廃墟で出会った、何故か裸だった少女に予備として持ってきていた服を着せてあげるモモイとミドリ。どうやらロボットのようなのだが、長い髪を持ち、肌も柔らかく、一見するとロボットには見えない。
触れたことにより休眠状態が解除されたらしく、少女は目を覚ました。しかし彼女にも状況が分からず、記憶も目的もないという。
そのまま放置するわけにもいかず、3人は少女を連れてこっそりとゲーム開発部の部室まで帰還した。
◇
モモイは言う。
この子を部員にしたら廃部が回避できるじゃん!!
「え、ええー? それ、アリなの……?」
「廃墟に放置されてたんだし、私たちの部員にしても誰も困らないって! それに、ミレニアムじゃもう入ってくれる人いなさそうだし……」
「ギャンブル大会もレトロゲーム探しも、結局効果なかったしね。まあ、冷静に考えれば襲撃されて部員になってくれる人なんていないよね……」
「そ、それでもレトロゲームが好きなら! ……と思ったんだけどな~」
新入部員を探していろいろやってはいたのだが、それは外部からは部の活動としてはみなされていないのであった。
モモイは少女に「アリス」と名付けた。少女のいた台座の文字「AL-1S」からの命名だったが、アリスと名付けられた少女はなんだかニコニコしていた。先生にはそれが、名前をもらったことを嬉しく思っているように見えた。
「話し方もなんとかしないとね」
「……?」
『私もアリスさんに言葉を教えたいでおじゃる。声を届けられないのが残念でおじゃるな』
「"……"」
突然おじゃる口調になるアロナ。もしもアロナの声がアリスに聞こえていたら、アリスはおじゃるに染められていたかもしれない。先生はちょっとだけ、アロナの声がアリスに届かなくてよかったと思った。
「うーん……ミドリ、話し方は任せた! 私はちょっと行ってくる!」
「あっ、ちょっとお姉ちゃん!? もう……話し方を教えるって、どうやって……」
モモイは部室を出てどこかに行ってしまった。アリスはごちゃごちゃと物に溢れた部室が気になるようで、辺りをキョロキョロと眺めている。
アリスは雑誌を手に取った。
「あ、それ……私たちの作ったゲームが載っているやつだね。やってみる?」
テイルズ・サガ・クロニクル――通称、TSC。インターネットで悪名ばかりが高くなってしまった、ゲーム開発部唯一の成果。雑誌に取り上げられたはいいものの、レビュワーの点数は著しく低く、講評にも批判ばかりが書かれてしまっている。ただ、酷評されてもその雑誌は捨てられなかった。
◇
アリスはTSCを開始した。先生もTSCには興味があるようで、隣で一緒にプレイを見ている。
:コスモス世紀2354年、人類は劫火の炎に包まれた……
:チュートリアルを開始します。
:まずはBボタンを押して、目の前の武器を装着してみてください。
ゲームの指示に従い、アリスはBボタンを押した。すると、ゲームからチョドーンと爆発するSEが流れ……
: *GAME OVER*
「!?」
「あはははっ! ひっかかったね! 本当はここでAボタンを押すのが正解なの!」
『チュートリアルに罠を仕込むんじゃない! 「……本当に食べてしまったのか?」じゃあないんですよ!!!』
帰ってきたモモイ。そして突然荒ぶるアロナ。そんなこと言ってない。アロナの言葉に、先生は何を食べさせられたのかとても気になった。
「改めて見てもこの部分はちょっと酷いと思う。……ところで何してきたの?」
「なんにも。もう遅い時間だし、誰もいなかったから。アリスにテイルズ・サガ・クロニクルをプレイさせるなんて、面白そうなことしてるじゃん!」
「……プレイを再開します」
:野生のプニプニが現れた!
「ここはAボタンで攻撃できるよ!」
『Aボタンを押すと攻撃することができるぞ(ニヤリ)』
序盤にスライムのような敵が出てくるという、RPGの定番ではあったが……しかしアロナの言葉に、先生はなんだか嫌な予感がした。
「『秘剣つばめ返し:敵に対して2回攻撃をする』……攻撃します」
:カチャ…… ターン
:攻撃が命中、即死しました
: *GAME OVER*
「!?!?」
『プチって意外と強いんですよね。初心者にけしかける強さじゃありません。ところで、どうしてプチを3体も放っているのですか?』
プチじゃなくてプニプニなんだけれども。何か変な生き物をけしかけられたことでもあるのだろうか。先生はそれがどういう状況なのか、やはりとても気になった。
「うーん、最初から秘剣を覚えているのは微妙かな。レベルアップして覚えたいよね」
「お姉ちゃん、やっぱりチュートリアルはちゃんと作ろうよ」
「思考プロセス停止。回復中……」
『うーんこれはゴミ箱ダンク不可避』
テイルズ・サガ・クロニクルだけでなく、アロナのよく分からない反応も同時に聞かされている先生も、頭がおかしくなりそうだった。
「なぜ……どうして、『植物人間』が喋って……」
「やっぱりそこ、一瞬止まるよね。草食系って言葉が思い出せなかったお姉ちゃんのせいだよ」
『マンドレイクかな? 火炎樹かな?』
「子どもの頃に別れたきりの腹違いの友人がタイムリープしてくる、とは……? そもそも『腹違いの友人』という表現は……エラー発生、エラー発生!」
『タイムリープしての再会はいいものですね。それに、「生き別れた血の繋がっていない妹」のような、得も言われぬ味わいがある表現です』
「こ、ろ、し、て……」
「"ぴ…ぴ…ぴか…"」
『長く苦しい戦いだった……』
「すごいよアリス! 開発者2人が一緒とはいえ、3時間でトゥルーエンドなんて!」
