銀行強盗(書類)を終えてアビドス高校まで帰ってきた対策委員会とヒフミは、頂いてきた書類を確認したのだが……しかしその内容は少し、対策委員会の予想からは外れていた。
現金輸送車の集金記録にはアビドスで788万円集金したとの記載があり、確かにアビドス高校の返済金を輸送していたようだ。だが問題はその次。カタカタヘルメット団に対して、任務補助金500万円を提供したとの記録があったのである。つまり、今までアビドス高校への襲撃を依頼していたのはカイザーローンか、もしくはその関係者ということになる。状況として意味不明であり、結局どういうことなのかはよく分からないのであった。
◇
「はあ……」
「アルちゃん、元気ないね」
便利屋68のオフィスにて。陸八魔アルは悩んでいた。
「あ、アル様! 爆弾の準備、終わりました!」
「ねえ、アルちゃん。本当にやるの? あいつらが捨てていったお金を使って……」
「……あのクライアントは、私も詳しくは知らないけど、超大物なのよ。この依頼、失敗するわけにはいかないわ」
「それなら最初から、手付金くらいもらっておけば良かったじゃん」
覆面水着団に対するアルの反応を十分に楽しんだムツキは、彼女たちがアビドスであることをアルに教えてあげたのだが、アビドスを襲撃することに対して感じていた苦々しさは増してしまったようだ。
自分たちは悪党なのだし、敵が捨てていったお金、それも元はあの闇銀行のお金なのだから、使ったって何の問題もないじゃない。そう言い聞かせても、アルの心は晴れなかった。
「……手付金はもらわない、それがうちの鉄則よ。華麗に仕事を終えてから依頼料を受け取るの」
「華麗ねぇ」
ムツキには、アルの言うハードボイルドなアウトローとやらが、いまいちよく分からなかった。
「ゲヘナに帰るのも一つの手だよ、社長」
「うーん……今更帰るのは無理なんじゃ? 風紀委員のやつらが黙っちゃいないよ?」
「風紀委員は面倒だけど……ゲヘナには問題を起こすやつらがごまんといる。私たちに構っている暇はそんなにないはず」
「……そうかな?」
ゲヘナ学園の風紀委員会。ゲヘナは自由と混沌を校風にしている学園であり、そんな学園の生徒を取り締まることができるほどの戦力を持っている。そんな風紀委員会から目をつけられているのがこの便利屋68なのだが……。
「うちの風紀委員会が時にキヴォトス最強とも言われてる理由は、風紀委員長、ヒナの存在があるからだよ。ヒナ以外は大したことない。しっかり備えておけば十分戦える。……ヒナさえいなければね」
「そんなこと考えてたの?」
「少なくとも、アビドスを相手にするよりは楽だからね」
どうやらカヨコは風紀委員会を相手にしたときの戦略を、しっかり練っていたようである。
「キヴォトス最強かあ。ねえ、風紀委員長と連邦生徒会長、どっちが強いかな?」
「それは……どうなんだろう。連邦生徒会長がヤバいって話は聞こえてくるし、実際ヤバそうなんだけれど……石ころからパンを作るとか、時間を止められるとか、眉唾な話も多くて……。絶対話に尾ひれがつきまくってるんだよね……」
「い、石ころのパンは……食べたくないかな……」
「映像で見た限りでは、意味のわからないスピードで動いてはいたけど。D.U.では大きな騒ぎが起こっても、一瞬で鎮圧されていたらしい」
「連邦生徒会長一人に? ひえー、やっぱり風紀委員長の同類じゃん」
連邦生徒会長もまた、キヴォトスの中でも非常に強い力を持つと言われる人物なのであった。
「失踪したって言うけど、変装してこっそり悪党を懲らしめてる説もあるね。本人のままだと、いろいろ角が立つからって」
「へー。どうする? アルちゃん。連邦生徒会長がいなくなったのは、こっそり悪い子を捕まえるためだったりしたら……ほら、その辺から出てきたりして」
「こ、怖いこと言わないでよ!」
「あはは、アルちゃんビビってる~」
ムツキはアルを励まそうとからかって、カヨコは便利屋のために作戦を考えて。ハルカもアルのために何かをしたかったが、しかし何をすればいいのか、何を言えばいいのか分からず、武器の整備をすることと、爆弾の確認をすることしかできなかった。
◇
便利屋の4人は柴関ラーメンでラーメンを食べていた。セリカのバイトは午後からの予定なので、今はいない。特にアルは、今は対策委員会と顔を合わせるのが気まずかった。
店主からもアビドスのお友達として認識されていて、なんだかサービスされている。それがまたアルを苦しめた。
ハルカはアルの様子が気になって仕方がなく、ラーメンの味もあまり分からなかった。
「あいつらと出会ったのもここ……こんな店がなければ……こんなに悩むことなんて……」
「……。こんな店、ないほうがいいですか?」
