっ……そ、それはもう……」

 

 アロナも失敗した経験があるという。たまに変なことを言い出すアロナだけれど、先生が止めれば聞いてくれる。先生に思い当たる出来事はなかった。

 

「と、ところで和解を目指したのに、どうして暗殺者を送られているんですか?」

「まあ、利用されたのだろうね。難しい話は嫌いで、思い込みや衝動で行動して場を引っ掻き回す。困ったものだ」

 

 しょうがないなあといった雰囲気のセイア。暗殺者を送られているというのに、ミカへの反感や敵愾心などは無いように、先生からは見えた。

 

「君たちは補習授業部を合格させることに全力を尽くしてくれたまえ。それで、悪くはない及第点のストーリーが得られるだろう。少々、後味が悪い話ではあるけれども」

「予言ですか……」

「"ミカは……どうなるの?"」

「……捕まって、牢屋に入れられる。その先は……あまり見えてはいないが、牢のなかで自適に過ごしているようでもあったよ。空元気かもしれないが」

「"……"」

「不服かな? けれども、私には夢で見た以上の解決法が思い浮かばないんだ。ミカはもう既に事を起こしてしまった後だ。何かしらの責任は取らねばならない。それとも、内々でごまかして無かったことにするのが君のお好みかい? だが、未来を良くしようとして、悪い方向に転がるのは避けねばならない。いくら未来が見えるといっても、全てを見通せるわけではないのだから」

 

 未来が見えたとして、それを変えるような行動をしたほうがいいのか、変えないほうがいいのか。変えたとして、それが変えない未来よりも良いという保証はないという、予知能力者特有の悩み。

 先生としては、ただ単にミカを罰して終わりということにはしたくなかった。

 

「特に今回はナギサのヘイローが狙われている。まかり間違ってもそうなってはならないんだ。ミカについては、私から見た状況の説明や、特に私自身がミカを許していること。それらを私から証言すれば、そこまで悪い処分にはなるまいよ。いろいろあるとはいえ、結局、身内には甘いのだ。……まあ、証言できればの話なのだがね」

「……未来が分かるというのも、難しいですよね」

「そうだ。未来が見えるというのも、決して良いことばかりではない」

 

 アロナに予知能力はない。しかし似たような悩みを持つアロナとしては、大いに共感できる話ではあった。

 先生のサポートとはいえ、どこまで手出しをしていいものか。色々なことができるけれども、何でもかんでもアロナの力で解決するというのは良いことではないと考えていた。しかし見ているだけなのもまた違う。

 

「そもそも、このキヴォトスでヘイローが狙われるとかどういうことなんですかね」

「私も驚いたが……アリウスはとんでもない兵器を持ち出してきたんだ。『ヘイローを破壊する爆弾』というものをね」

「え……ヘイローを破壊って……もしかして、当たったら即死ですか?」

「具体的な効果については分からないが……話しぶりからすれば、恐らくね。ヘイローを壊すことに特化しているようだ」

「ええええ」

「"……どうしてそんなものを"」

 

 死が遠いからこそ、爆弾や銃がありふれている。みんな、相手が死ぬと思って使っているわけではないし、自分が死ぬとも思っていない。当たれば一発で死んでしまう爆弾なんて、使われれば大惨事になってしまうのは間違いなかった。

 

「アリウスはどうやら、そういった研究をしているらしい」

「……いったい何のために? 連邦生徒会の目からも隠れて……」

「さてね。アリウスには謎が多い。アリウスの生徒でなければ自治区への行き方すら分からないというからね」

「うーん……」

 

 アロナは少し考えて言った。

 

「……なんとも、妙な感じですね。ミカさんは言っていました。何かを学ぶことがない生徒を、生徒と呼べるのかと。実際アズサさんの学習進度からしても、あまり教育を受けてこなかった様子が見て取れます。……きちんとした教育も受けていないのに、『ヘイローを破壊する爆弾』を開発することができるでしょうか?」

「それは……言われてみれば、確かに……」

「簡単に言いますけど、ヘイローの守りを突破して即死させるのは、全く簡単ではありませんよ。……でもまあ、古代のアーティファクトなんかをそのまま使った可能性もありますか」

「"……まさか、ね"」

 

 それはちょっとした違和感ではあったが、こんな物騒な兵器がどこからもたらされたのか。先生は、アビドスで会った妙な黒服のような者の関与を考えてしまうのだった。

 




★ヘイローを破壊する爆弾
ヘイローを破壊するという記号を与えられた爆弾。
その具体的な作用については明示されない。
なぜなら「記号」だからである。
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