もしもアロナがエロナだったら   作:ゴールドハーブ

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アビドス砂漠でつかまえて

「あの……これ、お詫びの品です……」

「あんたたち、よく顔を出せたわね……」

「ひぃっ」

「まあまあ、セリカちゃん。せっかく来てくれたんだから」

「"お体は如何ですか?"」

「ああ、大丈夫だ。こんなのかすり傷さ、キヴォトスじゃ日常茶飯事ってな」

 

 アヤネとセリカと先生が大将のお見舞いに来たところ、謝罪に来たらしい便利屋と鉢合わせてしまった。

 

「でも……大将のお店が……」

「まあ、どの道もうすぐ店も畳まなければならなかったからな。爆破保険もあるし、そんなに気に病まんでな」

「え……? お店を畳むって……」

「ちょっと前に退去通知が来ていてね。ここらが潮時かな、と」

「た、退去通知って、何の話ですか!? そんな話は、何も……」

 

 自治区の土地と建物は、普通ならその自治区を治める学校のものである。だから柴関ラーメンに退去を要請するようなことがあれば、対策委員会が知っているはずなのだ。しかし今ここにおいては事情が違った。大将の話を聞いて初めて、今までアビドス高校のものだと思っていた土地が、実はアビドス高校のものではないかもしれないことに思い至ったのだ。

 話を聞いたアヤネとセリカは、急ぎ土地の所有者を確認するために飛び出していった。

 

 

 結果は予想以上に悪い状況であった。柴関ラーメンのあった土地どころか、それより遥かに多くの土地が、他人の手に渡っていたのだ。ホシノが入学するよりもずっと昔から、アビドス高校は土地を売り続けてきたという記録があり、その取引先は……またしても、カイザーであった。

 

「"手に負えないほどのお金を貸して、土地を売るように仕向ける……"」

「そんな……で、でも資源なんてないんですよ! いったい何のために土地を……」

「"これはヒナから聞いた話なんだけどね。アビドスの砂漠で、カイザーコーポレーションが何かを企んでるらしい"」

「ゲヘナの風紀委員長が……!? 何かって、何をですか!?」

「"そこまでは……"」

「狙いは、最初から土地だったってことでしょうか……? でも、そうだとすると、相当昔からの計画ですよ!?」

「私らはもう5人しかいない。もしかすると、最近の襲撃は……嫌がらせをして追い払っちゃえば、どさくさに土地を占拠しても抗議する人がいなくなるってこと……だったり? うへ~……」

『やはりカイザーはろくなことしませんね』

 

 全ては土地を得るため。その先の目的は不明だが、そう考えれば一応、カイザーの行動に説明をつけることができた。

 

「真偽を確かめるためにも、アビドス砂漠に行ってみるのがいいと思います!」

「異議なし!」

「ん、準備する」

 

 

 そして……対策委員会が向かったアビドス砂漠には、カイザーPMCの基地が存在したのだった。

 

 ――教えてやろう、我々はこのアビドスのどこかに眠る宝物を探しているのだよ。

 ――来月以降の利子の金額は9130万円でございます。

 ――一週間以内に、我がカイザーローンに3億円を預託してもらおうか。

 ――学校を諦めて去ったらどうだ? 転校でもすれば、それで全て解決するだろう?

 

『……いや、流石にそれは無法すぎませんか?』

 

 

 アビドス高校まで帰ってきた一行はうなだれていた。カイザーの理事から告げられた、あまりにも無法なその要求は、明らかに対策委員会の心を折りにいったものであった。

 

「……みんな、落ち着いて~。大丈夫、なんとかなるよ。だから今日は一旦頭を冷やして、また明日にしよう。くれぐれも、変な気を起こしたらだめだよー。それが奴らの思う壺かもしれないし」

「"そうだね。こんな無茶苦茶な要求、通るわけないよ"」

 

 そうしてみんなは家に帰っていき、ホシノと先生だけが残った。

 

 

「"ホシノは帰らないの?"」

「私はもう少し見回りをしてから。……ね、先生。その辺歩かない?」

 

 先生はホシノと一緒に、夜の学校の見回りをすることにした。昼とは違って夜の空気は冷たく、少し肌寒い風が吹いている。

 

