もしもアロナがエロナだったら   作:ゴールドハーブ

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儚き裏切り者の名は

 予言の日はまだ先だが、予言があっても先生はナギサやミカに連絡を取ることを試みた。けれども、会うどころか返事さえ帰ってこない。

 

「ヒフミちゃんも来るなんて、奇遇ですね」

「あはは……」

 

 以前と同じく、ヒフミとハナコは夜に先生の部屋を訪れていた。退学の件も全員に共有され、なんとか気を取り直して勉強を続けているものの、2次試験での妨害工作をされたという事実はみんなの心に重くのしかかっている。

 

「ナギサ様は、本当に私たちを退学にするつもりなんでしょうか……」

「"実は全然連絡が取れなくてね。でも、きっと大丈夫だから"」

「先生に会うと揺らいでしまいそうで会えないのでしょう。関係ない人は巻き込みたくなくとも、かといって他にいい方法も思いつかない。木に登って降りられなくなってしまったみたいな、おバカな猫ちゃんですねぇ」

「ね、猫ちゃんですか……」

『おうちしってう?』

「"ハナコは、セイアと友達なんだよね?"」

「……ええ。ずっと会えていないのですが……どうしてそれを?」

 

 先生はセイアのことを話した。夢で会い、未来のことについての会議を開いていたことを。

 

「なるほど、それで……。私たちのことを気にかけてくれていたことを喜べばいいのか、ずっと会えなかったことを怒ればいいのか。複雑な心境ですが……でも、ちょっとだけ安心しました」

「"……信じてくれるの?"」

「そう考えると腑に落ちる、という感じです。ナギサさんに連絡が取れないのに、それがあらかじめ分かっていたみたいな雰囲気ですし。それに、今さら私とセイアちゃんのことを『友達』と表現する人はトリニティにはいなさそうですから。しかし、どうして先生の所に……」

「"他の人は、夢を覚えていられないんだって"」

「そういうものですか……」

 

 先生の言葉を信じるハナコ。信じないナギサ。セイアの言う通り、対照的な二人だった。

 

「ティーパーティーでは、未だにセイアちゃんがヘイローを壊されたことになっているようですね。しかし、先生が言う通り、私の方でもセイアちゃんが匿われているという情報は掴んでいます。……詳しい場所までは分からないのですが」

「ええ……? セイア様、そんなことになっていたんですか……?」

 

 セイアの件に関して、ヒフミは初耳だった。それで、補習授業部に入れられた理由が分かったような、分からないような。

 先生はセイアから教えられた出来事をどう話すか悩ましかった。

 

「うふふっ。一週間後には、どんな事件が起こるのでしょうか」

「"あー、ええっと……"」

「未来の情報は注意深く扱わなければならない。……そんなことをセイアちゃんに言われた顔をしていますね?」

「"そ、そんなところ……"」

『よく知ってますねー』

 

 セイアから言われた注意事項も、やはりハナコは聞いたことがあるようで。

 少し考え、ハナコなら大丈夫かと、セイアからの情報を基にした作戦会議が始まった。

 

◇

 

 セイアに予言された、アリウスの襲撃が起こる日になった。予言通りにトリニティには戒厳令が出され、正義実現委員会によって補習授業部の試験会場は誰も入れないようになることが伝えられた。

 

「すまない。私のせいだ」

 

 トリニティの裏切り者は自分であると告白するアズサ。自分はアリウスの出身であり、ナギサのヘイローを破壊するために送り込まれたこと。アリウスが、トリニティに戒厳令が出ているこの機会を狙ってナギサの襲撃を計画していること。しかし自分はナギサを守りたいこと。

 アズサの告白を、ハナコは静かに聞いていた。

 

「……アズサちゃん。補習授業部は……楽しかったですよね。とっても居心地がいい場所で。

 実はその補習授業部を、先生の他にもこっそり見守ってくれていた人がいたみたいなんです。その人により、今日の出来事は予見されていた……と言ったら、信じますか?」

「……え? ……まさか、予言……?」

『私もいます、見ています』

「……ごめんなさい。ちょっと前からですが、私たちは知っていました。知っていて、一緒にいたんです」

「私もです、アズサちゃん。トリニティの危機を乗り越えるには、アズサちゃんの力が必要です。一緒にナギサ様をお守りしましょう!」

「私は聞いてないんだけど」

「コハルちゃんは、ぐっすりお休み中でしたから……」

 

 コハル以外はみんな知っていた。コハルには言うタイミングがなかったのと、勉強に集中してもらいたいという気持ちがあったため、アズサのことを積極的に教えようとはならなかった。

 

「え、えっと、よく分かんないけど、アズサは裏切り者なんかじゃないわ!」

「うふふっ。作戦はもう立ててあります。ここで終わらせるわけにはいかない、抵抗を止めるべきじゃない……そうですよね?」

「……うん。たとえ全てが虚しいことだとしても……今日最善を尽くさない理由にはならない」

 

 それは予期された襲撃。準備は万全だった。

 

「本当に用意がいいな……!?」

「あはは……先生にもお手伝い頂いて準備しておきました!」

「"それじゃあ、補習授業部、出撃!"」

 