「……そうよ! どうして悪党がこんなところで仲良くほんわかしているのよ! ぜんっぜんハードボイルドでもアウトローでもないわ!」
「そうですか。よかった、ようやくアル様のお力になれます」
「……? ハルカちゃん?」
「…………!! ちょ――」
*チョドーン!*
「アル様! 私、やりました!」
「…………あ……え……?」
「けほ……ま、マジで? マジでやっちゃったの? あんなに優しくしてくれたラーメン屋さんを?」
「ごほっ、ごほっ……。やってしまったね……店主は?」
カヨコの制止も間に合わず。柴関ラーメンは大爆発した。他に客がいないことだけは幸いではあった。
「ぐ……じょ、嬢ちゃんたちは無事か……」
「………………あ……」
「……ひとまず避難しよう。こういうときのためのシェルターがある」
爆発の中でも大将は軽症だった。キヴォトス人は頑丈である。しかし、便利屋が店を爆破したことには気がついていなかった。そんなことをするとは、夢にも思っていなかったのだ。
……そんな大将に対して、アルは何も言うことができなかった。
◇
「………………」
「あの……」
便利屋は柴関ラーメンの跡地で立ち尽くしていた。大将は避難済みである。避難させたはいいが、いたたまれなくなって逃げてきたのだ。
「ごめんなさい……ごめんなさい! ごめんなさいアル様! わ、私……死にますっっ!!」
「まあまあ、待ちなって。確かにハルカちゃんのせいではあるんだけど」
「ううっ!」
ハルカは頭を抱えてうずくまってしまった。未だに呆然としているアルを見て、自分の間違いに気がついたようだ。死にたい死にたいと、うわごとのようにつぶやいている。
「あなたたちがやったの?」
「あ、アビドス……!」
「大将は無事です。そこの便利屋がシェルターに避難させたようですが……」
柴関ラーメンの爆発は、アビドス高校からも観測されていた。突然の事態でホシノには連絡がつかず、現場にはノノミ、シロコ、セリカ、先生のみが到着。便利屋が大将を避難させているところはアヤネのドローンで確認できていたものの、状況からして便利屋が爆破してしまったような様子であった。
「あんたたち……よくもこんなひどいことを!!」
『……本当に爆破してしまったんですか?』
「……そっ、そうよ! これでわかったでしょう、アビドス! 私がどんなに悪党かを!」
自分は悪党だからと強がるアル。それはどう見ても強がりではあったが、しかしその態度は、対策委員会の怒りを煽るだけであった。
「あんたたち、許さない。ぜーったいに許さないから……!!」
「事情聴取……の前に、お仕置きですよー!」
正に一触即発。しかし、どちらも仕掛ける直前……そこに、砲撃が着弾した!
◇
「爆発があったから来てみれば……やっぱりいたな」
「イオリ、あの方たちはどうします?」
「ん? ああ、とりあえず便利屋を捕まえるのが先だ。あいつら逃げ足だけは早いからな」
「……そうですね」
対策委員会と便利屋が睨み合う中、横から攻撃してきたのはゲヘナの風紀委員会の集団だった。率いているのは
「新手!? ちょっと、攻撃してきたんだけど!?」
「主に便利屋を狙ったもののようですが……あれは、ゲヘナの風紀委員です!」
「風紀委員が便利屋を捕まえに来たってこと? なんてタイミングで……来るならもっと早く来なさいよ! それなら柴関だって……っ!」
「セリカちゃん……」
セリカにとって、柴関ラーメンを爆破されたショックは非常に大きいものであった。バイト先である以上に、常連でお気に入りの店を潰されたのだ。なかなか、気持ちを抑えることは難しかった。
「しかし風紀委員会なら他校の公的な組織です。このまま戦ってしまえば、政治的な問題になってしまうかもしれません。……アヤネちゃん、ホシノ先輩は?」
「未だに連絡が取れません。普段なら、ここまで連絡が取れないことはないはずなのに……どうすれば……」
『政治的な問題とか、本当にめんどくさいですよねぇ』
対策委員会は迷ってしまっていた。ホシノもいない今、他校の生徒と勝手にやり合ってしまってもよいのだろうか? 普段なら、こういう時に方針をしっかり決めてくれるのがホシノであった。
「"じゃあ便利屋を、このまま風紀委員会に引き渡しちゃう?"」
「だめ。便利屋は私たちがシバく」
「……そうですね、既にアビドスに被害が出ている以上、便利屋は私たちが捕まえます! アビドスの地で、他校の生徒がこんな暴挙に及んでいいわけがありません!」
「その通りだわ! 柴関ラーメンを爆破されて、見逃すなんてありえないわ!」
そこで先生がかけてくれた一声により、対策委員会は戦う覚悟を決めた。みんな、気持ちの上では一致していたのである。
そしてその様子を見て風紀委員会側も戦闘態勢へと移行した。
「覚悟しろ!