「うへ~、ここも砂が溜まっちゃってる。また掃除しないといけないけど、どうにも人手が足りないよねえ。砂嵐さえなければなー」

「"大丈夫? 寒くない?"」

「砂漠が近いからね、いつものことだよ。もう、慣れちゃった」

 

 見回りをしながら、ホシノはいろいろと語った。

 

「砂漠化が進む前のアビドスはさ、それはもう大きな学校だったらしいんだよ。キヴォトスでも有数の学校で。アビドス砂祭りなんてのもあって。大きなオアシスに、キヴォトス中から人が集まったんだって。おじさんが入学した時にはもう、オアシスも干上がっちゃって、寂れた学校だったんだけどさ~」

 

「この校舎はね、何度も移転を繰り返した末に辿り着いた、別館なんだよね。元々あった本館は砂漠の中。……私が入学した時の校舎はもう、砂に埋もれちゃった」

 

「教職員もいなくて、授業なんてものすらなくて。学校なのにね。何もかもがめちゃくちゃだったよ。生徒会長はおバカだし。二人で一緒にあっちに行って、こっちに行って。起きっこないような夢物語ばかり語って、私も一緒になって毎日毎日バカやって。……でも。……楽しかったな」

 

「"良い思い出なんだね"」

「……よく分かんないや。良いことも、悪いこともあったから。でも……そうだね、きっとこれは良い思い出だ」

 

 ホシノは校舎を見上げた。懐かしそうな、少し残念そうな、そんな表情で。

 

「先輩たちはもう、誰もいなくなっちゃったけれど。ここに来て、みんなと会えたんだよね……」

 

「シロコちゃんなんか、最初は大変だったんだから。業者を襲って稼げばいいとか言って……今も銀行強盗とか言ってるけどさ。強い人にしか従わないとかで、しょっちゅう勝負を挑みに来たりして。……誰かが、そばで見ていてあげないと、本当に悪い子になっちゃいそう」

 

「……私も昔は嫌な子だったんだけどね。おバカな先輩相手に、よく怒ってた。想像つかないかな? でも、今にしてみれば……対策委員会はみんな可愛い後輩で。先輩も、こんな気持ちだったのかな」

 

 先生にはそんなホシノが、とても儚く見えた。

 

「ねえ、先生。対策委員会のみんなを、よろしくね」

「"……? うん、もちろん。ホシノもだよ"」

「……うん」

 

 ――そして、次の日の朝には。

 ホシノは手紙と退学届を残し、どこかへと消えてしまったのだった。

 

 

「ようこそ。あなたのことは知っていますよ、連邦捜査部『シャーレ』の先生」

 

 先生は、ホシノがいなくなる原因となった「黒服」がいるというオフィスまでやってきていた。

 ホシノの手紙には、自分がカイザーPMCの傭兵として働けば、借金を大きく減らすことができてアビドス高校も楽になると書かれていた。しかし街は襲われ、PMCの兵がアビドス高校を占拠しようとする始末。どうみても詐欺であり、罠なのであった。

 だが黒服曰く、別に敵対するつもりなどなく、むしろ協力したいのだという。ホシノをアビドスから奪い、さらうような真似をしておいて、どうして協力などという言葉が出てくるのか。それは、黒いスーツに身を包むその異形の見た目とあいまって、とても気味が悪いものであった。

 

『ゲマトリア……生徒ではない、大人……』

 

 キヴォトスの外部から来たという者たち。その者たちで集まり、「ゲマトリア」という組織をやっているのだという。

 協力したいという提案を内容も聞かずに断る先生に対して、黒服は少し肩を落とした。

 

「"ホシノを返してもらいに来た"」

「クックックッ、ホシノはもうアビドスの生徒ではありません。届け出を確認されてはいませんか? ホシノ本人の意思により契約書にサインもいただきましたし、いったいどんな正当性がお有りなのでしょう?」

「"……まだだよ。『顧問』である私が、まだ退学届にサインをしていない"」

「……なるほど」

 

 ホシノは退学になっていないのだから、その契約は無効だと先生は主張した。黒服はそれに反論することはなく、それはそれで一理あるといった様子であった。先生には、大人が子どもたちを騙すような契約をさせることが許せなかった。

 

「誤解しないでいただきたいのは、全てはルールの範疇だということです。……私たちが悪に見えるのは承知しています。しかし世の中そう単純ではないのは、あなたもお分かりのはず。治る見込みのない患者に希望をもたせ、無償で薬を与えていれば善人なのでしょうか?」

