「それでは、アビドス対策委員会の定例会議を始めます。議題は、学校の負債をどう返済するか。ご意見のある方は、挙手をお願いします」
先生は対策委員会の定例会議にお邪魔していた。やはり9億もの借金は、対策委員会にとってとても頭の痛い問題のようである。議長を務めるアヤネは非常に真面目に会議を執り行おうとしていたのだが、一方で他のメンバーの反応は鈍く、そこには明らかな温度差があった。
メンバーはそれぞれ、自分が考えた借金の対策案を出していくことにした。
【対策案その1】
「『ゲルマニウム麦飯石ブレスレットであなたも一攫千金』? ……うへ~」
「セリカちゃん。それ、マルチ商法……」
「ええっ!? そんなぁ……」
【対策案その2】
「他校のスクールバスをジャックして~、転入学の書類にサインしないとバスから降りられないようにしたら~、我が校の生徒がどんどん増えてお金ががっぽがっぽ!」
「他校に怒られて終わりじゃないですか」
「……だよねー」
【対策案その3】
「銀行を襲う。簡単かつ確実、5分で1億は稼げる。覆面も準備しておいた」
「うわー、これ、シロコちゃんの手作りー?」
「犯罪はだめです! むくれてもだめ!」
【対策案その4】
「アイドルです! スクールアイドル! 廃校の危機に、アイドルになって立ち向かうんです! アニメで見ました!」
「却下!」
【対策案その5】アロナの場合
『魔法で出すのがいいと思います! 魔術師の収穫とか、収穫の魔法とか呼ばれる魔法がありまして。ちょっと大変ですが、極めれば莫大な富を得ることができます! ついでに願いも叶えよう!』
「"……"」
ろくな案がなかった。
「先生はどの案がいいと思うー?」
「"えっ? う、うーん……お金を出す魔法って本当にあるの?"」
「まほうー? おおー、あったらいいねぇ~。でも、流石にファンタジーすぎない?」
「とってもメルヘンチックですね☆」
「"うっ……そ、そうだよね"」
やっぱりそんなものはないらしい。これもアロナジョークか……と、先生は心の中でため息をついた。
「先生まで……! ……い……」
「あ」
「いい加減にしてください!!」
ふざけまくるみんなに、ついにブチギレて机をひっくり返すアヤネ。けれどもこれは、対策委員会では比較的よく見られる光景なのだった。
「ちゃんと真面目にやってください! いつもふざけてばっかり! 銀行強盗とかマルチ商法とか魔法とかそんなことばっかり言って!」
先生も含め、みんなはアヤネにめちゃくちゃ怒られてしまった。
◇
「悪かったって~、アヤネちゃーん。怒らないで、ねっ? チャーシュー食べる?」
「怒ってません。食べます」
「……はあ」
アヤネの口にチャーシューを突っ込み続ける面々を見て、セリカはため息をついた。どうしてまたここに来たんだ、ここをたまり場にでもするつもりか? 私は仕事中なんだけど……、と。しかし仕事中とはいえ、やっぱりその様子は気になってしまうのだった。
「あの……ここで一番安いメニューって、おいくらですか?」
そこに現れたのは、ゲヘナ学園の制服を着た4人の生徒だった。
「えへへ、やっと見つかったね、アルちゃん!」
「『アルちゃん』じゃなくて『社長』でしょ、ムツキ室長」
「はあ……ようやく食べられる」
話を聞いてみると、彼女たちはお金を使いすぎて、たった600円しか食事代がなくなってしまったのだという。一番安い1杯580円の柴関ラーメンを、仲良く4人で分け合って食べることにしたようだ。
『私にも、食べ物に困ってアピの実や薬草で食いつないだ時期がありました。食べられるものなら何でも食べて……懐かしいですね……』
普段は貧乏ではないのだが、仕事の都合でお金がないのだとか。どうせ食事代を残すのを忘れたんでしょと社長がからかわれていると、そこにセリカが超大盛りのラーメンを運んできた。実は、みんなお腹いっぱい食べられるようにと、話を聞いていた大将が用意してくれたのだ。優に10人前はあるラーメンを、4人は分け合いながら、ありがたく美味しく食べた。