◇

 

「おじゃまします……」

「……ヒフミさん!? それに、補習授業部の皆さん、どうしてここに……」

「うふふっ。何が何だか分からない、といった顔をしていますね」

「"助けに来たよ"」

「助け……? それは、どういう……。私の目には襲撃に来たようにしか見えませんが」

 

 ハナコの案内で、ナギサのセーフハウスに来た補習授業部。少ない護衛を蹴散らして侵入する様は、確かに傍から見ても襲撃にしか見えないよなと先生は思った。

 

「ねえ、ナギサさん。ここまでする必要、ありましたか? ヒフミちゃんやコハルちゃんまで巻き込んで。全員まとめて退学なんて、あんまりではないでしょうか」

「……大義のためです。そのお二方にも、怪しい行動をしているという報告はありましたから。それに……たとえそれが間違いであったとしても、もう終わるしかなかったアビドスにさえ手を差し伸べる大人がいるのであれば……悪いようにはなさらないでしょう」

「どうしてそこだけ信じられているのですか」

 

 ヒフミも、コハルも、アズサも、ハナコも。疑われたのはその行動に原因があった。しかし、先生の行動もまた、報告書を通じて見られていたのである。誰もアビドスには手を差し伸べなかったのに、先生だけは違ったのだ。

 

「え? 怪しい行動って……」

「わ、私は怪しい行動なんてしてないわよ!」

「……あまり時間もない。拘束させてもらおう」

「色々言いたいことはありますが、場所を移しましょう。ナギサさん。これから、真の裏切り者が明らかになりますから、抵抗せずについてきてくださいね」

「……それを、信じろとでも?」

「どちらでも良いですよ。いずれにしろ連れて行くだけなので。ただ、大人しくしてくれたほうが手間が省けるというだけです」

 

 ちなみに、アロナのサンドバッグ案は先生によって却下された。

 

◇

 

「ナギちゃんが襲われたっていうから来てみれば、あなたたちだったなんてね。まいっか、予定が早まっただけだし」

 

 ナギサが何者かに襲撃されたという情報を聞いてやってきたのは。

 予言通り、アリウスの兵を引き連れた聖園ミカだった。

 

「"ミカ……"」

「黒幕登場☆ ってね。私が本当のトリニティの裏切り者。ナギちゃんもおバカだよね、補習授業部なんて作って、私には全然気づかないなんてさ」

 

 アリウスと手を組み、ゲヘナを倒すのだと豪語するミカ。ゲヘナが心の底から嫌いだから、エデン条約が邪魔なのだと。

 連日セイアと会って話を聞いていた先生には、それは本当にうわべだけの言葉に聞こえていた。

 

「けれど、だめだね。こんなろくに教育も受けてないような、やっていいことと悪いことの区別もつかないようなおバカさんたちに任せておいたらさ。信じられる? 普通、ヘイローを破壊するなんて思わないじゃんね」

「"セイアを襲わせたのは……"」

「そう、私が居場所を教えてあげたの。けれどさ、私はヘイローを破壊しろなんて言ってない。……本当にさ、バカじゃないのかな。なんで? 教育を受けてないって、こういうことなのかな? 『先生』なら、分かる? ねえ?」

「"……"」

『ミカさん……』

 

 先生は悲しかった。ミカの言葉、ミカの言う「バカじゃないのかな」が、自分自身に言っているように聞こえて。そして、ミカにこんなことをさせてしまったことが悔しかった。

 

「何、その目……どうして、私をそんな、憐れむような目で見るの……! ……っ、まあいいや、時間もないしナギちゃんはどこ?」

「……ミカさん」

「あ、ナギちゃんそこにいたんだ。話は聞いてたかな、それじゃあついてきてもらえる?」

「正義実現委員会にはもう、私の方から連絡しました。同じティーパーティーからの命令とはいえ、ホストは私です。どちらの命令が優先されるかは……分かりますね?」

「あー……それはちょっとまずいかなぁ。でも、とっととあなたたちを蹴散らしてナギちゃんを連れてけば問題ないよね?」

 

 そう言って戦闘態勢に入るミカ。だが、その応援は即座にやってきた。

 

「本当にクーデターが起こっているとは。シスターフッドの慣習には反しますが、介入させていただきます」

「きひひひひっ! 敵は聖園ミカとアリウスだ! 制圧しろぉ!」

「シスターフッド!? それにもう正義実現委員会が来たの!?」

『……やっぱり予知ってズルでは』

 

 あまりにも早い応援。あらかじめ予知を利用して、何かあったらすぐに動けるように準備しておいてほしいという根回しがされていた。正義実現委員会にはナギサから直接命令が下され、活動を阻む戒厳令も意味をなさない。もはやミカに勝ち目はなかった。

 セイアの予知の無法さ、それを改めて目の当たりにして。アロナは、セイアは本当に大丈夫なのだろうかと思うのであった。

 




感想ありがとう。エデン3章の分ができたらまた。

・儚き
ミカ素材の装備の接頭語。
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