「"いつだって希望を捨ててはいけない。まだ、終わってなんかないんだ"」

 

 それはきっと、アビドスのことを言っているのだろう。アロナは妙な気まずさを感じながらも、先生がとてもまぶしく見えた。

 

「先生、アビドスから手を引いてはいただけませんか? ホシノさえ諦めていただければ、あの学校については存続できるように取り計らいましょう。悪い話ではないと思いますが、どうでしょうか?」

「"断る"」

「……そうですか。残念なことです。提案に乗っていただけるのであれば、美しいものがお見せできると思うのですが」

「"子どもを利用して、美しいものをだって!?"」

 

 先生にもアロナにも、黒服の言っている意味は全く分からなかった。理解されない様子に、まるで好きなものを布教するかのように黒服は語りだした。

 

「アビドスの地は、とても過酷な環境です。その過酷さに耐えかねて、また一人、また一人と人は減っていきました。けれどもそこには、どんどんと人が減ることに心を痛めつつも、それでも生きる子どもたちがいたのです。毎日を必死に生き……しかしその時、さらなる悲劇が襲います。ずっと続くかと思われた日常は唐突に終わりを迎えました。これは、かつて本当にあったことです」

「"突然何を……"」

「ですから、私たちはそれをお手伝いしてみましょう。強い結束で結ばれた、かつては仲間だった者たちが、不条理な理由で敵同士になる。戦場で出会い、もう戻れぬと知って、ためらいながらも戦い……そしてその結果は? 戦えぬと武器を下ろすのでしょうか、泣き叫ぶのでしょうか、逃げ出すのでしょうか? それとも……? クックックッ、興味はつきません」

「"……"」

『うえぇ』

 

 先生は大人のカードを取り出した。

 

「そのカードは……まさにそれは、あなたの切り札ですが。しかし、私はそれを使うリスクも少しだけ知っています。乱用すれば、あなた自身をも犠牲にするカード。それは今、ここで使うべきものではありません」

『先生、私からもお願いします。そのカードを使うのは本当に必要なときだけにしてください。大丈夫です、そのために私がいるんですから!』

 

 普通のクレジットカードとしても使えるそのカードには、先生だけが使える、何か特別な力があるらしい。それをここで使われることは、黒服にとっても無意味なことであった。

 

「……なぜ? なぜ、なぜ、なぜ、どうしてそこまでするのですか? 良いではないですか、何もない学園生活を送るよりも、よほど!」

「"だからって、子どもを苦しめるんじゃない!"」

「あなたとあの子たちは他人ではないですか」

「"子どもを守るのは大人の責任だから"」

「……先生、それは間違っています。大人とは、ルールや法則を理解し、それを利用する者のことです。一見守っているように見えるのは、それが自己の利益となるから。取る必要のない責任を取ろうとするなど……理解できません」

 

 子どもを利用したい黒服と、子どもを守りたい先生。議論は平行線であった。

 

「交渉は決裂ですか。仕方ありません。……先生、ホシノはアビドス砂漠にある、PMC基地の中央の実験室にいます。助けたいならご自由に。『ミメシス』で観測した神秘の裏側――つまり恐怖を、生きている生徒に適用することができるか。そんな実験を行うつもりでした。ご興味は……ありませんか」

「"……"」

「不思議ですか? 無理に強行して、ルールを守らぬものと見なされるのを避けたいだけです。とはいえ基地の中央ですから、PMCの兵は沢山いるでしょう。あまり時間をかけすぎるようであれば、実験を始めてしまうかもしれませんね? 幸運を祈っておきます」

 

「先生。ゲマトリアは、あなたのことをずっと見ていますよ」

 

 先生は黒服のオフィスを後にした。

 

『ふーむ……生徒さんはライン超えでも、ゲマトリアなら……?』

「"……よく分からないけど、変なことはしないようにね"」

 

 

「"ホシノの居場所が分かったよ。アビドス砂漠の基地の中だって!"」

「ん!」

「助けにいきましょう!」

「あのPMCの基地の中!? ドローンとか、オートマタとかがうじゃうじゃいたところ……!?」

「しっかり装備を整えていかないといけませんね」

「"私は支援を要請してみる。みんなは出撃準備をお願い"」

 

 