「おつかれさま。ちょっと大変だったと思うけど……どうだった? 私たちのゲーム、面白かった?」
終始TSCにツッコミを入れていたミドリではあったが、TSCを「ちょっと大変」なゲームと認識している辺り、やはりミドリもどこかズレている。
ミドリの質問に対して、アリスは説明に困った。だが、面白さは明確に存在したと答えて。そして……
「それはまるで、別の世界を旅しているような……夢を見ているような……」
アリスの目から、ほろりと一筋の涙がこぼれた。
「泣くほど!?」
「ギャグ寄りのRPGのはずなんだけど……そんなに、私たちのゲームを楽しんでくれたの? ……なんか、私もちょっと泣けてきちゃった」
「ありがとうアリス! ユズにも教えて……うえっ!? ……ユズ!」
ユズは突然現れた。……ロッカーから。みんなが廃墟から帰ってきたときから、ずっと隠れていたらしい。TSCのプロトタイプを作った彼女は、それがネットでボロクソに言われて以降、他人と会うのが怖くなってしまっていた。
「あの……アリスちゃん……。ゲーム、面白いって言ってくれて……ありがとう」
「"荒削りだけれど、ゲームが好きな気持ちはとても伝わってきたよ"」
「先生も、ありがとう……」
『ゴミ箱ダンク。しかしその後気になってまたプレイしてしまうような、そんな不思議な魅力があるゲームでした。……一般の方は、一気にやると精神がやられてしまいそうですが』
ゲーム開発部が全員集合し、より騒がしくなった部室にて。アリスはゲームのテキストに汚染……ではなくて、ゲームにかなり影響された様子だった。もっとゲームをプレイさせれば自然な会話が可能になるかもしれないと、次は何をアリスにプレイさせるかで盛り上がるゲーム開発部。ああでもないこうでもないと激論を交わしながら、アリスに自分たちの好きなゲームをプレイさせていった。
◇
「おはようございます。ゆうべはお楽しみでしたね」
「"…………"」
『ふふ……くふっ、ふふふっ……』
朝起きたときのアリスの言葉に、思わず無言になってしまった先生。答えにくいことを聞かれた親の心境にも似ている。確かに昨夜はみんなでゲームを楽しんでいたので間違ってはいない。アロナは笑いをこらえきれなかった。
「……間違っていましたか?」
「"おはよう、アリス。……今の場合、あんまりその言葉は使わないほうがいいかな……"」
「アリスは今の言葉を深く心に刻み込んだ」
夜通しゲームを楽しんでいたようで、レトロゲーム調の口調に更に磨きがかかっている。
寝ていたユズとミドリも起きたが、モモイはいない。と、ガチャリと部室の扉が開き、モモイが入ってきた。先に起きていたようだ。
「アリス。君にこれを授けよう」
「アリスは正体不明の書類を獲得した」
「学生証だよ。これでアリスも正式に私たちの仲間ってこと!」
「仲間……なるほど、理解しました。パンパカパーン、アリスが『仲間』として合流しました!」
モモイがどこからかアリスの学生証を持ってきた。ということは、アリスはミレニアムサイエンススクールの所属となったということだろうか。
「"え? 入学したってこと? こんなにすぐ……"」
「も、もう生徒名簿に載ってるよ! ミレニアムじゃ電子化されているから、とっても早いの!」
『ミレニアムですからね。そういうこともあるんじゃないでしょうか』
「"……"」
生徒の所属については各学校に任されているとはいえ、先生は訝しんだ。
「……お姉ちゃん?」
「さあ! アリスの武器を探しに行くよ!」
「あ、ちょっと!」
◇
アリスの銃を探してやってきたエンジニア部。アリスはそこで見つけたレールガン『
「どうして主砲だけ作っちゃったのさ! 予算が足りないなんて分かりきってたことじゃん!」
「それはね……ロマンだからさ!」
『レールガンは強いですよね。ロマンは大事。小さい子に大鎚を持たせてみたり。ライトセーバーを振り回してみたり。生きている武器なんてのもロマンがあります。名前が大事なんですよね、名前が』
重くて無理だと周りが止める中、アリスはレールガンを持ち上げて見せて。流石にこれをアリスの武器にするにはいろいろ難しいと思われたのだが、ただ眠らせておくだけにしておくのも惜しいと、最終的にはエンジニア部部長の
その代わりに、様々なデータを取得させてもらったり、定期的にエンジニア部でメンテナンスをするなどの条件がついてはいたが。
「持ち上げるどころか、まさか使いこなすなんてね。各種のデータを見るに……かなり高度な技術によって作られたロボット、いや、アンドロイドか? なるほど、興味深いな」
◇
「私がこんなに可愛い子のことを知らなかったなんて、ちょっと信じられないわね」
ゲーム開発部に新入部員が入ったと聞いて飛んできたユウカ。本当にきちんとした部員なのか確認するためにやってきたのだ。ユウカに質問されてたじたじになったアリスの言動は若干怪しかったものの、ゲームが好きなのは分かったようで、それほど追求する気はない様子。そもそも妙な言動などキヴォトスの民にはよくあることなのだが、追求が甘かったのにはもう一つ理由があった。
「部員として認めましょう。あとはちゃんとゲームも作るのよ、じゃないと廃部なんだから」
「……え?」
「え、じゃないわよ。この前の全体会議で通達したでしょう、これからは成果も必要になるって。しっかり頑張んなさいよー」
・ゴミ箱ダンク
Elonaはよくゴミ箱ダンクされている。その後もう一度やってみるまでテンプレ。
・生きている武器
生きている武器の成長はその銘によって決まる。銘は名前の巻物で変更可。
つまり名付けが大事なんじゃないかな(適当)