その日、先生とアロナはミレニアムサイエンススクールまでやってきていた。
きょろきょろと辺りを物珍しそうに眺める先生。ミレニアムの生徒とはシャーレで話すことがあったものの、実際にミレニアムに来るのは初めてのこと。先生はシャーレに送られてきた愉快な依頼文を見て、返信もそこそこに、深く考えずにとりあえず来てみたのだった。それは若干観光客気分なのは否めなかったが、しかし流石にミレニアムならば、アビドスの時のように事故ることはないだろうと思って。
「"なんだか近代的だね"」
『最新鋭、最先端の技術といえばミレニアムです。ですが、ここはキヴォトスですからね。油断してはいけません。……あっ』
「"どうし……"」
ゴシャァ。
道をただ歩いていただけの先生の頭から、突然すごい音がした。
「"ぐふっ"」
『そして魂は元素へと還る』
「"死んでないんだけど……いててて"」
『大丈夫ですか? すみません、完全に防御すると壊れちゃいそうだったので……』
「"これは……ゲーム機?"」
晴れところによりプライステーション。何故か空から降ってきたそれは、キヴォトスでは一昔前の、レトロなゲーム機であった。
「プライステーションは無事!?」
「けっこうすごい音がしたけど……」
「よかった、見た目は無事そう」
「頭に当たったのかと思ったけど、気のせいだったみたいだね! キャッチしてくれてありがとう!」
「"頭には当たったんだけどね……"」
「え!? 大丈夫だったの!?」
「ごめんなさい。お姉ちゃんも謝ったほうがいいよ」
「さっきまでプライステーションの心配しかしてなかったのに~!」
この騒がしい姉妹が、今回の依頼主であるゲーム開発部の生徒である。
◇
『ここがあのゲーム開発部の部室ね』
「ちゃんと電源も入るね。もう、大事な財産リスト第1号なんだから丁寧に扱ってよ」
「分かってるって~」
部室の掃除中に、手が滑って窓からプラステが落下したらしい。先生には状況が全く想像できなかった。
部室の床にはいろいろなものが散乱している。全く綺麗になっていない。先生が来るというから部室を片付けようとしたのだが、到着するのが早すぎたのだ。
「私はモモイ! シナリオライターをしてるよ!」
「私はミドリ。イラストレーターで、ゲームのビジュアル全般を担当してます」
「今はいないけど、部長のユズを含めて私たち3人がゲーム開発部だよ!」
『緑色の妹……? うっ……』
ゲーム開発部の自己紹介を聞いてアロナが何かを連想したようだが、しかしそのつぶやきは、先生にはよく分からなかった。
「でも、本当にシャーレの先生が来てくれるなんて! へへっ、これはもう勝ったも同然だよ!」
「何が勝ったも同然なのかしら?」
「!? こ、この声は……ユウカ!」
「先生の姿が見えたから来てみれば……シャーレまで巻き込むなんて。でも、いくらシャーレの力があっても廃部は撤回できないわよ」
ユウカは改めて廃部になることを通告。部員を4人集めるか、もしくは何らかの成果を出してほしいと以前からユウカは言い続けてきた。しかしゲーム開発部は部員が3人のまま、ゲームも出さずに何ヶ月も経過。そろそろ部として存続するのも厳しくなってきた。
「それなのにあなたたちは……校内に変な建物を建ててギャンブル大会を始めたり、古代史研究会を襲撃したり! 挙句の果てにその費用を部費として請求するなんて!」
「が、頑張って準備したんだよ? だからその、もう少し……」
「ゲームを作る部活なんじゃないの!?」
一応、部としての活動はしていたのだと言い張るモモイ。しかしその活動は、ゲーム制作とは程遠いようである。
「わ、私たちだってなんにも成果がないわけじゃない! 『テイルズ・サガ・クロニクル』があるよ!」
「そ、そうですよ。一応、受賞作品でもあるし」
「"おお! 受賞作品を作ったんだ!"」
「クソゲーランキングで1位になっただけでしょうが。レビューにも、ダントツで絶望的なRPGだとか、一番足りてないのは正気だとか、散々に書かれてたわよ!」
「ちょ、ちょっと時代を先取りしすぎちゃっただけ! 私たちは、インターネットの悪意なんかには……悪意になんか……」
「……」
「"なにそれ気になる"」
『納得の1位ではありました』
今年のクソゲーランキング1位。頑張ってもなかなか取れるものではないが、それを部活としての成果と言うにはあまりにも厳しすぎた。
「とにかく。きちんとした成果があれば廃部は撤回するって、ずっと言ってるでしょう? その状態で何ヶ月経ったのよ」