「ほ、本当に舐めるやつがあるかぁ! あっ、ちょっと!? こら! ヘンタイ!!」

「!!!!???!?!?」

『イオリさんにエンチャントが……つかないですよね~』

 

 

 先生はゲヘナとトリニティに支援を要請。便利屋も来るらしい。

 

『みんなでカイザーの基地を攻める作戦! 私、なんだかワクワクしてきました!』

「"それでもこっちは少人数だから、油断しないようにね"」

『もちろんです! 今回は私も、バフをかけて支援します!』

「"……バフ?"」

『シッテムの箱バフです!』

 

 

「基地に攻撃だと? アビドスか?」

「い、いえ、それが……アビドスではないようです」

「どこのバカだ、制圧して捕縛しろ。対デカグラマトン大隊も用いて構わん」

「はっ!」

 

 

 基地への攻撃は、ゲヘナの風紀委員による陽動である。

 

『ヒナさんはうまくやってくれているようです』

「前方に敵です、もうすぐ接敵します!」

 

 そして対策委員会が接敵する直前、敵めがけて砲弾が降り注いだ!

 

「対策委員会の皆さん! これくらいしか出来ませんが……ご武運を!」

「ファウストさん! 助かります!」

「"みんな、突破するよ!"」

「よーし、突撃ぃ!」

 

 

「さすがに、敵の数が多いですね……!」

 

 PMC基地の中に侵入。残っていた兵力を蹴散らしつつも、増援が来る前にホシノを救出して撤退する作戦である。

 

「お困りのようね!」

「便利屋! いいところに!」

「こ、このタイミングで登場ということは……!」

「ん、きっと期待に応えてくれる」

 

 対策委員会の期待に満ちた眼差しに、陸八魔アルは――

 

「ここは私たちに任せて、先に行きなさい!!!」

「アルちゃん!?」

「助かるわ! あんたたちも負けんじゃないわよ!!」

「あっ、ちょ……」

 

 対策委員会は敵を便利屋に任せて素早く先へと進んだ!

 

『バフをあげますから頑張ってください!』

 

 便利屋は光り輝いた。

 

「なんか光ってるー!? なにこれなにこれ~」

「い、勢いで言っちゃったぁ……」

「アル様! これ、全然痛くないですよ!」

「防御力アップ……? なんにしろ、やるしかない」

「や……やってやろうじゃないの!!!!」

 

 聖なる盾。それは防御力と恐怖への耐性を授ける。

 

 

「貴様ら、こんなことをしてただで済むと……」

「生徒誘拐犯が何か言ってるわ!」

「……誘拐ではない! こちらには契約があるはずだ!」

「"あ、それ無効だから。ホシノは退学してないよ。黒服に確認してみたらどう?"」

「……は? まさか、ゲマトリア……!」

 

 裏切られた。カイザーの理事がそう認識するのに時間はかからなかった。

 

「おのれ対策委員会……! 滅びかけの学校にいつまでもしがみついて……毎日毎日楽しそうに!!! あの超人さえいなければどうとでもなるはずが……私の、私の計画がぁ……!」

「年貢の納め時よ! 悪いことばっかりしてないで、お縄につきなさい!」

「毎月納めてるのは私たちですけどね~☆」

「ホシノ先輩を返してもらう」

 

 理事はゴリアテに乗って戦うようだ。

 

『鈍足!』

「う、動きがっ……こんな時に故障か!? くそっ!」

「ターゲット、設定完了」

「ノノミ、行きま~す☆」

「覚悟しなさい!」

「ちょっとまっ……ぐわあああああ!」

 

 

『さあ、後は時限爆弾を仕掛けて脱出ですね! お約束です! PMC基地に赤い花を!』

「"やらないからね!? アビドス本館を吹き飛ばさないで?!"」

『…………冗談ですよぉ~』

 

 

 ――アビドス高校にて。

 

「……帰ってきちゃった」

「ホシノ先輩!」

 

 

「おかえりなさい!」

 

 

「ただいま」

 

 




この黒服が出したかった対策委員会編、完!

・治る見込みのない患者
とあるサブクエストでは、治る見込みのない患者を殺すかどうかを選択させられる。
生かしておいた場合、やや貴重な薬を渡すとカルマ値が大きく回復する上、何回でも渡すことが可能。
カルマ値が最低の犯罪者だって、あっという間に善人だ!

・はく製
集めてカフェに……じゃなくて博物館に飾ろう!
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