『……え? ええっ!? 人喰い反社!? キヴォトスで人肉食を!?』
「"『規則違反者』だよね!?"」
『…………あっ。……失礼しました』
「シャーレの先生!? ちょ、ちょっと待ってください! この戦闘、行っては……」
「アビドス、こっちに接近中。発砲します!」
ついアロナにツッコミを入れてしまった先生。その声でシャーレの先生に気づいたチナツが戦闘を止めようとしたものの、既に間に合わない状況なのであった。
◇
「こんにちは、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園所属の行政官、
共通の敵ができたからか、敵同士だったのにあっさり共闘しだした対策委員会と便利屋の返り討ちにあった風紀委員たち。戦闘は中断され、そして通信を開いて出てきたのは風紀委員会のナンバー2であった。
先制攻撃をしたことを謝罪、イオリを叱りつけてみせて。しかし謝罪とは裏腹に、アコは強気に交渉を開始した。これはあくまで、ゲヘナ学園の校則違反をした生徒を捕まえに来ただけなのだと。
「やむを得なかったということで、そこの便利屋の逮捕に、ご理解とご協力をお願いできませんか?」
「そうはいきません! 便利屋の処遇は私たちが決めます!」
「困りましたね……。これほどまでに強気でいられるのは、やはり大人の方が後ろについているからでしょうか? ねえ、シャーレの先生?」
先生がその様子を見守っていると、突然アコから話しかけられた。アコとは面識がなかったはずであるが、向こうは先生のことを認識しているようである。
「あなたも、対策委員会と同じご意見ですか?」
「"うーん……そんなに悪い子たちには見えなかったけどなあ"」
「悪い子でしょ! 柴関を爆破するなんて、どう考えたって!!」
「"それはそうなんだけど……"」
『きっとすぐに元に戻りますよ』
先生にはいまいち状況が見えてこなかった。逮捕と言われても、悪意にまみれた生徒には見えなかったし、何かありそうだった事情も聞けていない。そして議論をするなら対策委員会とだろうに、どうして先生の意見を求めてくるのだろうか。もっと状況を判断できるための材料が集まるまで、先生は様子を見ることにした。
「なるほど、そういうことか。アコ、あんたの狙いはシャーレの先生だね?」
「……何のことでしょう?」
「私たちを口実にして、シャーレの先生を偵察しに来たんだ。おかしいと思ったんだ、いつも多忙な風紀委員が、私たちをこんなところまで追いかけてくる理由がない。風紀委員長のやり方とも違うし、これはアコ、あんたの独断だね」
「面白いことを言いますね、カヨコさん。あなたたちはゲヘナで指名手配されているんですよ?」
「ふふふ。そうよ、私たちは指名手配されるほどの悪……!」
「社長はちょっと黙ってて」
アコの態度から、何かに気づいたのは便利屋のカヨコであった。指名手配について、カヨコとしては異論があるようだ。
「ふん。それはあんたたちが腹いせでかけたやつでしょ。私たちよりも悪質な奴らはいくらでもいるだろうに……。だいたい、ヒナもいないこの人数だけで捕まえられると思ってるの?」
「腹いせじゃありません! あなたたちが無駄に被害を拡大させるのが悪いんでしょう!? それで逃げ足ばっかり早いんだから……!」
「どうだか」
なにやらここにも確執があるようである。便利屋は逃げ足が早く、それでなかなかシバかれないのがアコの癪に障ったのだろうとカヨコは思っている。
「そういうわけなので、この指名手配されるほどの凶悪犯を捕まえるのに協力してほしいのですが」
「おい、流石に凶悪犯は言い過ぎだって」
「"私に用があるの?"」
「……はぁ。カヨコさんに喋らせたのは失敗でしたね」
カヨコによって目的がバレたアコは、素直に事の次第を語った。きっかけはゲヘナ学園の情報部から、トリニティの生徒会「ティーパーティー」と「シャーレ」が接触した可能性があるという報告がもたらされたこと。そのシャーレという組織を調べてみれば、超法規的権限を持つとても怪しい組織であり、そこにゲヘナとは長らく因縁のある相手が接触したかもしれない。それで、トリニティにばかりシャーレを「利用」されてはたまらないと、まあ、そういうわけである。