「……私たちだって、何も用意していないわけじゃない。次のミレニアムプライスに、『テイルズ・サガ・クロニクル2』を出すんだから!」
◇
「ここが廃墟……本当に廃墟だ……」
「RPGだと、滅んだ町なんかも結構出てくるよね」
「そのまんま、廃墟を探索するようなゲームもあるよね。とってもいい雰囲気なの」
『廃墟ってなんだか探索したくなりますよねー』
「お姉ちゃん、参考資料に写真も撮っておこうよ」
「後で見つかったらまずくない?」
「先生も一緒だから大丈夫だよ」
モモイに連れられて来たここは、ミレニアム近郊にある「廃墟」と呼ばれる場所。以前は連邦生徒会が封鎖していたここに、ゲーム制作に必要な「G.Bible」というものがあるらしい。先生にはゲーム制作に必要なものが何故そんな場所にあるのかさっぱり分からなかったが、とりあえず行ってみましょうというアロナの進言もあり、3人は廃墟の中まで侵入していた。
「ところで、本当にこんなところにG.Bibleがあるの?」
「ヴェリタスに教えてもらったから間違いないよ!」
「"G.Bibleって、結局どういうものなの?"」
「簡単に言うとね、昔のミレニアムにいた伝説的なゲームクリエイターが作ったもので、中には最高のゲームを作れる秘密の方法が入っているんだって! これを読めば、最高のゲームが作れること間違いなしだよ!」
「本当かな……?」
うさんくさい謳い文句だった。学習書かな、あれはすぐ飽きるんだよねとアロナは思っていた。
「ゲームだと、ボロボロの廃墟を探索しながら謎の敵と戦うのはお約束だよねー」
そんなことをモモイが言っていると、3人は廃墟を徘徊するロボットに見つかってしまうのだった。
「ろ、ロボット!? 本当に謎の敵がいるとか聞いてない……うわわわ!」
「お姉ちゃん、他のロボットも集まってきてる!」
『あっちの工場に行きましょう!』
「"あっち! あの工場みたいなところに行こう!"」
◇
「逃げ切った? やったか?」
「雑なフラグ立てないで。なんだかこの工場に入ったとたんに追いかけてこなくなったけど……先生、何かしました?」
「"い、いや……何もしてないはず……"」
アロナに誘導され、建物の中へと逃げ込んだ3人。すると隠れてやり過ごすまでもなくロボットたちは追跡をやめ、元いた場所へと散らばっていった。3人はまだ見えるであろう位置にいたというのに、まるで建物の外側のみを担当する警備ロボットのよう。この建物は、何か特別な場所なのかもしれない。
外に出るのは危険とみて、3人は工場の中を探索してみることにした。
「接近を確認、対象の身元を確認します」
「な、何? この声、どこから……」
「
「どうして名前を知ってるの……? こんな、廃墟にあるのに……」
建物の中を調べていると突然、部屋全体に響き渡る機械音声。未だにシステムが生きていたようだ。
「才羽モモイ、才羽ミドリの両名を先生の『ペット』として認定、同行者である『ペット』にも資格を与えます。承認しました。下部の扉を開放します」
「ペット!? 私たち先生のペットなの!?」
「なんなんだこの部屋は! 人を勝手にペット扱いしてくる部屋なんて誰が作ったんだ! ……え?」
「ゆ、床が……! きゃああああ!」
「おおお落ちるー!」
『手を伸ばせー!』
下部の扉とは、今立っている場所の床だったらしい。どうして床に自動で開く扉があるのだろうか。3人は落とし穴のような扉に落っこちた。
「ぐえっ」
「先生!? だ、大丈夫ですか?」
「"二人とも、無事……?"」
『モモイとミドリの尻は最高でおじゃるな』
「"……"」
落ちるときにとっさにかばい、モモイとミドリのお尻の下敷きとなった先生。それほど高くはなかったが、シッテムの箱の守りがなければ怪我をしていたかもしれない。とぼけた言葉を言いながらも、キヴォトスの人のほうが頑丈なのだから、あんまり無茶しないで欲しいんですけどねとアロナは思っていた。
落ちた先にはやや広い空間が広がっている。地下のはずだが、どこからか日の光が差し込んでいるようだ。
「もう、なんなの! ペット扱いしてきたり、床が抜けたり、まるでお姉ちゃんが書いたシナリオみたいにめちゃくちゃ……」
「こんなにめちゃくちゃじゃないよ! ……たぶん! ……でもペット扱いしてくる部屋かあ、アイディアとして覚えておこうかな……ん?」
「"あれ……こんなところに人が……?"」
傍らにはコンソール。それは椅子のような、祭壇のような。
『少女だ!』
その日、私たちは少女と出会った――
・ペット
仲間はペット。紐と聴診器もあるといい。
井戸に落ちないように気をつけよう。