さて、そこに居合わせたのは、借金が9億円もあってまさにお金に困っているアビドスの生徒たちである。ラーメンを分け合う姿に妙な共感を覚えたのか、彼女たちは意気投合し、とても仲良くなった。
そう、仲良くなってしまったのだ。
「いい人たちだったわね!」
「……それで、どうする? 社長」
「えっ? ……何が?」
「あいつら、アビドスだよ。私たちの次のターゲットの」
「な……なななな、何ですってーーーー!!!???」
◇
4人のゲヘナの生徒……「便利屋68」は日雇いの傭兵を引き連れ、アビドス高校を襲撃しに来ていた。
「あんたたち……! ラーメンも無料で特盛にしてもらったっていうのに……!」
「うぐぐ……先に仕事を受けちゃったんだもの! う……受けた依頼は……、確実にこなすんだから……」
「あははは! アルちゃん全然気づいてなかったのウケる~」
「アル様! 私、頑張りますから!」
「はあ……まあ、仕事だからね。公私の区別はつけさせてもらう」
『ふむ。依頼、ですか』
便利屋は「れっきとしたビジネス」で来たという。クライアントの情報は明かせないとのことだが、依頼を受けて襲撃に来たことは公言してよかったのだろうか? そのまま攻撃を開始したものの、なんともやりにくいようで……そうこうしているうちに、学校のチャイムが鳴った。
「よし、定時だ。帰ろー」
「ちょ……ちょっと待って! 帰っちゃダメ!」
「今日の日当だとここまでだけど、残業代は出るの?」
「うっ」
便利屋が金欠だったのは、傭兵を雇うのにほぼ全額使ってしまったから。ここでさらに残業代を払うお金なんてあるわけもなく、日雇いで用意した傭兵たちは撤収していった。
『時間切れですね』
「きょ、今日のところはこれくらいにしといてあげるわ!」
「あはは、アルちゃん完全に三流悪役のセリフじゃん!」
便利屋は逃げ出した。逃げ足はとても速かった。
「何だったのよあいつら……」
◇
「今月の利息788万3250円、全て現金でお支払いいただきました。来月もよろしくお願いいたします。それでは」
本日は利息の支払日である。現金輸送車を手配してわざわざアビドス高校まで取り立てに来たのは、カイザーローンというアビドス高校が借金をしている企業である。
何とか今月も乗り切ったと一息ついて。対策委員会は昨日の襲撃犯「便利屋68」について話し合うことにした。
「私たちを襲ったのは、便利屋
アヤネが調べた所によると、社長の
「その割には、なんか間の抜けた連中だったけど」
「うへ~何でうちを襲うのさあ。金目のものなんて全部売り払った後だよー?」
「依頼で来たとか言ってましたね~」
「指名手配……賞金はある?」
「いえ、そういうのはなさそうですが……」
カタカタヘルメット団の次には便利屋がやってきて。何者かがお金で戦力を集めてアビドスを襲撃させているようだ。その黒幕の意図の読めなさに、みんなは頭を悩ませた。
「最近では、『ブラックマーケット』で何度か騒ぎを起こしていたようです。また、カタカタヘルメット団の件なのですが、アジトで見つかった兵器の型番は、現在では取引されていないものでした。こちらも、手に入れるならブラックマーケットしかないと思われます」
『ブラックマーケット!』
アロナがブラックマーケットに強い反応を示したが、しかしその声色が少し弾んでいることを先生は感じ取った。
「ブラックマーケット……危険な場所ですけど、もしかしてそこに手がかりが?」
「あるかもしれません。調べてみましょう!」
・収穫の魔法
お金が降ってくる魔法。プラチナ硬貨や小さなメダルの他、極稀に願いの杖という、「願い」の権利1回分の杖も降ってくる。