「大切な条約の締結前ですからね。ずっとゲヘナで過ごしてくださってもいいんですよ?」
「な……先生を監禁でもするつもり!?」
「監禁だなんて人聞きの悪い。ただゆっくりと過ごしてもらうだけのことですよ、私たちから見えるところで」
「似たようなものじゃないの!」
「"私はみんなの先生だから、それはできないかなあ"」
今度は先生を巡って緊張が高まることに。一方でアロナは、その様子を大した緊張感もなく、しかし空気を読んで眺めていた。アロナには、仮に先生が捕まったとしてもなんとかできる手段があった。
「……なるほど。そういうこと」
「……え?」
そこで聞こえてきた声は……それは、この場にはいないはずの生徒の声だった。
「アコ」
「ひ、ひ、ヒナ委員長!? どど、どうしてここに……出張は……」
「もう終わった。それで? なにか言い訳はある?」
「そ、その……素行の悪い生徒たちを捕まえようと……」
「便利屋68のこと? いないみたいだけど?」
「ええっ? また逃げられた?! 相変わらず逃げ足の早い……!」
「うへ~、これはまた、どういう状況~?」
「ホシノ先輩! 遅いですよ!」
「ごめんごめん」
「小鳥遊ホシノ……未だにアビドスにいたとは」
「……ん? 私のこと知ってるの?」
そこには小鳥遊ホシノもいて、そしてヒナはホシノのことをよく知っていた。ゲヘナの情報部にいた頃に、キヴォトスの中でも特に強い力をもつ生徒として調査されたデータを見ていたのだ。戦えば必ず激闘になってしまうという確信があった。
「まあいい、ここで私たちが戦う意味はない。イオリ、チナツ。撤収」
「えっ!? 委員長、あの、便利屋どもは……」
「いいから。アコも通信を切って反省文でも書いてなさい。面倒なことは
「……はい」
各自それぞれの思惑があったが、シャーレを敵に回すのはあまり良いことに思えず、元々の原因である便利屋もゲヘナの生徒ということで、ヒナは引き下がることを選択した。
「……やらないの?」
「シロコ先輩! せっかく穏便に収まりそうなのに、どうしてそんなに戦おうとするんですか!」
「ご、ごめん」
シロコはちょっと戦ってみたかったらしい。その気持ちは分からないでもない、とアロナは思った。
「空崎ヒナより、他校の自治区における事前通達無しでの無断兵力運用と、それにより騒動を起こしたことについて公式に謝罪する」
「……!」
ヒナは対策委員会に向かって頭を下げた。それはお互い、面倒を避けるためにこれで終わりにしましょうという意志の表明であった。
「あなたが……シャーレの先生。アコも気になってるみたいだし、いつか公式にゲヘナに訪問してくれると嬉しい。監禁なんてさせないから」
「"うん、必ず行くよ"」
「それと……アビドスはもう廃校だと思っていたのだけれど。先生、あなたがいるなら教えておいたほうがいいかもしれない」
――アビドスの砂漠でカイザーが何かしている。
ヒナはその情報を残し、去っていった。
「うへ~、結局どういうことー? 何があったのー」
「……柴関ラーメンが」
「詳しくは……また明日。大将の容態も気になりますし」
「実際私たちもよく分からなかったりで……便利屋には逃げられてしまいました」
爆破されてしまった柴関ラーメンの跡地を見て心を痛めつつも、対策委員会も今日は解散することとなった。
『パンデモニウム・ソサエティーって長いですよね。略してパンティーでどうですか? なんだか強そうですし』
「"アロナ……怒られるよ"」
一応、先程までは空気を読んで言わなかったようだが。何が強そうなのか分からないが、そんなしょうもない冗談を言ったらどう考えても怒られるよと先生は思った。
原作の味が良くないところ。難産。地味な改変をお出ししてみる。
・チョドーン!
昔の地雷の爆発音。
修正されてチュドーンになったけど、やっぱりチョドーンなんだよなあ。
・人肉
言わずと知れたelona要素。食べるとちゃんと気が狂う。……普通は。
・街の再生成
街が壊れるのは日常茶飯事。でも、5日もすれば元通り。
……ブルアカも原作からして直るの早いよね。
・ギャルのパンティー
投擲武器。幻惑属性の追加ダメージを与える。